雨が降っている。
そういえば先日、梅雨入りが発表されたと気象予報士が言っていた。
雨、雨……
雨が降ると、いつものように思い出すことがある。
雨の日に出会った雨宮という男の事だ。
今は県内の大学に通っているらしいが、元気にしているのだろうか?
「またいつかゆっくり話そう」
雨宮と最後に会った日、彼は俺にそう言った。
日曜日の昼間、電話をかけたら出るだろうか?
……少し考えてみたが、やめることにした。
電話はまた今度にしよう。
ふと、俺は朝から何も食べていない事に気付く。
コンビニにでも行こう。
俺は傘をさして外に出ると、徒歩5分程度の場所にあるコンビニまで歩いて行った。
適当なお茶と弁当、そしてパンを幾つか買い、会計を済ませて外に出る。
雨は相変わらず降っていた。
家に向けて戻ろうとした際、不意にコンビニの横を流れる三面コンクリートの川に目がいった。
俺が気になったのは川ではない。
人一人が通れる程度の幅がある護岸の上に、ポツンと立った古い立ち入り禁止の看板だ。
こんなもの、以前からあっただろうか?
そう思い暫く見ていると、唐突にいつもの感覚が襲ってきた。
これは“カラス”である俺にしか感じ取れない、怪異の存在を知らせるもの。
普段ならば怪異へと近づくに連れて強くなっていくものだが、今回は突然だった。
出所を探ると、案の定目の前にある立ち入り禁止の看板からである。
よく見れば、看板の裏側は雨が降っていないようだ。
初めは上に屋根でもついているのかと思ったが、そんなはず無ければ実際に屋根など見当たらない。
看板の裏側から約数十センチ程の空間だけが、まるで違う世界かのように雨が止んでいる。
看板の表と裏、境目は確かにそこだった。
その空間は数分間現れた後、一瞬にして消えていた。
もう周囲に怪異の存在は無い。
この現象、何となくわかった気がする。
いわゆる、『土地の記憶』というものだろう。
土地はそれぞれ過去の記憶を持っており、ふとした瞬間にその記憶を現在に映し出すことがある。らしい。
奴とそんな現象を最初に見たのは、高校一年の夏の事だった。
あの海で『ケートスの怨念』という海獣を見てから、数日後に体験したものだ。
作者mahiru
連投失礼します。
超絶久しぶりの烏シリーズです!
これからまた余裕があるときにちょくちょく書いていきますので、何卒よろしくお願いします。