初めまして。雅と申します。
このお話は登場人物の名前など、フィクションを含みます。そして全編・後編に分かれます。
それでも良いよという方は是非最後までよろしくお願いします。
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私の名前は雅(みやび)が本名ですが、性別は男・・・。
「え、男なのに変なのー」と思う気持ちは分かります。名前を名乗ると皆さんだいたいそんな顔される。
男子校に入ったらからかわれたり、病院で名前呼ばれる時恥ずかしかったりとデメリットの方が多いかも。
これ私が女性だったら分からなくもないし、高学歴高身長イケメンだったら成立すると思うんですけど、身長普通、顔別にイケメンじゃなくて普通(だと思ってる)、学歴普通・・・まぁ浮く。
この名前をくれたのは、私のじいちゃん(母方)で、幼い頃の記憶からそんなに好かれてないのは分かってた。母の実家に帰省しても、じいちゃんはどこか冷たかったし、ばあちゃんは出かけているのか、いつも居なかった。
「名前をつけてくれたのに何で・・・」と幼少期から感じてはいた。
母親に聞いても話を濁すだけで詳細は聞けなかった。
6歳の時、弟が産まれました。今度の名付けは父方のおじいちゃんで、名前は「幸太(こうた)」に決まった。
6歳ながら、「名前普通じゃん!!」と思った事は今でも覚えている。
お正月やお盆に家族で集まる時に、父方の親戚の席には呼ばれるけど、母方の親戚の席には呼ばれたことはない。
新年の挨拶も、「幸太を連れてくるのは良いが、雅はちょっと・・・」と言われていた事を20歳位の時に知った。
・・・何も悪い事してないのにそんな理不尽な・・・。
幸太が単独で遊びに行ったりしても、一緒にご飯食べに行ったり、おみやげを持たせてもらったりお小遣い貰ったりで、普通のじいちゃんばあちゃんと孫みたいな関係でしたが、私は「来るんじゃない」みたいな空気だったので幼少期以来、一切敷居を跨いでいない。
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別に寂しくないし、良い思い出も無いから気にはしなかったが、32歳になった時、全てを知る事になる。
私が社会人になり32歳、幸太も同じく26歳の社会人として忙しく働いていた頃、母親から「おじいちゃん(母方)が亡くなった」と訃報が届いた。
私は行くべきかと聞きましたが、母親は「来なくて大丈夫」と言った。
これを幸太に伝えると、幸太は「来てあげてほしい」と言われたそう。
あの時の理不尽を仕事にぶつけ、忘れようとしていたのにまだこんな目に遭うのか。
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通夜、葬式には出られないが。香典くらいは包んで父、母、幸太の誰かに託す形で出す。
母親にそう伝えると、「香典は出さなくていい、自分のために使いなさい」と言われたよ、何なんだよ。
幸太から葬儀場で納骨が終わった、と連絡がありなんとも言えない気持ちになった。
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そしてその1年後。今度はおばあちゃん(母方)が亡くなったと訃報が届いた。
「いやいやいや、そんな立て続けに・・・」
まぁ・・・じいちゃんには名前を貰ったし、じいちゃんとばあちゃんが居てくれたお陰で、私が産まれて、今私生きてんだよな・・・
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と急に冷静になり、「葬式には呼ばれないだろう。正直恨み辛みは有る、でも何かしら感謝の気持ちは伝えよう」
そう思い、ばあちゃんの葬式の日に、じいちゃんが入ってる墓に墓参りに行った。
墓を綺麗にし、持ってきたワンカップ酒を供え、私も自分用に用意した缶ビールを明け献杯した。
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「なぁ、じいちゃんさあ、俺別にあんた達のこと嫌いじゃなかったぞ。仲良くなれれば良いな位に思ってたけど、何か事情が有ったんだろ?俺怒ってないからさ、気にしなくて良いよ。
少ししたらばあちゃん来るから、一緒にお酒でも飲んで仲良くお話しなよ。ばあちゃん来た頃に、俺もまた来る」とワンカップをもう1本開けた。
線香焚いてワンカップ2本並べて置き、手を合わせてお墓を後にした。
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普段は車だが、墓前で呑むために電車で移動していたため、帰りも電車を利用し自分のアパートに着いたのは17時過ぎだった。
帰りのコンビニでビールを買い、自宅でしこたま呑んだ。
正直、悲しさや悔しさが無いわけではない。けど何とも言えないやるせなさは有る。
安い缶ビールを次々流し込み、気付けば寝落ちしていました。
