入社以来ずっと住んでいた独身寮を出てアパート暮らしをすることに決めた。
俺の名前は川口健二。
とある中堅自動車部品会社の設計エンジニアとして働いている。
今年で二十九歳になるが、もちろん独身。去年の暮れに三年間付き合った彼女と別れた。
その気分転換もあって七年暮らした寮を出ることにしたのだ。
少し会社から遠くなるものの二階建ての新築、二階角部屋で、1DK、バス、トイレ付の単身向けなのだが、メインの居室は八畳、ダイニングキッチンは六畳あり、ひとりで暮らすには充分な広さだ。
しかも駐車場が敷地内にあるという文句なしの物件。
完成まで三か月ほど待っての入居だった。
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◇◇◇◇
そしてようやく引っ越しした翌日の夜だった。
会社の帰りに夕食を済ませ、アパートに帰ってきたのは夜の八時を過ぎていた。
アパートに近づいたところで全体を見渡してもまだ灯りがついている部屋はない。
不動産屋は全部屋契約済だと言っていたが、他の部屋はまだ引っ越してきていないようだ。
俺は会社の寮だったから比較的自由が利いたが、他の人は前の住居の契約等の絡みですぐには引っ越してこられないのだろう。
静かなアパートで部屋に戻ると、シャワーを浴び、テレビを点けた。
寮にいる時は暇な時に誰かが訪ねてきたり、別の部屋に遊びに行ったりしていたが、ここではそれも出来ない。
電話する彼女でもいればいいのだが、それも今はないのだ。
気がつくと時刻は零時を少し過ぎたところ。
普段から特に理由がなければベッドに入る時間だ。
ベッドは隣の部屋側の壁ではなく、外壁側の壁に寄せて置いている。折角の角部屋なので、寝る時に少しでも隣の物音が気にならないようにこちら側へ置いてある。
いつも寝付きは良く、一度寝たら目覚ましアラームが鳴るまで起きないのが普通だが、今日はなぜか夜中に目が覚めた。
時計を見ると午前二時を指している。寝直そうと寝返りを打って壁の方を向いた。
するとふと誰かが話している声が聞こえているのに気づいた。
壁の向こうから聞こえてくるようであり、耳を澄ませてみると女性の声のようだ。
何を話しているのか分からず、ぼんやりと外を誰かがお喋りをしながら通っているのかなと思っているうちに、その日はそのまま眠ってしまった。
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◇◇◇◇
それから二週間ほど経ち、そのようなことがあったことすらすっかり忘れていた。
全部で八部屋あるアパートも全室埋まり、隣の部屋には三歳くらいの子供を連れたシングルマザーらしい、俺と同年齢と思しき女性が引っ越してきた。
彼女は週末に子供と一緒に挨拶に訪れ、杉田麻美と名乗った。
基本的に美人だが、少し疲れているようでどこか病的な雰囲気がある。
その母親の陰に隠れて俺の事をじっと見ている女の子は美紀ちゃんといい、やはり三歳であった。
「子供がいるので少しうるさくするかも知れませんがよろしくお願いします。」
杉田麻美は挨拶の時にそう言っていたが、平日は仕事を終えて帰ってくる時間が遅いこともあってか、彼女の部屋から特に気になるような騒音が聞こえることはなかった。
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◇◇◇◇
その日は仕事が押し、夜遅くに帰宅すると疲れていたこともあって早々にベッドへ入った。
しかし、この日も夜中にふと目が覚めた。時計を見ると午前二時半。
何でこんな時間に目が覚めたのかと思いながら、布団を被り直して寝直そうとした時だった。
また壁の向こうから女性の声が聞こえているのに気がついた。
どこからだろう。ふと以前にも一度声が聞こえたことがあったのを思い出した。
隣の部屋からかと思い、杉田麻美の部屋との境の壁に近づいてみたが、そちらからではない。
ひょっとして一階の部屋からかとフローリングの床に耳をつけてみたが、やはりベッド横の壁からのようだ。
天井裏のはずはなく、声はやはり外壁側の壁から聞こえてくるようだ。
外に誰かいるのかと窓を開けてみたが、周辺には全く人影はない。
そしてそのようなことをしているうちにいつの間にか声は聞こえなくなっていた。
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◇◇◇◇
「あの、川口さん。」
その週末の土曜日、買い物に行こうと部屋を出たところで杉田麻美に呼び止められた。
「ああ、杉田さん、おはようございます。」
