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長編10
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第六話 報酬

 あれから木村は元気が無い

「おーい木村ぁー」

 安アパートのドアをノックすると

「空いてるー…」

 中に入り

「まだ気にしてんのか?」

 六畳のワンルーム、別名ボロアパート

「あー…、まあな…」

 布団の上で寝転がっている

 アレを見たショックが残っていて大学を休んだ

「シゲさんが見ろってさ」

 バックパックを開ける

 シゲさん(森繁教授、工学系数学の人、オタクの先生でもある50半ば)

 良い年してガ◯ダムのカプセルトイを持っていたので話してみたらコッチの人だった、ちなみに木村と俺も持っていて入学直後にお互いを認識、キュピーンとなった

「何だ?デカイな?」

「ビデオデッキだってさ」

 引っ張り出す

 

 木村は起きると

「ビデオテープw小学校でも見なかったわw」

 まじまじ見ると

「どうやってデータ取り出すか学べってか?磁気テープだよな?」

 

 

 変換アダプタを付けてモニターに繋ぐ

「シゲさんそっちは言って無かった」

 

 二人で見始める、宇宙で戦うロボット物

「この宇宙で核使うじゃん?」

「あー」

「真空中で核爆発した場合、どうなるか考えてみろだってさ」

 

「シゲさんらしいや」

 変人で通っている

 ビールを飲むと

「まず空気が無いから衝撃波は存在しないな」

 

「そう、空気が無ければ燃える事も無い、つまり燃焼伝播率が低すぎる」

 俺はジュース(バイクで来た)

 

「そうなると爆発半径小さいよな、こうはならないだろ」

 画面では沢山の戦艦がバラバラになってる描写

 

「残るは放射線だけどさ」

 

「大気層の中より強力になったりするか?専門外だ」

 

「ないよなぁ」

 

「んで?これだけか?」

 

 寝転がって頬杖

「いや、もう二つ、出てくる悪女とほうれい線の感想聞かせろだってさ」

 

「ほうれい線ってコレか?」

 自分の鼻の横から口へ

「この時代のアニメで珍しいんだってさ」

 

 こういう会話が大好きな二人

 が、スマホが光る

「げ、児島からだ」

「さんも言わなくなったか?」

「言える気分じゃねぇよ」

 

 見えないって幸せかもな

 

「それに人間以外見たの初めてだぜ…」

 今度は布団の中へ潜る

 

「そうなのか?」

「霊は人間、ずっとそう思ってた」

「あの墓にいた影の目が赤」

「違う」

「…え?」

「あれは墓じゃない、思い出せ、藁と紙屑があったろ?」

 確かにあった

「あれは注連縄だ、墓じゃねぇ」

「ええっ?!」

「人じゃねぇんだ」

 今更木村の気持ちが分かる、軽い吐き気がする

 墓じゃない、霊じゃないならアレは何だ?

 まさか神様とか?

「児島さんに…」

「言っても無駄だ」

 そうだよなぁ

 

 スマホが光る

「あ?えーと…あー、またココか」

 嫌そうな顔の木村

「何処だ?」

「この前の所に近い、県境だ」

「バイクだな」

 

 ………………

 次の日、

 豆腐屋で走り屋の県境、

 とある田舎の駅の前、裕福そうな空気のお爺さんに出会う

「君達がそうかw」

 笑いながら話す70歳位の白里さん、ジャージにサンダル履きだが言葉が丁寧で雰囲気が金持ちな感じ、立派な家は見える距離、なんと天下り先を退職した元警察官僚

 

「事情は聞いてます」

 礼儀正しい木村

「バイクでしたので、このような格好ですみません」

 俺も、その理由は

 

「山の中で芸者見たぁ?」

 スピーカーにしたスマホから児島さんがそう言っている

 

「ボケてるんじゃ…」

 

「滅多な事を言うな!君達だって将来に心配はあるだろう?」

 

