秋も深まってきた日曜日の昼下がりのこと。
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大阪はN区どや街にある安アパートの一室。
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今年四十路を迎える俺は畳に寝転がり、携帯をいじっていた。
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しばらく漫然と動画とかを観た後、徐にグー○ルマップを開き、九州南部の山裾にある、とある住宅街周辺の地図を表示させる。
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そこは俺が数年前まで住んでいたところだ。
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画面中央付近に位置する住宅街の中にある一軒の建物をポイントすると、そのままストリートビューを起動させた。
瞬時に地図は3D写真画像に切り替わる。
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このストリートビューという機能は便利なものだ。
これを利用すると、わざわざそこに行かなくともその場所の現在の様子を画像で見ることが出来るのだ。
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ここ数年暇さえあれば、こうやって携帯画面にマップを表示させては嘗ての自分の住み家を確認している。
この行為は今では完全に俺の日常の一部となっていた。
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画面上を指先で操作しながら正面の門からその家を臨む。
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そこはありきたりな二階建ての家。
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玄関へのアプローチは雑草だらけで相変わらず誰も住んでいないのが分かると、ひとまず俺は安堵のため息をついた
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さらに玄関の方へと視線を移した途端、あれ?と思った。
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玄関横手の雑草地に女が立っている。
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ショートの黒髪に白のブラウス、紺のスカート姿の痩せた女がただ直立している。
そしてその奇妙にピンぼけしたような白い顔を見た時、何故だか俺はその女性に睨まれているように感じた。
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─S美なのか?そんなバカな、、、
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俺は1人呟き、あわてて立ち上がり急いで身支度を整えると、そのままアパートを飛び出す。
地下鉄を乗り継ぎ、新大阪駅にたどり着いた時、時刻はもう昼近くになっていた。
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─今から新幹線で行けば、夕方までには着くはず
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急いでチケットを買うと、新幹線のホームへと走った。
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南九州にある新幹線駅のホームに着いた時、時刻はもう午後4時になろうとしていた。
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そのまま隣接するバスターミナルまで走り、ローカル線のバスに乗り込む。
窓際の席でのどかな田園風景を眺めながら「そんなことはないはず、そんなことはないはず」と独り言を繰り返していた。
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しばらくすると前方右手に広大な住宅街が見えてきた。
その入口バス停で降りる。
同じような外観の住宅の立ち並んだ迷路のような路地を、早足で進んでいく。
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しばらくするとようやく目的の家が見えてきた。
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正に午前中にストリートビューで確認した二階建ての家だ
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門の前に立ち、その家の玄関辺りをじっと見ていると「どうかされました?」と背後から尋ねる声がする。
驚いて振り向くと、ジャージ姿の禿げたじいさんが不審げな顔をして立っている。
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少々動揺したのだが、無視して敷地に入っていった。
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「あんた、ここは管理地だから勝手に入ったらダメだよ」
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じいさんの叫び声がしているが、そのまま建物の横手を通りすぎ裏の庭まで行った。
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庭もやはり荒れ放題だった。
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俺は背中に背負ったリュックを地面に下ろすとファスナーを開き、中から中程度の大きさのスコップを取り出した。
そしてそれを片手に、庭の片隅の少し小高いところにある灯籠のところまで歩くと、徐にその下辺りを掘り始める。
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30分ほど掘り進んだところで、目的のものは見つかった
ほっとしたところで周囲を見渡すと、辺りは随分薄暗くなっている。
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急がないと、、、
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俺は掘り返した穴を再びスコップで埋め始めた。
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その時だ。
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「あなた、そんなところで何をしているんですか?」
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突然背後から声がしたので驚いて振り返ると、2メートルほど後方に制服姿の若い警察官と、さっき声をかけてきたたじいさんが立っている。
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途端に俺は全身の力が抜けてその場で膝をつくと、がっくりと項垂れた。
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翌朝の南九州の地方新聞社会面には、次のような記事が掲載された。
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昨日午後5時頃、鹿児島県K市内北部にある【けやき台住宅街】の空き家に不審な男が侵入していると、近くに住む高齢の男性が駐在所に通報した。
男は駆けつけた警察官にその場で現行犯逮捕された。
男は大阪市N区在住の自称会社員(39)で、当該住宅裏庭にある灯籠下辺りを掘り返していたようなのだが、その後の警察の調査で、その土中から大きなポリ袋に入った女性の腐乱した遺体が見つかった。
警察では現在、その遺体と男との関連を厳しく追及している。
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Presented by Nekojiro
作者ねこじろう