「おはようございます。あの、すみません。夜中にお話をされる時はもう少し小さな声でお願いできませんか?子供が目を覚ましてしまうので。」
夜中にお喋りと言われても全く身に覚えがない。
「いや、部屋には僕ひとりしかいないので、特に話はしていないのですが、テレビの音ですかね?夜中って何時頃ですか。」
「大体十一時くらいが多いんですけど、夜中の二時くらいに聞こえることもあります。いつも女性の声で、テレビではないと思うんですけど。」
ふと先日夜中に聞こえた声を思い出した。
「杉田さん、胸を張って言えることではないけど僕は部屋に連れてくるような彼女はいないし、このアパートに引っ越してから一度も女性を部屋に入れたことはないです。十一時だとテレビを点けていることもありますが、二時にはもちろん寝ています。」
杉田麻美はそんなはずはないと言って驚いたような顔をした。
「でも川口さんの部屋との間の壁から聞こえてくるんです。川口さんの部屋からとしか思えないのですが、そうすると誰の声なのでしょう。」
「実はこの前、僕も二度ほど夜中に女性の声を聞いたような気がしたんです。でもそれは耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声で、杉田さんの部屋の方ではなく外壁側から聞こえていました。杉田さんの部屋で聞こえるのは大きい声なのですか?」
「ええ、子供が目を覚ますくらいですから。」
そんな声なら俺の部屋で聞こえないはずはない。
「その声は何て言っているのですか?」
何か言いづらいことなのだろうか、杉田麻美はそこで少し言い澱んだ。
「何て言うか、女性の甘えた声なんです。仲のいいカップルって言うか。でも女性の声しか聞こえないんです。どうしてでしょうか?」
そもそもクレームをつけるつもりで彼女は声を掛けてきたのだろうが、実際に俺ではない以上どうしようもない。
俺の部屋で聞こえる声とは異なるようであり、彼女の部屋で聞こえる声についても興味が湧いた。
「それじゃ、週末の夜は殆ど部屋にいますから、もし声が聞こえたら遠慮なく僕の部屋を訪ねてきてください。夜中でも遠慮はいりません。僕のせいじゃないという事を証明したいですし、そんな声がどこから聞こえてくるのか僕も非常に気になりますから。」
「はい。でも川口さんじゃないとすると気味が悪いですね。」
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そしてその夜の十一時過ぎ、ビールを飲みながらスマホでゲームをやっていると、さっそく杉田麻美が玄関のインターフォンを鳴らした。
インターフォン越しに今声がしていると告げられると、ドアを開けて彼女を部屋へ入れた。
「今、本当に女の人の話し声がしていたんです。」
俺が他に誰もおらずテレビもついていない部屋を見せると、杉田麻美は言い訳するようにそう言って助けを乞うように俺の顔を見た。
俺は彼女の部屋との間の壁に耳を近づけて耳を澄ませてみたが何も聞こえない。
「もう一度杉田さんの部屋に戻ってまだ声がしているか確認してもらえますか?」
杉田麻美は頷いて足早に彼女の部屋へと戻った。
俺も一緒に確認したかったが、こんな時間に女性の部屋に入るのは非常識のような気がして彼女の部屋のドアの前で待った。
程なく彼女はドアから顔を出した。
「もう声は聞こえないです。いつもなら二、三十分続くのですけど・・・」
申し訳なさそうに彼女が言うのを聞いて、俺は笑顔を作って答えた。
「きっと僕らがバタバタしていたので声の主もびっくりしたのかもしれませんね。でも僕もその声を聞いてみたいので、今度聞こえたらスマホか何かで録音しておいてもらえませんか。」
素直に頷く彼女に笑顔で会釈すると俺は部屋に戻った。
しかし俺の部屋では全く聞こえないのに彼女の部屋では聞こえると言うのはどういうことか。
杉田麻美も気味が悪いと言っていたが、幽霊か、もしくはその類なのだろうか。
気になったので、その夜は俺の部屋で声が聞こえた午前二時まで起きていることにしてベッドに座り、壁に寄り掛かって片耳だけイヤホンを挿してゲームを再開した。
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そして間もなく二時になろうという時、いきなり背筋に悪寒が走るのを感じた。
何だろうとゲームを中断し、イヤホンを外してみた。
聞こえる。
壁の中から湧き出てくるように、ぼそぼそとした女性の声がかすかに聞こえてくる。
先ほど杉田麻美に声が聞こえたら録音しておいてくれと言ったのを思い出し、俺もゲームをしていたスマホを握り直した。
