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長編9
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ぶら下がる女(先生怪話)

大学生になって秋になった頃。人肌恋しい季節だが彼女が居ないことを寂しく思いながら公園のベンチに座って甘酒を啜る。秋なのだがまだ葉っぱが全体的に色付く前の季節である。そこまで残暑がキツイ訳ではなくどことなく涼しい季節である。だが僕にとっては人肌恋しいのである。はぁとため息を付きながらベンチから腰を上げると横に女がぶら下がっていた。

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見た目は高校生ぐらいだろう。セーラー服を着ていたのだが、今日は平日。大学をサボっている僕とは違い学校に行かなくては行けないはずだ。なのに何故ここにぶら下がっている?女子高生は公園で見掛ける健康器具のぶら下がりのアレではなく木にぶら下がっている。まぁ、今の僕にとっては関係ない。大きなあくびをひとつして、立ち上がったところで、「何さぼってんだ?」と聞きなれた声。先生だ。

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「大学はどうした?」

「今日は講義に出なくていいんですよ」とぶっきらぼうに言うと「嘘をつけ~。さぼってんだろ?」と言いながら僕の後ろを見て「なぁ、さっきの女知り合いか?」と訊いてきた。僕は「女ってなんですか?」と聞き返すと「いや、知らないんだったら別に」と懐からたばこを出すと口に加えて火をつける。あの女子高生のことだろうか、辺りを見回してももう居ない。

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数日後、僕はヘナヘナと玄関に倒れこんだ。先生に呼ばれてこっくりさんをやったのだが、こっくりさん派生の亜種、エンジェル様やらチャーリーゲームやらを深夜に色々やらされて精神的にダウンしてしまった。こういうことを毎回やらされたら僕の身が持たないと何とか自室にたどり着きベッドの上にバフンと身を投げそのままの姿勢でうとうとしていると携帯がなりビクンとなった。慌てて携帯を取り、画面を開くと非通知になってた。小首を傾げながらそれとなく電話に出てみると、『…………』とか細い女の声が聞こえるが何を言ってるのか分からない。

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「もしもし」と声をかけても『…………』と小さな聞き取れない声しか聞こえず面倒に思い電話を切り電源を落とした。その日は何もなかった。

次の日に先生から呼び出しがあったので、夜道を自転車で走っていた。途中、土手に差し掛かった時に見覚えのある姿を見かけた。あの女子高生だ。だが、何か変だ。自転車を止めて土手を少し降りて女子高生が居るところをまじまじ見る。薄暗く夜目が聞かないが女子高生は川の近くにある木の側で何かをしていた。

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ぶら下がっていた。あの日あの時のあの行動。セーラー服姿の女子高生が懸垂でもしているのだろう感じを出しながら木にぶら下がっていた。が、おかしいのはそこもそうだがその女子高生の姿に戦慄が走った。

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ボタボタと血が滴り落ちている。というか下半身が無い。

足があるはずの場所には腸が垂れ下がっていて、そこから血が止めどなくボタボタボタボタボタボタボタボタと落ち続けている。脊椎も丸出しで凄く痛々しかった。僕は悲鳴を上げるのも忘れて土手を駆け上がり自転車に飛び乗ると凄い勢いで自転車を漕ぎだした。暫く進んでいると電柱の上にあの女子高生が片手でぶら下がっていた。

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怖かった僕はそのままスルーして通りすぎたが、あの女子高生が見えなくなった所でまた別の電柱の上に居た。さっき見たのと違うのは、顔が気持ち悪いくらいの笑顔だったことだ。僕は夢中になって自転車を漕ぐ。もうすぐ先生の家だった。僕は何も見ないようにして猛ダッシュで先生の所まで行き、凄い勢いで引き戸を開けて閉めて鍵を掛けてドタドタ走って明かりの付いた居間に駆け込んだ。

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先生が目を真ん丸にして「どしたの?なんかあった?」と聞いてきたときに涙が溢れて言葉にならなかった。

