中編4
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招待状

伊与原秀夫(いよはら・ひでお)です。

今は無き楽ヶ丘(らくがおか)学園高等学校と言いながらも実態は公立と言う、何とも嘘臭い名称の学校の卒業生です。

楽ヶ丘学園高校………通称「楽園高校」なんて称された場所が消滅した後の話、これも良く分からない事に巻き込まれたなんて話です。それではどうぞ。

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「平成○○年度楽ヶ丘学園高等学校卒業生の方へ」

昔で言えば企業戦士、今だと極端な言い方の場合は社畜、更に昔だと社会の歯車とも言われる年齢で、組織の卵となった私の元に、そんな書き出しの招待状が郵送されて来る。

確か、合併に伴ったりでの吸収だかで、今は学園の文字が抜けて楽ヶ丘高校と或る意味普通の名前になっていて、私は言わば学園末期の生徒であった。

「いわゆるぼっちだったからなァ。2人位しか友達は居なかったろう」

大学に進学して、下宿や大学で知り合った友人とは連絡を取り合っているが、高校時代は先輩や後輩を除けば二人程度しか友人が居なかったと記憶している私は、そんな独り言を呟いて、封筒をカッターでビィィっと開封する。

『伊予原秀夫様 この度旧称・楽ヶ丘学園高等学校平成○○年度卒業生の同窓会を催したく、御便り差し上げました。差し当たりましては出欠の有無を記入しての返送を御願い致します』

あれだ、他の場所から集められて一堂に介する「出席・欠席」のどちらかに丸い囲みを書き込む形式だ。

希望休みを申請すれば行けない日付では無いと確認して、出席に丸囲いをする。

学生時代ならぬ生徒時代に、ほぼぼっちでありながら、いわゆる忌々しい過去なんざ無いからこそ、出席の選択が出来る訳だが。

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酒が飲めないので、中古で買った軽自動車を走らせて、木々の生い茂る高くない山頂に在る、ホテルの会場迄向かう。

途中、誤った道に入り込んでしまい、バックや前進を繰り返しながら脱出するも、自分で運転しながら車酔いみたいな感じになる。

やっとこさ到着し、足許の不安なヨボヨボな駐車場係の爺さんに案内され、地下駐車場に停める。

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受付をしようとすると、何だか違和感を覚える。

文字自体は私の出身である、無き母校のOBやOGを迎える内容である。

然しだ。

私の知っている顔が一人も居ない。

早生まれかも知れない一見後輩っぽいのはともかくとして、「平成○○年度卒業生」どころか「昭和○○年度卒業生」に見える私以上に年輪を重ねて、皺(シワ)が多く老眼鏡、頭頂部が後退しているのも居て、一同揃って何処か重苦しい。

「金の卵と言われたがな………」

「稼げて楽園だなんてのは、正に一時(いっとき)の夢よ」

「嘘と迄は行かんが、働く身よ。苦労もしますわ」

「あーはっはっは」と穏やかな声が、私の感じ取った空気に一瞬の穏やかな雰囲気をもたらしてくれる。

違和感はもう一つ有る。

明らかに今で言うスクールカーストの上位であったいわゆる陽キャラや、その取り巻きである将来のヤンキーやチンピラ予備軍が全然見当たらない。いわゆる真面目、控え目、悪く言えば暗い要素ばかりで、居心地は誠に良い反面、笑顔の中に何処かドス黒さが見える様にも感じる。

「では、主催者である久部元則(くべ・もとのり)氏より、ご挨拶を賜(たまわ)ります。どうぞ」

(久部………?久部元則………?)

主催者の名を聞いた私は、脇の下が明らかに湿り気を帯び始めるのを覚える。

選挙に立候補する際の演説中に、暴漢に襲われたかで搬送されて集中治療室に居る筈の人物………しかも暴漢が何故かその場で更に撃たれて、その場で死亡が確認されたと言う二重の謎が起きた事件だった。

「弱音を吐くのは只です!世の理不尽と悲しみに打ち勝ちましょう!そして、正直者に馬鹿を見せた奴に馬鹿を見せて、悔しがらせる位にちょっとだけ強くなりましょう!」

ハっと気付くと、何故か涙を浮かべて目を真っ赤にした久部元則氏が拳を振り上げて、透明な液体の入ったコップを飲み干してゆっくりと椅子に座った。

歓声と拍手が沸き起こるが、私は同窓会で無く後援会に参加したのか?と思う様な中身だった。

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同窓会と言うより変な集まりな感じだった、あの催しから程無く、有ろう事か老若男女合わせての地域ぐるみでの振り込め詐欺集団が摘発され、その中の人物が久部元則氏を襲撃した奴を雇っていたと言うのが判明する。ヤンキーやチンピラ、地域の厄介者が集団を率いて、詐欺を働いていた事が露呈した訳だ。

デカイ顔をしていた奴等が御縄になった事で、隣人や御近所トラブルが不気味な程に無くなった為、私の周囲はゴーストタウン以上の静寂に包まれている。

「騒がしい奴等にからかわれたり、嫌な目に遭わされた真面目だったりする人達の不満って卵が孵化して、真面目な集団と言う怪物が牙を剥いた事で、楽ヶ丘地域を静か過ぎる楽園にしてしまった訳か………」

これも又、ならず者が現れて再び壊そうとして御縄になる事で、或る意味偽りの楽園が存続する事になるのだろうか。

『久部元則氏、意識を取り戻し再び選挙出馬へ』の見出しの記事を読みながら、私は初夏の青空を窓越しに見上げる。

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