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滞在最終日、早朝の売店の軒先で、椅子に座っておしゃべりしている数人のお婆さんに御挨拶。
そのまま通り過ぎようとすると、背後から声を掛けられました。
前日、私を「内地の人」と呼んだ”上部が欠損した街区表示板”の家のお婆さん。
煙草を片手に少し御機嫌な感じで、近所まで着いてこいと言う。
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辿り着いたのは例の公園。
座板がひとつのあのブランコを眺めながら、
「上が壊れて3日くらいあとだった」と前置きしてから、この場で御主人がどのように亡くなっていたかを教えてくれました。
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最初に緊急通報をしたのは、私と同じでいかにも旅行者っぽい「内地の人」。
「この町は、誰か死んでても放っておくのが多いから、最初に見つけたのが誰かはわからん」
(そろそろだろう)と感じたお婆さんはその朝、家の周囲を見て回ることにして、公園に立ち寄って、
どこかへ通報しているらしい若者のすぐそばに、おじいさんを捜し当てました。
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ブランコの座板を吊る鎖の、片方だけを首に巻きつけた状態で前のめりに倒れ込んでいて、
膝から先は両脚とも地面に引き摺られてそのままのようだった、とのこと。
「あのひとはひとまわり歳上だったから。
上が壊れたからもう、だめだった」
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別れ際、売店で買った煙草をお渡しする際にお婆さんへ、尋ねておくべきことを尋ねました。
「壊してるのは、誰ですか?」
「誰も知らないし、みんな知ってる」
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各所に積もる不法投棄らしきゴミの山にも、町の暮らしの情報があるかもしれない。
写真を撮り歩いているとまた、違和感。
4枚のナンバープレートが一箇所に落ちていました。
それ自体は不法投棄としてさほど珍しくもないけれど、表記の文字列がまったく同じものが2枚、それが2組。
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同一番号だけなら交付も簡単だろうけど
「すべての文字列が同一のナンバープレート」の複数同時所有は一般的に可能なのか?
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通園バスの乗降口付近に落とされていた『弾薬庫 建設反対』が思考をよぎりました。
プラカードも、ナンバープレートも、そして街区表示板も、どれもが『情報を持つ板』です。
それらが通常の状態であれば当然ながら通常の意味合いしか持たない。
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けれどそれらが例えば場違いな場所に落ちていたり、 イレギュラーな状態で存在していたり、 大きく変形している場合、
それは”それ”としか呼べないものに近づいていきます。
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焼けたベンチ、修理されないブランコ、町の各所に点在する不法投棄の溜まり場。
ただ「邪魔だから」と放っているだけではなく、そこへ近づくことを誰もが嫌がっているようなこの異様性。
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この4枚のナンバープレートが、
通常とは違う「役目」を終えたから捨てられているのだとしたら?
町に点在するこれら不法投棄の山は、果たしてどのような状況から積み重ねられそして避けられたままなのか?
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図書館で調べ物をしてそれから、目的地へ向かう途中、
校庭の広々とした、けれど校舎は2階建ての小学校が遠くに見えてきました。
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男の子が、遅刻だろうか、正門らしきあたりをうろうろしています。
こちらに気づくと「こんにちわー!」と挨拶して、逃げ込むように校舎を目指して走っていく。
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1997年、この町の工場で集団食中毒事件が起きている。
下請けを主とする製造業の会社で、当日その工場で働いていたのは社員含め32人。
全員の昼食はいつも通り、隣町の店の宅配弁当。
うち社長・社員のみ4名が死亡。
残り28名のパートなど従業員に重篤な健康被害は確認されなかった。
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今は廃墟になっている工場跡地を訪れると、やはり外構に”欠損した街区表示板”。
細かく測ると”上8分の1”が欠損していました。
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先ほど図書館を出たあと、
(もしかしたら)と感じて、事前に地元の企業HPなどを調べていました。
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集団食中毒事件の翌年、壊滅した工場と似た業種の別企業が、同じくこの町に進出しています。
この事件の工場の場合”欠損した街区表示板”は役職順に効果があった。
設置する場所に依って効果が違うと考えることができる。
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滞在3日目、もう東京へ戻るには限界の時間が近づいていた。
工場跡地から戻り、少年に挨拶された小学校に差し掛かる。
正門あたりでうろうろしていた、あの少年。
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「誰も知らないし、みんな知ってる」
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正門から続くやや離れた外構には街区表示板が設置されていました。
カッターなど細い刃物を使用したであろう、真新しい削り傷。
私は知らないし、きっと、あの子も知らない。
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あとちょっとだけ続きます。
今回はここまで。
作者肩コリ酷太郎