S君とF子が久しぶりに家に来た
「アニキ・・・ただいま・・・」
元気のないF子の声だ
「F子お姉ちゃん、お久!!」と3人娘たちが迎えた
「おひさしぶり!!!楓ちゃん、葵ちゃん、カナちゃん!元気にしてた?」
「うん!!!」
「してたんだぞ」
「カナも・・・」
「ただいま・・・」
S君の声・・・元気がない
1か月ぶりに帰ってきた
いろいろと忙しかったそうだ
「元気がないね・・・大丈夫か?、S君」
「ああぁ・・・忙しかった・・・疲れたよ」
「そっか・・・ゆっくり休んでよ」
「そうするよ」
「Sアニキ!大丈夫か?娘たちの部屋で寝るんだぞ」とS子が声をかけてきた
「そうするよ」
「あらら・・・相当疲れてるみたいだわね」と台所からおふくろが顔を出した
「Sちゃん・・・一休みしておいで・・・夕食時に声をかけるからね」
「おふくろさん・・・ありがとっす・・・」と答えて2階へ行った
夕食の準備でリビングと台所は大忙しとなった
久しぶりの大家族となった
まぁ・・・大家族は大家族だけど・・・
おふくろが楓にS君を起こしに行くように話しかけた
全員がそろっての夕食は1か月ぶりだ
といつつ・・・オヤジが帰ってきていない
「俺様が帰ってきてやったぞ」とオヤジのでかい声
3人娘たちが走ってオヤジを迎えに行った
「相変わらずだな、おやっさんは・・・」
「だろ・・・」
「パパ!!!お久しぶり!!」
「おお!!!F子ちゃん、帰ってきたか!お!Sちゃんもいるな」
一気に賑やかになった
S君とS子の冗談交じりの掛け合い漫才みたいな感じで楽しかった
この2人がいないとなかなか楽しい食事はできない
カナちゃんママも大笑いをしていた
この区域には我が家1軒しかないので大声を出しても近所迷惑にはならない
夕食の時間はあっという間に過ぎた
珍しくオヤジがTVを見ていた
「オヤジ・・・珍しいな・・・」
「おうよ・・・特番でな・・・怪奇特集をやるんだよ・・・2時間あるからよ・・・
まぁ・・またいつもの・・・感じだとは思うけどよ・・・飽きたらラジオを聴くさ」
もちろん3人娘たちもTVを見ていた
女子たちは後片付けをしていた
私とS君は椅子に座りながらTVを見ていた
まぁ・・そろそろかな・・・飽きるころだろ・・・
え・・・おいおい・・・飽きずに見てるよ
「オヤジ・・・もう飽きただろ?」
「いや・・・今回のはよ・・・ちょっとな・・・違うぞ・・・
この霊能者・・・本物かもしれん・・・」
「え・・・本当か?オヤジ」
「ああぁ・・・ほかの連中はよ・・・大袈裟に話すけどな・・・こいつは・・・くそ坊主とおなじようなタイプだな・・・落ち着いているんだよ・・・」
「そうなんだ・・・」
「パパ・・・じいちゃの言う通り・・・この人・・・すごいよ・・・私とほぼ同じで感じてる・・・霊がいる場所が私と同じ・・・」
「楓も・・・そうなんだ」
「うん・・・合ってる・・・すごい・・・パパ・・・本物だよ・・・」
飽きずに最後まで見てた
こっちのほうが私としては驚きだよ
「せがれよ・・今日の番組はすごかったぞ・・・ありゃ本物だぜ・・・くそ坊主と同じだな・・・一度会ってみたいぜ」
「私も・・・会ってみたい」
「あ・・・そうそう・・・ウチの社長がTV局の取材を受けてな・・・なんかTV局となにか契約を結んだらしいんだよ・・・来月にな・・・TV局の人間とウチらのカメラマンとモデルがTVに出る企画なんだが・・・細かい内容は聞いていないけどな」
「すごい!!!」
「まぁ・・・ウチとしては顔を広めるチャンスが来たかなと思ってるよ・・・
F子も乗り気だし・・・これを機会に写真集が売れればいいなと思ってるよ」
「そうだよな・・・TVの力はすごいからな」
