短編2
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表と裏【烏シリーズ】

 雨が降っている。

 そういえば先日、梅雨入りが発表されたと気象予報士が言っていた。

 雨、雨……

 雨が降ると、いつものように思い出すことがある。

 雨の日に出会った雨宮という男の事だ。

 今は県内の大学に通っているらしいが、元気にしているのだろうか?

「またいつかゆっくり話そう」

 雨宮と最後に会った日、彼は俺にそう言った。

 日曜日の昼間、電話をかけたら出るだろうか?

 

 ……少し考えてみたが、やめることにした。

 電話はまた今度にしよう。

 

 ふと、俺は朝から何も食べていない事に気付く。

 コンビニにでも行こう。

 俺は傘をさして外に出ると、徒歩5分程度の場所にあるコンビニまで歩いて行った。

 適当なお茶と弁当、そしてパンを幾つか買い、会計を済ませて外に出る。

 雨は相変わらず降っていた。

 家に向けて戻ろうとした際、不意にコンビニの横を流れる三面コンクリートの川に目がいった。

 俺が気になったのは川ではない。

 人一人が通れる程度の幅がある護岸の上に、ポツンと立った古い立ち入り禁止の看板だ。

 こんなもの、以前からあっただろうか?

 そう思い暫く見ていると、唐突にいつもの感覚が襲ってきた。

 これは“カラス”である俺にしか感じ取れない、怪異の存在を知らせるもの。

 普段ならば怪異へと近づくに連れて強くなっていくものだが、今回は突然だった。

 出所を探ると、案の定目の前にある立ち入り禁止の看板からである。

 よく見れば、看板の裏側は雨が降っていないようだ。

 初めは上に屋根でもついているのかと思ったが、そんなはず無ければ実際に屋根など見当たらない。

 看板の裏側から約数十センチ程の空間だけが、まるで違う世界かのように雨が止んでいる。

 看板の表と裏、境目は確かにそこだった。

 その空間は数分間現れた後、一瞬にして消えていた。

 もう周囲に怪異の存在は無い。

 この現象、何となくわかった気がする。

 いわゆる、『土地の記憶』というものだろう。

 土地はそれぞれ過去の記憶を持っており、ふとした瞬間にその記憶を現在に映し出すことがある。らしい。

 奴とそんな現象を最初に見たのは、高校一年の夏の事だった。

 あの海で『ケートスの怨念』という海獣を見てから、数日後に体験したものだ。

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