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金色に光る蝶が、静かに闇の中を飛んで行く。
…
優雅にヒラヒラと、夜の空を飛ぶ。
ヒラヒラヒラヒラ…
蝶は、一つの立派な城の突き出たバルコニーに咲く淡いピンクの薔薇に止まった。
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『姫さま〜!姫さま〜?どちらにおいでですか〜?』
深紅の絨毯が敷かれた長い廊下で、メイド達がこの城のお姫様を探している。
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姫の名前はメアリー。
未だ15歳のお姫様。
ブロンドの長い髪は緩やかなウェーブを作り、透き通る様な白い肌に桜色の頬。
そして、大きな瞳を飾る様に長くカールした睫毛がより一層大きな眼を際立たせている。
上品にプックリ膨らんだ唇は、紅をさした様に赤く潤っている。
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…
絵本から抜け出た様なお姫様。
…
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今日は、姫が生まれた時に王様が決めた、隣国に住む許婚の王子が見える日。
おめかしをする様に王様に言い使ったメイド達は、消えたメアリーを血眼で探し回っていた。
メアリーは隣国の王子が好きではなかった。
いつも自分の自慢話しかせず、使用人に対する高飛車な態度も大嫌いだった。
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…
そんな王子に会いたくなかったメアリーは、お父様から行ってはいけないと言われていた塔に、こっそり逃げ込んでいた。
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塔の螺旋階段を上がり切ると、そこからの景色に溜息を吐く。
『わぁー!ここから見ると、お庭の薔薇園が凄く綺麗だわ…』
城の庭師が丹精込めた薔薇が、塔からは360度どの角度からも見渡せた。
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メアリーはメイド達が自分を探しているので見付からないよう、ちょっと頭を低くして、上からチョコンと顔を出し、綺麗な庭を眺めていた。
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すると、塔の真ん中辺りの石で出来た床に扉が有る事に気付いた。
『ここは?』
好奇心旺盛な姫は、木で出来た扉を持ち上げる。
すると、扉の中には下に降りる梯子が有った。
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真っ暗な闇に日差しが入り込む。
…
ふとそこに、誰かが居るように見えた。
『誰かいらっしゃるの?』
メアリーは声をかけたが、誰も答える者はいない。
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少しだけ怖かったが、好奇心に勝てず、姫は梯子を下りて行った。
外からの光が差し込んでいるのは、この部屋の極一部。
どのくらいの広さが有るのか、何が有るのか見えないメアリーは、日の光が届く範囲に有った燭台の蝋燭に火を灯した。
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すると…
…
沢山の鎧や兜、そして剣が壁と言う壁に飾られ、その奥には一枚の大きな絵が…
どこの誰かは知らない、とても涼しい顔をした若い男性の肖像画が飾られていた。
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とても立派な出で立ちの、端正な顔立ちの男性は、哀しげで淋しそうに見えた。
…
『貴方はどこの誰?
どうしてそんなに哀しそうなの?』
メアリーの問いに、勿論絵は答える筈もないが、メアリーは語り続けた。
『私もとても悲しいの…。
嫌いな人と、16歳になったら結婚しなくてはいけないの…。
貴方も悲しい事が有ったの?』
…
メアリーは大きな瞳から一粒、涙を零した。
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どのくらいそうしていたのか…
…
気が付けば、肖像画の前で横になり眠っていた。
慌てて上を見ると、空は茜色に染まっていた。
…
もう隣国の王子も帰った頃かしら?
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メアリーは肖像画に
『又、貴方に会いに来るわね。
今日は私を隠してくれて有難う。』
そう告げると蝋燭を消し、梯子を上がり扉を閉めた。
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メイド達は誰一人姫を見付けられなかったと、広間で王様に叱責されていた。
メアリーは塔から戻ると王様のいる広間に行き、『私が悪いんですから、この者達をお叱りになるなんて、お父様!筋違いですわ!』と自分の所為で叱られているメイド達を庇った。
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召使い達の目の前で父親である王に口答えをし、元々あまり良い関係ではない隣国の王子と結婚をさせたいのに素直に従おうとしない姫に、流石の王も怒りを爆発させた。
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『この者を牢に繋いでおけ!』
王様の言葉に、母親の妃も執事もオロオロするばかりだったが、メアリーは胸を張り、
『良いでしょう。それでお父様の気が済むなら、牢屋でも何でも入れてください。
その代わり、この者達はお咎めなしですよ?』周りのメイド達を見詰めてそう言うと踵を返し、メアリーは自ら地下の牢に行った。
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王から言い使った執事が慌てて後を追い、メアリーが牢に入ると困った顔をしつつも鍵をかけた。
…
『姫様?お食事は…こちらにお持ちしますが、宜しいですか?』
暫くするとやって来た執事が問い、メアリーが頷くと、執事は指をパチンと鳴らし、メイド達は一斉に食事の用意に走った。
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『姫様…。じいは、姫様のお気持ちもわかります。
ですが…、王様のお考えもわかります。
姫は、この国の民の事はお考えになられた事はございますか?