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目が覚めた時、そこは自宅のアパートでは無かった。
目の前には住宅街、しかも白黒の景色。
「あぁなんだ夢じゃん」と言ったセリフが自分でも認識できる。
酒のせいで浅い眠りなのか、自分の意志で動ける状態だ。
こういう夢って見たこと無いなと思い、辺りを見渡す。
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「え、ここって・・・」
見覚えがある。目の前の神社、角のタバコ屋、じゃあ後ろに有るのは小学校だ。
ここは母方のじいちゃんばあちゃんの家、つまり母方の実家の近く。このまま南に進んで2つ曲がれば実家だ。
ふと実家の方に目をやると、遠くで誰かが角を曲がった。その後ろ姿はじいちゃんだった。
「・・・え、待ってよ!!」
私はその後ろ姿を追いかける。
2つ目の角を曲がった時、やっぱりこの通りに実家が有った。
玄関の前にじいちゃんが立ってる。そして中に入ったのが見えた。
続いて私も家に入る。
この家に入った事はある。と言っても本当に数回だけ。
玄関入って左手が台所、正面の部屋がテレビがある部屋。右側が結構広い仏間。
「じいちゃんはどこに」と玄関に立った瞬間、右側から「カタン」と木の当たる音がした。
その方向を見ると仏間の奥に人影が見えた。
仏間の奥は押し入れがあるのだが、じいちゃんらしき人影は押し入れの中にある階段を登って2階に行った。
おかしい、母方の実家は平屋だったはず・・・2階建てなんて話は聞いた事がない。
が、ここで我に帰る。「あ、よくよく考えたらコレ夢じゃねえか」と。
夢の中なら自分の記憶とズレている事なんてよくある、現実では1階の建物が、夢の中では2階や3階になることだってあんだろ。と妙に落ち着いていた。
目の前にじいちゃんが登ってった階段が有る。
当然登る。現実世界では既に墓の中なんだから、恨み辛みや本音を吐くにはここしかないと思ったからだ。
階段を登り切った時、目の前には6畳程の和室があり、部屋の奥にはじいちゃんと、奥に女性らしき人が居る。
女性は何かを抱え俯いている。じいちゃんも立ったままその女性を見つめている。
「これはどういう状況なんだ」と少し近くに移動しようとした瞬間、足元の本につまずき音を出してしまった。
じいちゃんと奥の女性がこちらを向いた。
じいちゃんと目が合った。アレ・・・さっき見た時より・・・若い?
急にじいちゃんの見た目が30代くらいになった。若くてちょいイケメン。
じゃあ奥に居るのは・・・。
部屋の奥で何かを抱えこちらを見ているのは、見た目が20代のばあちゃんだった。
「若っか!!あとめっちゃ美人!!羨ましいぜ、じいちゃん!!!」
声には出さないが率直に思ったのがコレ。しかし2人とも急に若返ってどうした・・・!!
というかまじまじと見てしまっているが、2人と今目が合ってるし、これどうなるんだ?と思っていると、
「幸時さん!今の音は何ですか?!」とばぁちゃん(若い)が口を開いた。
じいちゃん(若い)も「分からん、見てくるからお前はここにおれ」と言い階段を降りて行った。
「いや俺居るんだけど・・・!!(心の声)」
どうやら私の事が見えていないらしく、目の前に居ても私を認識出来ていないようだった。
じいちゃんが階段を降りて1階に行ったあと、ばあちゃんが言った言葉に私は耳を疑った。
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「今お父さんが見に行ってるから大丈夫でちゅよ〜、雅ちゃん」
・・・え、今この人何て言った??
「雅ちゃん」って・・・言った・・・よな??
私の名前は「雅」、目の前に居るのは若かりし私のばあちゃん・・・じゃあ今ばあちゃんが抱いているのは・・・?
手元を見ると、白い布に包まれているのは、赤ちゃん・・・ではなく真っ白い壺・・・。
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「ヒュッ・・・」と息が詰まる。
あれは・・・骨壺じゃないか・・・?
骨壺を大事そうに抱えながら、ばあちゃんは子守唄を歌っている異様な光景。
するとじいちゃんが戻ってきて、「そこに置いてあった本が階段から落ちたみたいだ」と言い、手に持った本を本棚に入れた。
「おい、ご飯にしよう」とじいちゃんが言うと、ばあちゃんも「あら、もうそんなお時間ですか」と言い、持っていた骨壺を布団に置いてポンポンしながら、「お休みね、雅ちゃん」と言った。
2人は階段に向かい、そのまま下に降りて行った。
その場に取り残された私。目の前には布団を掛けてもらい横になってる骨壺・・・。
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「・・・・怖えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!(心の声)」
何だこれ・・・何を見せられたんだ・・・今・・・!!!
