中編4
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恐山ユースホステル

今回は創作ではなく、筆者天虚空蔵が経験した、おそらく実話になります。

おそらく、と記したのには理由があり、それについては後述しますので、まずは話の本題から。

実際の記憶に基づいて書いていますので、起承転結などないですが、ご了承ください。

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昭和五十年代後半の話なので、もうずいぶん昔のことになります。

当時、大学に入学したばかりの自分は、車の免許も取りたてで、車を運転するのが楽しくて仕方がありませんでした。

そんなことで、友人と東北旅行を計画したのです。

夜間に東北自動車道を北へ駆けあがり、一気に青森まで行って、そこから何泊かしながら南下してくる計画でした。

それほど裕福ではない学生でしたから、宿泊は全てユースホステル(以下YH)です。

無事、青森まで辿り着き、とにかく最北端へ、ということで大間崎、そこから仏ヶ浦を経由して移動し、この旅の最初の宿が今回お話しする恐山YHでした。

正確な場所は記憶があいまいなのですが、恐山菩提寺からそれほど離れていなかったはずです。

規模的には小さめのYHで、玄関から入ると八畳ほどの狭いロビーがありました。

「ただいま~」

到着した時のお決まりの言葉と共に中へ入ると、ロビーのソファに腰掛けて真剣にテレビに見入っているオジサンがいます。

「おお、ちょっと待っとれ!」

この人がペアレントさん(宿主)でした。

東北のオジサンにありがちですが、お相撲が大好きなようで、僕らをその場で待たせたまま再びテレビに釘付け。

時期的には夏場所だったと思いますが、ひょっとしたらトトカルチョでもやっていたのかもしれません。

そのくらい真剣な表情でした。

そしてチェックインしてすぐに夕食、その後はロビーでペアレントさんや他の宿泊客と一緒に談笑していました。

到着した時にテレビと向き合っていた、あの険しい顔が嘘のように酒を飲みながらにこやかに話をしてくれます。

恐山は冬季に閉山となるのですが、その間に山へ入った男の人がいたらしく、春になって場内の温泉ですっかり茹で上がって浮かんでいるのが見つかったのですが、その男の人の幽霊が時折温泉に現れるというような話。

そしてイタコの口寄せにまつわる話などなど。

やはりわざわざ恐山辺りで宿泊する人を相手にしているだけあって、ペアレントさんは恐山にまつわる怖い話を幾つもしてくれました。

そして、そんな話の後。

「夜間、菩提寺の場内ではいろんなことが起こる。どうだ、今夜一晩場内で過ごせば、今日の宿泊代はタダにしてやるぞ。まあ、これまで朝まで過ごせた奴はひとりもいないがな。がはははっ。」

本当かどうかは知りませんが、もちろんそんなチャレンジをするような度胸はありませんし、宿泊代がタダと言っても、そもそも場内で一夜を過ごすということは、このYHには泊まらないということになるじゃないですか。

まあ、夕食は頂きましたが。

そんな怖面白い経験をさせて貰った恐山YHでしたが、それからどのくらい経ってからでしょうか。

一緒にこの旅行へ行った友人から、恐山YHが閉所になったと聞きました。

その友人の話によると、あの相撲好きのペアレントさんが病気で亡くなったそうなのですが、YH内に彼の幽霊が出るとの噂が広がり、泊まる人がいなくなって閉所に追い込まれたとか。

YHに到着すると廊下の奥に立っていたとか、深夜にテレビの前に座っていたとか、いろいろな噂があったようです。

本当かどうかわかりませんが。

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今回の投稿に当たって、この恐山YHについて、もう少し調べてみようと思ったのですが、ネットで検索しても全く出てきません。

考えてみれば、まだネットどころか携帯電話すらなかった時代の話です。

ブログなどを残す人もいませんし、とっくの昔に閉所になっているので、旅行情報などに存在するわけがない。

ネットでワードを変えたりしながら、ちまちま検索していると、本当にそんなYHが存在していたのか自信がなくなってきます。

スタンプが押してあるはずのYHの会員証はもう手元にはありませんし、当時の友人に聞いても、『そうだったっけ?良く憶えていない。』という状態なのです。

アルバムでその時の写真を見ても、大間崎や田沢湖、十和田湖等の写真はあるのですが、このYHの写真がない。

どなたか、『俺知ってるよ』、『恐山YHは間違いなく在ったよ。』という人はいないでしょうか。

願わくば、『あのペアレントさんの幽霊に会った』とか。

だから何だと言う訳ではありませんが、自分の記憶に間違いはなかったという確認が取りたいだけなんです。

実話、だと思うのですが。

◇◇◇ FIN

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