姫様が王子とご結婚なされなければ…いつ、隣国に攻め入られないとも限らないのでございます。
もし、そうなれば…
一番の被害を被るのは、この国の民なのです。
王様は、そうならない様…お考えの上、王子との結婚を進めておられるのです。』
メアリーは執事の話しを黙って聞いていた。
そんな事は百も承知している。
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あの王子にしてあの王あり。
…
隣国の王は欲深く、重い税金を民衆に強いている。
民衆が少しでも逆らえば、公開処刑も平気で行う。
又、少しでも自分の領土を広げんが為、幾つもの国に攻め入り自国の領土を広げていた。
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メアリーの国など、あの国に攻め入られたら、アッと言う間に落城してしまうだろう。
…
父はそれを危惧して、娘を嫁に差し出し、国の民を守ろうとしている。
…
メアリーにもそんな事は分かっていた。
だが、あのような者の妃になるなんて…メアリーは吐気と身震いを抑える事が出来ない。
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メイド達が用意してくれた料理も手付かずのまま、心配する執事の手前メアリーはスープだけを飲み干すと後は片付けさせた。
そして牢に拵えてある粗末なベッドに横になると、明かり取りの為の天井近くにある小さな鉄柵から差し込む月の明かりを眺めた。
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父の気持ちも分かっている。
…
メアリーが逆らえば、父がどれだけ辛いかも…
…
民を不幸にさせてはいけない事も…
…
そんな事を考え、泣きながらいつしか眠っていた。
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肌寒さで目を覚ましたメアリーは、蝋燭が大きく揺らめいているのを見た。
そして、身体を半分起こしたところで、牢屋のすぐ脇にある木の椅子に誰かが座っている事に気付く。
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『誰?貴方は誰?爺やなの?』
メアリーの問いかけにその者は椅子から立ち上がり、蝋燭の明かりが届く場所まで来る。
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『あ…貴方は…』
メアリーはその者の姿を見て驚いた。
…
その者は牢屋の扉の前に立つと、鍵も使わず扉を手前に引くとカチャン…扉が簡単に開いた。
そしてメアリーに歩み寄り跪くと、一輪の深紅の薔薇を差し出した。
…
それは、とても深い、深い、メアリーの見た事もない程深い紅い色をした薔薇だった。
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その者は、昼間、塔で見かけた肖像画の人物だった。
『貴方は…誰?
どこから此処へ?』
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メアリーの問いかけにその者は哀しげに微笑むと
『私はエドモンド。
貴女の知らない地で国を持っておりました。
貴女が隣国の王子とご結婚なさると聞き、止めに参りました。
ご安心下さい。
私が貴女を守ります。
貴女のお父上も、この国の民達も。』
惹き込まれる様な深いブルーの瞳でメアリーを見詰める。
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『エドモンド…。
貴方が私や父母、そして国の民を守ってくださると言うの?
…でも…
どうやって…?』
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エドモンドは跪いたままメアリーの手の甲に唇を軽く付け、
『大丈夫です。私は毎晩、貴女様に会いに参ります。
その時に、この薔薇を一本ずつ差し上げます。
そして…この薔薇が100本揃ったら……』
エドモンドはそう言い残し、静かに地下牢から消えた。
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ベルベットの様な深紅の薔薇が一本、メアリー姫の手に握られていた。
…
姫の誕生日…
…
姫の祝言まで…
…
後、3カ月と少しの夜だった…
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それから毎夜、約束通りエドモンドは一本の深紅の薔薇を手にメアリーの寝室に現れた。
メアリーはいつしか、ピンクの薔薇の咲くバルコニーでエドモンドが来るのを待つ様になった。
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ある日はエドモンドの城の周りの森に住む動物の話を聞き、ある日は国の民の可笑しい話、ある日は優しいご両親の話を聞き、ある日はエドモンドの好きな本の話、
そしてある日は2人でワルツを踊った。
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エドモンドはとても知的で優しく、彼の部屋の窓のすぐ横に植えられた薔薇の大木が毎年必ず100本の花を付ける事。
その100本の薔薇をメアリーに贈る事で、彼の願いが叶うと言う事。
そんな話もしてくれたが…
メアリーはエドモンドの叶えたい願いがとてもとても気になっていた。
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執事、そして王まで姫の落ち着き様に驚きつつも、目前に迫った隣国の王子との祝言も受け入れてくれたのだと理解し、王は申し訳ない…と涙しながらも愛娘の幸せを神に祈る毎日だった。
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メアリーは日中、薔薇園で本を読んで過ごす事が多くなった。
メイド達と隠れんぼもせず、エドモンドの事を想っては時々深い溜息を吐いては空の彼方を見上げる。
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姫の部屋の掃除をするメイドは、城では見た事のない深紅の薔薇が毎日一本ずつ増えている事に気付いていた。
