【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編3
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もう一人の自分

日勤業務が終わって退勤打刻を押したのは21時30分過ぎ。

定時は16時30分だが、このくらいの残業はいつものことであった。

地下におり着替えを済ませ病院のタクシー乗り場へ向かう。

病院から駅までの巡回バスは最終が19時50分発のため、日勤終わりは乗れないことがほとんどである。

駅までは20分少し歩かなくてはいけないため、いつもタクシーに乗ってしまう。

22時前でも5台ほどタクシーが並んでいた。医師や看護師が勤務後にタクシーを使って帰宅することを知っているドライバー達だ。

前に2人先客がおり、それぞれタクシーに乗り込んだ。順番に進んできたタクシーが前に停まり扉が開く。

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「どちらまでですかー!」

かばんを横に置き、シートベルトを締めながら行先を言おうとした矢先

「あれ、お客さん…。もしかして○○駅までですか?」

「はい、そうですけど。」

このドライバーさんのタクシー前にも乗ったかなと思っていると

「あれ、おかしいな。変なこと聞きますけどねぇ。お客さんさっきも乗られませんでしたか?」

「いえ。いま出てきたばかりなので」

「いやいやー!そうですよねえ!いやあね、今さっきお客さんにそっくりな女性を○○駅まで乗せてったのよ!本当に今さっき!駅で降ろしてぐるっとそのままこっち(病院)に戻ってきたんだけどねえ!そっくりさんかね!いやほんと、お客さんそのまんまだよ!」

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冷たいと思われるかもしれないが、私は仕事終わりのタクシーではあまり話しかけられたくないタイプ。話しかけられれば笑顔で返す。しかし本音は5分、10分でも寝たい。タクシーの中で爆睡はできないが目をつむって少しうとうとするだけでも違うのだ。

大抵のドライバーは必要最低限しか話しかけてこないが、たまにお話し好きのドライバーもいる。元気な時はいいが仕事終わりは勘弁してほしい。しかも声も大きい。

ああ、お話好きなタイプかと思いながら「そうだったんですか」と軽い笑顔で返しすぐに目を閉じた。

駅に着き領収証がでるのを待っている間も「また戻ってお客さん乗ってきたらどうしようかねえ!」などと冗談を言っていたが、私は何も言わず笑顔だけを返した。

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そんな記憶はすぐになくなり、ある日友人の家に遊びに行った時のこと。

12時に友人の家へ行く約束をしており、駅前のケーキ屋さんで、自分のチョコレートケーキと友人が好きそうなフルーツタルトを買って11時58分頃にインターホンを押した。

数回の呼び出し音のあとガチャっという音がして

「…外に出てたの!?」と友人の声がした。

言っている意味がよくわからなかったが、とりあえず開けるから中に入ってと言われ5階まであがる。

エレベーターが開くと廊下のすこし先で友人が待っていた。

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話を聞くと私が友人宅のインターホンを押した10分ほど前に『私』が来たらしい。

友人の家にあがり普通に会話をしていたという。

友人がトイレに入って出てきたら『私』の姿はなく、『私』の荷物も靴もない。どこへ行ったのかと思い連絡しようとしたその時、インターホンが鳴り私が来たと。

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その時にタクシーでの出来事を思い出した。

私としてはそんなはずはない、変なことは言わないでほしいと言ったが、友人としても確かに『私』と会っており、ドッキリはやめてほしいと言われた。

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タクシーに乗っていた『私』も、友人の家にいた『私』も、それはどちらも私だったのでしょうか。

記憶が抜け落ちているということもありません。

私なはずがないんです。

Concrete
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