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今の俺は、都会のとある銀行で、
普通の中間管理職として務めているのだが、
中学校を卒業するまでは、
絵に描いたような田舎に住んでいた。
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田舎だから、実質的に小中一貫校みたいなもので、
高校生になった途端、殆ど全員の子供たちは都会に行ってしまう。
家族ぐるみで引っ越すことも、別に珍しくはなかった。
だから、当時の俺の故郷は、
子供と老人が半々
という光景だった。
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本題に入るが、前提として、
俺には霊感とかの類はは無い。
ただ、一度だけ、確かに怖い体験をした事はある。
小学校低学年の時だった。
幼い頃なので、うろ覚えのところも多いが…
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子供の頃は秘密基地というものが流行っていて、
春先のとある日にも、俺、A、B、C、Dの
普段から仲が良い男子5人で
小高い山に入り、お菓子やらおもちゃを持ち寄り、
あれやこれや遊んでいた。
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その秘密基地っていうもんがかなり便利だった。
学校の近くの山の中に、
使われていない小屋みたいなものがあって、
それを、ほぼそのまま基地にしていた。
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その近くの道も、
獣道(けものみち)を、人ひとりが歩けるように手を加えられたような、
子供の冒険心をくすぐる場所だった。
通称[改良版獣道]と言われてたっけ。
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何よりありがたかったのは、基地の近くにトイレがあったことだ。
無論トイレといっても、汲み取りの穴の四方を木の板で覆っただけの、
今で言う簡易トイレみたいな粗末なものだったが、
それでも、トイレ付き秘密基地なんて、
実に贅沢なものだった。
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ある休日。
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その日は山を奥まで探検して、
すっかり遅くなってしまった。
B「悪いけどちょっとトイレ行ってくる」
D「おいおい、いまさらかよ」
俺「大のほうじゃないだろうな」
B「違う。先に帰ってろ」
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で、Bがトイレに入ったのを見届けてから、
俺らは各自、改良版獣道から家に帰ろうとした。
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shake
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Bの声:ぎゃあああ!!!!
ほか一同:どうした!?
振り向くと、顔面蒼白のBがトイレから飛び出してきた。
そして、そのBの後方には、
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目をカッと見開いた女の首だけが
ゆらりと宙に浮かび、
Bと俺たちを凝視していた。
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俺ら「うわあああ!!!」
5人ともあらん限りの叫び声を上げ、
それぞれ全速力で自宅に帰った。
もちろん、帰るのが遅くなった言い訳と合わせて、
トイレの女の首のことも言った。
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その後のことは・・
申し訳ないが、そこからはあまり覚えていない。
日付が変わる前には地元の神主さんに呼ばれて、
Bは念入りに、
俺ら4人も軽くお祓いをしてもらった。
神主「うん、君らは大丈夫だろう」
俺たちは心底ホッとした。
出口が見えないほど長いトンネルから出てこれたかのように。
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そのあと、学校で聞いた事は、
例のトイレは頑丈に封鎖されたそうだ。
俺らは見ていないが別の男子がそう言っていた。
鎖を巻き付け、大きな南城鍵? までつけていたという。
秘密基地も解体されたらしい、でも、
もう二度と行く気にはなれなかった。
その男子は、「あの辺は昼でも雰囲気が怖い。
よくあんなとこで秘密基地遊びしてたな」
と断言した。
俺「ああ、
‥その時点でもう呼ばれてたのかもな、俺ら‥」
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そして、それから
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Bは中学2年の春先に突然、
急死した。
死因は不明だが自殺ではない。そう言われた。
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その後、ある長期休暇の日に、
祖父母への顔見せも兼ねて、
2泊3日の予定で故郷に帰った。
すっかり子供よりもはるかに老人が多くなった故郷で、
お年寄りになった神主さんとも再会できた。
以下は神主さんの話しだ。
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「あの後、子供たちに注意しておけば良かったな、って
大人たちが言ってたんだ。
あのトイレは曰く付きという場所でな、
もう霊は出ないだろう、とみんな思っていたんだ。
江戸時代のころの話で、自分もまた聞きなんだが、
この地域で色恋沙汰のようなもので
騒ぎになったことがあったらしい。
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若い男女だったが、互いに別のムラの者。
今よりもっと閉鎖的な時代だったから、
別れようとしなかったというだけで、二人とも打首にされたらしい。
今となっては、場所も、事情も、
詳しいことは分からない。
郷土史にも載っていないから、
実話かどうかさえも分からない。
でも、日が沈んでから、
あのトイレに女の霊が出る、
という話は昔からあってな。
祖父の代から祓い続けていて、
もう成仏しただろうと思っていたんだが。」
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神主「それと、B君は直接女を見て、数年後に急死した」
俺「ああ…そうでしたね、俺も悲しかった」
神主「今だから言えるが、B君までは助けられなかった。
霊障という類に直に当たってしまったからね」
俺「確かに、目撃者はBですね」
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神主「あの時言ったはずだよ、『君らは』大丈夫だろうと」
俺「…」
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俺は1泊2日で故郷を後にした。
霊(例)のトイレは、あれほどの曰くと年月の経過にも関わらず、
未だに取り壊されていない、という噂を聞いた。
作者三日月レイヨウ
今回は画像多めです。皆さん提供ありがとうございます(使用報告です🙂)
この話はフィクションです。
が、形が酷似したトイレは地元にありました。
今でもあるのかな。