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長編14
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深夜の押ボタン式信号

その女性の存在に気がついたのは半月ほど前だったと思う。

会社から車を運転して帰宅する途中、住宅街に面した公園前の通りにある押ボタン式の信号の近くに立っていた。

この信号は駅から公園を通って住宅地に向かう途中にあり、ちらほらと人通りはあるのだが、夜遅い時間帯になると、車道の交通量が少なく、かつ見通しも良い為に、ここを横断する人はボタンを押さずに車が来ていないことを確認してさっさと渡ってしまう。

信号が変わるのを待っているだけ時間が勿体ないのだ。

従って車を運転する俺も残業して夜遅く帰宅するときは、この信号に引っかかることは殆どない。

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この信号に設置されている街灯から少し離れた公園寄りの歩道に立つその女性は、セミロングで濃いグレーのスーツを着ていた。

膝上丈のタイトスカートから覗く足も黒いストッキングを履き、靴も黒いパンプスの為、薄暗いその位置ではしっかり視線を向けないと見逃してしまうに違いない。

これまでもそこに立っていたのかもしれないが、その女性の存在に気づいたのが半月ほど前だったのだ。

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◇◇◇◇

その日から会社からの帰りには、その女性に注意を向けるようになった。

仕事の都合で、帰宅する時間にはかなりばらつきがあるのだが、夜十時を過ぎて帰る時には何時であろうが確実にそこに立っている。

最初の数回は、(あ、今日もいる。)という程度だったのだが、それが十時以降は日付が変わるような時間になっても常にそこに立っているとなるとさすがに異常だと感じ始めていた。

信号の手前で不自然ではない程度にやや速度を落として顔を確認しようとするのだが、俯き加減のため前に垂れた髪の毛に隠れてよく見えない。

さすがに気味が悪くなり通勤ルートを変えようかと思ったのだが、それから一週間ほどは仕事にトラブルもなく帰宅が十時を過ぎることもなかったため、その女性を目にすることなくその道を使っていた。

そしてそんなこともほぼ忘れかけていたのだが、昨日は久しぶりに取引先とのトラブルで帰りが遅くなり、会社を出たのが夜の十一時を過ぎていた。

取引先とのトラブルで気分を害していたこともあり、その女性のことなど思い出すこともなく車に乗り込むといつものルートで自宅に向かった。

そしてあの信号の近くまで来てやっとそのことを思い出し、百メートルほど先の信号の辺りに目を向けたが、あの暗い色の服装ではかなり近くまで寄らないとわからないのが常だ。

そして信号まであと数十メートルというところまで近づいた。

いた。

しかしこれまでとは異なり、女性はいつもより数歩車道寄りに立っていた。

街灯に近いため、いつもよりその姿がはっきりと確認できた。

彼女は顔をあげてじっとこちらを見つめていた。

車が女性の脇を通過する一瞬、その女性と目が合った。

パッと見たところではかなりの美人だが、彼女は全くの無表情でまるで睨むかのようにじっとこちらを見つめていた。

しかし彼女の前で強引に停車する理由があるわけではなく、そのまま通り過ぎた。

そしてルームミラーでもう一度その姿を確認しようとしたのだが、その姿を確認することはできなかった。

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◇◇◇◇

そして今日、会社の事務所を出ようと席を立った時刻は夜十一時を少し過ぎたところだった。

帰り支度を済ませたところであの公園前の信号を通るかどうかで悩んだ。

あの通りを避けて帰るとなると、それなりに遠回りになってしまう。

心のどこかであの女性は尋常な存在ではなく関わりにならないほうが良いという強い気持ちがあるのだが、その一方であの美人はそんな存在ではない、もう一度見てみたいという単純なスケベ心がそれを抑え込もうとしている。