状況はいまいち掴めないが、どうやらここは昔のじいちゃんばあちゃんの家で、うちの母が生まれる前だと思われる。
そこまでは分かるが、問題は目の前の「雅ちゃん呼び」されている骨壺だ。
これは今私が見ている夢。そう夢だ。
めちゃくちゃ怖いがこれは夢なんだ。
じゃあ、若いばあちゃんが大事そうにしている壺の中を見るくらいいいだろう。
何が入っていても「夢ならノーダメージ」だと思い、壺に近づき中を覗き込んだ。
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中身は、赤黒いシミの付いた白い固形物・・・・。
予想はしていたが、やはり人の骨みたいだった。
「・・・・・見なかったことにしよう」
そう思い布団を掛けなおしたその時、私の左肩に手が触れた。
そして低い声で
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shake
「ダメじゃない・・・雅ちゃん」
と女性の声が聞こえた。
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「うわあああああああ!!!!」
その瞬間目が覚めて飛び起きた。目の前には住み慣れたアパートの部屋の景色。
「はぁはぁ・・・夢で良かった・・・分かってはいたけど・・・!!!」
全身から汗が噴き出しており、喉がカラカラだった。
「とりあえず水!そして風呂!!」
今日は会社は休みの日だ。時計を見ると朝7時半。
シャワーを浴び着替え、朝ご飯を準備しているとスマホに着信が入った。
幸太からだ。
幸太「おはよう!雅兄ちゃん、良い朝だね♪」
私「あー・・うんおはよう・・・」
幸太「なんだよー!元気ないなぁ!!」
こいつは何でこんな朝から元気なんだよ・・・と思いながら「要件は?」と聞いた。
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幸太「いや・・・実はさ、母方の・・・じいちゃんばあちゃんの家・・・覚えてる?」
背筋がゾワッとした。昨日見た夢は鮮明に覚えている。そして今日幸太からその事について電話が掛かって来た・・・これは偶然だろうか・・・?
私「あ・・・あぁ覚えてるけど、それがどうしたんだ?」と聞くと、
幸太は「あの家、じいちゃんもばあちゃんも亡くなったから5日後に取り壊すらしいんだ。だから欲しいものがあれば取りに来いって親戚から言われたんだけど・・・兄ちゃんは何か有る?」
「いや・・・特にはない・・・」と言いかけたところで夢の内容を思い出した。
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夢で見た昨日の2階の部屋、あれは本当に存在するのだろうか・・・?と。
5日後に取り壊しが決まっているのなら、確かめるチャンスは今回しかない。
私「欲しい物は無いけどさ、母の実家って5歳くらいに行ったのが最後だからどんな家だったかあんまり記憶になくてさ。最後に思い出として記憶に残したいから行きたいんだけど・・・良いかな?」
と聞くと、
幸太は「良いと思う!付き添うよ!じいちゃんとばあちゃんも喜ぶと思うよ!!」と言った。
あの夢がもし本当の出来事なら、喜べる内容なんだろうか・・・と少し複雑だった。
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取り壊しの2日前に私と幸太は有給を取り、例の家に行くことにした。
ここに今日来ているのは私と幸太しか知らない。
理由は母方の親戚と私はほぼ面識は無いが、鉢合わせると何かとめんどくさそうだから。
どーせ嫌われてんでしょ。
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玄関は中からしか施錠出来ないタイプのドア。この家に入る時は裏口に回り、南京錠の掛かったドアを開けて入る。
今じゃ考えられないが、昔は防犯意識が低かったらしい。
鍵は幸太が管理している親戚から借りてきてくれていた。
私「じゃあちょっと中見させてもらうんだけど、悪いけど幸太は外で親戚が来ないか見ててくれないか?多分俺と鉢合わせするのは良い気しないだろう。」
深く物事を考えない幸太は「了解!誰か来たら電話するね!!終わったら電話頂戴!」と了承してくれた。
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本当は怖いから付いてきて欲しかったが、もし2階が存在した場合幸太になんて説明すればいいのかが分からない。
そして夢のとおりなら、あの骨壺が有るかもしれない。
幽霊とか信じてないけど、もし危険な場面に遭遇した場合は幸太に助けを呼んでもらえるし、色々考えた結果外に居てもらうのが良いと判断した。
私「じゃあ行ってくる」と言い、鍵を開けて中に入った。