しかし音声録音をしたことがなく操作方法が分からない。咄嗟にビデオ録画を起動し、スマホをぺたりと壁に当てた。
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そういえば杉田麻美の部屋の壁には変化はないのだろうか。
俺はスマホを壁に押し付けた状態のまま枕を使って固定すると、ベッドから降りて反対側の壁に耳をつけた。
特に何も聞こえない。
寝ているのだろう、そう思って壁から耳を話そうとした瞬間、壁の向こうでがさがさと何かが動く気配を感じた。
「スマホ、スマホ」
小さいが杉田麻美の声でそう聞こえた。スマホを探しているという事は、向こうの部屋では声が聞こえているのだろう。
そしてゴチっと壁に何かが当たる音がした。彼女がスマホを壁に押し当てたのに違いない。
そのまま数十秒が経った。
しかしそれ以降は静まり返り、何の物音もせず、彼女の声も聞こえなくなった。
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こちらの部屋はどうなっているのかと、俺はベッドに戻り横の壁に顔を近づけたが何も聞こえなくなっていた。
スマホの録画を停止するとカウチに座りさっそく再生してみた。
壁にぴったりとつけていたからか、耳で聞くよりもましだが、やはり音声はそれほど大きくない。
深夜であり音量は控えめにしてスマホを耳に押し当て、そしてかろうじて聞き取れたのは次のような内容だった。
(・・・ねえ、どこへいっちゃったの?・・・・・どこにいるの?・・・・・あついよ・・・・こんなところに置き去りにしないでよ・・・・・)
これを延々と繰り返している。声の主はどこか異世界にでもいるのだろうか。
彼女がいるのは、壁の向こう側なのだろうか、それとも壁の中なのか。
もしくは天井裏か。
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◇◇◇◇
翌日は寝たのが遅かったこともあり、お昼近くにベッドから出ると、どこかでブランチを食べようとアパートの駐車場に止めてある車へと向かった。
「川口さん、お出かけですか?」
頭の上から杉田麻美の声が降ってきた。見上げると部屋の窓からこちらを見下ろしている。
「ああ、おはようございます。今起きたところで、これからどこかで飯でも食おうかと思って。」
「それなら美紀とご一緒させて貰ってもいいですか?ちょっとお話もしたいし。」
彼女には昨夜の話も聞きたかったので快諾すると、五分ほどで駐車場へ降りてきた。
車で国道沿いのファミレスに入ると、日曜日のお昼前にしては比較的空いており、窓際のボックス席に座って、俺と杉田麻美は同じランチセット、美紀ちゃんはお子様ランチをオーダーした。
こうやって座っていると他人からは家族連れにしか見えないだろうなと思っていると、杉田麻美がいきなり頭を下げてきた。
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「夕べはすみませんでした。夜中に押しかけて。」
「いや、何かあったら部屋へ来てくれと言ったのは僕ですから気にしないで下さい。」
そして気になっている昨夜のことを聞いてみると、やはり二時頃にまた声が聞こえたと言った。
「それでスマホに録音しようとしたんですけど、その声は全然録音されていなかったんです。」
そう言って自分のスマホを取り出して再生して見せてくれたのだが、確かに最初に壁にぶつかるゴンという音の後はかすかな彼女の息遣い以外に何も録音されていない。
「実は杉田さんがスマホを壁にぶつけた音が聞こえて、時間も時間だしひょっとして声が聞こえているのかと思って失礼かと思ったけど壁に耳をつけて声を聞いていたんです。」
「えっ、そうだったんですか?」
「ええ、でも僕の部屋からは何も聞こえませんでした。」
「そうですか。やっぱり聞こえているのは私と美紀だけなんですね。」
杉田麻美はそう言うと何故かくすりと笑った。
「何か可笑しいですか?」
俺には彼女が笑った理由が全く分からなかった。
「あ、いえ、たいしたことじゃないんです。夕べ、深夜のあの時間に川口さんと私が壁を挟んでほんとに目と鼻の先で顔を突き合わせていたのかと思ったらつい可笑しくなっちゃって。」
言われてみればその通りだ。俺もつられて笑った。
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そして俺は自分のスマホをポケットから取り出した。
「その時間、二時頃ですね。実は僕の部屋でも杉田さんの部屋と反対側の壁から声が聞こえていたので、録音したんです。」
「それで録音できたのですか?」
