長編10
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先生の最期(先生シリーズ)

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早いと思うけど先生の最期を書こうと思う。大学三年になったばかりの春に先生が壊れた。いや、壊れ始めたと言うべきか。挙動不審というか辺りをキョロキョロし始めたりオドオドしたり「誰かに見張られてる」と言ってガクブルしていた。ここまでオドオドしているのは初めてだ。どんな心霊スポットでも鼻で笑いながら悠々と歩く勇ましい背中は今は見る影もなかった。多分、それが始まりで最期に繋がってたんじゃないかなとその時に感じてた。

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その年の梅雨の時期に先生から呼び出しがありサークル活動を抜け先生の家に向かった。家についてドアをノックして「先生、来ました」と言って部屋に上がる。先生は本を読んでいて僕の声が聞こえると本から顔を出して「おう」と答えた。

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「呼び出しなんて久し振りですね。何かあったんですか?というか何か手に入ったとか?」

「ん?いや、大したことじゃないんだけど。俺、春さ…挙動おかしかったよな。あれね、霊感が上に上に上がってたんだよ。今まで見えなかった連中がいきなり見えたって感じ。戦時中の兵隊の霊やら甲冑着てた侍の霊やらね。まぁ、もう慣れたし俺、復活って感じ」

「は、はぁ」

「これからバンバン心霊スポットとか行くから覚悟しておけよ。胆も鍛えとけ」とニヤニヤしながら言う。良かった、いつもの先生だ。ホッと胸を撫で下ろした。今日は特に用事がなかったため先生の部屋を後にしたのだが、ドアが閉まる瞬間に先生に覆い被さるように黒い影が黒い布団のように頭を垂れるのを僕は見逃さなかったが気のせいだと思うことにした。

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次の日、先生の思い人のアイさんに声をかけられた。

「ねぇ、あの人今何してるの?」

この人の詳細は今は省くが寝てると明晰夢や正夢をよく見るそうで先生も「アイツは本物だよ。だから、惹かれる奴らも多いだろうし俺も狙ってた」と言わしめるほど。師匠シリーズに出てくるあの人に似てるが性格はまるで違う。まぁ、この人の話はまた今度。現在まで一応先生と恋仲なのだが、最近先生に対して嫌な夢を見ることが多くなったらしい。聞いたらヤバすぎて暫く飯が食えなく成る程で一瞬で食欲が無くなってしまった。

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曰く「あの人が死ぬ夢を何度も見る」と青い顔で言う。どんな死に方かと聞くと色々と言っていた。

「誰かにバラバラにされる・風呂の中に沈んでいた・落石や崩落に巻き込まれる・誰かに刺される・車に轢かれる・何かに取り込まれる・熊に襲われる・上から鉄骨が落ちてくる・首を括る・溺れる・変死する」等々

他にもあったが結局の所、先生が死ぬってことは変わらない夢らしい。僕は春に先生の様子がおかしかったとアイさんに言うと口元を手で押さえて「嫌な予感がする」と震えていた。目の挙動もどこかおかしい気がする。

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大学構内でアイさんが先生に対して心配していたと電話で先生に言ってみると「そっかそっか。俺が死ぬ夢か……成る程……ね。まぁ、笑えないね」と妙に掠れた声で言う。まるでカラオケの帰りみたいに。先生の携帯の向こうから踏み切りの音が聞こえる。

「先生、今どこにいるんですか?」

「どこって、踏み切り。死んだ少年が出たところ。お参りだよ、お参り」

そう聞こえてから電車の音が響くと同時にあの時の少年の声が微かに聞こえて電話が切れた。僕はもう一度電話を掛けられなかった。何故ならその少年が少年の声がこう聞こえたから。「この人いつ死んでもおかしくない」ってそう聞こえたからだ

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夢を見た。自分でもハッキリと夢と自覚できる夢。目の前に先生の家が見える。明かりは点いていない。先生の家の前でぼぅーとしていると背後から肩を叩かれた。振り向くもアイさんが居た。驚いているとアイさんが僕の手を引き「行こう」と言って先生の家の戸を開けて中に入る。家の中は暗く何も見えない。何も聞こえない……が、どんな心霊スポットよりおぞましく感じられた。というか、夢の中だが鳥肌が凄い。凄すぎて痒くなるぐらいだ、夢なのに。冷や汗が出てくる。呼吸が乱れる。

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僕の手を握っているアイさんの手に血からが入っている。恐らくアイさんも感じている。いや、僕以上に感じている。何となくだが確信していた。僕が「行きましょう」と言うとアイさんは頷いて一歩踏み出して中を探索する。一階、風呂場にて水が出しっぱになっており中に長さがバラバラな髪の毛が色々落ちていた。ザンバラなパラパラな短い髪・ロングでストレートな髪・癖っ毛な不通の長さの髪・白髪など色な髪が落ちてる。風呂桶に浮いてる。

