今回は、創作、というか、空想のお話をしたいと思います。
さて、その前に経緯をお話しなければいけませんね。
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あれは、数年前の3月のことです。
私は、友人のA子とカフェで話しをしていました。
T子さんはフリーのライターで、色々な分野に手を出していたのですが、一番好きだったのは、怪奇譚や都市伝説などでした。その関係のムックなどの著書も数冊書いていたので、ライターとしての収入もそこそこあったと思います。
私も怪奇譚が好きですので、A子とは気が合い、数カ月に一度くらいはこうして会って話しをすることがありました。
この日のA子は「大きい仕事が取れた」ということで非常にウキウキとしていました。
どうやらオカルト雑誌のワンコーナーを任されることになったようです。毎月、一つずつ、怪奇譚を掲載するというもの。取材費用や調査費も出るし、原稿料も良いとのことでした。
「早速来月に第一回の記事を出すんだけど、最初だからインパクトがあるやつがいいと思うのよね」
どんな記事を書くの?
私が尋ねると、
「うーん、『女の人が聞くと死ぬ話』っていう都市伝説があって、それについて書こうかなと思っている」
私は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
だって、あなただって女性でしょ?
「正真正銘、生まれたときから100%女性よ。」
まあ、大丈夫でしょう、と言って、彼女は笑った。身なりに余り気を使わないが、こうして笑うともとの顔立ちが整っているので、とても魅力的だった。
くりくりと良く動く目は好奇心と愛嬌に満ちている。きっと、この顔立ちもA子が取材をするうえで役に立つんだろうな、などと考えてみる。
A子が語るところによると、その「女の人が聞くと死ぬ話」というのはこんな話らしい。
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T県のある町が発祥の話。
ある「話」があって、その話は男性が聞いてもなんともないのだけど、女性が聞くと、その女性は数日以内に事故や病気などで死んでしまう。
実際に、その話を友人経由で聞いてきた人がいて、ある日、ついうっかり妻に話したという。そうしたら、次の日の朝、妻は寝床で冷たくなっていたっていう話。
急性心筋梗塞だって。
こんな話がたくさんある。
当然、その話自体は広まっていない。どんな話かわからない。
☆☆☆
どんな話かわからないけど、最恐だという話だけが伝わっている「牛の首」みたいな話だ。
「ね?面白そうでしょ?その話自体を聞くんじゃなくて、その話にまつわるうわさを集めるっていう体にすれば一本記事かけると思うんだよね」
明日からT県に行ってくる、と楽しそうに言った。
気をつけてね…
なんとなく、私は嫌な予感がしたが、そのときはそう言うしかなかった。
数日後、A子とビデオ通話する機会があった。
「今、T県に来ているんだけどさ、思いの外、うわさが広まっているんだよね。私がこの2日くらいで聞けただけでも数人が『友達の友達が、その話を聞いて死んだらしい』とか、『先輩が死んだ』って言っている。」
でも、肝心の話の内容が全くわからない、という。
「それで、今日、民俗資料館に行ってみたんだ。そういう伝承があるのか、あるとしたらいつからなのかを調べたくてね。そしたら、『女の人が聞いたら死ぬ話』の伝承はなかったんだけど、『切ったら女の人が死ぬ竹林』ならあったんだ」
なんだそれは?