僕が落ち着くのを待って改めて先生が「で、どした?何か怖い目に遭ったのか?」と訊いてきた。

「先生、さっきテケテケ見ました」

「なに見たって?」

「テケテケ」

「テケテケ?都市伝説で下半身の無い女のやつ?」

「そう、それです!!それ見たんです。で、追いかけられました」

「へぇー、それって這いずるみたいに?」

「いえ、電柱の上を蔦ってみたいな感じで」

「ん?電柱の上?テケテケじゃないんじゃない?」

「いえ、テケテケです。だって、見たとき下半身が無かったんですよ。臓物とか脊椎が丸出しで、最初見たときは公園でよくわかんなかったですけど、さっきの夜土手の下を見たらそんな感じの女子高生が木にぶら下がってて……」

「まぁ、待て。確かにテケテケみたいだがテケテケとは違うだろう。そもそも電柱にぶら下がってた話を俺は聞かない。何かの見間違いじゃなかったのかって言いたいが、君のさっきの姿を見た後じゃ信じるしかないね」

と先生は言って丸テーブルを退かして畳を捲る。そこには確か井戸があったはずだ。そこに井戸はあったが、前見たときより怖くない。じっと中を見てみると人形がフワフワ浮いていた。その人形が人形達が踊るようにフワフワと漂っていた。

僕がじっと見ていたのに気付いたのかそそくさと元にあっただろう定位置に人形が置かれそれ以降フワフワ浮かなくなった。なんてシュールな絵面だったのだろうと僕はキョトンとしていた。目が点になってたと思う。と、先生がニッと笑うと「落ち着いたみたいだな」と言いまた板を取り付けて畳を上に置いて丸テーブルを元の位置に戻して改めて座り直した。

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「で、だ。お前を追い掛けてきたその女をどうするかだが………」

「そ、そうです。どうすればいいですか?一応、玄関に鍵を掛けちゃいましたけど……」

「そんなことしなくても入ってこれないよ。井戸の連中も居るし他にも得体の知れない連中がワンサカ居たりするし簡単には入ってこないんじゃないかな」

「え?他にも居るんですか?」

「前にさ、偶然だけどね。地下室を見付けてさ、降りていったらデカイ座敷牢の跡があってね。そこに、人の形をした赤黒いシミみたいなやつがあって、そこからシクシク鳴き声が聞こえてきてね。これは当たりだと思ったね、まぁそれだけじゃないけど」とカカカと笑う先生を見ながら僕は引きつった笑いしか出来なかった。

「で、井戸の連中の中には子供が何人か居てね。そのままにしておけないから日本人形を骨董屋で買って与えてみると静かになって今じゃあの通り」

「子供だけじゃないでしょう?大人の連中はどうなったんですか?」

「殺した」

先生は冗談か冗談じゃないかよく分からない表情で言いはなった。僕は何も言えなかった。ただこの時から、先生の事が怖くなったと思う。

「それに家っていうのは一種の結界の役割を持ってるから入ってこれないと思うよ。マンションやアパートは話が変わってくるけど」

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居間の方でズビズビと茶を啜ってる先生がふと顔を上げて玄関に向かう。僕は、「どうしたんですか?」と言うと「なるほどね。お前は来るな、そこに居ろ」とだけ答えて居間を出ていった。

数十分後、先生は戻ってきたが先生の手の辺りから腐った血の臭いがする。

「先生、何してたんですか?」

「例のテケテケモドキを追っ払ってきた」

「例のアレですか?どうやって……」

「アイツを連れていくなって言っても聞きやしない。その内に俺も連れていくって微笑を浮かべやがったから薄くなって消えてくまで殴り続けた」

「霊を殴ったんですか?ってか、霊って殴れるんですか?」

「まぁ、そこは……色々とね。で、諦めるまで殴り続けたんだがその内泣きそうになりながら消えていったな。さて、お前がこれからアレに狙われないとも限らないからな。用心に用心を重ねたほうがいいだろうしこれをやる」と先生が俺に変わった形のお守りを渡してきた。

一瞬、タリスマンかなと思ったが何か気持ち悪い。小さな人間の頭蓋骨みたいなものに紐が通されていて、丸い玉や三つ編みのように重ねた紐が六芒星のような形を形成していて黒ずんでいる。

「あのこれなんですか?」

「ブードゥ教のお守りを改良して作った特別製の呪具みたいなもん。これで多分大丈夫だと思うんだがな」

「大丈夫じゃなかったらどうするんですか?これが大丈夫っていう保証はないでしょう?」

「そんときはそんときだ」とカカカと笑う先生を見て僕は引きつった笑いしかできなかった。本当に大丈夫なのだろうか……。先生の家を後にする。自転車に股がり何気なく横を見る。

