ゴールデンウィークは毎年のようにキャンプに行くことにしている。それも誰もしらないような場所に。
毎年のことでずいぶんと上手くなったカレーを食べ、1人静かな夜を過ごすのが醍醐味だ。さわがしいファミリーキャンプ場ではこうはいかない。
ワンカップをテーブルにことりと置き、月を見上げる。ああ、なんて静かな夜だろう。
がさっ
動物だろうか、ひときわ耳についた音の方を見るときらりと月明かりで金属的な光が見え、木々に消えた。動物ではないらしい。
こういうところに来るとこの世ならざるものとちらりと触れ合うこともままある。気にしないのが一番だ。すこし警告じみたものを感じたおれは少し早く床につくことにした。
ある夢を見た
渓流に日差しが燦々と降り注ぐ森の中で、もの凄く魅力的な女性と出会う。
おれと同年代のようにみえる。
雨でもないのに傘をさす彼女がにこりと微笑むと、狂気にも似た劣情が身体を駆け巡り、ケモノのように彼女を襲った。
何度も何度も体を重ね、最高で最愛の人だと思いながら熟れた果実のような胸を鷲掴み、唇を貪るように接吻を交わした。
彼女はあえぐばかりだったが何度目かの絶頂を迎えるとき初めて意味のある言葉を発した。
「もう、このまま二人で永遠になろうよ!」
「時間をこのまま止めよう」
気づくと返事をしている自分がいた。
大樹のそばで名残惜しむような軽いキスをした。それをきっかけとしたように大樹はうねり波打つように根をはやし、地中から突き出た根っこは彼女とおれを串刺しにして、互いの口から太く尖った根の先が現れた。
愛おしむような表情をした彼女へうなずくと互いの喉に根差し合った。
そうして喉を刺し後ろ首まで貫いた時、二人は結ばれ抱き合ったまま息絶えたのだ。
まるで現実感のない悪夢だったのだが恐怖より、何故だか幸せなような気持ちで目を覚ますとおれは裸でテントの外に出ていた。
まだ夜のままだった。キツネにつままれたような気分だ。テントに戻らなければと倦怠感を振り切って立ち上がる。
すると森の茂みの中からガサガサと音が聞こえる。
その音は大きく近くなり、止んだ。困ったことにおれの背後に何かがいるらしい。
目線だけ先に送るように慎重に振り向いてみると、そこには女の姿があった。
夢で見たあの魅力的な女だった。おれは思わず見入ってしまう。
おれがは目が離せず動けずにいた。
目の前の女は微笑むと見る間に変貌し太く尖った木の根を口から吐き出すように生やしおれにつきつけた。
大きくひらいたあごのせいで歪んではいるが愛情のこもったあの眼差しでこちらをみている。
おれはまるで夢遊病者のようにふらふらと歩き、その根の先を何の躊躇もなく咥えようとした。
女は「それで良いのよ」と言っているような優しい笑顔でその先を促している。
おれは女と1つになりたいとしか考えられなくなっていた。
パンっ、と焚き木のはぜる音がして熱された薪木の破片かなにかが背に当たった。
「あつっ!」
今までがウソのように一気に正気に戻った。
べろから血がポタポタと垂れた。
地面に溶けるように染みる血。その様子を見てから一気に痛みと気持ち悪さが湧いた。
おれは何をしてるんだ!
声を出そうにも出なかった。
周りを見渡すと女の姿は無かった。タープにつけていたLEDランタンは地面に落ち、そばの木を照らしていた。
その木には何やら模様のようなものがあった。
近づいて確認すると相合傘が木に彫られていた。
「ユリ」「××✖︎」と書いてある。
その隣の木にもさらに隣にも色んな男女の名前が一本の木に一組ずつ書いてあるのだった。
おれは不安と恐怖に駆られ無我夢中で帰り支度をした。
その山から離れたい一心で車を夜通し運転して家に帰った。
もう朝になって家に着いたのだが、飲まずにはいられない気分になって冷蔵庫の酒たちをガブガブ飲んで必死に酔おうとした。
酔うどころか頭はスッキリとしてきた。ハイになっていたのだろう。
おかしくなったアタマでおかしな想像をしてしまった。
もしかするとあの場所はカップルで行くと必ず死にたくなる場所ではないのか?と
夢が幻か、おれは女から出された木の根を喜んで咥え込み貫こうとした。
おれは一人だったから助かったが、カップルならそのまま夢のようになっていたのではないか?
もしそうなっていたら「ユリ」の相手の名前はおれの名が刻まれていたのだ。
その想像を掻き消すために酒を浴びるように飲んで寝た。
作者春原 計都
お久しブリーフ