私は、弁護士をしている。
お客さん、つまりは依頼人から依頼を受けて裁判や示談を行うだけではなく、相談に乗ってアドバイスするだけ(といっても、そのアドバイスから後の裁判の依頼などにつながるので疎かにできない。)というものも多い。
先日、変わった相談があった。
お客さんは、40代半ばの女性。一見して主婦という見た目で、ご自身の子供のことについて相談したいという。
「今日はお時間をいただき、ありがとうございました」
「お子さんのことと予約時に伺いましたが、どのようなことでしょうか?」
「あの、娘が、学校で先生に暴力をふるったようでして・・・」
「え?娘さんが先生を?娘さんの年齢は?」
「年は15歳で中3です。何があったのか、ちょっとよくわからないんです。娘自身は、何も覚えていないとしかいわないんですよね・・・ママ友つながりで、その場にいた同級生の子から聞いた話と、先生から言われた内容しかわからないんですけど」
「はぁ、その聞いた話というのを教えてください」
「その子がいうには、3日前のことなんですが、放課後、教室に残ってこっくりさんやってたらしいんですよ。ある男子の好きな女子は誰かとか、何かそんなのを調べるとかで。」
「こっくりさんって、紙にひらがな全部書いて、10円玉でやるあれですか?」
「いえ、最近は、紙の中心に十字を書いて、四隅にYES・NOを書いて、十字の上に置いた鉛筆を回して、何かそんな感じでやるみたいです。それを、娘とその子の二人でやったらしいんです」
「それで、こっくりさんをやっていて、何かあったんですか?」
「こっくりさんに、うちの娘が、クラスのある男子が好きな子は、Aちゃんですか?って聞いたら、NOだったんらしいんですね。それでうちの娘は喜んじゃって。娘はその男子のこと好きらしくて、今度は、自分のことが好きかどうか聞いたら、またNOだったと、それでムキになって、学年の女子全員について、一人ずつ名前を挙げながら聞いたらしいんですよ。そしたら、全員NOだったと。」
「クラスの女子って、何人いるんですか?」
「娘の学校は、学年が2クラスで、女子は全部で27人です」
「・・・そうですか(連続してそれだけNOが出るって、すごい確率だな)」
「その結果を見て、娘は、何やらやたら興奮して『何なんだよ!』とか『あの男、誰が好きなんだよ!ふざけんなよ!!』とか、大声で喚きだしたらしいんですよ。うちの娘は、普段は凄くおとなしい子なんですけど。こっくりさんやってた机とかバンバン叩いて、口の端から泡とか出しながら、ワーワー言ってたらしくて、一緒にやってた子は相当怖かったって言ってました」
「・・・はい」
「そんな状況を聞きつけて、何人かの子供が娘の周りに集まってきたみたいなんですよ。でも、周りの子も皆、娘の様子にドン引きしちゃって、黙って見てただけらしいです。一緒にやってた友達の子は、とりあえず娘の質問に結論を出して、事態を収集させたかったらしくて、『X君は、好きな人はいますか?』ってこっくりさんに聞いたらしいんですね、そうしたら今度はYESだったと。その結果をみた娘が、凄い大声で絶叫して、泡吹いて、白目むいて倒れたらしいんですよ。そこで周りの子も含めて大騒ぎになって、先生呼んで来い!ってなって、何人か職員室に走っていったらしいです。一緒にやってた子は、もう怖くて動けなかったと」
「・・・はい」
「先生が駆けつけてきまして。その先生っていうのは、男性で身長が180くらい、体重も相当あるんじゃないでしょうか。凄い大柄のがっしりした体形の方なんですよ」
「・・・ええ」
「その先生が『何やってんだ?大丈夫か?』っていいながら、倒れている娘に近寄って行ったら、娘は、天井から引っ張られるように、手も使わずにグンって立ち上がって、今度は白目のまま『ギャハハハ』って笑い出したらしいんですよ」
「・・・ええ」
「先生は、娘の肩に手をかけて、『何?大丈夫か?』みたいな感じで『救急車呼ぶからな、ちょっと待ってろ』みたいなことを言ったとき、娘が『必要ない』ってはっきり言ったらしいんですよ。それで、先生が『はぁ?』って顔したら、また『ギャハハハハ』って笑いながら、娘が片手で先生の胸倉をつかんで、ブンって放り投げたと」
「えっ?」
「先生は、教室の壁まで飛ばされて、顔から壁にぶつかって、顔の骨を骨折して、今入院されてます。昨日お見舞いに行きました。娘は、先生を放り投げたとたんに、正気に戻ったらしくて、一切、何も覚えていないと」
「えっと、警察とかは・・・」
「学校の配慮と、先生も事件化したくないと言ってくれて、警察には話は行っていません。それで、今回の相談なんですが、やっぱり慰謝料とかって支払った方がいいんでしょうか?その場合の相場みたいな金額は、いくらなんでしょうか?」
いろいろと戸惑う部分もある相談内容だったが、とりあえず慰謝料の相場を話すと、その方はありがとうございましたと言って相談料を支払って帰っていった。その娘さんは今、病院で様々な検査を受けており、落ち着いた後は転校を検討しているという。
作者フゥアンイー