物凄く分かりづらいぐらいの遠くにあの女が、下半身のない女がこちらを見ていたが、ただ此方を見ているだけでここには来ないようだ。

お守りが効いたのかなと胸を撫で下ろしてそのまま帰路に着く。マンションに着き、部屋に入りそのままバフンとベッドに倒れこみそのまま寝てしまった。

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目が覚めると時計の針は午前四時を指していたけど喉が渇き水を飲みに台所に行こうと部屋の戸を開けたら

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歪んだ満面の笑みを携えた例の下半身の無い女がケタケタ笑っていた。

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声も出せずにそのまま尻餅をつく。女はよく見えると肌が白い。有名なホラー映画で呪怨ってあるだろ?呪怨に出てくるとしおくんっていう子供の霊が居るんだけどアレぐらい白い。で、血管は緑じゃなくて青かった。ブルーハワイよりも青い。着色料レベル。口は笑っているんだけど、歯が血に濡れているのか赤黒い。そこから鉄錆の臭いが出てる。

髪はボサボサで、所々汚れている。というか土臭い。髪の間からムカデの頭がこんにちはしてるのが更に気味悪いし気持ち悪い。

そんな女はゆっくりと僕の方に近づき、その手はだんだんと僕の顔に触れようとした瞬間、バチンと目の前で火花が舞った。女はそのままの衝撃で後ろにぶっ飛び此方を凝視した。僕の首からぶら下がっているタリスマンモドキが独りでに揺れていた。

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「え?」と声を出して呆けていると『うぉーーーーん』というオオカミの声のようで野太い男のような声がこだました。と、部屋の入り口の右横から全裸で全身真っ青の男が女に掴みかかった。その男はスキンヘッドで髪がなく、目と口は燃えているのかのようにメラメラと火を出しているように見えた。あと、歯もなかった気がする。

『ごおぉぉぉぉぉん、オォーーン』という声を発してそのまま引っ張るように男は女を掴んでそのまま外に飛び出していった。僕は慌てて追い掛けるとそこには、何もなかった。誰もいなかった。辺りを見回しても誰も居ない。下半身の無いあの女も目と口の中が燃えていた真っ青な男も。

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ふと首の辺りに違和感があって触る。タリスマンもどきが消えていた。落としたかとその辺りを見回して無かった。タリスマンもどきはまるで最初から無かったとでも言うように忽然とその場から消えていた。

(やば、先生に何か言われる)と思ったがどうしても見付からず気付いたら朝になっていた。僕はしぶしぶ先生にタリスマンを無くしたと電話で伝えると、「あぁ、アレか?あれな、一回使用で無くなるもんだから気にしないでくれ。今ここで電話が掛かってきてるってことは無事終わったんだな」

「無事に終わったってことは、僕はもう大丈夫なんですか?ってか、あの男は何だったんですか?あの女は何処に行ったんですか?そもそもあれは一体?」

「まぁ、落ち着けよ。昨日言ったと思うけどタリスマンはブードゥのお守りを改良して作ったもんだ。呪術的要因の強い宗教のお守りを改造して作った代物だ。ちゃちな霊から大物までちゃんと効力を発揮して守ってくれる。まぁ、下手に扱えば代償を持ってかれるんだが、そこは気にすんな」

「気にしますよ」

「無事だったから気にすることもないだろう。で、あの男はまぁ簡単に言えば守護してくれる魔術的な何かだ。俺も詳しくは知らん。ただそのタリスマンを通じて持ち主の命を守護する役割があるみたいだな。で、敵対するものを奈落の底に引きずり込むらしい」

「らしいとは何ですか?」

「だから、俺も詳しくは知らん。作り方は知り合いに教えてもらったんだよ。世界の呪術とかを研究してるとか何とか言ってたけどまぁ、何はともあれ無事だったようだし、祝いに心霊スポットでも行くか?」

「辞めときます」

先生からの大ブーイングを遮るように電話を切る。そっか、もう大丈夫かとほっと胸を撫で下ろした。安心しきってテレビを着けたとたんに心臓が止まるかと思った。その時テレビでは都市伝説かなにかの特集でテケテケの事が写っていた。はぁ、心臓に悪いと思って大きなため息をはいた

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