結局、車に乗り込みエンジンをスタートさせたところでスケベ心が勝った。

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まもなくあの信号のある通りに出る。

とりあえずスケベ心が勝ったとはいえ、完全に不安を捩じ伏せたわけではなく、まだ間に合う、引き返せという心の中のささやきは続いていた。

それなのに心のどこかで、今日は必ずその道を通らなければいけないような気もしていた。

通りを曲がり、間もなくあの信号だ。

遠くから徐々に信号の青い光が近づいてくる。

歩道に目をやるが、女性の姿は見えない。

間もなく信号というところまで来ても歩道には猫の子一匹いない。

(ちぇっ)

心の中で舌打ちするのと同時に、これまで必ずいた女性が今日は何故いないのかという疑問も湧いていた。

すると目の前の信号が青から黄色に変わった。

女性を気にしていた為に速度はそれほど出ておらず、反射的に足がブレーキペダルに移り、赤信号に変わるのと同時に停車した。

(??)

この信号は押ボタン式だ。しかし誰も渡ってくる様子はない。

そして反対側車線の歩道を見たが、そちらにも誰もいない。

きっと誰かがボタンを押してから、車がいない為に信号が変わるのを待たずにさっさと渡って行ってしまったのだろう。

周りには誰もいないし、このまま信号を無視していってしまおうかと思ったその時だった。

コンコン

助手席の窓ガラスを誰かがノックした。

一瞬ビクッとして助手席の窓を見ると、あのダークグレーのスーツの女性が窓ガラス越しにこちらを覗き込んでいる。

俺の車はオフロードタイプで車高が高く、女性の肩から上しか見えないのだが、話に聞く幽霊のように、血だらけとか、青白い顔をしてとか、髪の毛を振り乱して、などということは一切なく、どちらかと言うと無表情でこちらを見ている。

助手席のパワーウインドを下げるとドア越しに女性が話しかけてきた。

「あの、すみません。もしよろしければ、あけぼの町まで乗せてもらえませんか?」

あけぼの町はここから十五分位で俺の帰り道だ。

「構いませんよ。どうぞ。」

そう声を掛けると女性はドアを開けて助手席に乗り込んできた。

軽く柑橘系の香水の匂いが漂う。特に酒を飲んでいる様子はない。

彼女がカチリとシートベルトを締めた瞬間、まるでそれが合図であったかのように信号が赤から青に変わった。

車をスタートさせたが、何の話をしてよいのか全く分からない。

女性も特に話しかけてくる様子もなく無言のドライブが続く。

「あの公園の信号のところでいつもお見掛けしますよね?職場が近くなんですか?」

沈黙に耐えかね、じっと前を向いたままの女性に話しかけた。

しかし、女性はこちらを向いて苦笑いとも自嘲とも取れる不思議な笑みを浮かべるだけで答えは返ってこなかった。

その表情がどのような意味なのか分からなかったが、彼女はこの笑みで返事をしたつもりだったのだろう、諦めて別な質問に切り替えた。

「あけぼの町のどの辺りにお送りすればよいですか?」

彼女の表情から笑みが消え、元の無表情に戻った。

「建願寺というお寺はご存じですか?」

「ええ」

「その山門前までお願いします。わがままを言うようで済みませんが日付が変わる前に着けると嬉しいのですが。」

見たところ二十歳過ぎの若い娘だ。きっと門限があるのだろう。

時計を見ると十一時四十分。このまま行けば特に急がなくとも充分間に合う。

「そうですか、助かります。よろしくお願いします。」

彼女はそう言うと再び視線を前方に戻した。

しかし建願寺の山門?

