(端から見れば)絶景ドライヴ

中編4
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(端から見れば)絶景ドライヴ

その日は寝坊して、休みでありながら夜更けから遠出をしようとしていたが、真夜中の睡魔には勝てず、夜更けのアラームも役に立たず、日が昇った7:00近くに目覚める。

出勤する車輛の群れに飛び込んで、大型トラックにくっ付きながら、高速道路の入り口の分岐点、これが又不味かった。

カーナビの指示よりも、同じく入り口に差し掛かっていた車輛に気を取られて追随してしまった私は、目的地と正反対の方向に吸い込まれてしまう。

到着時刻が明らかに遅れているのに気付いて、インターチェンジの表記で、やっとこさ反対方向に飛び込んだと気付く。

「ぎえぇぇぇ」

例えるなら北海道に行く積もりが、沖縄行きの便に誤って搭乗してしまう様な感覚であるが、慌てて近くのインターチェンジで降りて、目的地に向かう方向に入り直す。

一応、目的地の場所である前の前に住んでいた土地に入ったのだけど、忘れ物どころか持ち歩いているボールペンの集団の中に、スタンダードな油性が無い。

何枚かの写し紙に力を入れて書くと、裏写りしてくれるボールペンを手に入れて走り出すと、書類に貼る付箋を買い忘れているのに気付く。

さて道具は揃った。

私は、新しく出来た道の駅のフードコートならば、窓側の席が在って、目的地で渡す為の書類に必要事項を書き込めるだろうと踏んで、そこを目指す。

「少し混んでるから裏から回り込めば、駐車場に入るかな」

………これが行けなかった。

クーンと滑らかな円を描く道路を行けば駐車場に行けると踏んだのだが、そのまま自動車専用道路へと吸い込まれる。

「カエシテクレー」

ハンドルを握りながら大の中年男が、半泣きで運転しているのだ。自分で走らせて置きながら、カエシテクレーは無いだろう。

運の悪い事に、新しく出来た自動車専用道路でカーナビからすれば道路の無い場所をなぞっていて、何個もトンネルが続き、燃料も減って来ている。

F市からY市に入っている。だが、或る意味道無き道を進んでいるも同然なトンネル内、「隣県に入りました」といつもなら知らせてくれるが、今回は鳴らない。時たまトンネルの境目を抜けて、絶景の紅葉スポットを高い橋から見下ろす格好になるも停められないし、何と言っても予定外の土地に入り込んだ為、「ああああ」と落ちもしないのに、高い橋から車輛ごと落っこちる空想を浮かべているのだ。

やっとこさトンネルを抜けて、程無くインターチェンジを降りる事が出来るも、先ずは引き落としを確かめながら、金銭を下ろさねばと郵便局に急ぐ。

唯一、上手く行った。

ガソリンスタンドを検索してからカーナビに打ち込もうとするが、住所が全然出て来ない。

Y市の駅前迄走らせてから、改めて近場のガソリンスタンドを検索して走らせるが、誤って目的地の一歩手前のスタンドに入ってしまい、向こうからすれば他県のラジオ番組を録音した奴を聴いていた為、店員の顔が驚いた様に見えた。考え過ぎか。

給油を終えた後に、本来の目的地だったガソリンスタンドを目にするも、入りにくい場所だったから、嫌な形で救われる。

帰りはなぞりながらF市を目指せば良い………のだが、端から見れば中年男が無表情でハンドルを握っている、何の変哲も無い光景なのだが、眠気覚ましの黒いガムを何の気無しに噛んでいるゾンビ状態の男が運転している気持ちだった。

幾番目かの目的地である、F市の新しく出来た道の駅に辿り着いて、狙い通りフードコートと窓際の席を見付けて、下敷きを持ち出すのを忘れたのを思い出してうなだれながら、ベコベコする卓子(テーブル)でクリアファイルに入れていた書類に油性ボールペンで書き込んで、付箋に簡単なメッセージを書いて、どうにか一番の目的である車屋さんに渡す紙は完成させる事が出来た。

無事に渡せたのだが、この自分が巻き起こしたこの珍事は午前中から正午過ぎ迄の出来事であり、自身に取っての或る意味での恐怖体験である。

とは言え、前の日に国道を走らせて遠出した帰り道で、大型トラックの事故現場とひしゃげた自転車の事故現場を見て縮み上がったのだが、あれは自転車で無く中型トラックとの事故だったらしく、パトカーが何台も停まっており、対向車線を救急車が二台走って行ったのだが、中型トラックの運転手は助からなかったのだと言う。

ラジオで事故の顛末を聴いて脱け殻になり掛けたのを思えば、まだまだ可愛い話かも知れない。

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