「ウチの社長も自分も出ると言ってるし・・・会社挙げての企画になりそう」
「そっか・・・でも企画の内容が気になるよな」
「そうそう・・・まぁ・・・どっかのロケ地へ行って撮影会みたいな感じでカメラマンやモデルはこういう仕事をしています、というような感じになるんじゃないかなと思ってる」
「だと思う・・・」
1週間後
S君とF子がやってきた
「ふぅ・・・」とS君はため息をついた
「どうした?」
「あのさ・・・今日、ウチの社長から例のTVのな・・・内容を聞かされたよ・・・はぁ・・・この前見たあの怪奇番組あったろ・・・あれだよ・・・あれの収録だってさ・・・マジ・・・俺は出たくない・・・てっきり撮影会かと思ってたし・・・
そのロケ地かよ・・・なんともな・・・」
S君の顔は絶望の顔をしてた
F子もため息ばかりついていた
「アニキ・・・私も出たくないし行きたくないよ・・・なんで怪奇番組なんだろ・・・
もっと別の企画に出たい・・・」
S君から詳細に聞いた
私もドン引きをした・・・やめたほうがいい・・・
直感的にそう思った
「パパ・・・私も・・・その企画はやめたほうがいいと思う・・・ちょっと・・場所的にまずいとおもう・・・嫌な予感しかしない」と楓も真面目な顔をしながら話しかけてきた
楓がそう言うのなら間違いないだろ
「一応な・・・俺は明日にその企画の中止を言うつもりだけどな・・・俺・・クビになるかな・・・」
1週間後・・・
「ただいま・・・」
S君とF子が帰ってきた
元気がない
「あぁ・・・」とため息をついた
「あのさ・・・やはり・・・ウチの社長は企画をすすめてるよ・・・
来月には収録するとさ・・・ふぅ・・・」
「進言したのか・・・」
「したさ・・・怒られるかと思ったら・・・社長もその企画のヤバさを知ってたよ・・
逆にだから社長も出たいと言ってた・・・会社の宣伝とかじゃなく個人として出たいんだとさ・・・」
「え・・・変わってる・・・」
「変わってるよ・・・うちのプロダクションは小さいけど・・・仕事の依頼は結構あるんだよな‥不思議と・・・社長の顔の広さかな・・・」
「そうなんだ・・・」
「政界や経済界など結構知り合いが多いんだよな・・・」
「Sちゃんの社長なら私も知ってるよ」とおふくろが横入りしてきた
「え!・・・おふくろさん」
「昔から私の財閥との取引させてもらってるからね・・・いえ・・・何度助けてもらったかな・・・私の小さいころからとてもかわいがってもらったし・・・」
「え・・おふくろの小さい時からって・・・社長はいくつなんだよ」
「ウチの社長はたしか・・・80代かな・・・すごく元気だよ」
「私も久しぶりに会いたいね・・・なかなか忙しくて・・・わたしもそのロケ地まで一緒に行きたい・・・Sちゃん、○○(社長の名前)さんに私も連れて行ってほしいとお願いしてほしい」
「えええ!!!おふくろさん・・・やめたほうがいいよ…危ないよ・・・」
「そうなの?・・・残念」
「そうだよ・・・やめたほうがいいよ。おふくろ・・・肝試し的な企画だからさ・・・」
「S君・・・の社長って何者なんだよ?おふくろと知り合いだし・・・政界や財界も顔が利くって・・・」
「俺も詳しくは知らないんだよ」
「F・・・○○(社長の名前)さんの実家は運送関係の仕事をしていたんだよ・・・
うちの財閥も関係が深いんだよね・・・今はもう・・・実家のほうは廃業しちゃったけれどね・・・」
「へぇ・・・」
「私の両親は○○(社長の名前)さんのご両親に大変お世話になったし・・・財閥の危機の時に助けてもらったのよ・・・少し時間があったら会いに行かないとね」
「おい!!俺は行きたくないぞ!!あいつだろ!ちっ!!!!