 児島さんと児島さんのお父さん、そして後藤さんは俺達をこれからも役立てたい(利用したい)ので、どうするか考えてくれていた

 今から警察学校に入っても、いきなり児島さんの下には着けない

 かと言って今から国立大の法学部を出てキャリアになる学力など無い

 部外者を警察に出入りさせる訳にも行かない

 となれば非公式の新部署を内部に作るか、天下りの企業の中に…

「児島さん、俺らの将来勝手に決めんじゃねぇよ」

「君達の意志ですか?何になりたいんですか?就職課は行ってますか?」

 決まってない

「君達に職場を与えると言っているんだ」

 語気が強くなってきた

 

「利用するってのが気にいらねぇ」

「君達も私を利用するんだ、急がなくても良いが公務員になれるチャンスだ」

「ちっ!!」

「そ、それで何を?」

 ケンカになりそう(汗)

 

「警察庁OBの方の依頼で…実に下らないのだがこの人は味方に付けて置きたくてな」

「なんでよ?」

「予算が増える、君達に使える予算だ」

 

 と言うわけでここに来た、金銭面が弱い俺達

「すまんなぁこんなバカな話を、あの後藤君と児島の息子の部下だって?」

 

「はい俺達、いや私達が担当します、私は木村で」

「私が神崎です」

 敬礼のマネ

 

 ……………

 

「あの人が見たのこの辺か?」

「水が流れてる、もうちょい上かも」

 二人で山歩き、楢や楠で緑が一杯の山道

 

 警察には1日あたり事件連絡が大量だが、その殆どが下らない

 その中でも一番下らない内容だが依頼人の名前が検索に引っ掛かった、こんなもの誰も担当しないが

「では我々準備室が担当致します」

 と児島さんが引き受けた、平たく言えば

「あなたの皆が笑う話を私達は真面目にやりましたよ?だから力貸してくださいね?」

 揉み手で笑顔、って事だ、

 結果はどうあれ行動した印象を残すのが重要みたい

 

「そろそろか」

「この辺りでこっちのルート…」

 手書きの地図を見る、小さな山で散歩コース程度の道がある、小学生の遠足レベルの山

 …だがな?

 …インドアオタクには辛いんだ

 

「定年して田舎に住むってどうなんだろうな」

 息切れするガリ

「でも都会も階段多いし山と変わらないかも」

 膝が…運動不足は否めない

 

「山歩きが趣味って分からねぇよ俺」

 

「俺も、動画見てた方が楽だよなぁ」

 下りは膝に来るんだよ、木村は良いが俺は重いんだぞ、汗が止まらん

 

 

 

 ザアッと風が吹く、と、突然風景が変わる、いや変わってはいないが

「神崎!」

「分かってる!」

 俺でも分かる!空気が変わった!

 

「…こっちか?…」

 木村の後を付いて行くが、まさか…俺達呼ばれてる?

 

 山の上に開けた湿地…小さな橋があり渡る、と向かいから老人のグループが来る

 すれ違うのに気を遣うが

「え?!」

「なんで?!」

 相手は一向に気にしてない

 そして

「うわあっ!」

「そんな!」

 すり抜けた、人が俺達をすり抜けた!

 

「木村!今の人達の声が!」

「あぁ、聞こえなかった、あれ霊か?」

 

 いや、自分達が霊になったような…

 だって…俺にも普通に見えてた…

 そして前から来た人達…俺達が見えてない、気を使ってないし俺達の声も届いていない

 

 

 しばらく進むと見晴らしの良い場所に彼岸花が沢山咲いている…が

「木村…」

「あぁ、なんかやべぇ…」

 直立で固まる

 今初夏だぞ?彼岸花は咲かないよな?

 それに…なんだかさっきと様子が…

「神崎、何かが…」

「木村!木だ!全部もみじだコレ!!」

 一瞬で辺りの木がもみじに入れ替わった

 そして

 一斉に真っ赤に紅葉する、緑から黄色、赤にグラデーションが…ナニコレVR?!

 

 ヒラヒラと赤い葉が落ち地面が赤い絨毯に…え?

