行きつけの居酒屋で飲んでいる時に、ある女と知り合った。
新宿駅南口から少し離れたところにある店なのだが、カウンターのみのこぢんまりした店で、昭和レトロな雰囲気が気に入って会社帰りに時々寄り道している。
もちろん俺は平成生まれだ。
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気楽な独り暮らしで、真っ直ぐ帰っても誰が待っているわけでもない。
大学を出て就職し、仕事もそれなりに順調で気ままに独身生活を満喫している。
三十を超え、早く結婚しろと実家に帰るたびに両親に煽られるが、まだその気にならないのだ。
女友達も多く、その気になればいつでも・・・
なんて思っているから余計にその気にならないのかもしれない。
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いつものようにカウンターでマスターと軽口を叩きながら飲んでいると、マスターが俺の隣に座って飲んでいたその女を紹介してくれた。
彼女もひとりで来店していたようでマスターと時々言葉を交わしていたのだが、店が混んできたこともあって、マスターはふたり別々に話し合い手になっているのが面倒になったのかもしれない。
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その女は美沙と名乗った。
歳は二十代半ばといったところだろうか。ショートボブの黒髪に、カジュアルシャツ、デニムスカートといった飾り気のない雰囲気だ。
美人というよりも、どこか垢抜けない可愛い雰囲気で、言葉も若干の訛りが残っている。
生まれも育ちも東京の俺は、その素朴な雰囲気に強く惹かれるものを感じた。
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話を聞くと案の定、富山県の山奥にある小さな山村の出身で、服飾の仕事を探して四年前に東京に出てきたのだそうだ。
富山市内にある専門学校を卒業し、一旦村に戻って三年ほど実家の農業を手伝っていたのだが、やはりこのまま田舎で暮らすのは嫌だと実家を飛び出してきたのだと言った。
つまり彼女は大体読みの通りの二十七歳ということになる。
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「どんな仕事をされているんですか?」
「ご出身は?」
あまり口数が多い方ではない俺に、彼女は自分の話と共に俺の事もいろいろ聞いてくる。
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「三十歳で独身なんてばっちり。いま決まった彼女はいるんですか?」
俺がいないと返事をすると、驚いたことに彼女はいきなり絶対に幸せになれるから自分と結婚しろと押し売りをしてきたのだ。
確かに悪い子ではなさそうだが、今ここで初めて口を利いたばかりなのにあまりに唐突だ。
俺が正直にそう言うと、彼女は不思議な話を始めた。
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◇◇◇◇
先ほど聞いたように彼女が生まれたのは富山県の山奥にある、全部で八百世帯ほどの小さな村だ。
そして彼女の話の中核となるのが、村の東の外れにある龍神様を祀った神社になる。
四神のひとつ、東の方角を司る青龍と何か関係があるのだろうか。
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村の中心を東西に横切る道路脇に一段高くなった場所があり、その神社は大きな石の鳥居を構えている。
『蒼龍神社(そうりゅうじんじゃ)』
これがその神社の名であり、その鳥居を潜ると両脇に大きな杉の木が並んだ参道が見える。
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そしてその参道の奥にはかなり急な角度の石の階段があり、八十八段あるそれを登り切ったところにあるもうひとつの鳥居を潜ると、境内に敷かれた石畳の先に古い本堂があるのだ。
田舎の小さな村の割には、かなり立派な建物で、その入り口の上には大きな龍の彫刻が飾られている。
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この神社に常駐の宮司はいないのだが、村の氏子達、基本的に全村民達が手入れしており、本堂は古い割に目立った損傷はなく、境内や参道を含めて常に綺麗な状態が保たれているのだ。
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この村、そしてこの神社には昔から不思議な風習がある。
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言い伝えによると、その昔、大雨が降り続いた年があった。
村は繰り返し洪水に襲われ、氾濫した川や土砂により多くの村民の命が奪われた。
その災害の中、村に住む若い女性が青い龍の夢を見た。
