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中編3
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緑色の記憶

聞いた話です。

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私には奇妙な記憶がある。

奇妙な結婚式の記憶だ。

独身の私が結婚式など挙げる筈が無いのに。

しかし覚えているものは仕方が無い。

夢にしては妙にリアルでこれはちゃんとした記憶だ。

明晰夢だとか幻覚とか言うやつだろうか?

確かお節介な知人だの親戚だのが家や会社に大勢押し掛けて来てお見合いをした所までは覚えている。

顔見知りは一人も居なかった。

こちらの言葉は殆ど無視する癖して段取りは勝手に進められてしまい、初対面なのに随分と無愛想で図々しい連中だと感じた。

お見合い相手は顔を包帯でグルグル巻きにしていた女性だった。

交際は丁重にお断りした筈だった。

だってお見合い中に一言も喋ってくれなかったからね。

なのになぜか気が付くと結婚式の日程がスケジュール帳に入っていたのだ。

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その日は緑色掛かった不気味な色の空模様だった。

私はタキシードに身を包み町外れにある結婚式場へと向かっていた。

町には人間が不気味な程に見当たらない。

ここはゴーストタウンだと言えば信じる者も居るだろうという位に寂しい町だった。

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式場に着くとあの不気味な空と全く同じ顔色をした列席者達が大勢居た。

しかも顔見知りは一人も居ない。

全員が見覚えの無い顔だった。

彼等はピクリとも動かずに私の方をずっと眺めている。

この空には場違いな花嫁の純白のウエディングドレスが不気味さを更に際立たせている。

花嫁は皆に背を向けて式場の教会の鐘の前に立ち尽くしている。

花嫁の手からブーケがゆっくりと地面に落ちた。

どうしてこんな奇妙な町で挙式などしてしまったのだろう。

そんな考えが頭を過った時。

グオオオオオオ

私は恐ろしい咆哮を聞いた。

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振り向いた花嫁の顔はまるでのっぺらぼうの様に耳や目や鼻は確認出来ず、ただ縦に額から顎にまで裂けた大口からは鋭い牙が剥き出しになっていた。

私目掛けて絶叫しながら追い掛けて来る獰猛なそのバケモノから必死で逃走した。

町中のバス、タクシーの類は全て無人だった。

交番に駆け込むと警官が1人居たので急いで助けを求めた。

だいじょうぶですよ・・・

警官はまるで死人の様な顔でそう呟くと拳銃を手に持って私に近付いて来る。

お廻りさんあっちです!

バケモノの居た方角を指差すと警官は無表情な顔のまま発砲した。

おかしいですねぇ・・・来ませんねぇ・・・

警官はそう呟きながら何発も何発も発砲した。

拳銃に弾込めしている様子は無かった。

それでも延々と発砲し続ける事の出来る異様な銃だ。

遠くにあのバケモノの姿を確認した。

発砲は続き何発かが命中したがバケモノをほんの少し身をよじらせる程度の威力でしかない。

結局、一緒に逃げたのだが警官は走る事が出来ず最後はバケモノに貪り喰われてしまった。

どこまで逃げたのか。

兎に角、あの咆哮が聞こえなくなるまで逃げ続けた。

どこかのビルに逃げ込んでエレベーターに乗ってやたらめったら目茶苦茶にボタンを押していた。

するとビルの窓の外に動いている電車を見つけた。

電車が停車していたのは無人駅だった。

駅員の姿も見当たらない。

私は切符も買わずに急いで乗り込んだ。

東京駅に着くと急いで交番に駆け込んだ。

今度は普通の警官が居た。

この話は変質者に追い掛けられたという体で幕引きとなった。

結婚恐怖症でも無かろうに。

白昼夢としてもこんな夢を見る心当たりが無い。

あなた・・・ガリガリ・・・鍵を開けてちょうだい・・・ガリガリ・・・あなた・・・ガリガリ・・・

深夜にこういう何かを噛む音や聞き覚えの無い妙な女の声が聞こえる時は決して外には出ない様にしている。

朝には決まって盛り塩が真っ黒に変色しているからだ。

恐らく良いものでは無いだろうから。

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