中編3
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落としちゃったんです

東京の人に聞いた話です。

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落としちゃったんです!

ある日、街中で何か必死に探している若い女性を見付けた。

コンタクトレンズでも落としたのかと思って観察していたら急に話し掛けて来た。

「あの、私ここら辺でタイムマシン落としちゃったんです。

小石みたいにかなり小さいモノなんですけど、虹色をしていて・・・」

そう言うと手帳を見せてくれた。

図形やら解説みたいな文章が書かれていた。

原理的には地球を2周する程巨大なハドロン加速機のある未来からWi-Fiで遠隔操縦するタイプの平行宇宙移動装置らしかった。

一瞬、気の狂った陰謀論者か何かだろうと思ってその場を立ち去ろうとすると看護婦さんの様な人が走って来た。

「○○さ~ん。駄目じゃないの~勝手に抜け出しちゃ~」

看護婦さんの話によれば○○と言って近所の精神病院に収監されている身寄りの無い患者さんらしかった。

俺も巻き込まれて○○と看護婦さんとの長い長い押し問答の挙げ句に後2時間だけタイムマシンを探したら精神病院に戻るという約束が何とかなされた。

そして、なぜか自分も捜索を手伝わされた。

断って恨まれても後で何をされるか分かったものではない。

渋々手伝う事にした。

休日を潰された事にイライラしつつもマンホールの穴の奥にキラリと光る妙ちくりんな物体を見付けた。

家からバールの様なモノを持って来て蓋をこじ開けて梯子を伝って降りていく。

今、ここであの○○○○女に蓋を閉められでもしたらここで死ぬのかな?

みたいな事を考えながら降りていく。

自分は何て親切な人間なんだろう。

それはあの女の手帳にあった虹色の石ころに似ていた。

よし、丁度良い!

これを手土産に精神病院へ帰って貰おう。

女は一瞬何か狂った様に取り乱したかと思うと、ありがとう。と何度も言った。

もう、ありがとうを一生分かって程に言われて感謝された。

その後はもう一心不乱に石ころをいじくり回していた。

何だか分からんが兎に角ヨシ、そう思った時。

「良かったわね○○さん。さぁ帰りましょうか?」

看護婦さんが病棟への帰宅を促した時だった。

「ふざけるな!人を精神病扱いしやがって!未来に帰ったら真っ先にアンタの病院を訴えてやる!」

そう叫んだ後に○○は自分の口の中に石ころを放り込んだ。

すると・・・

○○の凄まじい悲鳴と共に首がまるで妖怪のろくろ首の様に天高く伸びたかと思うと物凄い勢いで回転し始めた。

最後は首がネジ切れて大量出血した。

余りの出来事に私も看護婦さんも大地に尻餅を付く。

○○は首も体もブラックホールみたいなモノに吸い込まれてそのまま虚空へと消えてしまった。

後には禍々しい血痕だけが残されていた。

看護婦さんは腰を抜かしたまま呆然と何が起こったのか分からないという表情をしていた。

あれが正しいタイムトラベルのやり方なのか、はたまた故障による大失敗なのか。

俺の勘では多分後者なのだろうと思う。

未来に戻れたとしてもあれじゃ多分ご存命では無いだろうな。

願わくば未来のまだご存命の○○さんがこの怪談を読んで過去へのタイムトラベルを思い止まってくれる事を願うばかりだ。

その後、看護婦さんと俺は警察にみっちりと絞られた。

俺は○○さんが奇声を発しながらマンションから飛び降りて腕を怪我をしたかと思うとそのままいずことも知れず走り去った。

と嘘の証言をした。

しかし看護婦さんはありのままを話したのだろう。

○○さんの自殺未遂にショックを受けて発狂したと勘違いされ自分が同じ病院に入院する嵌めになってしまったらしい。

タイムパラドックスという奴だろうか?

○○さんが死んだ事で看護婦さんが○○の役目を演じなければならなくなったとか?

俺が下手に看護婦さんを助けて自分がタイムパラドックスの餌食にならないとも限らない。

赤の他人だしここは彼女に生け贄になって貰おう。

皆さんもタイムマシンの取り扱いには気を付けような。

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