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龍は雷鳴と共に空から降りてくると、娘に向かって自分の妻になってくれるのなら村の洪水を鎮めようと告げた。
その娘はその言葉に従い、夢に出てきた村の東外れにある小高い丘に登ると龍にその身を捧げ、それにより村の洪水が治まったという。
そしてその青い龍とその娘のため、その場所に建立されたのが蒼龍神社なのだ。
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それ以来、この村では平穏と豊作を祈願して、四年に一度、梅雨入り前の五月に、この神社に祀られた龍神様へ若い女性を生贄として捧げるようになった。
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ただ生贄といっても血生臭い儀式ではなく、その四年の間に二十歳を迎える村の女性の中から器量も性格も良い女性が選ばれ、多くの供物と共に蒼龍神社の本堂で日没から翌朝の日の出までひとり過ごすという儀式だ。
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選ばれた女性は、龍神様のご利益を賜ったということで経済的に困ることもなく、子宝にも恵まれて必ず幸せになれるという伝承により、そもそも器量良しが選ばれているということも相まって、儀式の後は嫁に貰いたいという引き合いが押し寄せるのだという。
しかしその生贄に選ばれた女性は、何故かどんなに条件が良くともその引き合いに応じることなく、自ら伴侶を決めるのが常だという。
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◇◇◇◇
「それでね、私が二十一歳の時にその龍神様の花嫁に選ばれたの。」
多少酔ってきたのか、頬をほんのり赤くして美沙はどこか自慢げにそう言った。
先ほどの彼女の話によれば、専門学校を卒業して地元に戻った翌年ということになる。
「その日、村長さんが紋付袴姿でウチに来て、私が今回の花嫁に選ばれたと仰々しく両親に告げたのよ。」
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◇◇◇◇
基本的に選ばれた娘はそれを辞退することは出来ない。
彼女のための白無垢が用意され、儀式の日まで肉や魚を食べることが禁じられた。
そして当日、村の災害を治めるため龍神様に女性がその身を捧げたとされるその日、美沙は髪を結いあげて白無垢に身を包み、夕暮れ時に両親の付き添いで神社へと赴いた。
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空が茜色に染まった田舎道を歩いて神社へと向かう路肩には、村人達がその幻想的な嫁入り姿をひと目見ようと並び、にこやかに、そして静かに見送ってくれている。
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鳥居を潜り、ゆっくりと石段を登って陽が沈む頃にようやく本堂へ入ると、中央にはしめ縄で囲まれた四角い囲炉裏が作られ、その周囲には数多くの供物が並べられている。
そしてその奥にひと組の布団が敷かれ、美沙はその上に正座するよう巫女役の女性から指示された。
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囲炉裏の周りに村の重鎮達、巫女装束の女性達、そして両親が座ると、囲炉裏に護摩木がくべられ、ろうそくと囲炉裏の火だけの明かりの中、宮司役の氏子代表が祝詞を唱え始めた。
静かな本堂にその声だけが響き、列席している人達は皆神妙に頭を垂れている。
やがて儀式が終わると、ふたりの老婆を残して皆本堂から退出した。
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ふたりは美沙の傍に寄ると角隠しを外し、結い上げた髪を下ろすと白無垢を脱がせて長襦袢姿にし、脱いだ白無垢は丁寧に祭壇の横に掛けられた。
下着をつけるなと言われていたため長襦袢一枚のみだったが、囲炉裏の火のお陰か寒さは全く感じない。
そして老婆達は美沙に横になるように指示し、そのまま眠っても良いから朝までこうしているようにと言い残して本堂から出て行った。
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◇◇◇◇
「神社の本堂でひとりきりになって怖くなかったの?」
俺の質問に美沙は首を横に振った。
「みんなが本堂を出て行ったすぐあとはちょっと心細かったけど、怖いって感じじゃなかったわ。それに少ししたらまるで酔っ払っているみたいに頭がぼっとしてきたのよ。」
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◇◇◇◇
眠っているわけではなく、ぼんやりした頭で何を考えるということもなくじっとしていると、不意に足元でみしっと床のなる音が聞こえた。
普通の状態であれば自分以外に誰もいないはずの本堂の中で音がすれば、驚いて体を起こしただろう。
