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長編9
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第七話 廃病院

 俺はまた怖いサイトから色々調べていた、暇なのだ

 

 児島さんから

「きちんと卒業はする事、両親に対するケジメです」

 との連絡を最後に、もう一週間何も無い

 新しい快適なアパートになった上にバイトの必要が無い

 だがしかし余分な金は無い

 もちろん彼女?なにソレ?美味しいの?

 となればネットかアニメか肝試し

 

 夜7時、木村と一緒にバイクを出してアパートから一時間半の街へ

 走りながらインカムで

「お前も好きだねぇw」

「ただ考え方は変わったよ」

「何がよ?」

「霊は何も出来ないかもって」

「あー、けどシラヌシさんみたいなのが居るとはなー」

「あれは妖怪とかお化けとかじゃないか?」

「…見え方、とらえかたかもな、神様やヌシであり…バケモノでもあるんじゃね?」

 

 あのデッカイキツネをバケモノに見える人が居れば神々しいと見る人も居るか

 

 ……………

 

「ここか?w」

「いかにもって感じだろ?」

 潮の香りがする海沿いの工業地帯、主要道路の陸側は住宅街なのに海側は倉庫ばかり、その一角に大きな四階建ての廃病院

「危険」「関係者以外立ち入り禁止」「取り壊し予定」

 などの看板と金網、そして存在しているのが爆笑なレベルの落書きが多数

 夜露死苦なんて今時マンガでしか見たこと無いし、変なフォントの英語も

 

「弟思い出すなぁ」

 俺は苦笑い

「そうか、お前の弟このタイプかw」

 俺の弟はガード下で落書きするタイプのヤツだ

「バイク隠しておこうぜ」

 2台のオフロードバイクを繁みに隠して

 金網の隙間から入りライトを点ける

「木村?何してんだ?」

「後藤さんにメール、気付けっかな」

「何で?」

「こういう所は事件の切っ掛けになることあんだよ、連絡しろって言われてんだ、…あの人PCダメだし、今時スマホもろくに使えねぇからな…」

 送信している

 

 昭和な人だな後藤さんw

 

 荒れたアスファルトと雑草とコンクリート片の中を歩き、

「ここから入るんだな」

 正面は閉ざされてるから一階裏の非常階段の所から

 入ると割れたガラス、ペットボトル、缶ビールの空き缶、そして落書き

「有名な所は同じだなぁ」

 俺には安心感まである

「そういうもんか?」

 木村は首を傾げる

 有名な心霊スポットあるあるだ、DQNに出会う確率もあるが皆フレンドリーだったりする

 暫く進みロビーに出た

「木村、見えるか?」

 あっちこっちにライトを向ける

「いや、いねぇよ?ロビーで死ぬヤツ居るか?」

 そりゃそうだ

 荒らされ書類が散乱している事務を覗く、何もない

 二階に上がると病室が並ぶ、窓が割れてボロボロのカーテン、雰囲気最高!

「どう?」

「そりゃあ居るわなw見てみなw」

 肩に触れる

 部屋の隅に座ってる影、天井近くに浮いてる影、バタバタ暴れる影、キレイに寝たまま浮いてる影

「色々だな」

「教えてやるよ」

 木村は解説する

 自分が死んだ事を知り途方に暮れてるっぽい中年、多分薬で無意識に死んだ婆さん、苦しみながら死んだ爺さん、眠る様に死んだ婆さんだ

「あぁ、キレイに浮いてるのは」

「ベッドに寝てるつもりなんだろw」

 なんだか可哀想、気づかないって

 

「で?ここが何で心霊スポットなんだ?」

 見える人には当然の質問だろうが、見えない人には『今見ただろ!!』と言いたくなる反応

 

 

「呪われるって定番な話だった」

「普通ーw」

 笑い合う

 

 …あれ?全然怖くない、あぁ

「そうか」

「どうした?」

「何か全然怖くない、霊が何も出来ないって分かったからかも?」

「だろうな、俺もそれが当然だったからな」

「非日常を感じる俺の…趣味が…」

「女居ないのにコレが趣味って悲しくねぇ?wやっぱり悲鳴上げて抱き付かれるのが理想だろw」

「リア充は爆発するが良い」

 真顔

「まー俺達には関係無いわな、で?次は?」

 