運転手は誰かに代わってもらえ・・・せがれ、行ってこい」とオヤジまでもが横入りしてきた
「はぁ?・・・会社があるんだよ、無理」
「なに!無理?あっそ・・・しばくぞ」
「じいちゃ!!!聞いていたよ!パパが「無理」と言ってるんだからね」
「ひっ!・・・・楓ちゃん・・・」
「じいちゃ!無理を言わない、いい?」
「うん・・・わかった」
「楓ちゃん、強いな・・・」とF子の声が聞こえた
私の小さな親衛隊だな
さてと・・・
来月になりTV局の関係者と打ち合わせをした
素人なので理解できなかったけれど何とかなるんじゃないかと思ってた
でもね・・・やはり・・・この企画は無茶すぎた
ロケ地はある有名な廃墟で結構な噂がある場所だった
昼間に下見と周辺の探索をした
カメラマンの配置やレポーターや関係者などの配置など
こと細かく決めていった
一応リハーサルをし終わったのがもう夕方
本番は午前0時からだということで一旦は解散した
午後11時ごろにまたこの場所へ集合することになった
3人娘たちははじめてみるTV局の人たちを興味津々で見ていた
出演する霊能者は例の霊能者が来る予定になっていた
S君の社長も夜に来るはずだ
S君とF子はゲスト扱いだそうだ
まぁ・・・廃墟を見たときにすごい鳥肌が立った
霊感がないのになぜか鳥肌
楓はさらに悪寒が走ったと言ってた
夕食はコンビニで済ませ時間まで休憩をしていた
車内では娘たちのおしゃべりで結構盛り上がっていた
そうこうしてるうちにS君の会社の社長が来た
一通り挨拶をした
やはりオヤジと社長はにらみ合い
今にも噛みつきそうな感じ
とはいうものの酒飲み友達らしい
今はなかなか忙しく酒を飲む機会は減ったらしいが
昔は仲間同士で酒を飲んでいたということをオヤジが自慢げに話していた
酔うとお互いに気が強いから喧嘩になったそうだ
さらに遅れて和尚様も来た
オヤジの機転で「くそ坊主を呼べ」と私に言ってきたので急遽、電話で経緯を話をして来てもらった
「おやじ殿、TVの収録とか・・・わしゃも出るんですかい?」
「いや・・・くそ坊主は出なくていいよ、TV局のほうで霊能者がいるからよ
もしものための保険だよ」
「え・・・わしゃ忙しいんですけれど・・・てっきりTVに出れると思って期待して来たんですわい・・・」
「そりゃ残念・・・」
「オヤジ殿・・・」
和尚様はかなり落ち込んでいた
コンビニにTV局の関係者も集まってきた
なにせ近くにコンビニはここしかない
関係者だけが集まって最終的な打ち合わせがはじまった
打ち合わせ中に例の霊能者の車が来た
以外にも軽だった
てっきりベンツとか高級車で来ると思ってた
それも一人だった
霊能者はTV局の関係者に挨拶をした後に私たちの所へ来て挨拶をした
軽い世間話をしてまた自分の車に戻っていった
「なんか拍子抜けだな・・・てっきりベンツとか高級車で来ると思ってた・・・」
「アニキ・・・私もそう思ってた・・・あの人、今すごく人気だからね・・・びっくり」
「おい・・・くそ坊主、すげぇな・・・アイツ・・・すごいオーラを出してるぜ」
「はい・・・驚きましたわい・・・強いオーラですわい
久しぶりに本物を見ましたわい」
「あぁ・・・くそ坊主と同じくらいじゃねーかな・・・結構修行してるぜ」
「はい・・・」
「じいちゃ・・・あの人、すごい!・・・TVで見てたより強い感じがする」
「だろ・・・楓ちゃん・・・今晩のロケ地の収録・・・普通に終わらんと思うぞ」
オヤジの言ったとおりになった
本番の時間1時間前に到着をして機械など設置をし周辺の探索と警戒をTV局の人間が忙しくしていた
やはり昼と夜では雰囲気が全然違う
不気味さがすごい
3人娘たちと私は車の所で待機
オヤジと和尚様は遠くから付いていった
関係者たちがどんどんと奥へ入っていった
あたりはTV局の車と関係者3人、あと私たちだけになった
「車の中に入ろう」
「うん!」