しかしその時は何だろうと思っただけで、それほど驚きもせず体を動かすこともしなかった、と言うよりも全身がだるく体を動かすことができなかったと言う方が正しかった。
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するとその音はみしっ、みしっと徐々に近づいてくる。
そしてぼっと見開いていた視界に青黒いモノが入ってきた。
(龍神様だ・・・)
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顔を向けると本堂の入り口に飾られている絵とそっくりな龍が布団の横で上体をもたげ美沙を見下ろしていた。
本物の龍は山よりも大きいと想像していたのだが、目の前にいる龍は、視界に入っている上体を見る限り人間と変わらない大きさだ。
伝説の生き物である龍が自分のすぐそばにいるのに、何故か恐怖感は全く湧かない。
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過去に一夜の嫁入りでひどい目に遭ったという話を聞いたことがなく、その昔村を救ってくれた龍が自分に危害を加えるはずはないと信じていたのかもしれない。
むしろその伝説の龍が本当に自分の目の前に姿を現してくれたこと、すなわち今宵の妻として認めてくれたことに、心の奥では微かな喜びすら感じていた。
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龍は長い髭をくねくねと揺らしながら、何かを探るようにじっと美沙を見つめている。
美沙も穏やかな気持ちでその眼を見返していた。
艶やかな黒目だけの龍の眼は、その姿からは想像できない、まるで子犬のような無垢で綺麗な目だ。
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しばらくするとその龍がニヤッと笑ったような気がしたかと思うと、何故かその姿がじわっとぼやけてきた。
一瞬涙が出てきたのかと思ったが、龍以外の天井や壁ははっきりと見えている。
そして青色だった龍の体がもやっとした塊になり、その姿が白っぽく変化してきた。
そして肌色になったかと思うとひとりの男性の姿へと変わった。
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見たことのない顔であり、龍が変身したその男は何も身につけていない。
以前、同じように嫁入りした女性と話をした時に、その夜の詳しいことは何も話してくれなかったが、自分が結婚する相手はその夜に判ると言っていた。
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こういうことだったのか。
私はこの人と結婚するんだ。
そう思ってその龍の化身である男性の顔を見つめた。
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男性はにっこりと微笑むと裸の体を美沙の脇に横たえ、美沙を優しく抱きしめた。
その肌は人間そのもので、龍のあのごつごつしたうろこの感触はまったくない。
そして翌朝・・・
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◇◇◇◇
「あれ?抱きしめただけでもう朝になっちゃうの?」
俺のちょっと意地悪な質問に美沙は少しはにかんで俺の肩を指先で小突いた。
「そんなわけないでしょ。恥ずかしいから端折っただけじゃない。
優しく長襦袢の紐を解いて脱がせてくれて、ちゃんと最後までしたわ。
私、その時が初めてだったの。そして夢うつつのまま、気がついたら朝になっていたわ・・・」
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◇◇◇◇
本堂に差し込んできた陽の光に美沙は目を覚まし、天井を見て自分が蒼龍神社の本堂にいること、そして昨夜の出来事を思い出した。
しかし横を見ても男の姿はなく、本堂の中には自分しかいない。
体を起こしてみると、昨日横になった時と同じようにきちんと長襦袢を身につけ、体にも違和感はない。
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あれは夢だったのだろうか。しかし男の顔ははっきりと憶えている。
村の男ではない、まったく見知らぬ顔。
美沙はまだどこかぼっとしながら、両親が運んでくれていたバッグから着替えを取り出すと普段着に着替え、小鳥のさえずりを聞きながら、あの男の顔を思い浮かべ、本堂の中で両親が迎えに来るのを待っていた。
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◇◇◇◇
「結局、単なる夢だったっていうこと?」
その問いには答えず、美沙は真剣な顔で続けた。
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「私見ていたの。お婆さん達が本堂を出て行く前に、ひとりのお婆さんが横に置いていた木の皮みたいなものを囲炉裏にくべて行ったのよ。
そうしたら青白い煙が出てきて、それからしばらくして頭がぼっとしてきたの。
