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中編5
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手術

ついに俺の手術の時間となった

手術室に入ると看護師が俺に形式ばった質問をする

「御名前をフルネームでお願いします」

「谷垣 佐一です」

「なんの手術か分かりますか?」

「お腹を切り開いて・・ええと・・悪いところを取る・・ですか」

「はい(笑) ありがとうございます 谷垣さん 本日の体調は如何ですか?」

「大丈夫です」

「最後に食事を摂ったのはいつですか?」

「昨日の夕飯です」

「その後に固形物や牛乳を摂りましたか?」

「いえ」

「金属類はいま身につけてますか?」

「いえ あ、いや股間にふたつ」

「アレルギーはありますか?」

「いえ・・・」

「はい ありがとうございます」

続いて麻酔科医が俺に簡単な麻酔の説明をする

「谷垣さん これから全身麻酔をしますが 一点注意して欲しいことがあります 麻酔が解けて目を覚ましたとき 谷垣さんの口の中に呼吸のための管が入っております 苦しいですがじっとしていてください 御自分で呼吸ができていることを確認したら管をすぐに抜きますので・・」

「はい・・」

ひと通り説明を受けると、すぐに麻酔器から白い液がチューブを通して俺の血管に入り込んでくる

そして俺は瞬間的に気が遠くなった。

・・・夢をみた

夢であってほしい

俺を手術している医者達の会話が聞こえてくるのだ。

「月島先生、大学病院近くの〇〇ってうどん屋知ってる?あそこ凄く量が多くてね。先生若いし行ってみたら?」

それは主治医の尾形先生の声だった。

「へえ、良いっすね!今週末に大学の講座に顔出す予定あるので行ってみます!」

「特にねー、アナゴ天うどんが凄いのよ。圧倒されるよ。」

「尾形先生、教えてくれてありがとうございます!」

「(笑)君は素直でいいねー。あとね、この病院の前の通りを東の方へ5分ほど車で進んだところにね。△△って寿司屋があって・・」

「ああ!△△っすね!あそこのネギトロ旨いですよねー!」

「お。行ったことあるんだ?良い店だよねー。」

「ええ!先々週の土曜日に鶴見先生と一緒に行きまして・・」

「そう・・鶴見先生と・・・」

「あっ・・すみません・・あの・・鶴見先生はまだ見つからないんですか?」

「そうだねぇ。事務局から実家にも電話してもらったんだけど、帰ってないそうだよ・・」

「仕事帰り中に消息を絶ったんですよね・・いったい、どこ行っちゃったんですかね・・」

「心配だね・・」

「はい・・」

・・こいつら、俺の手術中になんの話をしてやがるんだ・・

そのとき手術室に放送がかかる

『6室にて患者急変 手の空いている医師看護師はフォロー願います』

「急変患者か。あとは閉創だけだし、月島くんフォロー行って来なよ。」

「はい!!わかりました。」

「ああ、ナースさん達もいまはこっちは安定しているから、数分なら私だけで大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。では行ってきます。」

バタバタと音がする。

手術室は静かになった。

俺の身体に針が差し込まれ、縫合糸が結紮され、そしてハサミでシャキンッと糸が切断される音がハッキリ聞こえるようになった。

「ああ、今週のオペもこれで最後かぁ」

尾形先生の独り言が聞こえてくる。

「それにしても・・鶴見先生はどこに行ったんですかってねぇ・・・」

・・・・

「・・・俺が殺したんだよ・・・バカがよう・・・」

俺の意識は遠くなっていった。

そして間を置かずに、強い光と激しい喉の異物感におそわれた。

「ガハッ!ガハッ!」

「はーい、谷垣さん。いま喉のチューブを取りますからジッとしていてください。」

喉からゴリュゴリュとチューブが抜かれ、俺はひとまず落ち着くことができた。

「手術は無事に終了しましたよ。」

麻酔科医の先生だった。

「ありがとうございました・・」

「いま吐き気などはありますか?」

「いえ・・少し眠いですが・・・あの・・・」

あれは夢だったのだろうか

「はい なんでしょうか」

「いえ・・大丈夫です・・」

夢に決まっている 

・・1週間後に俺は退院した。

そしてさらに半年後のこと

身体の調子はまあまあ良い。

しかしながら、職場では悪い事が多発している。隣のデスクの者は階段から転落して重症を負った。

俺には今のところ、何も問題は起きていないが・・・

そんなある日、家の居間でテレビをつけたら、俺が以前に入院した病院が映っている。

なんだ?医療事故でもあったのか?

画面が変わり、ドキリとした。

主治医であった尾形先生の画像が大きく映し出されていた。

尾形先生の名前の下には「殺人に関与の疑い」とあった。

テレビの音量を上げる。

「尾形容疑者は、今年の2月14日から行方が分からなくなっている鶴見由竹さんの失踪に深く関わっているとして、現在、□□警察署で詳しく取り調べを・・・」

なんだ?・・・あれは夢ではなかったのか?

でも俺は麻酔で寝ていたわけだし・・・

ブーッ、ブーッ、ブーッ

マナーモードにしている携帯に電話がかかってきたようだ。

発信主は知らない番号だ。

「はい、谷垣です」

「もしもし、わたし□□警察署の刑事で、門倉と申します。」

「え!?刑事?刑事さんがなんで私に?」

「谷垣さん、〇〇病院の尾形力松という人物の、鶴見由竹さん殺害疑惑のニュースはもうご存知ですか?」

「はい・・いま丁度、テレビで観ているところです。」

「それは話が早い。 

いえね、たった今、容疑者の尾形氏が、鶴見由竹さんを殺害したと自供しまして・・」

「はい・・」

「ですがね、鶴見さんの遺体のほとんどは焼却してしまって、もうこの世に無いそうなんです・・・」

「はぁ」

「でね、谷垣さん、半年ほど前に尾形氏が主治医で、お腹の手術を受けましたね?」

「はい」

「気を強く持って聞いてくださいよ」

「はい・・・」

「尾形氏が自供するところではね、

谷垣さんの手術でお腹の創を縫っているときに・・・

焼け残って扱いに困った

鶴見さんの『奥歯』を

谷垣さんの身体に埋め込んで創を閉じたそうなんですよ・・」

「え・・・」

「あー、でもですね、尾形氏によると『奥歯』は滅菌済だから大丈夫だそうですよ!!」

・・・頭に、職場で続く不幸が思い起こされる。

「刑事さん・・」

「はい!!」

「その、滅菌したって供述嘘ですよ」

「え、わかるんですか!?」

「私、その奥歯が身体にあるせいで、『呪物』にされてません?」

「ああ・・そうなっちゃうんすね!そりゃ『奥歯』がはいっているんすもんね!」

刑事さんは察してくれたようだ。ただ何か妙だ

・・テレビのニュースがなにやら騒がしい。

テレビに振り向いてみると、テロップにこうあった。

「速報 尾形容疑者、□□警察署内で自死」

・・・

「門倉刑事さんでしたっけ?尾形氏の様子はどんなもんですか?」

「ええ、なんか不貞腐れているような感じですね!今も電話しているわたしを睨みつけていますよ!!」

「・・・あんた、誰だよ・・・」

はい!わたし月島洋平と申します!!

その素直そうな声は、俺のすぐ隣から聴こえてきて・・・

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