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中編3
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増える面影

私の娘が七歳のとき、タクミ君という娘の友達が亡くなった。死因は交通事故だった。タクミ君は娘と同い年で、私の家によく遊びに来ていた。

私は妻と離婚していたので、娘と二人暮らしだった。仕事が理由で娘と話したり、遊んだりできる時間が少なかったので、タクミ君が娘の主な遊び相手になっていた。

だから、タクミ君の死を知ったときの娘の悲しみは尋常ではなく、ふさぎ込んで誰とも話さなくなってしまった。

そんな娘が立ち直れたのも、タクミ君のおかげだった。

タクミ君のお葬式に娘と行ったときのこと。式場に向かう道を歩いていると、娘が空を指さし、こう言ったのだ。

「あっ、タクミ君」

私は娘が指さす方を見た。そこには、どことなくタクミ君の顔のように見える雲が浮かんでいた。

私は娘に言った。

「そうだな。タクミ君はこれからも、こうやって見守ってくれるよ」

娘は「そうだね」と言って笑った。久しぶりの笑顔が見れて、私は嬉しかった。

だが、その日からだ。奇妙なことが起き始めたのは。娘が頻繁に、「タクミ君」と言って、どこかを指さすようになったのだ。そこを見ると、あるときは服、あるときはベッドシーツについたシワが、あのときの雲のように、タクミ君の顔に見えるのだった。

最初はただの偶然だと思っていた。しかし、それにしてはあまりにもタクミ君の特徴を捉えているようにも見える。

もちろん写真のような精巧さがあるわけではないし、簡単な似顔絵をさらに簡略化したような形ではある。ただ、タクミ君の輪郭や鼻のラインが、そのシワの中に再現されているような気がしてならないのだ。

最初の頃は、タクミ君の面影を見つけることで、娘の悲しみが癒えてくれるならいいと思っていた。しかし、その回数が日に五回、十回と増えてくると、正直気味が悪くなってきた。

ある日の夜、私は遂に娘を叱った。夕飯を食べているときだった。娘がテーブルクロスを指さして、例のセリフを言ったのだ。そこを見ると、たしかにタクミ君の顔のように見えるシワがあった。私はこう言った。

「もう、タクミ君を探すのは辞めなさい」

娘は不思議そうに言った。

「どうして?」

「タクミ君はもう死んだんだよ。お父さんも悲しいけど、いつまでも気にしてちゃいけない。タクミ君はもうどこにもいないんだから」

「でも、」

「でもじゃない。それはただのシワ。タクミ君に見えるのは偶然だ。他の場所もそう。だからもうタクミ君を探したらダメ。分かった?」

「でも、お父さんだって、タクミ君が見守ってるって……」

娘は今にも泣き出しそうになった。私は慌ててなだめた。

「泣くな、泣くな。別にお父さんは怒ってるわけじゃないんだ。正直に言うとな、怖いんだよ。お父さん怖がりだから」

「あっ」

娘はキッチンの方を見て、また指をさそうとしたが、すぐにその手を引っ込めた。

「また見つけたのか?」

私はうしろのキッチンを見ようとした。

「見ちゃダメ」

娘が叫んだ。

私は驚いて言った。

「どうして?」

「お父さん、怖がりでしょ?」

「……誰かいるのか?」

「……」

娘はじっと私の背後を見つめている。

私は躊躇したが、思い切ってうしろを振り返った。

だが、そこには誰もいなかった。

「何を見たんだ?」

私は娘に尋ねた。娘は答えた。

「タクミ君」

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その日から、娘はタクミ君の顔を見つけなくなった。

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