きっとあの煙に幻覚を引き起こすような、麻薬みたいな作用があったんじゃないかな。」
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「じゃあ、尚更龍神様が現れたのは現実ではなかったってことだね。」
すると美沙は急に怒ったような眼差しで俺の顔を見つめた。
「私もずっとそうかもしれないって思っていたの。でもね、今は事実だったんだって思うわ。」
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何を根拠に美沙がそう言うのか解からなかったが、今となっては確かめようがないではないか。
それに彼女がいきなり新宿で初めて会った縁も所縁もない俺に結婚しようと言い出すこと自体が矛盾している。
彼女の思考回路がよく分からない。
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しかし夢の話だとしても、俺にとっては思わぬところで北陸の田舎に伝わる奇習について話を聞けて面白かった。
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「事実だと思うなら尚更こんなところで初めて会った男に結婚しようなんて言っている場合じゃないだろ。
村の男じゃないのなら日本中旅してその男を探し出さないと。」
27歳にもなってそんなことをしていたら、たぶん婚期を逃すだろうなと内心思いながら、そう茶化すと美沙は真剣な顔で俺の腕を掴んだ。
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「もう!鈍いのね!だから見つけたのよ。だから結婚しようって言ったのよ。
あれから六年間、いつあの人が私の前に現れるのか待ち続けて、
先週、偶然あなたをこの店で見つけたの。この人だってすぐに判った。」
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美沙はひとりで飲むことは殆どないのだが、その日は無性に喉が渇いてビールを一杯だけ飲もうと暖簾を潜ったそうだ。
「それから毎日この店に来ていたんだけど、今日あなたの隣の席が空いていたからすかさず座ったのよ。」
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会社でも鈍いと言われることが時々あるが、そういうことなのか?
俺が龍神様の化身だということなのか?
頭の中でこれまでの人生をざっと振り返ってみたが、生まれも育ちも東京であり、富山には足を踏み入れたこともない俺には思い当たるフシがまったくない。
絶対に人違いだ。
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「別にあなた自身が龍神様の化身というわけじゃないわ。
結婚するならこの人がいいよって龍神様が教えてくれただけでしょ。
日本中旅しなくとも、龍神様の思し召しなら自然に生活していればどこかで出会えるはずよね。」
そうなのだろうか。
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もしそうだとしても、その龍神様が俺を選んだ根拠が何かあると思うのだが。
そうでなければやっぱり人違い?他人の空似?
俺の人生だ。やっぱり人違いでしたというのは勘弁して欲しい。
俺にだって自分で伴侶を選ぶ権利がある・・・・・と思う。
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いきなり嫁にしろと言ってきたこの女に対し、何故か不思議と反発する気持ちは湧かず、初めて会ったのにどこか惹かれているのも間違いはない。
その神社に行けば何か判るのだろうか。
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「じゃあ、今度の連休にその龍神様のところへ行って自分で確認してくるから、蒼龍神社の場所を教えてくれよ。」
どうせ彼女もいない独り身で、連休はいつも時間を持て余してしまう。
その場所に行って何をどう確認してくるというような当てがあるわけではないが、のんびりとドライブがてらひとりで北陸の田舎を旅行するのも悪くないと思ったのだ。
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「えっ?蒼龍神社へ行ってくれるの?嬉しい!もちろん私も一緒に行くわ。」
「いや、日程は仕事の都合を見てこれから決めるけど、予定が合うかな?」
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「何言ってるの。これ以上に大事な予定なんか私にある訳ないでしょ。どうにでもするわよ。
折角だから素敵な温泉宿を探しておくわね。
嬉しい!早速の婚前旅行なんて。うふふっ」
おいおい、うふふ、じゃない。
勝手に婚前旅行だと決めつけるな。
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しかし美沙は多少酔った顔で妖しく笑うと、俺の耳に口を近づけた。
