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中編3
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涙(るい)は友を呼ぶ

泣くと目が溶ける病気の女の子がいた。僕が十二歳の時の話である。クラスのみんなは彼女の言うことを半信半疑でからかっていた。しかし彼女の病気が絶対に嘘だとは言い切れないから、みんな血眼になって真実を暴こうとしていた。

僕は休み時間になると教室の隅で、彼女の周りにできる人だかりを見ていた。それはさまざまな工夫が施された、一種の見せ物のようだった。

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威勢のいい何人かは、毎日彼女を罵倒した。お前は人じゃないとか親が町一番の貧乏人だとか。それでも彼女は泣くそぶりさえ見せなかった。彼女は、自分の病気についてみんなに知って欲しかっただけなのだと、なぜか謝るように周りを宥めていた。

精神的苦痛が駄目なら今度は肉体へという考えは、いかにも小学生らしいものだった。いつしか彼女は先生の見えないところで、みんなに体を傷つけられるようになった。

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しかし、彼女が泣く気配は一向になかった。きっとそのような病気持ちの人は、涙で目を簡単に溶かさないように、涙腺が他の人よりも強くできているんだ。クラスメイトたちはいつのまにか彼女の病気が本当のことだと信じきっていた。それでもなお、彼女が泣いているところを見てみたいと、あらゆる手段を使って攻撃した。

彼女の服の下にまたひとつ痣が増えたある日の放課後、僕は体育館裏の階段に座っている彼女を発見した。

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そこは建物の影になっていて薄寒く、誰も通らないような場所だった。彼女は一人で膝を抱えていた。下を向いてうなだれる背中を見て、もしかしたら泣いているのかと思い、大急ぎでそばに駆け寄った。僕は彼女の病気の話を嘘だと思っていたが、それでも泣いていたらと思うと体が勝手に走り出していた。

近づいてくる足音を聞き、彼女ははっとして振り向いた。僕を見つめるその瞳は、いつも通りの乾いたものだった。

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一瞬虚を突かれたように立ち止まったが、何か言わなければいけないと思い、「大丈夫?」と声をかけた。それから僕は隣に腰掛けて、親身になって彼女の話を聞いた。いつも遠くから見るだけだった彼女の目が、目の前で次第に滲み始めた時、僕はどうすればいいかわからなくなった。

時には優しい言葉が凶器になるということを、本当の意味で知った気がした。

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彼女の病気は、嘘ではなかった。隣で揺れる肩は躊躇なく泣いていた。我慢していたものに耐えきれなくなったのかもしれない。くしゃくしゃの顔の中で目の周りにいっそう皺が寄って、どろりと溶け出した目玉が涙を赤く染めて落ちていくと、やがて真っ暗な眼孔がふたつできあがった。

目玉を失ってもなお、赤色の涙は止まらなかった。それでも彼女は、ありがとうと何度も呟いていた。泣き続ける彼女を置いて、僕は反対方向へと歩き出した。

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僕の行く先では、声を押し殺して喜ぶクラスメイトたちが肩を組んで待っていた。

目の見えなくなった彼女はこれからずっと、僕のことを仲間だと思い続けるに違いない。本当は僕が、彼女の涙を誰よりも見たいと思っていたことも知らずに。

よくやったと肩を叩く彼らの歓迎を受けながら、僕は死ぬまで、秘密にしようと思った。

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そして、この先どんなことがあっても絶対に泣かないでおこう。真っ赤に染まった彼女の顔を思い出しながら、僕はそう固く決意した。

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