こんな日付の変わろうとする時間にお寺はあまり気持ちの良い場所ではない。

きっと山門近くに自宅があり、単に目印として俺に告げただけなのだろう。

もしくは見知らぬ男性に自宅の場所を知られたくないのかもしれない。

しかし、ひょっとしたらこの女性は・・・という不安な気持ちが、今度はスケベ心を押し潰そうとしていた。

彼女が幽霊でないことを確かめたい。

スケベ心ではなく、肩でも腕でも彼女に触ってそこに実体があることを確認したい。

そんな欲求が沸き上がってくる。

しかしいきなりそんなことをして、彼女が幽霊でなかったら単なる痴漢行為と思われても仕方がない。

そんな葛藤にさいなまれているうちに、車は建願寺の山門の前に到着した。

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*************

山門前には街灯がひとつ灯っているものの、周りを見回してもそれらしい民家の灯りは見えない。

彼女の自宅はここから少し離れているのだろうか。

深夜であり、できるだけ静かに山門前のスペースに車を停車させ、もう一度周りを見回したがやはり街灯の光が届かない周辺は真っ暗だ。

もし彼女が幽霊ではないとすれば、こんな場所に若い女性をひとり置いて行ってはいけないのではないかと思った。

「着きましたよ。でもお家までここから距離があるなら家の前まで送って行きますけど?」

そう言うと彼女はここで大丈夫ですと言ってドアを開けるとさっさと車を降りてしまった。

やはり信用されていないのだな、当たり前か、と少し寂しい気分で車を降りる彼女を見ていると、助手席のドアを閉めた彼女は車の前方から運転席に周り、俺が窓ガラスを下げるのを待って右手を差し込んできた。