 いつの間にか足元に

 

「これ…お膳ってヤツだよな」

「…山菜に焼いた鮎…」

 二つの立派な漆塗りのお膳には上品な料理が載り、湯気が出ている…座布団は無い、が丁度二人座る位のスペースがある

 いつ現れた?

 

「座るか?」

 辺りを見回す、何も居ない

「うん」

 恐い

 

 恐る恐る座る

 明らかに『俺達』を呼んでいる

 杯、真っ赤、持ってみる

 

「森瀬ちゃん?!」

「え?!」

 

 木村の向かいに何かがいる、それはぐにゃぐにゃ変わる

 大人、子供、男、女、犬?、猿?鹿?

「ヒッ!!」

 おれは座ったまま後退り

 

「何で森瀬ちゃんが居るんだ?!」

 慌てる木村

 森瀬先輩は大学の卒業生で25歳独身

 就職難で結局大学職員になった

 「ちょっと男子ぃー」とか言ってたであろう委員長キャラで、可愛いが少し煩い眼鏡ちゃん

 そんな事はどうでも良い!

「木村!何なんだそれ!」

 俺は指差す…と

 

「森瀬ちゃんだ…ろ?」

 指差す、真顔で、

 木村がおかしくなった!!

 取り憑かれたのか!!?

 

「あら、見え方が違うんですのね」

 不定形なそれは形を変えると

「これなら見えますか?」

 丁寧に正座したド派手な和服の女性、

 花魁かよ

 

「え?!何で?!森瀬ちゃんが?!」

「あの!誰ですか?!」

 慌てる

 

「申し遅れました、この辺りを治めるモノでございます」

 深々と頭を下げる簪

 釣られて俺達も頭を下げるが

「先日は我らが主を解き放って頂き、眷族としてお礼に参りました、どうぞお一つ」

 そういうと銀色の小さなちろりを向ける、

 お膳の杯を持つと酒が注がれ…

 呑めない、凄く良い香りがするけど

「どうぞ警戒しないでくださいw」

 凄い美人だよ、時代劇の…あ!

「あの、お聞きしたい事が、最近お爺さんの前に現れませんでしたか?」

 怒らせないように…っていうかなぜ恐くないんだろう

 

「はい、わたくしでございます」

 にこりと笑う、笑顔も美人

 

 やっぱり

「それを確認するのが目的で来たんです」

 

「あの時は三百年振りに主が帰られまして、驚きつい姿を晒してしまいました」

 袖で口を隠しクスクス笑う

 大人の色気…

 

「主ってのが…」

 木村が呟く

 

「あら?確かにあなた方三人に助けられたと」

 

「もしかして…デカイ蛇」

 

「ええ」

 頷く

 

「神崎!蛇って何だ!?」

 俺は説明する、山の中、人よりデカイ蛇が会話?している所

 

「何で言わなかった?」

「言える雰囲気じゃ無かったろ?児島さんは興味無いし、木村は怒ってるし」

 

「わたくしから話ましょうか?」

 酒を注ぐ、花の香りがする酒…って呑んでた

 

 江戸と呼ばれた時代、この辺りでは飢饉があり死体でも喰わねばならぬ程でした、その様子に主は憂いていました

 そんな時一人の老夫が主の祠へ祈りました

 主は幸運と豊穣の力を持っている

 主は情をかけて顕現し

「お前の魂、喰わせるなら子を救おう」

 

 俺が見たのはこれか

 

 老夫は承諾しました

 身を清めいよいよ主に喰われる時に

「私一人で子を救って貰えるなら、子々孫々を贄としたら、どうして貰えるか」

「それなら未来永劫、そなたの家は繁栄する」

 

「それって…」

「それをやったのか」

 

 しかしそれを聞いていた者がおりました、山伏です

 主が贄を喰う瞬間、陰陽の術を掛けられ石に封じられました

 

 あの石か?

