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短編2
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足りない手形

仕事からの帰り道、僕はある民家の前を通り過ぎて、冷や汗をかいた。

夕陽の映える長閑な住宅街には決して似合わない光景を目の当たりにした。

その民家の窓には、無数の手形がべったりと張りついていたのだ。

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窓の奥、つまり部屋の中は真っ暗で、全開になったカーテンはかすかに揺れているように見えた。

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手形はすべて赤色で、僕は恐怖に怯えるしかなく、足早にその場を離れた。

ただひとつ、あの手形は"足りていない"というもやもやとした懸念が、いつまでも頭から離れないでいた。

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それから瞬く間に、あの民家で殺人があったことは、町の一大ニュースとなった。

あの家には夫婦とその娘の三人が暮らしていて、妻と娘は両手の指を切り落とされた後に、腹部を刺されて殺害されたのだという。

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死亡推定時刻は二日前の朝方で、二人の遺体はどちらも真っ赤に染まった手を、窓へと伸ばした状態で発見されたらしい。

夫の行方はわかっておらず、彼が犯人で逃亡しているというのが、現時点での警察の見解だった。

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テレビで情報を得ながら、一昨日見た窓の光景を思い出した。

どの手形も指が欠けていて、濃い赤色の手形ほど、指の数が少なかった。

僕はおぞましい事実に気づいて、恐怖に慄いた。

僕は決して、手形に怯えているのではなかった。

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あの手形は、自分がつけたものでもあった。

つまり、二日前の朝あの家に侵入し、三人を殺害した犯人は僕だった。

そう、たしかに"三人"を殺したはずだった。

しかし、僕が犯行を終えて家から出た時には三人ともまだ生きていて、妻と娘は助けを求めようとして、窓に手形をつけたのだろう。

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両手とも二本ずつ指を切り落とした妻と、三本の指を失った娘の手形は、その日の夕方、民家の前を通った時に確認できた。

ただ、人差し指の一本しか切り落とせなかった夫である男の手形は、窓についていなかった。

それに遺体も、夫を除いた二人のものしか発見されていないという。

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彼は今、どこにいるのだろう?

まだ、生きているのだろうか?

僕はアパートの部屋に閉じこもって、がくがくと震えながら怯えていた。

固く閉じられた自室のカーテンを見て、手形を発見した時、赤く染まった民家のカーテンが、微かに揺れていたことを思い出した。

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やがて足音が近づいてきて、部屋の前で止まると、玄関のチャイムが執拗に何度も鳴らされた。

自分はあの時から、男に尾行されていたことを悟った。

そのチャイムはきっと、人差し指では押されていないだろう。

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しばらくして足音が離れていくのに安心したのも束の間、腹に包帯を巻いた男がベランダを突き破って現れた。

彼は部屋に侵入すると、自分が意味もなく彼らにやったように、生きたまま僕の指を一本ずつ切り落とした。

復讐に燃えた男は、すぐには立ち去ろうとしなかった。

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助けを求める僕の手形が、窓につくことは決してなかった。

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