「どうもありがとうございました。何もないのですがこれはささやかなお礼です。車の中に置いてお守りにしてください。」

差し込まれた彼女の手には、ビーズで作られた小さなペンギンのストラップが握られていた。

ストラップを受け取る時に少しだけ彼女の手に触れたが、その手は柔らかく暖かだった。

握られていたストラップにもほんの少し温かみを感じる。

「それじゃ、おやすみなさい。」

そう言って彼女は車から少し離れて立ち、俺を見送るようにこちらを見た。

俺はギアをドライブに入れ、ちらっと手の中のペンギンに目をやって彼女にお礼を言わなければと視線を上げた。

しかし彼女の姿は視界の中に存在していなかった。

周りを見回したが、どこにもいない。

慌てて車から降り、もう一度周囲を見回したがやはり彼女の姿は影も形もなく、虫のなく声と自分の車のエンジン音以外には足音など全く聞こえない。

やはり彼女は・・・

しかし手の中にペンギンのストラップは間違いなく存在しており、車に戻るとまだうっすらと柑橘系の香りが残っていた。

間違いなく彼女はここにいたのだ。

いったい彼女は何者なのだろうか。

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◇◇◇◇

翌日は土曜日で会社が休みということもあり、目が覚めると車に乗り込んであの公園の信号へと向かった。

彼女は夜な夜なあの場所に立っていた。

きっとあそこに何かあるに違いない。

近くのコインパーキングに車を停め、歩いてあの場所まで行ってみた。

歩道に立つと車道側から見るのと風景が違って見える。

車道から少し離れたところにいつも彼女は立っていた。

「この辺りだよな…」

特に変わったところはなく、そこに立ってみても何も感じない。

ごく普通の歩道だ。

そしてふっと車道側に目をやった時、あるものに気がついた。

歩行者用の押ボタンが設置されている支柱の根元に小さな花束がふたつ置いてある。

支柱の歩道側に置いてあり、なおかつガードレールの陰になるため、車道からは気付かなかった。

あの女性に手向けられたものなのだろうか。

花束はふたつともまだ新しく、それほど日は経っていないように見える。

しかしあの女性を見かけるようになってからもう一か月以上になるのだ。

あの女性とは関係のない事故に対するものなのだろうか。

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************

「あの・・・」

置かれている花束を見つめて、あの女性のことをぼんやり考えているとふいに後ろから声を掛けられた。

振り返ると花束を手に持った女性が立っていた。

どことなく昨夜の女性に似ている気がしたが、ショートカットで明るい色のジャケット姿だ。

「由美子のお知り合いの方ですか?」

「いえ、そういうわけではないのですが・・・」

その女性の問いにどう説明して良いのか分からなかったが、何も言わないのも変に思われるし、俺はここに立っているあの女性の正体が知りたかった。

もしこの人が全く関係がなければそれでもいいと、声を掛けてきたその女性に、深夜ここでダークグレーのスーツを着た女性を見かけるとだけ説明した。

するとその女性は驚いたような表情で、俺が見た女性の特徴を聞いてきた。

「それは妹の由美子だと思います。」

彼女の話によると、その由美子という女性は一か月半ほど前、仕事帰りの深夜にこの横断歩道で車に轢かれて死亡したのだと言った。

ひき逃げ事故であり、犯人はまだ捕まっていないと言う。

もう少し話を聞きたいという彼女が、路肩に花束を供えるのを待ち、一緒に脇にある公園に入ってベンチに腰かけた。

俺は、あの女性の姉だと言う美紀子に、最初にあの信号の傍で彼女を見かけたところから昨夜の出来事まで話した。

「やはり、由美子に間違いありません。そのペンギンのストラップも事故にあう前に彼女が作ったものです。」

美紀子はそう言って、ペンギンのストラップを手に取ると、それを握りしめて涙を溢した。

「昨日が由美子の四十九日でした。日付が変わる前に建願寺まで送って頂けて、きっと無事に虹の橋を渡ったのだと思います。本当にありがとうございました。」

美紀子は俺の手を取り、両手で痛いくらいに握りしめると涙と共に礼を述べた。

彼女は昨日の法要にどうしても都合がつかず、今日は墓参りに行く前に何故か事故のあったこの場所へ来ようと思い立ち、朝一番でここへ来たのだが、間違いなく由美子が俺と引き合わせてくれたのだと美紀子は言った。

実際のところ俺は、ほぼスケベ心で動かされただけなのだが、これほど感謝の気持ちを受けるとは思っても見なかった。

「美紀子さん、これも何かの縁ですから、もし差し支えなければ一緒に由美子さんのお墓参りをさせて頂けませんか?」

「もちろんです。由美子も喜びます。」

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美紀子を車に乗せ、途中で花束を買い求めると建願寺へ行った。

昨日、四十九日の法要と納骨を済ませたばかりのお墓は山のように真新しい花束が供えられている。

由美子は昨夜虹の橋を渡ってしまったのだから、彼女の魂はもうこちらの世界にはいないはずだ。

俺は静かに手を合わせると、ビーズのペンギンを墓石の前に置き、美紀子に一礼してお墓を後にした。

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あのお墓参りの翌日の朝、お墓に置いてきたはずのビーズのペンギンが車の助手席のシートに置いてあった。