俺は頷いた。
「聞きたいです。聞かせて貰えますか?」
俺は音量を最大にしてスマホをテーブルの真ん中に置きビデオの再生を始めた。
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すぐに女のつぶやくような声が聞こえる。杉田麻美はテーブルのスマホに顔を近づけてじっと見つめながら微動だにせず、声に聞き入っている。
そしてひと通り聞き終わると杉田麻美は首を捻った。
「何て言っているのかよく分からなかった。でも画面には白い女の人が一瞬映っていましたね。」
俺は驚いた。
昨夜はスマホを耳に当てて再生していたので画面を全く見ていなかったし、今もスマホの声に対する杉田麻美の反応を見たくて彼女を見つめていたので全く気づかなかった。
慌てて再度最初から再生すると、最初に俺の顔が映っておりそこから壁にスマホを押し付けると画面は真っ暗になった。
少し時間をおいて、枕で壁に押し付けた時だろう、ごそごそという音と画面の横から少し光が差し込んだがすぐに画面は真っ黒に戻った。
そしてそこから一分と経たないうちに、画面のやや右下辺りがぼっと白くなってきたのだ。
最初はぼやっとした光だったがそれは徐々に人の形となり、全体が白っぽい女性の姿に変わった。
背景は何もなく、セミロングの髪も顔も、そして着ているワンピースも白く、黒い画面の中に浮いているように見える。
そしてその女性がゆっくりと顔をあげると、その口は聞こえてくる音声に合わせて動いていた。
つまりこの女性がこの声の主という事だ。
そしてその白い姿が、現れた時の逆を辿るように徐々ぼやけ白い光だけになって画面から消えると同時に声も聞こえなくなった。
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「この女の人は何て言っているのですか?」
俺は昨夜スマホから聞き取った内容をメモした紙を杉田麻美に見せた。
「どこかに置き去りにされたまま幽霊になっちゃたという事なんですかね。何だかかわいそう。川口さんはこの白い女性に見覚えは?」
俺は首を横に振った。全く見知らぬ顔だった。
「もう一回さっきの動画を見せて貰ってもいいですか?」
杉田麻美は、今度は俺のスマホを手に持ってじっくりと画面に見入った。
目の前で美紀ちゃんがお子様ランチのスパゲッティで口の周りを真っ赤にしており、俺がナプキンで口の周りを拭いてやると俺の顔を見てにっこり笑った。
可愛い子なのだがそういえばこの子の声をまだ一度も聞いていない。
「やっぱり見たことのない顔ね。」
杉田麻美はスマホを俺に返しながら言った。
「まあ、そうでしょうね。もし知った顔だということは、杉田さんがアパートに連れてきたということですよね。声は杉田さんの部屋で聞こえる声と同じですか?」
「わからないわ。似ているような気もするけれど・・・あら、美紀は川口さんにお口を拭いてもらったの?よかったわね。」
そう言って杉田麻美は娘の頭を撫でた。
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「この子、人見知りが凄くて知らない人に声を掛けられただけで泣いちゃうような子なんです。でも川口さんは平気みたい。なぜかしら。子供なりに川口さんが人畜無害な人だと思っているのかな。」
俺は少しむっとした。
「杉田さん、人畜無害ってどういう意味か分かって言っています?」
「人に害を及ぼさない平和主義の人ですよね?」
「いいえ、良くも悪くも他に影響を与えることのない、平々凡々で取り柄のない人を指して言うんですよ。基本的に、けなし言葉です。」
「えっ?そうなんですか?私ずっと誉め言葉だとばかり思っていました。ごめんなさい!」
まあ、ハズレではないかもしれないと思いながら、もう食事も終わっていたので美紀ちゃんに声を掛けた。
「美紀ちゃん、デザートにアイスクリームでも食べる?」
テーブルに置いてある写真を指差すと、嬉しそうに大きく頷く美紀ちゃんを見て、ウェイトレスの女の子を呼び止めた。
「すみません、このフローズンラズベリーミルクひとつと、あと俺はホットコーヒー、杉田さんは?」
「ストロベリージャンボパフェ。」
「・・・・・それひとつ。」
なかなか面白い人なのかもしれない。
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やがて運ばれてきたパフェとアイスクリームを母娘で仲良く突き合っている姿を見ながら、俺は深夜に聞こえる声をこのまま放っておいていいものなのか考えていた。
現時点は美紀ちゃんが夜中に起きてしまう以外に実害がないのだが、これからもその程度で済むのだろうか。