車の中から収録の様子を見ていた
TV局の関係者が無線で何かを話していた
「はじめてみたTVの収録現場・・・こんな感じで撮影していくんだね、パパ」
「パパも初めて見た・・・もっとワイワイとしながらだと思ってたよ」
葵もカナちゃんも収録現場をじっと見ていた
ライトで照らされた廃墟はまさに怨霊の館に見えた
収録から1時間後、全員が戻ってきた
「オヤジ・・・お疲れ・・」
「まぁ・・・あんな感じで収録していくんだな・・・」
「何か変わったことあった?」
「いや・・・別に・・・」
「そっか」
「それよりも・・・何もなかったから・・・あいつら何か余計なことをするかもしれんぞ・・・それが心配だな」
図星だ・・・オヤジが言った通り
S君とF子が呼ばれた
10分後に戻ってきた
「おやっさん・・・TV局の連中、とんでもないことを言い出した・・・
どうも編集などをしたら30分の放映分しかないとか・・・それで・・・
あの廃墟の中を探索をするって言い出した・・・えっ・・と思ったけど・・・ウチの社長が何気に乗り気で「やりましょう」と言っちゃったよ・・・」
F子の顔を見てS君はすごい落胆ぶり
「アニキの言う通り・・・私はもう廃墟なんで行きたくない・・・」
「俺もさ・・・一応、社長には言っておいたけどな」
「そうなんだ・・それで承諾してもらったの?」
「一応な・・・まぁ、今、会議中だよ・・・」
S君の社長がやってきた
「一応・・・あの廃墟の中の収録をするぞ・・・S君、F子ちゃんは家族と一緒にいなさい・・・私とレポーターとディレクターとカメラマンと霊能者の5人で収録をするよ・・」
「おい!!やめておけ!後で後悔するぞ」
「いやいや・・・自分の意志で決めたんだよ、俺は行くよ」
「ロクなこと起きんぞ!今からでも遅くはないからよ、辞退してこい」
「嫌だね!」
TV局のスタッフが社長を呼びに来た
「あ・・・行きやがった・・・」
「アニキ・・・社長・・・大丈夫かな」
「・・・あんまし・・・」
「大丈夫じゃないぞ!あんな年寄り、自分の年を忘れたかもな」
「わしゃも・・・心配ですわい」
「くそ坊主、一応、廃墟の入口まで行こう」
「はい!オヤジ殿」
「じいちゃ・・・和尚様・・・あんまし無理しないでね」
「ありがとですわい、楓ちゃん」
オヤジと和尚様は廃墟の入口で待機
それにしても不気味な洋館だな
うちのおふくろの実家の廃墟群と同じ位不気味だ
TV局のスタッフは呑気にモニターを見ていた
「パパ、なんか寒いんだぞ」と珍しく葵が弱音を吐いた
「寒い・・・車の中へ入ろうか」
「うん!!」
家族全員、車の中に乗った
「やはり山の中だね・・・昼間は暖かったけど夜は寒いね、アニキ達」
「だな・・・山だな・・・」
「それにしても不気味だよな」
「うん・・・おふくろさんのところの廃墟と同じだな・・・不気味というかおぞましいというか・・」
「パパ・・・今さっきから・・・このあたりからザワザワと何か気配を感じて気分悪い」
「え・・楓、大丈夫?」
「あんまりよくない・・・じいちゃんたち、大丈夫かな・・・」
周りがシーンとして静寂さがありすぎる
TV局のスタッフたちの声がよく聞こえていた
山の寒さもあるけれど何となく私でさえもソワソワとしてきた
葵やカナちゃんにも声をかけたが元気のよい返事が返ってきた
「パパ!あたちは大丈夫なんだぞ!楓姉ちゃんが傍にいるから安心なんだぞ」
「カナも・・・元気だよ・・おじさん」
楓だけがやはり感じている
車のエンジンをかけて暖を取りたいけれどなんとなく霊を刺激しそうな感じなのでやめておこう
隣の車に乗ってるS君たちはF子と談笑していた
「隣は大丈夫だな」
「F子お姉ちゃん、本当にうれしそうだね、どこがいいのかな・・・Sおじさんって・・」
「楓もそのうちわかるよ・・・」
「そうかな・・・F子姉ちゃんみたいな美人さんはどこかの御曹司と似合うと思うけどな・・Sおじさんは…ちょっと、と思う」