「定番の場所がある、目的地はそこだ」

 真っ暗な階段を降りる

 病室がある二階や三階は街灯の光が入って明るいが

 地下となれば話は別

「暗いな」

 木村もライトを点ける

「木村、いるか?」

「いや居ないけどよ、暗すぎて恐えぇ…」

 霊は怖くないのに暗闇は普通に怖いらしい、いや俺も恐いけど

 階段にもゴミと埃

「昼のが良かったかな…」

「お?オカルト好きとは思えない発言だなw」

 慎重に降りて20m程進むと

「ここか…」

「定番だな…」

 霊安室…

 重い扉を開けると

「こうなってんのか」

「ドラマのまんまw」

 二つの台があり、蝋燭などを立てる場所があるだけ、殺風景

「…いる?」

「いねぇよ?何にも」

 まぁ噂なんてこんなもんだ

 戻って階段を昇る…

「………まて」

「?、どうした?」

「………移動するタイプか…?」

「?」

「今横切って行った」

 木村は指を立てると左から右へ

「何か変だ」

 階段を慎重に登り一階に着くと

「いた…」

 奥の方、ベニヤ板で閉じられた出入口、天井に救急入り口と赤いランプがある

「何してんだアレ…」

 首を傾げる木村

 

「…んー、どうしよ…」

 急に俺は冷めた、これ以上見た所で…

「…動画配信で人気取りやってる訳じゃねぇし、帰っても良くね?」

 木村も察したようだ

 

「…そうだよなぁ」

 何か無意味な感じが…

 

「カツーン………」

 何処かから何かを落としたような音

「えっ?!」

「他にも誰か居るんじゃね?」

 反響で音源がどこだか分からない

 

「…しょうがねぇ、せっかく来たんだ、とりあえず…付いて行ってみようぜ?」

 二人でゆっくり後を追う

 

 入り口のすぐ横、処置室?という部屋に入った様だ

 二人で無言で頷く、ステンレスの引き戸、太いパイプのドアノブを持ってスライドさせる…

 居た

 木村の肩を触ると見える、暗闇に黒い影

「何してんだ?」

「わかんね」

 小声で話す、奥の窓際でゆらゆらしている、

 霊はライトを当てても反応しない、見えてる世界が違うんだな

 突然影が振り返り

「え?」

 そのまま木村に飛び付く!!

「うわぁっ!」

「ちょっ!マジか?!」

 

 ……………

 

「木村?それ…」

「あぁ…やっぱり害は無いわ」

 恐る恐る木村に触れると木村に影がブラ下がっている

「ひっ!」

 すぐに手を離す

 

「だっ大丈夫なのか?」

 小さい子供がよくやる父親の首にぶら下がるヤツに見える

 

「めっちゃ首締めながら浮いてるw」

「どんな人?」

「制服着てる、女子高生だな、可愛いけど近いw」

 

「可哀想に…何の病気で…」

 

「…いや、多分お前の考え違う」

「?」

「病院だぜ?制服着て死んでるのおかしくねぇか?」

 

「…まさか…」

 木村に触れてじっと見る

 

 ………これはどこだ?どこかの十字路…住宅街…?目の前にワゴン車止まった…

 男が三人飛び出して…

 何か被せて来た

 急に場面が変わる…これは!

 

「うげぇ…」

「神崎?」

「木村、分かった」

 俺は歩き出す

 

 上を向いた俺の上に覆い被さる男、その頭は木村みたいにクリクリの茶髪、天井には…ドラマで見る照明

 他にも男が二人

 俺が暴れるのを押さえ付けて…服を破かれ…

 

「手術室だ、連れ込まれて襲われたんだ…」

 頭の中がグルグル回る、気持ち悪い…最悪だ

「…!そうか、廃病院に「なってから」の霊か…呪いの正体分かったかもしんない」

 

「何だ?」

 

「木村と髪型似てんだよ、茶髪のクリクリ」

 

「…そうか、俺犯人だと思われてんのかw」

 

 木村に似てて霊感があるヤツがいたら呪いの噂もでるだろう

 悔しかったろう、怖かったろう、叫んだって助けは来ない、屈辱と絶望の中で殺されたんだ

 

「なぁ、顔見られたから殺されたってか?」

「多分…そうなる…」

「口封じで殺人までやったのか…ひでぇ」

「うん…」

 俺の中で何かが芽生える

 これが正義感かも

 

 手術室の赤いランプ、手術中と書いてあるドラマで見るヤツ、二階にあったんだな

「ここかな?」

「行ってみようぜ」

 鎖が巻き付いてる変な扉、開けると更に軽い扉、開くと…ガラクタ…そして

 

 

「臭えっ!うおお…!」

「臭っ!…居るのか!?」

 

「まず数が多いわ!…ちょっと多過ぎて…」

「え?」

「変だ、何で制服…?普段着?…なんで?」

 学生の霊が多いらしい

 

「そんなにレイプされて殺された…って事か?…」

「いや違う、男もいるぜ?」

 見回す

「何なんだここ?」

 棚や台車がある部屋…例の照明だけが存在感がある…

 いや、違う!照明と機材だけがキレイなんだ!