俺の部屋で聞こえる声はスマホで録音できるし、その姿を画像に捉えることもできたが、杉田麻美の部屋で聞こえる声は俺の耳には聞こえず、聞こえるはずの彼女の部屋で録音することもできないのだ。
そして俺の部屋の声はひとり寂しく誰かが迎えに来るのを待っているのに対し、隣で聞こえるのは恋人といちゃつく声。
単純に考えるとこれは違う現象、違う幽霊だと考えるのが妥当ではないか。
「ねえ川口さん、この美紀のアイス食べてみてよ。すっごく変わった味で美味しいわよ。」
杉田麻美はそう言うと自分が使っていたスプーンでアイスをすくい、そのまま俺の口へ運んだ。
「ね?面白い味でしょ?」
この人は元来、細かいことをあまり気にしない屈託のない人なのだろう。
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俺が笑顔で頷くのを見た美紀ちゃんは、慌てた様子でアイスクリームをスプーンですくうと、椅子から飛び降りて俺の横に座ってそれを差し出した。
俺が前かがみになってそのアイスクリームを食べると、嬉しそうににっこりと微笑んで、「おいちい?」と首を傾げた。
美紀ちゃんに話しかけられるのはこれが初めてだ。
笑顔で頷くと今度は椅子の上に膝立ちになり、またアイスをすくって俺の口に持ってきた。
「ありがとう、でもおじちゃんはもう一杯食べたから、あとは美紀ちゃんが自分で食べてね。」
そう言って頭を撫でると、そうするのが当然のように美紀ちゃんは開いた俺の腕の間をするっと潜り抜けて俺の膝の上に座った。
「こら、美紀!それはちょっと甘え過ぎよ!」
慌てて起こる杉田麻美を俺は笑って制すると、美紀ちゃんのアイスクリームを食べやすいように手元へ引き寄せた。
「いいんだよね、美紀ちゃん。さあ、頑張ってアイスクリームを食べちゃおう。」
そう言って頭を撫でると俺の膝の上で美紀ちゃんは嬉しそうにアイスクリームを再び食べ始めた。
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ふと顔をあげると杉田麻美が目に一杯涙を溜めて美紀ちゃんを見つめている。
「ごめんなさい、この子は産まれてから父親には殴られるだけで優しくしてもらったことがないのよ。父親は結婚して美紀が生まれた頃から毎日家に帰ってくると暴力を振るうようになって、結局それが原因で離婚して、それから美紀とふたりだけで暮らしてきたの。」
美紀ちゃんは母親が泣いているのを見て何が起こったのかと俺の膝の上できょとんとしている。
俺は美紀ちゃんのスプーンを持った手を取って、アイスクリームを口に運んでやった。
杉田麻美はその様子を見ながらハンカチで目を押さえ、話を続けた。
「美紀はそんな環境で育ってきて父親の愛情というものを全く知らない子だったの。それなのにこうやって川口さんの膝の上で嬉しそうにアイスクリームを食べている姿を見たら何だか涙が止まらなくなっちゃって。」
そんな環境で育ってきた子がなぜ俺に懐くのかさっぱりわからないが、悪い気はしない。
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「う~ん、お腹いっぱい。」
ファミレスを出たところでおなかをさすりながらそう言う杉田麻美に、普通にランチを食べた後、あんなでかいパフェを食べれば当然だと笑いながら車に乗り込みアパートへ戻った。
「川口さん、お腹がいっぱいの時に言うのもなんですけど、今日の夕食はうちで召し上がりませんか?お口に合うか分からないけどごちそうしますから。」
それは嬉しいですと快諾して部屋の前まで戻ったところで、ふと思いついたことがあった。
「杉田さん、これから天井裏をちょっと見てみようと思うので、もし天井から変な音がしても気にしないでくださいね。」
大した厚みのない壁でも床下でもないとすれば、天井裏に何かあるかもしれないと思ったのだ。
「わかりました。気を付けてくださいね。」
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◇◇◇◇
ユニットバスの天板を開けて屋根裏を覗くとその様子に驚いた。
三角屋根の突き当り、ちょうど俺のベッドの上に当たる外壁部分に何枚ものお札が貼られていたのだ。
屋根裏に登り、近づいてみるとその部分の梁の上には新しくはないが盛り塩もあるではないか。
ここで何かが起こったのは間違いなさそうなのだが、まるっきり新築であることを考えると工事中に何かあったのだろうか。
しかし現れるのは白いワンピースの女性であり、工事中の事故とは考えにくい。
