「よい子のみんな~、こーんにちはー!
ゆうじろうお兄さんだよ~!」
「みんな、元気~? かゆみお姉さんで~す☆」
「ムームー!」
nextpage
「ムームーは今日も元気だね……って、おや?
どうしたんだい? なにか、泣いているみたいだけど」
「それがね、ゆうじろうお兄さん。
ムームーったら、歯が痛いらしいの」
「ええ!? もしかしてムームー、虫歯になっちゃったのかい?」
「ムームー?」
nextpage
「虫歯って何かって?
甘~いものばかり食べて、きちんと歯磨きしないと、虫歯の虫が歯に穴を空けちゃうんだ。
ズキンズキンって、とっても痛いんだよ?」
「ちょっと見せてみて?
あらら~!? ムームー、前歯が真っ黒よ?」
「ムームー!」
nextpage
「うう~ん、これは虫歯をなんとかするしかないみたいだね。
さっそく準備だ、かゆみお姉さん!」
「ええそうね、ゆうじろうお兄さん!」
nextpage
(ガラガラガラ!)※台車を運ぶ音
nextpage
「準備完了!
安心してムームー、すぐに楽にしてあげるからね!」
「ムームー?」
「これからいったいどうするの? ゆうじろうお兄さん」
nextpage
「簡単さ、かゆみお姉さん。
このドリルで、ムームーの虫歯をガリガリ削るのさ!」
「ムームー!」
「ねぇ、ゆうじろうお兄さん。それってずいぶん痛いんじゃないかしら……?」
nextpage
「大丈夫だよ、かゆみお姉さん。
僕はもう、何度もこのドリルを使ったことがあるんだから!
さあ、お姉さんはこの唾液を吸い出すバキュームの先を、しっかり持っててね」
「わかったわ。まかせて、ゆうじろうお兄さん!」
nextpage
「さあ行くよ!」
(チュイーン!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!)
nextpage
「ムーッ! ムームーッッッ!」
「あ、コラ! ダメよムームー、暴れないで!」
(ジュポー、ズズズズズズズズ)
nextpage
「今度はこっちの歯だ!」
(チュイン、チュイーン!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!)
nextpage
「ムー!? ムムムォオ、ムムー!!」
「ねぇ、ゆうじろうお兄さん、大丈夫かしら?
ムームー、なんだかとっても痛そうよ?」
「――え? なんだい、かゆみお姉さん。
今日の夕飯が何だって――?」
nextpage
(ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ)
nextpage
「ムー! ムームォー、ムグゥーグムゥー!!」
「ダメよムームー、暴れないでったら!」
(ジュポー、ズズズズズズズズ)
nextpage
「あらあら、唾液が真っ赤だわ?」
「きっと、虫歯に溜まった悪いモノが流れてきてるんだ。
さあ、お姉さん、もっともっと吸い出して! 僕も、もっともっと頑張るから!」
nextpage
(ガガガガチュイーンガガガガガガガガゴリゴリゴリゴリチュイーンゴリゴリゴリゴリゴリ)
nextpage
「ムムムォオ! ムム! オゴェ! ヤベェ!!」
nextpage
(ジュポー、ズズズズ! ジュポズズズズ!!!)
「次から次へと出てくるわ。
大丈夫、ムームー? そんなに身体から水分を出して、喉が乾かない?」
nextpage
「うう~ん、ダメだ。このままじゃあラチがあかない。
これはいっそ削るんじゃあなく、ひと思いにペンチで引っこ抜こう。
それ行くぞ! エイ、ヤっと!」
nextpage
(ギギギギギギ)
nextpage
「ムゥー! ムゥムゥムゥー!!」
nextpage
「固いな……。――ヌゥン!」
nextpage
(ギギギギギギ、ミチミチミチ……)
nextpage
「頑張って、ゆうじろうお兄さん!」
nextpage
「うんとこしょ! どっこいしょ! それでも虫歯は抜けません、とくらぁっ!」
nextpage
(ミチミチ……ミチミチミチ……
ズボァッ――!)
nextpage
「っしゃあ、抜けたぁ!
……あれ? どうしたんだい、ムームー?
おーい、ムームー?」
「…………」
「お兄さん、ムームーったら、気絶しちゃったみたいだよ?」
nextpage
「なんだいなんだい、意気地がないなあ。いい大人のくせに。まだまだ虫歯はあるんだよ?
――あ、でも、気絶しちゃったなら今のうちに、猿ぐつわを取って、奥歯も治療しちゃおうか?」
「それがいいわね、ゆうじろうお兄さん。
じゃあその前に、カメラの前のお友達にバイバイしましょうか?」
nextpage
「そうだね、かゆみお姉さん。
それじゃあ皆、ムームーみたいにならないように、しっかり歯磨きしようね!」
「お兄さん、お姉さんとの約束だよ!
それじゃあ、また、来週まで――」
nextpage
「「バ~イバ~イ!!!」」
nextpage
separator
nextpage
separator
nextpage
separator
nextpage
separator
nextpage
「――映像は、以上です」
「…………。むごいな……」
作者綿貫一
こんな噺を。