『占い師が苦手なんです』
いつもの怖い話を集める活動の延長で占いにまつわる実体験を募集している旨をホームページに載せたところ、こんなチャットが私のSNSに届いた。以降、チャットの相手を仮にUさんとする。
『詳しく、お聞かせ願いますか?』
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僕の友達のFの家族の話です。Fの家族は父と母、兄とFで構成されていて、本当に端から見たらごく普通の一般家庭って感じでした。
ただ……一時期、Fの兄が病んでしまったようで……あ、これは幽霊とか関係ないですよ。確か……就活でストレス溜めてたんじゃなかったかな……まぁ、そこはどうでもいいんですけど、精神科へ行っても一向によくならず、酷いときは食べても全部戻してしまうようで……そんなとき、親戚が「少しでも心の安らぎになれば」と、知り合いのよく当たると言われている占い師をFたちに紹介したそうです。
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以降、少しずつではあるもののFの兄は以前の元気さを取り戻し、暫くしたら完全に治ったようで……
ここまでなら、いい話で終われるんですけどね。
Fの兄と母はそれ以降本気で占いを、とりわけその人のものを信じるようになりました。それで壺を買わされたとか、そんな詐欺めいたことはなかったんですが、Fは「何でも相談してしまう様子を見ると少し気味が悪い」と言っていました。
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Fが言うには、母はFに関することをFに内緒で占い師に聞いていたそうです。学業のことや将来向いている仕事のことなど、ある意味人生のネタバレって感じもしますよね。Fの母は、Fに気付かれたため開き直って占いの結果をどんどんFに伝えるようになりました。
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「あんたは将来農家が向いてるってよ」
俺は農家なんかになりたくないよ、土いじり嫌いだし
「家庭教師付けないとあんた卒業できないってよ」
俺のこと信じてくれないのかよ、そんな人雇う金どこにあるんだよ
「いつか結婚しないと老後が大変だって」
そんなのみんな同じだろ、俺は女とか興味ないんだよ
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…………Fと、占いを信じる母の間で段々と衝突が増えていきました。
Fに聞いてみたことがあります。お前は占い信じないのか?って。Fは
「信じる信じないじゃなくてさ……なんか、未来が閉ざされた気分になるんだよ。自分の未来について言及した誰かがいるってだけで」
Fは酷く陰鬱そうな顔でそう答えました。
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そんなある日のことです。Fの母も自分の行動について反省したのか、その日は家族全員でFを労ったそうです。昼はFの好きなチキンを買ってきて、おやつにはちょっとお高い有名なアイスクリームを、夕食には普段は買わないような少しいい値段のするパック寿司を買ってきたんですって。Fの母から聞きました。
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当のFはというと、昼御飯に関しては素直に喜んでたんですが夕飯にお高い寿司が並んだことで急に憔悴し始めました。
「今日って何でもない日だよね?」
Fが唐突にそう言いました。
「……?うん」
「……嘘つくなよ」
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「嘘って……何が?」
「何でもない日にこんな贅沢するわけないだろ……!!何だよ!!今度は何を占ってもらったんだよッ!!」
Fは激昂しています。
「ちょっと、落ち着いて……!!」
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「なんだ……こうしないといけない理由があるのか……?こうでもしないと俺がどうにかなるのか……!?」
Fは今度は酷く怯えているようでした。
「……わかった、今日俺死ぬんだな?死ぬんだよなッ!?!?だからせめて最期にいい思いさせようとしたんだな!?!?」
「何言ってるの……!?そんなわけ……」
「そりゃあいくら母さんでもあんたは今日死ぬなんて言えねぇよなぁ!?」
「そうじゃなくて…」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……」
Fは頭を抱えてテーブルに突っ伏し、ひたすらそう繰り返していました。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない痛いのは嫌だ痛いのは嫌だ痛いのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「嫌だから」
「せめて自分で死に方は選ぼう」
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……Fはそういうと靴も履かずに家を飛び出したそうです。数十分後、Fが近所のマンションの前で全身を強く打って死んでいました。飛び降り自殺です。
現場付近に緊張が走る中、野次馬越しに一瞬見えたFの顔は朗らかに笑っているように見えました。心の底から安堵したように。
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『Fの母から自殺の訳を聞いたとき、占い師という存在が酷く苦手になりました。本物とか偽物とか関係なく、そういう人智を越えた存在が脳裏にちらつくだけで時として人は狂ってしまうんだなって』
『……あなたも、怪談集めは程ほどにした方がいいかもしれません。それが頭に住み着いて離れなくなったとき、あなたはきっも無事じゃ済まない』
……ご忠告、どうもありがとうございます、Uさん。
『……あまり本気にしていませんね?それじゃあ僕から1つだけ』
『……あなたの家、少し前まで雨漏りしてませんでしたか?』
……なるほど。随分タチが悪い後出しだ。
作者ボンスケ
例えその忠言に裏が無くても
自己嫌悪しながら生きていくことになるのでしょうか