そして俺の部屋と杉田麻美の部屋の間の壁の上も注意深く確認してみたが、そこには何も変わったところは見つからなかった。
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◇◇◇◇
「川口さんはビールでいいですか?」
夜になり杉田麻美の部屋を訪れると、すでにダイニングテーブルにはいろいろな料理が並んでいた。
「すごいな、杉田さんは料理が上手なんですね。」
素直にそう褒めると、杉田麻美は照れ笑いをしながら、そこに座ってくれとテーブルの手前側の椅子を指差した。
俺が席に座ると美紀ちゃんがすぐに俺の膝の上に乗ってきた。
「こら!おじちゃんがご飯をゆっくり食べられないでしょ。こっちの自分の椅子に座りなさい。」
杉田麻美に怒られて口を尖らせた美紀ちゃんを、俺は安定するようにしっかり膝の上に抱き直して杉田麻美に笑いかけた。
「まあ、普段いる訳じゃないから美紀ちゃんも珍しいんでしょう。いいじゃないですか。」
「いいえ、最初が肝心なの。これからいつも膝の上に乗られちゃいますよ。」
「これからいつも?」
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彼女の料理は美味しかった。
俺は徳島の出身なのだが、彼女は香川の生まれだと言った。同じ四国の出身ということもあって料理が口に合うのかもしれない。
彼女は俺よりもひとつ年下だった。地元の短大を出て23歳で結婚し、旦那の転勤で香川から東京に出てきた後25歳で美紀ちゃんが生まれた。
転勤に出産が重なり、元旦那も精神的にかなり参っていたのかもしれない。
そして家で暴力を振るうようになった元旦那に、このままでは生まれたばかりの美紀ちゃんを殺されてしまうと思い、離婚調停を申し出て正式に離婚したそうだ。
しかし実家は腹違いの兄が仕切っており、出戻りを嫌って実家に戻ることを許されず、元旦那は養育費も払ってくれなかった。
美紀ちゃんを抱えて途方に暮れていた時に、拾う神ありとばかりに母方の祖父の遺産が入ってきたのだ。
しかしそれにしても美紀ちゃんを一人前に育て上げるには不十分で、先々の心配は尽きないと言った。
「杉田さん、大変なんですね。こんなにごちそうになって申し訳ないです。」
「ううん、幸せそうな美紀の顔を見ているだけで充分お釣りが来ます。それから、苗字ではなくて下の名前で呼んで貰えませんか?仕方がなく実家の苗字を名乗っていますけど、あんまり好きじゃなくて。」
「そうですか。それじゃ・・・えっと・・・あの・・・何でしたっけ、下の名前。」
彼女が引っ越してきてからずっと苗字で呼んでいたので急に下の名前と言われても全く思い出せなかった。
「ひどい、覚えてくれていなかったんですね。まみです。麻薬の麻に美しいと書きます。」
「麻薬の麻に美しい、すごい例えですね。じゃあこれからは麻美さんと呼ばせて貰いますね。」
すると杉田麻美は少し上目使いで俺を見ると少し小さな声で言った。
「じゃあ、私も健二さんって呼ばせて貰っていいですか?」
自分の苗字が嫌いだから下の名前で呼んでくれと言った彼女の希望と、俺の名前がどうつながるのかよく分からなかったが、別に拒否する理由などない。しかし何だか妖しい雰囲気になってきた。
「そういえば屋根裏で何か見つかった?」
三本目のビールの栓を抜きながら、思い出したように尋ねてきた。
そこで俺の部屋の外壁側の壁と柱にお札が貼られ盛り塩がしてあったこと、そして俺の部屋とこの部屋の間の壁の辺りには特に変わったところはなかったことなどを話した。
「そのお札は気味悪いわね。新築でそんな場所に貼ってあるということは、工事中に何かあったってことかしら。」
お酒のせいだろう、いつの間にかすっかりタメ口に変わっている。
「それに麻美さんと俺の部屋の壁のところには何もなかったっていうのも逆に妙だよね。」
「そうね。」
それからしばらくあれこれと憶測を並べてみたが結論が出るはずもなく、俺に抱かれたままぐっすり眠ってしまった美紀ちゃんをベッドに寝かせると、彼女に礼を言って部屋に戻った。
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それから更に一週間が過ぎた。
先週と同じように美紀ちゃんを膝の上に乗せて食事をしていると、杉田麻美が見て欲しいと言って一枚の紙を取り出した。
それは新聞の一部をコピーしたものだった。
「その真ん中あたりの記事を見てみて。」
そこには『空き家で女性の遺体発見』という見出しの記事があり、そこに丸く女性の写真があった。
「えっ!この女の人って・・・」
「そうなの。似ているでしょ?」