考えてみればお守りにしてくれと渡されたものを彼女のお墓に置いてくるということは、突き返したということになってしまう。

虹の橋を渡る直前にくれた彼女の感謝の印であり、今は交通安全のお守りとして常に車のコンソールに入っている。

しかし、なぜ俺だったのだろう。たまたま通りすがっただけなのか。

そして虹の橋を渡ってしまったはずである彼女の代わりにビーズのペンギンをお墓から助手席に戻したのは誰だったのだろうか。

何より、轢き逃げされてあの場所に立っていた彼女が、何故四十九日で静かに虹の橋を渡ったのだろうか。

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◇◇◇◇

結論から言うと由美子は成仏していなかった。

あのビーズのペンギンは俺に取り憑いたことの証しだったようだ。

あれから数週間が過ぎた頃だった。

会社からの帰りにまたあの信号を通ったのだが、もう由美子の姿を目で追うこともなくなっていた。

その日は、深夜の帰宅にも関わらず、あの押ボタン式の信号に引っ掛かった。

この時間帯でこの信号に引っ掛かるのはあの夜以来だ。

目の前で信号が黄色から赤に変わるのを見た瞬間、あの夜の出来事が脳裏に蘇った。

そして停止線で止まったところで助手席側の窓を見ると、グレーのスーツを身に纏った女性が立っているではないか。

俯いており髪の毛で顔が隠れているが、由美子に間違いないだろう。

そして前回とは異なり、何の躊躇いもなく助手席のドアを開けて車に乗り込んできた。

しかし恐怖感はなかった。

何も言わず助手席に座った由美子の霊は俯いたまま顔を上げない。

「由美子さん、だよね?」

「そうよ。」

彼女はそう返事をすると、ゆっくりと顔を上げてこちらを向いた。

「ひっ!」

彼女の顔は歪み、血に塗れていた。

先日見た時とまったく異なる姿に俺は言葉を失った。

しかし、これが命を落とした時の彼女の姿なのだろう。

「あなたが・・・あなたがやったのよ。」

由美子の霊はそう言って、悲しそうな眼差しで俺の事を見つめた。

そして俺の頬を挟む様に両手を俺の顔に当てた。

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そう、彼女を轢き殺したのは俺だったのだ。

由美子が添えた両手から彼女の意識が送り込まれてくる。

俺の脳裏にその時の彼女の様子が浮かんだ。

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***********

押ボタン式信号が赤に変わり、歩行者用の信号が青に変わった。

由美子は車が近づいてきているのに気付いていたが、当然止まるだろうと横断歩道を渡り始めたのだ。

しかしその車は止まらなかった。

脇見運転なのか、飲酒だったのかは分からない。

車が減速しないことに気づいた由美子は咄嗟に避けようと体を反転させ、直接の衝突はかろうじて避けられた。

しかしヒールの高い靴を履いていたためバランスを崩し、倒れそうになったところでドアミラーが由美子の頭を直撃したのだ。

車はそのまま走り去ったが、脳震盪を起こした由美子はそのまま道路に倒れ込んでしまった。

そして信号が青に変わった。

そこへ通りかかった次の車が倒れている由美子の頭部を踏み越えて行ったのだ。

その車が俺だった。

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ぼんやりと憶えている。

その時俺はいつものように仕事の疲れからぼんやり運転していた。

そしてあの信号のところでガコンと大きな塊を踏みつけたような衝撃を感じた。

しかし、俺の車は車高が高い為に、車体に何か当たったような音もなく、石かコンクリートブロックでも踏んだかと思っただけでそのまま走り去ってしまい、それっきり忘れていた。

あれが由美子だったのだ。

あの時、仕事で疲れていたとはいえ、しっかり前を見ていれば・・・

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*************

一晩悩んだ末に翌日、俺は警察に出頭した。

そして改めての現場検証や、車両の調査などが行われた。

結果は不起訴処分だった。

車体に損壊は全くなく、事故から三か月経ったタイヤからは微量の血痕が採取されたものの、それが彼女に致命傷を与えた結果なのか、あの夜に現場で事故後の血溜りを踏んだだけのものなのか、という検証が出来なかったということだった。

しかし俺自身は、自分が彼女の命を奪ったと確信している。

あの時のタイヤからの衝撃だけではなく、由美子の霊が俺の車から離れないのが何よりの証拠だ。

あの恐ろしい顔を見せたあの夜以降、夜十時を過ぎて車に乗る時は、必ず助手席に座っている。

これまでは、俺自身に事故の認識も、罪の意識もなかったため、取り憑くことが出来なかったのかもしれない。

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そして不起訴になったからと言って俺の罪が消えるわけではない。

償いになるのかどうかわからないが、月命日、盆、彼岸と彼女の墓参りを欠かさない。

他に何ができるのか思いつかない。

ただ夜、車の中に現れる由美子の霊は、あの血塗られた顔ではなく、最初に会った時のような綺麗な表情でそんな俺を見てくれているのがせめてもの救いだ。

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俺はこの墓参りを止めるわけにはいかない。

いつかこの手で、ここにいる彼女の手を引いて虹の橋の向こう側へ渡る日まで。

俺はその日をただひたすら待ち続けるだけなのだ。

◇◇◇◇ FIN

Concrete
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