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キッチンも水が出しっぱになってるが妙に鉄臭い。夢なのに。冷蔵庫は変わったところはない。換気扇には長い髪が絡まっていて動かないらしい。ガスコンロからはガスの代わりに硫化水素の匂いがしてすぐに止めた。冷凍庫を開ける。凍った頭が入っていた。僕は「ひゅっ」と情けない声をあげて後ずさる。アイさんは努めて冷静に冷凍庫を閉める。

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次は二階だ。ゆっくりと階段を上がる。上がりきると二つの部屋。まっすぐの扉は物置きと言っていたってけ。右の部屋に入る。部屋は小綺麗に整理されており小さな座り机にはノートが一冊置かれている。何の気なしにページをめくる。

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6/23

『アイツを市内で見かけた気がした。血がざわつく。恐らく本物。だが、確証はない。もし奴なら絶対逃がしはしない。送り返すのみ』

7/6

『やはりアイツが居る。何かを探しているらしい。好都合だ。俺もアイツを探している。逃げられると思うな』

7/14

『焦ってるな。恐らく俺を探しているんだろうな。俺が実家を追い出される前に持っていったアレ。見つかることは無いだろう。さて、いつにするかな』

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8/6

『アイツ、クソ女を連れてきたか。まぁ、妥当な判断でもあるな。このままだとアイツじゃなくて他の兄弟が後を継ぐことになるし入れ換えになると末代までの恥になるから。あの二人は……簡単には殺させない。苦しませて代わりに落とす』

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落とすとはどういうことだろうか。まだ何か書いてあるから読んでみる。

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8/28

『クソ女、事故ったらしいな。顔がつぶれて、手も足も変な方向に曲がって、ほぼ植物状態らしい。いい気味だ。俺を陥れたんだから当然の報いっちゃそうだな。金と権力に目が眩んだんだ。救えねぇよ。アイツは怒り狂ってたな。どうもこの事故も俺のせいにしてるらしいな。まぁ、どうでもいいが……あの女がその程度にすんだがお前は違う。お前は天国にも地獄にも行かせない。戻るべき場所に引きずり下ろして二度とこっち側に来ないように取り込ませないと。そのために持ってきた道具だからな』

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9/16

『アイツ、やつれてきたな。ふてぶてしかった面影が無くなってきた。あのサイコ野郎が弱ってきてこっちはむしろ元気になってるのは何でなんだろうか。まぁ、どうでもいいが』

11/16

『アレからなにも変化無し。ただ、電話で「見付からない。一緒に探してくれ」って言ってるらしいな。妹からメールが来てた。まぁ、無視しとけって言っておいたし大丈夫だろうな』

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『そろそろかなり弱ってきたらしいな。そろそろ仕掛けるか。アイツには元の場所に戻ってもらおう。幽世に』

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(アイツ?幽世?意味が分からない。これは何だ?何の記録だ?)ノートを見る。僕が二回生のときの年数だ。そういえば何度か心霊スポットの誘いを断ってた時期があった。それか?と考える。それとも家に居ないまたは姿を見かけない時期があった。その時かとも思ったが夢の中では中々思考がまわらない。ふとアイさんを見ると押入れを開けて中から何かの冊子を取り出していた。見ると小学校卒業の時に貰える冊子のようだ。

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ページをめくる。○○村小学校六年と書かれている先生の姿を見掛ける。今までの先生よりも瑞々しいというか陽の気に包まれているような気がする。小学校時代の先生は無表情で写真の中で此方を見ている。アイさんは冊子を閉じるとまた押入れを物色し始めた。と、家族構成に纏わる書類が色々出てきた。

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アイさんが「これ、あの人の家でも見たことがない。何で今……」と口を押さえて呆然としている。その家族構成のリストには先生の父と母・祖父母・一番上の兄の先生・次男・流行り病で亡くなったとされる三男・都会で医学部に入ってる四男・そして家の事を継いだ五男の五人兄弟のことが書かれている。

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次男……年齢23歳 出身地○○村 職業:林業

三男……衰年15歳 出身地○○村

四男……年齢21歳 出身地○○村 大学医学部三年生

五男……年齢19歳 出身地○○村 職業:神主見習い

長女……年齢18歳 出身地○○村 ○○高校

母……衰年56歳 出身地○○市

父……年齢58歳 出身地○○村 職業:神主

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となっていた。本来なら先生が神主を継ぐ筈だったのだが五男が継ぐことになっているらしく先生はその事をたまに弟子の俺に愚痴っていた。そして言っていた。「アイツは本当の弟じゃない。本当の弟は何処にもいない。アイツが身代わりにした」と。他の兄弟(妹)とは仲良かったが五男だけ反りが合わずいつも言い合いになっていたと言っていた。