新聞の写真なので不鮮明なのだが、あのスマホの動画に映りこんだ女性と非常に似ている。
写真の下側には『伊藤知佳さん(22)』と名前があり、記事の内容に目を通すと次のような内容だった。
separator
― 昨日調布市布田の住宅街にある空き家で、近所の人から異臭がすると警察に通報があり、警察が調べたところ空き家の一室から腐敗した女性の遺体が発見された。遺体は持っていた免許証などから近所に住む伊藤知佳さんとみられている。伊藤さんは十日ほど前から行方不明になっており、家族から捜索願が出されていた。警察の発表によると、伊藤さんはこの空き家の二階にある一室に外から鍵を掛けられた状態で監禁されており、先月の猛暑のなか熱中症で死亡したものとみられる。警察は殺人としての立件も視野に入れて彼女を監禁した人物の行方を追っている。―
separator
新聞の日付を見ると二年前の九月五日になっていた。
「この調布市布田の住宅街ってひょっとして・・・」
「そうなの。その事件があったその空き家を取り壊して、このアパートが建ったんですって。」
新築なのに大量のお札が貼ってあるのは尋常ではないと思い、杉田麻美は近所の雑貨屋で買い物ついでに店の奥さんに聞いてみたところ、噂話が好きそうなその奥さんから二年前の九月にそのような事件があったことを聞きこんだのだ。そしてその足で図書館に行くと、その九月の東京新聞の社会面を頭から順に追い、すぐにこの記事を見つけたそうだ。
「すごいね、探偵になれるんじゃない?」
「事件が月末じゃなくてよかったわ。九月分の新聞の束を最後まで見なくて済んだもの。」
その後彼女はすぐに大家のところに行き、天井裏のお札について問い詰めたのだそうだ。
そして渋る大家から強引に話を聞き出した。
あのアパートを建てている時、棟上げしたばかりで骨組みだけのアパートの二階で女性の姿を見たという噂が大工の間で囁かれるようになったらしい。
もちろん大工達はこの土地で何があったのかを知っており、そしてひとりの大工が二階天井の梁の上で足を踏み外して怪我をする事故が起きると、大工達はその後の作業を嫌がるようになってしまった。
そこで大家はこの地域では有名な神社の神主に依頼してお祓いをして貰い、その後は無事に工事を終えた。
だからその件に関してはもう大丈夫なはずだと大家は言い張ったのだった。
とにかく彼女のおかげで何となく様子が見えてきた。
しかしこの場所で命を落としたという伊藤知佳という女性の霊を何とかすることが出来るものなのだろうか。
あのお札と盛り塩からすると大家が言った通り、それなりにお祓いは執り行われたのだろう。
しかし未だ声が聞こえるという事は、彼女の無念の魂を完全に鎮めるには不充分だったということになる。
「気になるけど、とりあえず今のところ実害はないから慌てる必要はないかな。麻美さんの部屋はもう何事もないの?」
「もう二度と出ないのかどうか分からないけど、この二週間は何事もないわ。どうしちゃったのかしらね。」
俺の部屋の声は相変わらずなのに、杉田麻美の部屋は何も聞こえなくなったということは、やはりこのふたつの声はそもそも無関係だったということなのだろうか。
明日の日曜日はドライブに連れて言ってくれないかという杉田麻美のリクエストに、毎週夕食をごちそうになっている感謝の意味も含めてOKすると、ごちそうさまを告げて部屋に戻った。
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◇◇◇◇
部屋に戻った後、スマホを取り出し、動画と新聞の写真をもう一度ゆっくりと見比べてみた。
やはりあの声の主は伊藤知佳に間違いないだろう。
可哀そうに。
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後から考えれば、この時間、この場所で伊藤知佳に対し強く同情したのがいけなかったのかもしれない。
夜中にふと目を覚ますと、またあの声が聞こえていた。
薄目を開けると枕元がうっすらと明るくなっているのに気がついた。
いつの間にか枕元に置いてあるスマホの電源が入っていた。
メールかメッセージでも届いたかと思い、寝ぼけた頭でスマホを手に取ったが、スマホの画面は真っ黒で何も表示していない。
故障したかと思ったが画面をよく見るとそれはフルスクリーンモードでのビデオ再生画面になっていた。
耳を澄ますとスマホからあの声が聞こえている。
なぜこの動画が再生されているのだろう、寝ぼけた頭でぼんやりと考えながら画面を眺めていると画面にあの白いもやが現れ、それが伊藤知佳の悲し気な表情に変わったところで、俺はまた(可哀そうに)と心の中で思った。