私の頭に疑問符が浮かんだ、似ているようで全然違うじゃないか。
「『かか切りの竹』っていう話なんだけど、T県S町に、ある竹林があるんだけど、その竹林の竹を男性が切ると、妻が事故や病気で死んでしまうんだって。」
なるほど、「かか」というのは「妻」という意味か。切ると自分の妻が死んでしまうから「かか切り」というわけだ。
「それで、面白いのは、資料館の館長曰く、妻に先立ってほしい男性が夜ごとに竹林に侵入してきて、竹を切ろうとするんで、その竹林がある山を持っている人がえらく困っているっていうの。とうとう、竹林をしっかりフェンスで囲っちゃったんだって。」
なんか信憑性があるよねー、とA子は笑った。
「今は、その土地はフェンスを張った人の一人息子が相続したみたいだけど、借金を苦にして自殺しちゃったんだって。」
「それと、その『かか切りの竹』だけど、死ぬのは妻に限らないらしいんだよね。例えば、その切った男に妻がいない場合には、母親や姉が死ぬみたい。それもいなければ、親戚筋の女性とか。血縁を辿っていくっていうから相当強力な呪いなんだろうね」
「明日、ちょっとS町のその人のところに取材に行こうと思っている」
そう言うと、おやすみ―とA子は回線を切った。
結論を言うと、A子と話すのは、これが最後になった。
1️ヶ月くらいしてから友人づたいに聞いたのだが、この会話をした次の日、A子の乗ったレンタカーが山間の崖から落ちて大破。
A子も帰らぬ人になったのだ。
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さて、ここまでが前段の話です。A子はなぜ死んだんだろう、と考えたとき、一つユニークな仮説を立てたので、それを「空想の話」として書いてみたいと思います。
これはあくまでも空想の話なので、女性が見聞きしても死なないと思いますが、念の為、女性は読まないほうがいいかもしれません。もし、読むとしたら自己責任でお願いします。
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タイトル:『女性が聞くと死ぬ話』
まったく、親父も面倒な土地を残してくれたもんだ。
俺は大学を出て、東京の中小企業に就職していた。うちの実家が地元に結構広い土地を持っているのは知っていたが、あんなド田舎の土地なので、さして魅力も感じていなかった。
まあ、実際に、親父が死んで相続してみると、「魅力がない」どころか、「とんでもない」土地だったのだ。
まず、なんの役にも立たない。別に住宅地としての魅力もない、農作地にも出来ない、仮に出来たとしても自分は農業が出来るわけでもない。
さらにあの竹林もある。
親父が言うには、「切ると血縁の女が死ぬ」という呪いの竹林だそうだ。悪いことに「かか切りの竹」ということで、地元じゃたいそう有名だ。このままじゃ、「瑕疵物件」ということで相続税の物納も出来ないらしい。
そもそも何でそんな竹林を放っておいているんだって話なんだけど、俺のひいおじいちゃんが、その竹林を切り開いて農作地にしようとして業者を雇ったことがあるそうだ。けど、その業者の関係した女性がみんな死んでしまったっていう話。以来、うちでは竹林になにかをするのはすっかりタブーになってしまった。
さらに悪いことに、どこかでうわさを聞きつけた人が、「妻を殺したい」っていうことで、うちの敷地に入ってくることが立て続いた。ついでにうちのものを失敬していくやつなんかもいるので、不用心だったし、だいたい、人に死んでほしいと思うような奴が、うちにこっそりやってきて呪いまがいのことをやっているってこと自体、気味が悪い。なので、親父は竹林をフェンスで囲ってしまった。
そのフェンスの維持費もかかる。相続した土地はとんでもない金食い虫なのだ。
俺は頭を抱えた。
母親は親父よりだいぶ前に死んでいる。兄弟もいないし、親戚もいない。完全に身寄りがないので、竹林を誰かに押し付けることも出来ない。かと言って、今の収入だと、自分が食うだけでも精一杯で、そんな土地の面倒まで見られない。
俺は考えた挙句、竹林を切ってしまおうと決心した。
そもそも、呪いなんて眉唾だし、仮に呪いがあったとしても、前述の通り、俺には身寄りがないから、血縁を辿って死ぬ女もいない。(ついでに言えば彼女すらいない)
と、言うわけで、会社に1週間の休暇届を出し、竹林の伐採を行なうことにした。
可能な限り道具を準備し、熱心に取り掛かったが、やはりかなり時間がかかった。ただ、その甲斐あって、竹林はすっかり更地同然になった。
「あー、終わったよ」
俺は心底ホッとした。後は役所に届け出て、相続税を物納にしてもらおう。そうすれば土地の処理もできて一石二鳥だろう。
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次の日、早速、おれは役所に出向いた。物納の手続きは何かと面倒だったが、対応してくれた女性の係員は親切だったので、手続きはほとんど終了させることが出来た。
「ありがとうございます」
俺は感謝の気持ちで一杯になり、その女性に頭を下げた。
「いえいえ、また、いつでもご相談に」
笑顔で言っている途中、急に、その女性係員の顔が苦悶に歪んだ。
げふ、ぐええ・・・
突然口から血を吐き、グラリと体が横倒しになる。
2〜3回痙攣をし、そして、ぐったりと動かなくなった。
ほんの数秒の出来事だった。
「え?・・・」
一瞬思考が停止する。
きゃあああ!!