幸太は「ゆっくり見てきてね!」と後ろで手を振っていた。
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中に入ると、薄っすらと埃は被っているが、割と綺麗な状態だった。
幼少期ぶりに見た母の実家に「うわぁ懐かしい」と声が零れた。
リビングや台所をひとしきり見て懐かしんだ後、問題の押し入れに向かった。
私「ゴクリ・・・開けるぞ」
周りに誰もいないが、自分を安心させるために声が出てた。
ガタッガタッと建付けが悪く、体重を掛けながら押し入れのふすまを開けた。
目の前には布団や衣類が山積みに積んであった。
邪魔だったので全部出したが、出し終わって中を見たら、人が立てるくらいの横長のスペースのただの押し入れだった。
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「まぁ・・・そりゃそうだよな」
と思い上を見ると、天井の板に隙間が見える。
そして板の端の方に小さい取っ手が付いていた。
「おいおい・・・まさか・・・」
取っ手を引っ張ると屋根の板が下がり階段が出てきた。
この家が建った時にこんな技術が有ったのか??大型のヒンジで稼働し、バネで吊られている。
感心している傍ら、この時点で心臓の音がうるさいくらい高鳴っていた・・・だって夢で見たのと同じ階段なんだから・・・。
意を決して1段ずつ登る。上の階は窓が無いのか真っ暗だ。
私はスマホのライトを点けゆっくりと登った。
1番上まで登った時に、1階よりも2階の方が埃が積もっており、喉がイガイガし始めた。
正面にライトを向けると、夢で見た時と同じ6畳の和室。
本棚が有り、若いばあちゃんが夢で座っていた場所には小さい机が有った。
よく見ると机の上には表紙の色が変色したノートと、ルービックキューブより一回り大きい位の赤黒く汚れた箱が置いてあった。
箱は怖いので後回しにするとして、ノートを手に取り開いた。
1ページ目には「私の罪を告白する」と書かれていた。
「なんだこの物騒なタイトルは・・・」と思ったが、大丈夫、まだ怖くない。
2ページ目には「このノートが日の目を見る時は、私、幸時と、妻の彩(ばあちゃんの名前)がこの世に居ないことを祈る」と始まり、事の経緯が掛かれていた。
まず私と同じ名前の「雅」という人物は、じいちゃんとばあちゃんの間に生まれた長女の名前だ。
じいちゃんが26歳、ばあちゃんが23歳の時に出産し育てていたが、この子が1歳を迎えてすぐ病で亡くなってしまったらしい。
この時2人は死を受け入れられず、死亡届は出さずにしばらくは遺体と生活していた。
しかしじいちゃんはこのままではよくないと思い、ばあちゃんに「先祖のお墓に入れよう」と提案した所、ばあちゃんはこれを断固として拒否。
理由は「何を言っているのですか!この子はこんなにも元気ですのに!!」と。
「この時点で彩が病んでいたのは分かっていた。だが当時精神病院は有るには有ったが、酷い扱いを患者が受ける場所だと聞く。彩をそんな所に連れて行くのは・・・。」
とかなり苦悩した記載がある。
しかし季節は7月、遺体は瞬く間に腐敗していく。時間がない。
読み進めるうち、次のページに目を疑う1行が有った。
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「彩が眠っている内に、雅の遺体を田んぼで焼いた」
~~~~~~~っつ!!!!とんでもない唐突な告白に声にならない声が出た。
普通に法に触れている。死んだことを公にせず、遺体を自分で処理するなんて・・・身内の話で恐縮なのだが「狂っている」が正直な感想だ。
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じいちゃんもかなり悩んだ末の行動だったようで、「これしか方法がなかった」や「本当はこんなことしたくなかった」などの後悔の念が何行も綴られている。
そして下の行に「彩にどうやって説明すれば良いか悩んだ」と書いてある。
そりゃ一番の問題なはずだ。ばあちゃんはまだ子供が生きてると思ってるのに、じいちゃんが勝手に火葬しちゃったんだから。
そのあとに、「彩に刺されても仕方ない事だか、骨を用意した骨壺に入れ、持ち帰った。自宅に戻ったら何やら彩が慌てている。
聞けば、「寝ている間に雅ちゃんが居なくなってしまいました!貴方も探すのを手伝ってほしい!!!」と大粒の涙をポロポロ流しながら懇願して来た。
この時私はすごく胸が締め付けられ、真実を告げるのを躊躇われたが、深く深呼吸し覚悟を決め、
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「雅はここに居る」と先程の骨壺を差し出した。
差し出された骨壺を見た彩は、涙がピタッと止まり、
「あぁ良かった!貴方と一緒だったのですね・・!寿命が縮まりましたよー!!」
