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中編7
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花火

K太は大学時代からの友人だ。

学生時代はパッとしなかったものの、卒業後に何人かの仲間と始めたスタートアップが軌道に乗り、現在では小さいながらも3つほどの会社の経営に携わっているやり手だ。

数年前に結婚もしており、2人の女児を授かっている。

一方僕はと言うと、大卒後地元の公務員になり、手堅い人生を送っている。ちなみに未婚だ。

好対照なのだが、なんだか知らないが、K太とは腐れ縁で良く一緒に飲んだりする。

これは、そんなある日に聞いた不思議な話だ。

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その日、K太は大口の商談がまとまったとやらでやたらに機嫌が良かった。

僕ひとりでは絶対にいかないような店に「俺が奢るから」と連れて行ってくれる。

さすが、経営者御用達だけあって、良い雰囲気の店だった。

そこの女将(ママというのが正しいのかな?)が出てきて、対応するほど、K太はこの店を多用しているらしい。

「あら!Nさん(K太の名字)。今日は男の人をお連れなんですね」

「おいおい、ママ、バラすなよな」

そんな会話。どうやら、K太はあっち方面でもお盛んらしい。

「はいはい。すいませんね。今日は何になさるの?」

にこやかなママに手慣れた様子でK太は酒やら何やらを注文する。

すぐにテーブルの上が賑やかになった。

しばらく旨い酒に酔った後、

「おい、K太。お前妻子がありながら、女の子連れ込んじゃまずいだろ?」

アルコールで口が軽くなった僕は言った。

「いや、まあ、いいんだよ。あいつにゃちゃんと尽くしてんだ、これでも俺は」

「そのうち愛想尽かされるぞ」

「ないね!俺とアイツは深ーい縁で結ばれてんだよ」

実はな・・・とK太が声をひそめる。

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俺の家はそこそこ小金持ちで、N県K町に別荘があったのよ。

そこに夏になると家族で行くわけ。

小さい頃・・・そうだなー、6歳くらいかな?

その年も別荘に行ったんだよ。毎年、俺達は花火大会に合わせて行くんだが、その時、俺、親の手を離しちゃって、一人で迷子になっちゃったんだよ。

縁日の屋台はどれも同じに見えるし、親は見つからねーしで、とうとう泣いちゃったんだよな。

そうしたら、朝顔柄の浴衣を着た、すっげーきれいなお姉さんが「大丈夫?」って声かけてくれたんだよね。

俺は子ども心に「キレイだなー」って思った。

そのお姉さんが俺の手を引いてくれて、あちこち探し回ってくれたんだけど、なかなか親が見つからなくてさ。

結局、その日はお姉さんと花火見たんだ。いやーなんか夢のように楽しかったんだよ。

で、最後に、お姉さんがさ言ったんだよ。

「もし、また会えたら、一緒に過ごしてね」って。

多分、俺うなずいたんだよな。

その日はどうやって家に帰ったか忘れちゃったけど、無事に別荘にたどり着いたんだ。

翌年、また、花火大会に行った。そうして、去年のことを覚えていたもんだから、俺、わざと親とはぐれたんだよね。そうしたらさ、また会ったんだ。「朝顔の君」に。

ー朝顔の君?

ああ、それは俺が勝手につけたあだ名。

そしてまた、俺達は楽しい時間を過ごしたんだ。

その翌年も、翌年もな。

でも、おれが11歳のときだったっけかな?

受験するってんで、夏に別荘に行かなくなったんだよね。

結局、受験が終わったら、今度はもう親と一緒に旅行、って年じゃないじゃん?それ以来行かなくなっちゃってさ。

で、大学卒業した後、就職とか上手く行かなくてくさっていた時、気分転換にって久しぶりに別荘に行ったんだよ。そん時は一人だよ?

まあ、これから先どうすっかなーとか考える時間?みたいなの欲しくてさ。

その時も、ぶらっと行ってみたんだ。花火大会に。

ちいさい頃とはずいぶん雰囲気が違っていたけど、屋台が出てて、賑やかな音楽なっていて、遠くの湖の上に、どーん、どーんて花火が上がっては消えて、そういうのは変わらなかったな。

そして、出会ったんだよ。アイツに。

ーまさか・・・?

そう、朝顔の君だ。

あれから10年以上経っているのに、あの日のままの姿だったよ。

あの時は遥かに年上だと思っていたのに、その時は年下くらいになっていた。もちろん、朝顔の浴衣を着ていたよ。

ー嘘だろ?

ああ、そう思うよな。でも、その子は言ったんだよ。

「久しぶり」って

ぞわっとしたね。

あり得ないものを見るような、そんな感じだ。

狐につままれたような気持ちだったが、小さい頃から憧れていた君だ。

結局その後、一緒にデートみたいな感じになって。付き合うことになって、それが、

今の俺の奥さんだよ。

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話を聞いてもにわかに信じられなかった。

そんなことってあるのか?10年前に年上だった女性が、年下になって現れて、それと結婚した?

