ヘビが死んでいた
田舎ではよくあること。でもなぜだか気に掛かった。黒に近い色をした……多分、アオダイショウだった。
自転車にでも轢かれたのだろうか、自動車のタイヤに潰されたにしては狭い範囲が引き潰され肉がはみ出ていた
通学途中だったので、ハンドルから左手を離し片手で拝むにとどめて通り過ぎた
夕方
帰路にて再びヘビの死骸を見つけた
朝にみたものと同じところが損傷していたので同じヘビだと思う
でも、朝に見かけた場所より随分と進んだところで見つけたのは、朝方にはまだヘビは生きていて残りの命を燃やすように進んだのかも知れなかった
それでもなお車道上にいるヘビの死体がなんだか哀れになって、車に轢かれないよう道路脇の草むらに蹴り入れた
さすがに野生動物(しかもヘビ)を手で持つのは衛生的にためらわれたので蹴り入れてしまったのだが、ふと罰当たりな気がして草むらに向き直ると両手で手を合わせて拝んだ
実家の法事で聞くお経をうろ覚えで頭の中で唱えた
翌朝、草むらにはもうヘビの死骸はなかった
「トンビにでも食べられたのかな」そんな風に思った
夏の終わりが近づいたころ夕立から続いて夜中も大雨が降り込めた日があった
ひと月が経ち、ヘビの死体のことなど忘れたころだった
ゲコゲコゲコといやにかえるの声が大きく聞こえた
ウチの近くは田んぼばかりでよく聞く音なのだがやけに耳につく夜だった
雨の降りしきる中、よせばいいのにどうしてもジャンプが読みたくなって近く(約1km先)のコンビニまで出かけた
ザアザアと雨が降っていた
合羽を着るのも面倒なので自転車はやめて傘をさして歩いて行った
真っ暗にみえる車道に対して街灯が光る歩道は明るい。まるで用意された一本道のようにも見える
その先に煌々と蛍光灯の光るコンビニがあった
夜中の10時を回ろうかという時間なのだがコンビニの前に人影が見えた
だんだんとコンビニに近づく僕
人影は遠目からみると逆光でぼんやりするほど真っ白な服を着ているように見えていたんだけども
近くに進めば進むほど輪郭がハッキリしてきて、その人影は白い服を着ているとかじゃあないのがわかった。
まっすぐ突っ立っていた白いヒトガタは僕がコンビニの入り口に近づくほどに両腕?をうねるようにくねらせ、興奮したかのように足?に当たるところも人間には不可能な動きでウネウネと動かした。
ああ、これはヤバいやつだ。
なんというか直感的にそう思った。
僕は出来るだけ真正面からソレを見ないように、意識しないように気をつけてコンビニに入った。
ジャンプを書棚から取るときには苦労した。普通に取ればどうしてもガラスの向こうの白いやつが目についてしまうから、目を瞑ったまま長年の勘でジャンプらしき雑誌を手の感覚で探り当て、振り返ってから確認してを繰り返すハメになった。
その時はどうしてもジョジョの続きが気になっていたのだ
このくらいのこと徐倫に比べれば苦労のうちに入らない
そんなことを思っていた。
コーラとポテチ、ホントはダメだけどタバコを一箱、それとジャンプ。レジを済まして外に出た。白いのを意識しないようにすぐにタバコを一服。
すぅー、フゥーーっ
思いっきり肺まで吸い込んだ煙を長く吐き出す。
傘立ての傘を取る。
無意識に左を向いてしまった。
白いヒトガタがいた方向!
しかし、あの白いものはコンビニの前から消えていた。
ホッとして帰路につく、ザアザアと降っていた雨は弱まり霧のように小さな雨粒が風が吹くたび吹きつける程度になっていた。
国道を降り、田んぼばかりの細い道路を行くと家に着く
サアッと風がひと吹き、それを最後に雨が止んだ
代わりのように反対からむわっとする湿気を帯びた生暖かい風がきた
閉じた傘をぶらぶらさせながら歩いていると、ふと違和感があった
「カエルの鳴き声が聞こえない」
出がけにはうるさいほどに鳴いていたカエルの声が聞こえない
雨と共にカエルまで全部引き上げてしまったかのような静寂だった
湿気た風
視界の端、山のすそに広がる田んぼの方に白いものがちろちろと動くのが見えた
まだ!まだいたんだ!
頭の中が、興味の矛先が、意識が、白いものに向かう。向かってしまう。
でも何故だかわかる。アレは直視してはいけないものだと
こんなときはどうするんだっけ、素数を数えるんだっけ、頭の中は自己矛盾でパニックだった。
どうしても見たい!
決して見てはいけない!
違う、アピールだ。見ていないことをアピールすればこっそり見ても気づかないんじゃないか?
いま考えると本当にこの時が一番危なかった。
多分、僕はあの白いヒトガタに思考を誘導されていたのだ。
そう、見ていない“フリ”をするため胸ポケットからハイライトを一本。
カチッ、カチ
火を付けて吸う
フゥーと紫煙を煙幕代わりに白いヒトガタに目線を……
果たしてそこには、風に揺れる稲が広がる田んぼと暗く黒い山の影しか見えなかった。
ポロッと長くなったタバコの灰がスニーカーに落ちる。
少しの間、呆然自失していたらしい。
ハッとして「いまなんで僕はアイツを見ようとしたんだ!?」内心で驚いた。ふらふらと力が入らないまま歩をすすめる。
そしてやっとのことで家に帰った。
僕はこの出来事から数年経って、ふまじめな大学生をしているときに『クネクネ』というネットの怖い話を読んだ。
たぶんヘビなんだ。
ちゃんと祀られなかった蛇神様だと思うんだよ。
そしてあの頭の潰れたヘビは今もどこかをさまよっているんだ。
作者春原 計都
あんまりにもあんまりな投稿が多いとやる気スイッチ消し飛ぶのわかる