すでに何度も見ている動画であり、恐怖感はなかった。
しかし突然その白い塊がスマホ画面から盛り上がるように膨らんできたのだ。
驚いてベッドの上にスマホを落としたが、まるでスマホから押し出されてくるようにその塊は大きくなり、やがて白く光る伊藤知佳が姿を現した。
彼女は俺の顔をじっと見つめ、そのままベッドに寝ている俺の上に馬乗りになった。
《何で私を迎えに来てくれなかったの?待っていたのに。なぜ扉に鍵を掛けたの?私、暑くて、暑くて・・・・・》
伊藤知佳はそう言いながら俺の首に手を掛けると、ゆっくりと力を加えてきた。
苦しい。
喉を締めつけられているためか声が出ず、金縛りなのか体も動かない。
《早く迎えに来てよ、早く。》
そして馬乗りになっている伊藤知佳の顔がみるみる腐敗して崩れていく。
首を絞めつけられている苦しさとその恐怖に、俺の意識は薄れていった。
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◇◇◇◇
気がつくと外はすでに明るくなっていた。
周りを見回しても伊藤知佳の姿はない。枕元に置かれているスマホを手に取ってみたが、通常の待受画面のままだ。
あれは夢だったのだろうか。
玄関のチャイムが鳴り、反射的に時計を見ると、昨夜杉田麻美と約束した時間になっていた。
取り敢えずドアを開けると、嬉しそうに立っている母娘に正直に寝坊したと謝った。
すぐに支度するから部屋に上がって待っていてくれと言うと、杉田麻美が眉間に皺を寄せて俺に顔を近づけた。
「健二さん、その首どうしたんですか?」
鏡を見てみると、首にはっきり手形と判るあざが残っていた。
あれは夢ではなかったのだ。
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◇◇◇◇
俺は早々にその部屋を引き払った。
あの動画も消去したうえで、スマホ本体も買い替えた。
そして同じ調布市内でいままでの1DKよりも広い2DKのアパートに引っ越した。
ひと部屋増えたところには杉田麻美と美紀ちゃんが住んでいる。
私も怖いから引っ越すなら一緒に連れて行ってくれ、ふた部屋分の家賃を払うよりもこっちの方が安いからと、彼女が決めてきたのだ。
これまでの経緯を考えれば地縛霊の伊藤知佳が俺達に憑いてくることはないだろう。
そして今考えると杉田麻美の部屋で聞こえていた声は幽霊ではなかったのだと思う。
彼女が自分で聞く以外、録音もできなかったし、俺にも聞こえなかった。
DVにより離婚し、金銭的に苦労しながら子育てに追われ、ろくに知り合いもいない東京で暮らしていくのが心細かったに違いない。
引っ越しの疲れもあり精神的にウツに近い状態になって、おそらく幻聴を聞いていたのだと思う。
そして美紀ちゃんはそんな母親の様子を敏感に感じ取り、不安になって泣き出したのだろう。
そして俺と知り合い、人見知りの美紀ちゃんを含めて仲良くしていくことで彼女は精神的に安定し、それが聞こえることがなくなったのだろう。
今回のことで俺が引っ越すと決めた時に、彼女はまた元の生活に戻ることを無意識に恐れたに違いない。
separator
あの部屋にはまた誰かが住むことになるだろうか。
しかし、新しく住む人が夜中に聞こえる伊藤知佳の声に気づかなければ何も起こらないのかもしれない。
それに気づいてしまった俺はあのアパートで怖い思いをしたが、その結果として膝の上には可愛い女の子、そして目の前には料理上手な美人と、得たものは大きかった。
伊藤知佳の存在がなければ、ふたりと親密になることはなかったかもしれない。
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最近はカウチに座っていると美紀ちゃんを押しのけて杉田麻美が膝の上に乗ってくる。
『最初が肝心なの。これからいつも膝の上に乗られちゃいますよ。』
彼女が言った言葉だが・・・
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美紀ちゃんよりかなり重いが仕方がない。
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どのタイミングか思い出せないが、俺もいつの間にかこうなることを望んでいたのだから。
◇◇◇◇ FIN
作者天虚空蔵
お盆休みで少し間が空きました。
このお話は、三歳の美紀ちゃんに関するサブストーリーも含んでいたのですが、ちょっと長くなり過ぎたのでその部分を削除して再編したものになります。
それでも長いです。
お時間のある時にどうぞ。