「私、あなた以外では結婚しても幸せになれないから、村の男達や東京に出てきてから言い寄ってくる男達をずっと断り続けてきたの。
だからあの本堂の夜以外で男の人に抱かれたことがないの。よろしくね。」
よろしくねって、悪い気はしないが、美沙はもう完全に俺がその相手だと決めてかかっているようだ。
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「龍神様に確認が取れたらね。人違いで龍神様に祟られたらいい迷惑だ。」
「もう!疑り深いのね。」
疑り深いも何も、いきなりこんな話をされて鵜呑みにし、そうですか、じゃあ結婚しましょう、なんてこの場で答える奴はいないだろう。
新手の結婚詐欺だとしても、あまりに唐突で陳腐だ。
少しはアプローチの仕方を考えろ。
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◇◇◇◇
しかし結局のところ、俺は美沙と結婚することを決めた。
蒼龍神社を訪れた時に何故かそうしなければいけないという気になったのだ。
特に何らかの声が聞こえたとか、不思議な出来事があったわけではない。
どう表現すればいいのだろう。
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蒼龍神社の境内へ入った途端に故郷へ帰ったような非常に懐かしい気持ちになった。
そして自分の横で手を合わせている美沙はずっと昔から自分の傍にいたような錯覚を覚えた。
それは美沙も同じだったと言い、本堂で手を合わせた時に龍神様が、よく見つけたねと褒めてくれたような気がしたそうだ。
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◇◇◇◇
そして結婚を決めたと両親に美沙を引き合わせた時に驚く事実を知らされた。
俺の母方の曽祖父が美沙のいた村の生まれだった。
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曽祖父は三男坊で中学を出てすぐ東京に出てきたということであり、祖父母でさえ曽祖父から村の名前は聞いていたものの、その村を訪れたことなく、これまでそのことが家族の話題になったこともなかったのだ。
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そして母方は『蒼水(そうすい)』という少し変わった苗字なのだが、美沙によるとまだその家は村に存在しており、美沙が一夜の嫁入りをした時に宮司役をしていた氏子代表が蒼水家の家長だった。
もう疑う余地はない。
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美沙があの夜に本堂で経験したことは夢ではなく全て事実であり、龍神様はすべてお見通しで、彼の目で美沙の周辺を見渡した時に白羽の矢を立てたのが俺ということだったのだろう。
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結婚後に美沙から聞いた話によると、あの夜にあった出来事は将来自分の夫となる人以外に話してはいけないという禁則があるそうだ。
それを破ると、話した本人だけではなく、龍神様が選んだその伴侶、そしてその話を聞いた人にさえ、とてつもない不幸が降りかかると言い伝えられている。
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それ故、美沙が神社へ行く前に先達の女性達に神社で何が起こるのかを聞いても、後で分かると言われ、誰も詳細を答えてくれなかったのだ。
それにも拘らずあの居酒屋で美沙は自らあの話を始めた。
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「私はあなたが結婚してくれる自信があったからよ。もし結婚してくれなかったら、あなたも私も龍神様に喰われちゃっていたかもね。」
美沙はそう言って笑った。
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龍神様って人を喰うのか?
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◇◇◇◇
そして数年後、俺と美沙の間には可愛い女の子が生まれた。
蒼水家の家長から沙羅と名付けられた娘はすくすくと元気に育った。
そして沙羅が幼稚園に入る頃から美沙はあの村へ戻ろう、移住しようと言い出した。
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解っている。
美沙は、沙羅を龍神様のところへ嫁に出そうと虎視眈々と狙っているのだ。
まあ、仕事に未練はあるが、俺達は何処にいても幸せに暮らしていけるという龍神様のお墨付きがあるのだから、それもいいだろう。
さて、あの田舎で何を生業として暮らすかな。
◇◇◇◇ FIN
作者天虚空蔵
怖くない話です。
だったら怖話に投稿するなよって?
いや、一応物の怪というか怪異の話なのでご容赦ください。