 

 その後主の声は聞こえず、封じられた場所は主の力で近付けない状態が三百年も

 

「…そうか、多分あの家、孤独死した家の人は山伏の子孫だ、封印の上で繁栄したんだな?」

「その通りでございます、封印を解きたかったのですが」

「なぜ出来ないんですか?」

「家を繁栄させる力は同時に護る結界でもあり…」

 

「…あぁ!その山伏が死ぬ時に壁とか作って中で死んだのか」

 平気で喰ってる木村

 

「中の人骨か?」

 自分ごと封印?

 

「あの中からゾロゾロ出てきた霊達よ、見覚えあると思ったら」

 鮎に齧りつく

「あの部屋の遺影、あの絵にそっくりだった、歴代の当主達だ」

 

「山伏は老夫の願いを自分のモノにして自分を次の贄にしました、それは強力な結界になります、家の主の魂が封印の力になり続け破れない筈です」

 

「それから蛇、主はどうしてますか?」

 俺も食おう

「一緒に封じられた老夫の魂も無事に成仏しまして、元の姿にもどりましたが…」

 

「…もしかして…目ぇ赤いか?」

「主は白銀に鬼灯の目を持つ大蛇ですから」

 あの爺さんは融合した姿か

 

 またどこからか酒を出す

 

「今は何処に?」

 

「この辺り一帯におります、あなた方に幸運を与えましたから眠るそうです」

 

 マジで?!!

 

「あるべき所に戻ったかwそれで?さっき何で森瀬ちゃんになったんだ?」

「私は本来人食いの狐でございまして」

「え!!?」

 また後退り

「ご安心下さい、主に諭されて辞めております」

 

 また森瀬ちゃんになると

「その者が望む者に化けるのが得意でございます」

 

「望む者?木村?」

 ニヤリ

 

「しっ仕方ねぇだろ!うちの大学女子少ねぇし!」

 

「木村様は目で見る方、神崎様は心で見るのですね、では失礼して」

 森瀬ちゃんが消えると白い狐、人よりでっかい白い狐

「これが正体でございます」

 座ってるのに二メートル位ある

 

「あ、あのう、それでご馳走して貰えるのは分かりました」

「そ、そうだよな、お礼してくれてるんだよな」

「なぜこうして出て来てくれたんですか?」

 

 首を傾げる、モフモフで可愛い

「さて?こうせねばならぬような気が…恐らく主が与えた幸運の一つかと」

 立ち上がる、デカイ

「時間です、そろそろ失礼せねばなりません、杯はどうぞお持ち下さい」

 辺りの風景が戻り始める

「これから森で危機に出会ったなら、私の名を呼んでください、お助け致します」

「名前?」

「名前は聞いてませんよ?」

「そうでしたね、時には白蔵主と呼ばれた事もありましたが…ではシラヌシと呼び柏手を二回」

 消えていく

「森の中ならば助けましょう…」

 消えてしまった…え?

「え?夕方?!」

「んだコレ?!何時間居たんだ!」

 

 

急いで山を降りると

「こんな遅くまで悪かったなぁ」

 入り口で待っていた白里さん

「それで?どうだった?」

 木村と頷き合うと

「芸者は見付かりませんでしたが」

「コレを見付けました、どうぞ」

 差し出す赤い杯

 

「おぉ…これは立派な…ありがとう、児島の倅の部署、良く覚えておくよ」

 満足そうに帰っていく

 

「なぁ木村」

「何だ?」

「シラヌシさん怖かったか?」

「いや…全然、っつーかまるで昔話だぜ?」

「何とかの恩返し…みたいだな」

 

 後日

 正式に本庁捜査課、準備室(要するに正式な課ではない)に予算が降り、ボロアパートから脱出してキレイなアパートへ

 確かに幸運(恩返し)は起きたらしい

 

Concrete
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@天海つづみ 様
コメントしたの私です。
で、私が自分で削除しました。
偉そうなこと書いたなと思って、恥ずかしくなりましてw
混乱させてしまって申し訳ないです。

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コメント下さった方、間違って削除してしまったかも知れません、失礼しました。
単話では支離滅裂になりますよね、ごもっともです、改善します。

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