「そうなんだよ。最初は奇妙に思ったけど、別に普通に結婚もできたし、生活もしている。朝になると消えちゃうとかもない。だから、小さい頃の俺の記憶がまちがっていたのか、たんなる似た人だったのかってことで俺の中ではケリが付いてるんだけど…」

K太はウィスキーを煽る。

「それで、アイツと結婚して張りができたせいか、仕事もうまくいくようになって、それで今に至るわけよ。

 6歳の時に、お姉さんと約束した『もしまた会ったら、一緒に過ごしてくださる?』っていう言葉はもしかしたら結婚してってことだったのかなとか、ちょっとファンタジーなこと考えちゃったりしてさ」

からからとK太は笑う。

「そんな奥さん、裏切っちゃダメだろ?」

僕が言うと、

「なーに真面目くさってんだよ。そういうわけで俺とあいつは一方ならぬ縁なワケよ。浮気のひとつふたつどうにかなることはないんだよ」

こいつ、浮気を認めやがった・・・。

浮気は愚か、結婚すらしてない僕にとっては憎たらしいやら羨ましいやらである。

「そんなワケだ。すげーだろ?」

また豪快に笑う。

「それにしても、お前さ?お約束っていうか、フラグっつ―か、そういう話ってしねえ方が良いんじゃないの?ほら、雪女とか鶴女房みたいにさ」

へん、とK太は鼻で笑う。

「別に『この事を決して話してはいけませんよ』とか言われてね―し」

その日は、こんな感じの話をした。

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この話には後日談がある。

この話をしてから、1年ほどしてK太と会う機会があった。

その時のK太は大分やつれていた。

聞くと、円安の煽りを受け、経営していた会社が次々に倒産してしまい、自己破産の手続き中だという。

一体何があった?と聞いたところ、

「あいつが出てったんだよ」

と肩を落として言う。

どうやら、奥さんに逃げられたらしい。

「多分偶然だろうけど、それからいろんなことが上手く行かなくなって、結局会社は倒産。子供二人を食わせるのに精一杯だ」

絵に描いたような転落劇だ。僕はK太を励ますためにも、夕食を奢ってやることにした。

「1年前の話し覚えているか?」

飯を食いながら、話をする。

「もちろん覚えている」

「あの後すぐだった。

 去年の夏、K町の別荘に家族4人で行ったんだ。皆で花火大会を見に行った。

 彼女は両方の手に子どもを従えて先を歩いていた。

 花火が打ち上がり、彼女を照らす。

 朝顔の浴衣を着ていたよ。

 ふいに、彼女はこっちを振り向いた。

 花火の炸裂する光で表情が見えなかったけど、なんか悲しそうな顔をしていた。

 その時、やおら2人の子どもの手を振り払うようにしてそのまま走っていったんだ。

 何があった訳じゃない。どうしていきなりそんなことしたのかもわからない。

 俺は追いかけたさ。下の子を抱えて、上の子の手を引いて・・・でも、でも。

 それきりだ・・・。」

なんと言っていいかわからない。

掛ける言葉もないまま、僕たちはもくもくと飯を口に運んだ。

しばらくし、またK太が口火を切る。

「あんときゃ言わなかったけど、あの話に対して俺が考えたことが、実は、もう一つあるんだ。」

「なんだい?」

「俺が、小さい頃に会ったのは、彼女の母親だったんじゃないかって。だから、似てて当然。そして、浴衣は母親から娘に手渡されたんだって。「久しぶり」って言ったのは、俺は覚えていなかったけど、あいつとは小さい頃に会っていたんじゃないかって。」

「ああ、なるほどな」

それなら納得がいく。実は6歳の時、朝顔の君が言った「一緒に過ごしてくださる?」は娘と一緒に過ごしてくれるか?と聞いたのかも知れない。

「ただな、この解釈にも2つ問題がある。

 ひとつは、俺は小さい頃に朝顔の君に会っていたとき、小さい女の子がいた記憶が全く無い。

 そして、もう一つは・・・あいつは消えたんだ」

「消えた?」

僕が繰り返すと、K太は声のトーンを落として続けた。

「追いかけたよ。追いかけて追いかけて、湖まで追っていったんだ。でも、そこで、」

闇に溶けるように、消えたんだ。俺達の目の前で。

と。

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K太は今、残された子どもたちのために、あちこちでバイトかけもちしながら再起を伺っている状況だ。

驕った性格がなりを潜め、すっかり、別人のようになっている。

才覚があるやつだから何とかはすると思う。

この話が本当なのかわからない。

僕が聞いた、不思議な話だ。

Concrete
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@狸沼よしふる

コメントありがとうございます。
確かに、シビアですね、、、

妖魅でも人間でも
大事にしないと出ていってしまうのかもしれませんね

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