「あはははは・・・御曹司という言葉をよく知ってるね」
「うん・・・よくよく考えればばあちゃんもお嬢様だもんね・・・なんでじいちゃんなんかと一緒にいるんだろ・・・不思議」
「はははははは!!!楓、笑わせないでおくれ」
どんどん時間は過ぎていく
隣のTV局のスタッフたちが慌てだした
「パパ、お隣・・・何か変だよ」
「だな・・・何かあったのかな?」
「あれ?じいちゃんたちもなんか変だよ」
「あ・・・オヤジが戻ってくる」
オヤジが一人だけ戻ってきた
「どうした?オヤジ?」
「あかんぞ・・・廃墟から悲鳴が聞こえてきた
恐らくよ、スタッフたちだと思う、くそ坊主を置いてきた、入り口まで戻るよ」
隣のTV局のスタッフもなにかパタパタとし出した
((あかん・・・撮影中止!!、おい!誰か!行ってこい!中止だ!))
スタッフの一人が慌てて走っていった
廃墟の中からスタッフたちが慌てて出てきた
みんな、一斉にこっちへ向かって走ってくる
オヤジと和尚様は後からついてきた
S君の社長が来た
「はぁはあ・・・あかん・・・あかん・・」
「社長!どうかしましたか?」
「声が聞こえたんだよ、悲鳴のような悲痛のような・・・おそらく全員が聞いたはずだよ」
「たしかに、廃墟から、ここからではかすかに悲鳴のような声はしましたけれど」
「あ・・それはスタッフたちだと思う・・・一人がパニックになって悲鳴を上げたからな、それで全員一斉に逃げ出したんだよ」
「おい!だから言ったんだよ、絶対にこうなるからよ」
「お前の忠告は昔から正確で当たってるから信用はしてたけどな、やはりよ、TVに出たいわけよ」
「お前は・・・昔からなんでも口は出すわ手は出すわ・・・」
「あはははは」
「笑いこっちゃじゃないぞ」
隣のTV局のスタッフたちが何やらもめていた
どうやらこの撮影に対して不満が爆発したんだろう
大きな声が響いていた
スタッフの一人が
「あれ?霊能力者はどこですか?」と聞こえてきた
スタッフ全員が周囲をキョロキョロと見まわした
「あれ!いないぞ!どこへ行ったんだ」
周囲が慌ただしくなった
スタッフの一人がこちらへ来た
「す、すいません、こちらに霊能力者は来ていませんか?」
「ううん、来てないよ」
「え・・・どこへ行ったんだろう」
「くそ坊主、まさかよ」
「はい、そのまさかかも」
「おい、もしかしたら、まだ廃墟にいるかもよ」
「え、まさか、たしか、一緒に逃げ出したはず」
「あれだけパニックして一斉に出てこられちゃ、わからんぞ」
TV局のスタッフは慌ててディレクターの所へ戻っていった
だれもあの廃墟へ行きたくないと言い争いをしていた
「おい、くそ坊主、出番だ、行こうか」
「はい、オヤジ殿」
「おい、せがれよ、今から廃墟へ行ってくる、TV局の連中に言っておいてくれ」
「オヤジ、まだ廃墟の中にいるとは限らないぞ」
「俺にはわかるんだよ、せがれよ」
オヤジと和尚様はさっさと廃墟へ行ってしまった
TV局のスタッフたちは大慌てて私たちの所へ来た
「あの2人で大丈夫なんですか?」
「おそらく」
「おそらくって・・・」
1時間後にオヤジと和尚様が戻ってきた
「おい!!せがれ!警察と消防を呼べ!早くだ!!!」
すごい剣幕で遠くからオヤジの声が聞こえてきた
私はすぐにスマホで警察へ連絡をした
「あかん・・・あかんぞ、おい!TV局の連中よ!今からでも廃墟へ来い!カメラマンでもいいぞ!!」
「え・・・いや・・・」
TV局のスタッフたちはすごく動揺していた
結果的にカメラマンが付いていくことになった
20分後に警察と消防隊が来た
辺りは騒然となった
警察と消防隊員が廃墟の中へ入っていった
中から悲鳴と怒声が響いていた
「おいおい・・・大丈夫か」とスタッフたちから声が漏れていた
しばらくして担架に乗せられた「あるもの」が運ばれていった
警察官たちが規制線のテープを張り出した