「木村!この照明とか変だ!」

 後から付けた様な

 

「ちょっと待て、この手術台…床も…これ全部血じゃないのか?!」

 

「床っ?!」

 黒い、靴で蹴ると

「ジャリッ」と剥がれた、臭いの元はコレ?

 

「なんか…ヤバくね?」

 

「おい!何してんだガキ!?」

 複数のライトに照らされる

 

 後ろを見ると白や黒のジャージにアクセサリー、刺青のDQNが五人

「関係者以外立ち入り禁止って看板見てねぇのか?!」

「何勝手に入ってんだ!?あ?!」

「どうなっても構わねぇよなぁ!」

 ドカドカ入って来る!

 

「ヒイイッ!!」

 俺と木村は奥の壁に詰められた

「すいません!すいません!」

 後退り

 おかしい!心霊スポットのDQNって割りとフレンドリーなのに!

 

 顔を近付け

「何で入ってんだ?!」

 

「いや、あの、心霊スポットで有名で」

 無理!恐い!!

 

「有名なら不法侵入しても良いのかコラァ!!」

「ヒイイッ!!」

 壁で爪先立ちになる、と

「コイツらだ!」

 木村が叫んだ

 隣の木村を触ると目の前の男の首、影がブラ下がって…茶髪の男に、いや、他のヤツにも次々と影達が飛び付く

「俺らが何だオラァ!!」

 木村の胸ぐらを掴むが

 

「あんたら恨まれてんな?」

 木村は冷静に

「ここで何人殺した?」

 

「なんだぁ?!」

「十人位アンタに憑いてるぜ?」

 

「…てめぇ…覚悟は良いな?」

 ナイフを取り出し

「どこまで知ってるか知らねえが…仕方ねぇよな?」

 

 すると

「テメェが鎖適当にしてっからだろ!」

「つい面倒でよ!」

「予定外だぜ?どうするよ?」

「構わねぇよ!」

 内輪モメ始めた…ら

 

 

 

「あー、揉め事かい?」

 聞き覚えのある声が廊下から、そこにいるのは

「後藤さん!!」

 

「何だぁジジィ!!」

 一人が掴み掛かろうとするが

「があっ!いででで!」

 後藤さんの周囲にいる男達に取り押さえられる、こっちは本職の人?

「四課連れて来て正解だったなw」

 

 ……………

 

 

「だから言っただろ木村、気を付けろって」

 優しい好好爺の後ろではDQNを取り抑えた本職達

 

「こういう意味だったのかよ…」

 え?どういう意味?

「そう、人を埋めて自然な場所が墓場なら人をバラして自然な場所は病院だ、なんなら死体の一部が見付かっても薬液に浸かってりゃそれなりに見える」

 

 頭を殴られた気分、そうか、廃病院なんて殺人には最適

 何が心霊スポットだ

「血の跡があっても自然って言うか、気にならないって事か…」

 自分の無知と短慮が恥ずかしい

 

「その通り、それにしてもまぁだこんなシノギしてるヤツらが居たとはなぁ」

「後藤さん、シノギって?」

「臓器売買、コイツらは『いらない』部分の処理と、拐ってくる下っ端ってとこだな」

 電子タバコの煙を吐く

 

 じゃあレイプされたのは…ついでかよ…床一面の黒い跡…

 吐きそう

 

「まぁ、このままじゃあ騒乱罪と不法侵入で厳重注意、骨折っても手柄にゃならない」

 俺達を見る

「何か証拠見てないか?」

 

「神崎、もしかしたら一階の」

「あの辺りか?」

 

 一階処置室の窓際へ

「この辺にいたよな」

「木村、もしかして」

 窓のすぐ下にそれはあった

 錆びたドラム缶が並ぶ中に青い樹脂の…ドラム缶?

 ポリタンクっぽくて黒いゴムの蓋が付いてる

 

「ふーん…どっこいせっと」

 後藤さんは窓から降りる

 

 蓋を持ち上げると凄く臭い

「大手柄だ」

 

 霊が執着する場所、それは殺された場所、または自分の遺体がある場所

 ポリタンクの中には…

 

 

「神崎君、オカルトスポットの噂ってヤツだがな」

「?」

「わざと噂流す連中ってのがいる訳だ」

「わざと?」

「そうすりゃ勝手に若い奴等が集まる、『商品』が勝手に集まり安い訳だ、ネットの話を鵜呑みにしないことだよ?w」

 

 ぞくりとする、臓器…当然若いヤツが良いだろう

 肝試しなんて若いヤツしかやらない

 勝手に集まる仕組みを作るとなれば…

 背中が寒い…

 

Concrete
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