中編4
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深夜恐慌

昨夜、ヤバいモノを見てしまった………。

午前1時、雨。

オレはトラックで幹線道路を走っていた。積み荷はコンビニ弁当。各店舗へ配送するルート配送だ、その途中の出来事だった。

《1》

サイドミラーにピカッと強い光が反射し、目がくらんだ。

「!」

スポーツカーが猛烈なスビードでまくってきた。

水飛沫がフロントガラスにざばっとかかり、視界が一瞬奪われた

「クソっ」

ワイパーを高速にしてはたくように雨を拭う。車はあっという間に見えなくなった。80キロは出してたぞ? こんな一般道で雨の夜に暴走か、イカれてんな。

交差点の信号が赤に変わった。ゆっくりと停止をする。たくっ、夜中は変な車ばっかりだ、巻き込まれるのはゴメンだぜ。

いつもの交差点、ここは信号がなかなか変わらないんだ。仕方ない、待つしかない。一服したいがコンプライアンスが厳しくなって仕事中は禁煙だ、まいるぜ。

その時、隣りの右折車線にキキーッとスリップしながら1台の車が停まった。

おいおい、ヤベえなこいつ。どうせ、居眠りか酔っぱらいだ。ん? おー、ト○タの絶版車だ。まだこんなの走ってんだ、スゲえな。

停止線をはみ出して停まったため後部座席がちょうどオレの真横に来ている。トラックは乗用車より車高が高いので見下ろせるんだ。信号はまだ赤だ。

………

どんな奴が運転をしているんだ?運転席は見えないか………、助手席には誰も乗っていない………。後部座席に目を移した。リアウインドウにカーフィルムが貼ってないから中が丸見えだ。

ん? あれは何だ?! 

何かがゴロンと置いてある、大きさはスイカくらいだが………

!!

ギョッとした。 

オレは零れ落ちそうなくらい目を見開いた。

まさか

口に………

見たものが信じられなかった。

鼻に

閉じたまぶたに

青々と剃られた坊主頭………

ドクン

まさか

ドクン

首?

ドクン

坊主頭の首から上が横向きになってそこに転がっていた。

坊さん………?

雨滴がサイドウインドウをツツッと流れていった

はは

よくできた作り物だ。2枚のガラスを隔てていても本物のように見える。戦国時代じゃあるまいし人の首がまさかその辺にゴロゴロと転がっているわけがない。作り物だよ、作り物。きっと撮影で使う蝋人形かマネキンの首、カツラを被せて使うんだよ。たく、人騒がせな。と視線をそらしオレは信号を見た。まだ、赤だ。

………

再び目を戻した。

!!

ちょっ、ちょっ、ちょっと待て!

目が

開いている………

瞳にキラリと光が反射し、目玉がギョロリと動いた。

嘘だろ

オレを凝視してやがる………。

口が………うご………

パク………パク………

動いてる?!

パク………パク………

まさか?!

パク………パク………

唇がすぼまったり、横に広がったり………

パク………パク………

口角に泡が溜まってきてる………

パク………パク………

4つくらいの同じ形の繰り返し?

パク………パク………

喋ってる………

………

ゴクリと固唾をのんだ。

パク………

『た』?

パク………

『す』?

パク………

『け』

パク………

『て』

ゾッと髪の毛も眉毛も逆立った。

パク………、パク………、パク………、パク………

た す け て

た す け て

た す け て

「助けて?!」

!!!!

バカな、オレはパニックを起こしかけた。と次の瞬間、車はキキッと鋭く右折した。テールランプがあっという間に闇に吸い込まれ消えた。

オレは啞然と見送った。

………

シャッ、シャッと雨滴をぬぐうワイパーの規則的な音に我に返った。この間、たぶん1分30秒くらいだろう、だが体感的にはもっと長く感じた。今のは何だったんだ?! 夢か? 幻覚か? それとも幽霊?

………

ハッとした、信号は青に変っていた。急いで発進する。

暗がりの中、不安と恐怖が襲ってきた。

「首が………」

振り払うように頭を振った。

「喋った………」

落ち着け!

「ど?!」

どうする? 警察に行くか? ダメだ。首が載ってました、喋りました、そんな事が言えるか! クソっ コンプライアンスなんかクソ食らえだ。

………

オレはタバコをくわえ、ライターを擦った。

《2》

無事に配達を終えた。やれやれ、今日は信じられないモノを見ちまった、疲れた………。後は会社に戻るだけだが一つ問題がある。ルート配送だから道を変えることができないのだ。そのためもう一度例の交差点を通らなければならない。まあ大丈夫だろう、再び遭遇するわけがない。………たぶん。

さっきの交差点が見えてきた。オレはアクセルを踏んだが間に合わず、信号が赤に変わる。クソっ、停まってしまった。

同じ交差点だが上り下りが逆で今は反対車線にいる。雨がトラックの屋根を叩く。オレは辺りを伺った。勿論あの絶版車はいないし、横断歩道を渡る歩行者もいない。午前3時半、雨は相変わらずだ。

その時だ。

傘をささずに歩いている男が目に入った。遠目でもびしょ濡れだと分かる。服装からすると坊さんか? 妙だな。

坊さん………

ちょっ、

頭を深くうなだれているのか、まるで首から上がないように見え………。

ちょっ

ちょっと待て。

我が目を疑った。

く、

首が………

く、

首が!

それは重い足取りで、立ち止まっては身体を右に左に向け、まるで探し物でもしているよう……。

ウ!

オレは雷に打たれたように悟った。

全身の毛が総毛立つ

オレはついに悲鳴を上げた。

袈裟を着たそれは首から上を探して歩くあの男の胴体だったのだ。

ウワアァァァー!!

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