「オヤジ・・・どうなってるんだ?」
「あかん・・・まじであかんぞ、ちょっとな、今は話せん」
「さようですわい、もう少し落ち着いてからですわい」
2人ともが息を切らして動揺した顔になっていた
初めて見た
そんなにやばいのか・・・
警察官が聞きに来た
TV局のスタッフたちが応対していた
鑑識も来たようだ
「少し落ち着いたぜ・・・せがれよ、今日はこの場からすぐに離れるぞ、家へ帰ろう」
「え・・オヤジ・・・大丈夫か?」
「大丈夫じぇねーー、あかんぞ、詳しいことはとにかく家へ着いてからだ、Sちゃん、F子ちゃんを頼むぜ、帰るぞ!!」
「さようですわい、早くここから離れた方がいいですわい、家へ帰るですわい」
とにかく慌てて車に乗り帰路へ着いた
車内でのオヤジの顔が死んでいた
3人娘たちが心配そうにオヤジを見ていた
家に着いた
なんだがどっと疲れが出てきた
「疲れた・・パパ・・大丈夫?」
「パパはいいけどな、オヤジたちだよ、大丈夫か」
オヤジと和尚様はソファでグッタリとしていた
1時間後にオヤジと和尚様は何事か話をしていた
「せがれ、起きてるか?こっち来い」
「起きてるよ」
オヤジと和尚様は真剣な顔をしていた
「あのな・・結論から言うと霊能者は死んでたよ」
「え?死んでた?何で?」
「まぁ・・俺たちが廃墟へ入って少し奥でな、霊能者が倒れてた、まだ息はあったんだよ、
しばらくして「お前ら!!!よくも!」と絶叫して死んだよ」
「うわぁ!すごい最後だな」
「ところがな・・・そいつ・・・死んだのになぜかいきなり起き上がったんだよ、カメラマンがびっくりして悲鳴を上げて腰を脱がしやがった」
「うそだろ!ゾンビか!」
「いや正確的にはゾンビじゃない、魂を抜かれた人形だな、しばらくしたら顔からどんどん溶けていくという表現しかできない・・最後には骨だけになった、こんなもんは初めて見たよ、もう俺もそうだがくそ坊主も唖然としててカメラマンはその場で固まってて、こりゃ、あかん、まずいと思ってカメラマンを叩き起こしてその場から逃げてきたんだよ」
「そうですわい・・・わしゃもはじめてみましたわい、ああいう感じで溶けていく映画を見たことはありますですわい、ですが、現実に見るとは・・・」
「俺も同じだよ、今までいろいろな現象を体験してきたがあんな風に体が溶けていくなんでな、カメラ撮影してたから恐らく映ってるとは思うけどな」
「とりあえずは、当分用心はしたほうがいいかもな、な、くそ坊主」
「そうですわい、何かしら起きるかもしれませんですわい、前々から言ってる通りに夜の10時以降は外出はしないでほしいですわい、家族の方全員ですわい、それと、S君やF子さんも同様にスタジオから出ないでほしいですわい、どうしても用事がある場合は今日からはオヤジ殿に頼んでくだされ」
「はい・・・S君には後で言っておきます」
オヤジがさらに詳細に話してくれた
もう、鳥肌が立つというレベルじゃない
まとめると
あの霊能者は実は半年前に死んでいたこと
場所は、そう、あの廃墟の中
話を聞いて「嘘だろ」とオヤジに言った
オヤジもTVで霊能者が生きてるのを見てたし実際にあの場所で話をしている
オヤジも霊能者が死んでいたとは感じなかった
それがオヤジが帰るときに見せていた苦悩の顔だった
なぜ、感じなかったのかと己の能力について限界が来ているのかと思ったらしい
年も年だろうと思うが徐々に能力が低下していると自分自身は感じているという
逆に楓の能力がどんどん強くなってきてるとオヤジは感じている
来年あたりには楓が家族の中で一番強い能力者になるだろうとオヤジは言っていた
今、現在でもオヤジは楓に睨まれるとカエルのように体が固まるらしい
体の自由を奪う能力があるらしい
1週間後に元課長が訪ねてきた
廃墟の件でオヤジに話したいと家に来た
あの霊能力者は素性がわからないという
いつ生まれたのか家族はいるのか本当の名前は?
