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中編4
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災害報道

「ねえ、お婆ちゃん、この人達ってみんなお化けになって出てくるの?」

連日報道される元旦に起こった大きな地震のニュース、そして日々増えて行く死者の数を見ながら小学四年になる美奈が祖母に向かって尋ねた。

孫娘の突然の問い掛けに、祖母は苦笑いを浮かべた。

「さあ、化けて出てくるかどうかはわからんよ。」

「でもみんな、死にたくて死んだわけじゃないでしょ?じゃあお化けになっちゃうよ?」

美奈は年末に中学生の兄と一緒にCS放送の心霊特番を見ていた。

兄の背中に隠れるようにして見ていたのだが、そのせいでこんなことを考えたのだろうか。

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すると祖母は美奈の手を引いて二階のベランダへと上がった。

高台に建つ美奈の家のベランダからは、青空の下で輝く、小さな湾になった海が良く見える。

「今から十三年前、美奈が生まれる前にここでも大きな地震と津波があったんじゃ。」

「うん、学校で教えてくれてるし、毎年避難訓練もあるよ。」

祖母は美奈の言葉に頷きながらベランダに置かれた木箱に腰を下ろし、目を細めて海を見つめた。

「あの雪の降る日、この町を大きな津波が襲った。この家は高台にあって無事じゃったが、津波は家も車も、そして三百人を超える町の人達をも呑み込んで海へ引きずり込んでいった。未だに百人ほどが海に呑まれたままじゃ。」

「うん、知ってる。」

「しかし、今はその海でみんな漁に出て魚を捕って食べ、夏になれば海水浴をする。美奈も夏になればあの海で泳いでるじゃろ?」

「うん。でも、そうやって考えるとなんか怖い。」

すると祖母は静かに首を横に振った。

「なんも怖がることはない。地震も、津波も、火山も、そして嵐も全ては神様の仕業でな、人間はそれを受け入れるしかないんじゃ。」

美奈はそれを聞いて口を尖らせた。

「でもこの前のテレビで、自分が望まないのに死んだ人はその恨みを晴らすために幽霊になって出てくるって。」

「人間は神様を恨むことなんかできないよ。日本の神様達は、人間のように怒りもするし、悪戯もする。人間はそれを甘んじて受け入れるしかないんじゃ。恨む相手がいないから、みんな化けて出ることもせずにあの世へと渡って行くんじゃろ。”諦め”じゃな。」

「みんな、自分が死んだことを諦めちゃうんだ・・・じゃあ誰も幽霊にならないの?」

美奈の更なる問いかけに祖母は大きくため息を吐いた。

「中には、残した家族や恋人などに強い思いを持って幽霊になって帰ってくる人もいるじゃろ。しかしそれは恨みのような負の感情で化けて出てくるわけじゃないから、美奈が怖がる必要はないよ。」

「でも幽霊は怖いもん。」

「もちろん死んでいった人達は皆何かしらの思いを残している。生き残った人達はその思いを受け止めるために、供養を欠かしちゃいけない。今年ももうすぐ三月のあの日が来る。美奈もちゃんと手を合わせて亡くなった人達を供養してあげてくれるかい?」

「うん。わかった。」

笑顔でそう答えた美奈を見て祖母はにっこりと微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。

そしてもう一度海へ目をやると、目を閉じて静かに手を合わせた。

それを見た美奈も、誰に対して祈っているのかもわからず、慌てて同じように海に向かって手を合わせた。

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「でも、神様って、何でそんな酷いことをするの?」

お茶にしようと二階から一階の居間へ降りる途中で、ふと思い出したように美奈がまた祖母に問いかけた。

「さあな、理由なんかないのかもしれないし、何かあるのかもしれん。もしかしたら神社でみんなが私利私欲に満ちたお願いばかりするから怒ってるのかも知らん。やれ、なんちゃらスポットとか言って、遠方に出かけては縁も所縁もない神様にお願いごとだけ投げつけて帰ってくる。神様に願を掛ける時はそれなりのルールがあるんじゃ。それも知らずにお賽銭だけ放り込んでお願いした気になっとるんだからいい気なもんじゃな。」

「お願いしたい時は、どうすればいいの?」

「一番大事なのは、地元の氏神様じゃ。神様のすることに対して人間は無力。でもできるだけ穏やかに暮らしてゆくためには、きちんとその土地の氏神様にお参りして、平和に暮らせるようにお願いするんじゃ。」

「うん、今年もちゃんと初詣に行ったよ。でも、自分のお願いをしちゃいけないの?」

「それが自分の欲の為だけなら、それはいかん。でも、病気を治したい、事故に遭わない、希望する学校に行きたい、いい人に巡り合って結婚したい、そんな願い事は周りの人の幸せにもなる事だから、それはかまわない・・・と、婆ちゃんは思うが神様がどう思うか次第じゃな。」

「難しいんだね。」

「何も難しいことはない。皆と自分が幸せに暮らせるよう祈るだけじゃ。」

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一階へ降りるとリビングのテレビでは、災害報道が続いていた。

画面には悲惨な災害現場の映像が流れている。

美奈は何を思ったのか、テレビに向かって正座すると黙って手を合わせていた。

◇◇◇◇ FIN

Concrete
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