と胸を撫で下ろし、壺を抱いて寝室に戻って行った。」
じいちゃんの記録には続けて「彩はもうダメかもしれない」と書かれていた。
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「この2階の部屋は、近所の棟梁に頼んで増改築した部屋だ。骨壺を抱いて歩く彩を人目に触れさせない様にするために作った。窓も極力小さくし、外からは分からないようにしてある。
昼間は基本ここで生活してもらう。夜には「子供を上に寝かせておく」約束で、下で生活させている。朝昼の食事は私が作り、上の部屋へ持っていく。その代わりに夜は彩が作って一緒に食べる。
私は幸いにも漁師だった。仕事に出るのは深夜から早朝にかけてで、彩が起きるころには帰ってこれる。
なので余程の事が無い限り、この件が世に出る事はない。」と強気な姿勢なのが分かった。
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次のページには、「まずいことになった」と先程とは打って変わって弱気な見出しだった。
「彩が「2人目の子が欲しい」と言い出したのだ。
理由は「雅ちゃんにも弟か妹が居た方が寂しくないです!雅ちゃんが大きくなって私たちが居なくなった時に、姉妹が居れば支えあって生きて行けると思います!だから・・・ね?ね?ね?!」
ちょっと可愛く言われても、「雅はずっとあのままだし、2人目の子は実質1人っ子みたいなもんなんだから・・・あんまり意味ないんじゃ・・・」とは口が裂けても彩には言えない。
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ここでも私はすごく悩んだ。
そもそも雅は「貧しい暮らしの上、妻が病にかかったため、止む無く里子に出した」という事になっている。
なのでここで新たに子を産み育てては、「何故里子に出した子を引き取らぬのか」という声が上がるのは目に見えている。
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そもそも里子に出した子どもなんて居ない。
彩が大切に抱いている壺、あれが長女なのだから。」
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「悩みに悩んだ末「養子を取る」事になった。
彩が今から子を産み、あの精神状態で子育ては難しいと思う。それに年齢的にも安全な出産が望めるか不安は有る。
自分達の子どもではないが、さすがにずっと骨壺を子どもとして接するには無理がある。
彩は幸せそうにしているが、私は精神的にもずっと辛かった。
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もちろん不安はある。病とは言え亡くなった子供を葬式にも出さず、勝手に火葬し、骨壺に保管して愛でている家庭に、他所から来た子供が、幸せを感じられるんだろうか。幸せになれるんだろうか。
その前に私達が警察捕まったり、彩が更に病んでしまったら・・・など考え出したらきりがないが、私が先に死んだら誰が彩と居てくれるのか。
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私たちがやってることは犯罪だ。当然養子に迎えた子どもにも迷惑が掛かる。
だが申し訳ないのだが、私は彩を心から愛している。
彼女がどんな形であれ笑って過ごしてくれるのなら、私はどんな手段でも選ぶ。
もしも生きていれば、雅は6歳になる年だ。
ほんの少し、養子を取れば彩の雅への愛が、別の生きた人間の方へ向くことへの期待も有った。
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この頃には私は漁師の仕事に加え、深夜の倉庫バイトもしていた。
そして彩も「子供を見ながら出来る仕事がしたい」と言い出したので、ミシンを買い、服を作ったらこれがものすごく売れた。
家も一軒家の持ち家で、早くに亡くなった両親が遺してくれたものだから家賃などもない。
なので子供を1人養うほどの金銭の余裕は有った。
孤児院を回り、今年6歳になった女の子を見つけた。
この子の名前は「亜衣」という。引き取る旨を孤児院に伝え、職員との面談が有ると告げられた。」
ここまで読んで、私は現実に引き戻された。亜衣は私の母親の名前だ。
「孤児・・・」つまりじいちゃんとばあちゃんと、うちの母親は血が繋がっていない事になる。そうなればもちろん私と幸太も・・・。
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母親もどこまで知っているのかは分からないが、
「雅と幸太がいてくれて本当に幸せ」と私たちを心から愛し育ててくれた。
だから、この事は深く追求せずに墓場まで持ってくと心に決めた。
後編に続く
作者雅