それと解剖の結果、あの死体は死後50年は経っているという
元課長がその話をしたらオヤジが激怒した
「おい!うそつけ、目の前で死んだんだぞ、死後50年ってあり得ん、くそ坊主やカメラマンも見ていたんだぞ」
自分もそう思う
目の前で自分も話をしたんだ
「おい、映像を撮っていたんだ、映ってるはずだ」
「ところがな・・・警察の捜査官がTV局のスタッフに事件のことでTV局へ行ったんだがその日いたスタッフは全員、その局の社員じゃなかった、捜査官も裏を取って確認をしたら確かに局にはそういう人物はいないし過去にも存在していなかったことが判明したんだよ、もちろんあの廃墟の現場に捜査官がそのスタッフに事情を聴いてるし確かにその局のスタッフだと言い張ってるんだよ」
「本当ですか?でも自分も家族も局の人たちを見てますし・・」
「どういうこったよ、あの連中は一体何なんだ?」
「どうもなぁ・・・これって例の心霊番組のシリーズだろ・・・監督やスタッフたちの名前がクレジットで最後に出てるでしょ、オヤジは監督から名刺をもらってるし、確かにあのTV局のスタッフに間違いなんだよな」
「ああ、名刺はもらってるぞ、ほら、これこれ」
「どれ、確かにな」
「ということはあのスタッフたちは偽者?」
「そういうことだぞ、あいつらTV局の偽物だったかも、この名刺も簡単に作れるしな、でもよ、そんなことまでしてどうするんだろ?」
「オヤジ、もし仮に50年前の死体が本当は殺されていたんじゃないの?」
「あり得るかも、鑑識も50年前の白骨では無理じゃないかな、骨に切り傷や刺し傷が残っていれば別だが」
「それにしてもよ、腑に落ちないことばかりだぜ」
事件なのか自死なのか
死体が50年前ではわからない
でも私や私の家族は霊能者を見てるし話しもした
ましてやオヤジや和尚様は霊能者が溶けていくのを見てる
作者名無しの幽霊
本当に不思議としか思えない
腑に落ちない
何でTV局の偽物たちが来たんだ
いや・・偽者?でもあの機材や車両はどう見ても「本物」としか思えない
もしかしたらTV局側が嘘をついているのかも
後日分かったことはあのスタッフたちはTV局の下請けで仕事を請け負っていた
つまり偽者ではなく本物だった
警察の捜査もどんどん進んでいったが所詮、死体は50年前
さらに悪いことに当日いた下請けのスタッフたちは全員が原因不明で死んだこと
それとカメラマンの家からは原因不明の火事で家が全焼してカメラマンが焼死体で見つかった
勿論録画のデータも焼けた
なんか偶然にしては出来過ぎだと感じた
オヤジも同意見だ
話がうますぎる
オヤジは「あの霊能者の呪いとは思えないが何かしらあの下請けのスタッフたちに縁があるんじゃないか」と言っていた
調べていないので憶測だけどね
とにかくこの事件はもう時効だということだ
私たちもこれ以上は無理