そして運命の日、先生が神主を継ぐ日。その村では神主になる人間が代々紋章を書いた絵馬のようなものを渡されるのだが、こっそり忍びこんだ五男がそれを盗み替わりの蛇の絵馬を置いたらしい。その村では蛇は災いのもととされていてそれを見た先生の父親、神主とする。神主が先生に「悪いがお前に神主を継がせるのはナシだ。渡すはずの代門の絵馬が蛇に変わっている。もしかしたら、お前は忌み子なのかもしれん。気付く事が出来ん俺も悪かったから命までは取らん」と言われたらしい。

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有無言わさず金やら家具やらを持って追い出されたらしい。追い出された時にチラッと家の奥を見たときにいやらしい笑みを浮かべた五男と元彼女が居た。先生はその時、(そうか、彼女は権力に目が眩んだのか。でアイツは、替わり者だったんだな。道理でウマが合わない訳だ。まぁ、本来の継ぐ人は俺だったし、もしアイツが継いだとしても出来ることは少ないし村も終わりだ)先生は呆れながらそのまま家とは縁を切って今に至るというのを僕に語ってくれた。そして、代門の絵馬を見せてくれた。

「大紋の絵馬は2つで1つなんだ。片方が掛けるとよくない。特にその家の神主を継ぐ人間が2つ持たないといけないんだ。他の人間が持っていても効力はない。だから、俺には何の災いはない。だけど、アイツは違う。近々泣きついてくるんじゃないかな?助けてやらんけど」と言ってクスクス笑っていたのだがその目は笑っていなかった。先生のことがその時から先生の事が怖くなっていた。

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日記の続き。

1/1

『アイツ、他の兄弟に泣きついてるらしいな。けど、俺の手回しで何も助けてくれないらしい。あと、長女があるものを俺にくれたな。それを見て俺は思わずニヤついてしまった。どうやら、奴はそう長くないらしい。あの大紋を1つでも欠けると災いがくるらしいがら何の災いか聞いてなかったのだがどうやら連れていかれるらしい。幽世に。なら、俺が直々に手を下す必要はないらしいな。』

1/11

『妹から電話があった。どうやら奴は俺を身代わりにしようとしてるらしい。あの時の"弟"のように。だが、俺はもしこの日が来るときのために霊力を上げてきた。だから、俺は身代わりにならない。他の兄弟もだ。身代わりにする条件はまずは"同じ性別であること"。妹は女のため除外となる。次に"対をなすこと"。男兄弟の対とは女ではなく長男と末っ子になる。だから、俺を身代わりにする必要がある。親父からも電話が来ているが縁を切っているため着信拒否にしてある。その日まで俺は待つだけだ』

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1/19

『その日まであと数日。妹からの情報から奴はやつれてきて目がギョロついてまるで人間じゃなくなって来ているらしい。だんだん性格も歪に歪んできて誰でもいいから身代わりにしようとしているらしい。あの野郎、自暴自棄になってるらしいな。なら、妹が危険だ。仕方がない。妹のためだ。彼処に行こう』

ここで日記は終わっている。"彼処に行こう"?彼処とはどこだろうか。アイさんに聞いてみる。

「アイさん、彼処って心当たりありますか?」

「分からない……分からない……」と頭を降る。と、ギシッと一階から音がした。アイさんと振り返り一階に降りると先生が居た。いや、先生以外にも居る。天井に張り付いてる。まるで天井が地面と見なしているように逆さで立っていた。先生の目は虚ろで焦点が定まっておらず、ただこちらを真っ直ぐ見据えていた。

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「先生!!」

「△△(先生の名前)」

「…………。」ボソボソと何かを呟いてる。俺はゆっくり近付いて耳を傾ける。こう聞こえた。

「アイ……すまなかった。………勝手に……置いていく俺を……許してくれ。………………××(妹の名前)、すまない。俺はお前を助けるために……命……地蔵に捧げて…すまない……すまない。」疲れたような小さな声で呟いていた。そして、俺の方を見て「すまなかった。こちらの世界に招いてしまって……だが、お前が居てくれて◻️◻️(僕の姉弟子)もアイもよかったと思う。ありがとな」と憔悴した顔で優しく微笑むと光に包まれてそして目が覚めた。

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僕はすぐにアイさんに電話をした。アイさんも同じ夢を見たようで同様していた。姉弟子をAとする。Aさんにも電話をした。Aさんは「……何も出来なかった」と呟くと電話が切れた。

翌日、県内のはずれの町に奇妙な死体が発見された。恐怖にひきつった苦悶の顔に骨は捻れ、血は抜かれて、肌は灰色に欠陥はどす黒かったらしい。おそらく、その五男なのだろう。そして、その日以降先生を見なくなった。行方不明扱いにされ、家具なども処分され、遺品は妹さんが引き継いだらしい。あれから数年、俺は実はアイさんと付き合ってる。お互い色々あったが。あと、僕にも教え子が出来た。先生の妹だ。僕の事を「先生、先生」と読んでくれるがあの人と比べ僕は足元にも及ばない。だけど、ふと思い出す。あの時薄く優しく笑った先生の顔を。僕は忘れないだろう。絶対に

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