これは僕がまだ小学生だった頃の話。夏のお盆の時期になると父方の祖父母の家に泊まる習慣があり(母方の祖父母は死去してる)今年も泊まりに来たのだが、祖父母の家には幽霊が出る。
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が、それは親戚一同周知の事実でありあまり気にしていない。守護霊というか屋敷神というかそんな感じの幽霊で江戸時代の役人のような格好をしていた。ちょんまげがあって、堅物そうなしかめっ面で、太い眉に口はへの字に結んでいつも正座で宙に浮いていた。僕はその幽霊のことを"役人さん"と呼んでいた。
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この役人さんはさっき言った通り守護霊のような役割があって、赤ん坊の世話をやったり、蚊やハエやアブ何かを追い払ったり、付けっぱなしのガスを消してくれたり、泥棒が家に入るのを阻止してくれたり、空いてる冷蔵庫の戸を閉めたりと色々してくれてた。そんなある日、骨董収集が趣味の祖母がとある日本刀を購入してきた。許可証を役場から貰い、自信満々で居間に飾っていたのだが夜な夜な日本刀の方から声が聞こえる・日本刀がカタカタ揺れる・人を切り殺す夢を見るなど怪異が多発していた。
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祖父は祖母に「そんな曰くあるもの家に置いておけない」と言っていたのだが、祖母は嫌々と言って引き下がらない。そんなある日の夜、僕は夜中に目が覚めてトイレに行き居間の前を通りすぎると何かの言い争いが聞こえてきた。今の戸を少し開けると役人さんとお侍さんが宙に浮かんで何やら文言をぶつけていた。
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「この家の者に迷惑かけるなら腹切りじゃ、腹切りじゃ」
「ええい、うるさいうるさい。何しようが某の勝手じゃ」
「黙れ黙れ、切腹じゃ切腹じゃ」
と役人さんは切腹切腹と連発して言っており思わず吹き出しそうになったが巻き込まれても面倒なためそっとその場を後にして次の日の朝に祖父に昨日の話をすると、「そおかそおか、役人さんが頑張ってくれていたか。なら、近いうちに何とかなるかもしれんの」と笑っていた。それから二日後、異変はぱったりと止み元の日常に戻った。
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それからというもの、役人さんは変わらず宙に正座でぷかぷか浮いているというシュールな光景で今も祖父母の家に居る。ただ、最近知ったのだが役人さんにも怖いものがあって、猫が苦手・電子レンジの音にビクッとする・たまに外から聞こえるバイクの音であたふたするなど色々コミカルなおじさんの幽霊だと親戚一同笑いのネタにしているだという。
作者赤坂の燈籠