横でおばちゃんが悲鳴を上げる。その悲鳴を皮切りに、やれAEDだ、救急車だと、役所の中はちょっとしたパニックになった。
結局、その女性係員は亡くなってしまったようだった。
警察の事情聴取を終え、俺は帰路についた。
なんだよ、あれ・・・
女性係員が口から血を吹き出したときの光景がまぶたに焼き付いている。
なんなんだよ・・・
落ち着かなくちゃ・・・。
普段飲まない酒でも煽ろうと思い、ビールでも買おうと実家のそばの酒屋に寄った。夜が早いド田舎だが、まだ酒屋がやっていて良かった。
俺は缶ビール2本とつまみを買った。昔馴染の酒屋のおばちゃんに金を払う。
「どうしたんだい?父ちゃん死んで、東京から帰ってきたんかい?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。相続とかの手続きが面倒で」
「ああ、あんたんところ、あの竹林があるしなー。」
「そうなんだよね。まあ、それについては目処は立ったんだけどさ」
俺はため息をついた。とてもじゃないが、昼間の出来事を話す気にはなれない。
「まあ、そういうことで、じゃあね、おばちゃん」
「ああ、まあ、元気だしなよ?」
おばちゃんはどう今の会話を解釈したのか、俺を励ます言葉をかけてくれた。
今日は早く寝よう。
俺は酒屋を後にした。しばらく歩いていると、『ドン』という腹に響くような大きな音がした。何かが爆発したようだった。
今、歩いてきた方向ー酒屋の方向だった。
俺は慌てて戻ってみた。すると、
さっきまで自分がいた酒屋に大型ダンプが突っ込んでいた。何かに引火したようで、店からは火の手があがっている。
「あああ・・・・」
嘘だろ・・・
俺は声にならない声を上げた。目の前の光景がとても現実とは思えなかった。
ちょっとしてやっと体が動くようになった俺は、情けないことに、後退り、一目散に家に逃げ帰っていた。
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ビールを煽って、布団をかぶって、震えながら考える。
死んだ。俺と話した直後に。
一人ならず、二人もだ。
偶然?違うだろう。
俺の脳裏に『かか切りの竹』の話がよぎる。
『かか切りの竹』・・・
妻がいなければ、母、
母もいなければ姉妹
それもいなければ、親戚
でも、それもいなければ?
いないとどうなるんだ?
呪いのエネルギーがあるとして、
誰にも向かない呪いはどこにいく?
母や姉妹、親戚は血縁
妻は?
ただの「縁」?
「縁」ってなんだ?
関係?
関係者?どこまで?
もし、もしも・・・・かか切りの竹を切った呪いが俺の体に溜まっていて、それが縁をたどって女性に行き着いて、行き着いた女性が死ぬとしたら。
女性係員は俺の相続の手続きに関わった
酒屋のおばちゃんは俺と会話した…
俺は、俺は…
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数日後、俺は確信した。
「俺に関わった女は死ぬ」
駄目だ。どうすることも出来ない。
流石に見ただけとか、すれ違っただけでは死ぬことはないが、俺がこのことを相談した友人が妻にこの話をしたら、そいつの妻は急性心不全で死んでしまった。
友人は呆然自失だ。
俺がいけなかった。
話をしても駄目なんだ。
俺がいけなかった。
かか切りの竹は切ってはいけなかったんだ。
どうしたらいい?これ以上犠牲を増やさないためには、もう俺が死ぬしかない。
遺書をしたためるのもやめよう。
もし、その遺書を女性が読めば、俺との「縁」が出来ちまう。そうしたらまた、、、
誰にも何も言わずに、死ぬしかない。
俺は首を吊ることにした。
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お話はここまでです。
彼はこのとき気付いていませんでしたが、彼の友人はこの話の一部始終を知っているのです。そして、その友人は生きています。
その友人がこの話をしたとしましょう。それを聞いた人は彼との「縁」を持ってしまいますね。そう、女性なら死んでしまう。
A子はきっと、この話を聞いてしまったのでしょう、、、。
『かか切りの竹』、一本切ったら一人の女性が死ぬとして、一体、彼は何本の竹を切ったのでしょう。
みなさん、もし、『女性が聞くと死ぬ話』などどいう触れ込みの話を見聞きする機会があっても、絶対に読まないでくださいね。
ああ、もう遅いですね・・・。
作者かがり いずみ
もう、遅かったですか?