しかも、その薔薇は枯れる事なくいつも今切り取ったばかりの様に瑞々しく、その花びらはまるで上質なベルベットを思わせる。
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…
薔薇は、姫の部屋の大きな花瓶に飾られ、もう90本ほどになっていた。
…
…
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次の日は祝言…そして、深紅の薔薇が100本になるその夜、エドモンドは輝く銀色の鎧に身を包みメアリーに会いに来た。
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『今日で約束の100本です。
そして、約束通り…
私はこれから隣国の王と王子と戦って参ります。
姫…
私があの王と王子を倒します。
だから、貴女は心から愛する人と一緒になられて下さい。』
エドモンドはメアリーの前で跪くと、腰に携えた剣に手をやり
『姫…お幸せに…』
そう言うと背中を向けた。
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メアリーはエドモンドに手を伸ばし、自分の気持ちを伝えようとしたのだが…
…
背中に指が届く前にエドモンドは、バルコニーの下に待たせていた馬目掛けて飛び降り、そのまま走り去ってしまった。
…
月の明かりを浴びながら、メアリーは泣き崩れた。
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明朝、瞼を赤く腫らしたメアリーは、メイド達にコルセットを強く強く、内臓が潰れてしまうのではないかと思う程締め付けられていた。
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エドモンドにもう会えないなら…
誰と居ても同じ…
嫌いな王子だって、愛する事は出来なくても…
国の為…民の為…
メアリーはそう自分に言い聞かせる物の、それでもエドモンドを想うと涙が零れ落ちる。
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メイド達にコルセットで締められた後、パニエを履かせられ、その上から薄い絹を幾重にも重ねた美しいドレスを着させられる。
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髪を綺麗にセットされ、頭に沢山のダイヤモンドで飾ったティアラを乗せられた。
そして、母方の祖母やその祖母から伝わる大粒のダイヤモンドのチョーカーで首元を飾る。
『姫さま!本当にお綺麗です!』
メイド達、そして母の妃までもメアリーの美しさに見惚れて溜息を吐く。
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だが…
メアリーが一番見せたい人は、もういない。
これから好きでもない男の城に嫁ぐのだから…
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隣国の王と王子が到着するまで、息をするのもやっとと言う程締め付けられた身体のまま、椅子に腰掛け待とうとしたその時、爺やが勢いよく部屋に入って来ると、青い顔をしてメアリーに告げた。
『姫!気をしっかりお持ち下さい!
たった今入りました情報によると…
昨夜、隣国の王と王子は何者かに殺害されました!!
あちこちから恨みを買っていた王ですから…
誰に殺められたか…分からないとの事です。』
そこまで一気に話すと、爺やは涙ぐみ…
『姫さま…ようございました…
これで、あの王子との結婚は無くなりました…』
爺やは泣き笑いをし、胸のポケットから白い絹のハンカチを出すと涙を拭った。
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メアリーは昨夜のエドモンドの言葉を思い出した。
『約束通り…
私はこれから隣国の王と王子と戦って参ります。』と…
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メアリーはいても立っても居られなくなり、高い踵の靴を脱ぎ捨て、一目散にあの…初めてエドモンドの肖像画を見付けた、あの塔へ走った。
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高い塔の螺旋階段を走り、息を切らして天辺まで昇り詰めると、足元にある木の扉を持ち上げて開け、暗闇に続く梯子を使い降りていく。
そして、いつかの燭台の蝋燭に火を灯した。
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…
…
壁には哀しげに淋しげに佇むエドモンドの姿が…
ふと額縁の横を見ると、未だ新しい赤い血に濡れた剣が…
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メアリーはエドモンドの肖像画に向かい、初めて自分の気持ちを言葉にした。
…
『貴方がいなくては私、幸せになんてなれません!
貴方がいて初めて、私は幸せだと想えるのです!』
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メアリーはエドモンドの肖像画にそっと口付けた。
…
『私を貴方の傍にいさせて下さい…
貴方を心から…
愛しています……』
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…
…
肖像画のエドモンドの胸に頬を寄せてメアリーは泣いた。
…
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すると…
メアリーの涙を優しく拭う指が…
見上げると、肖像画のエドモンドがメアリーに微笑みかけ、その腕を伸ばし、メアリーを優しく抱き締める。
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…
…
『私も貴女を愛しています。
ずっと私といてくれますか?』
…
絵から抜け出たエドモンドはメアリーを抱き締めながら問いかける。
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『はい。貴方と離れて生きるくらいなら…
私は死んだ方がましです。
ずっと貴方と一緒にいさせて下さい。』
…
メアリーはエドモンドの瞳を見詰め、その胸に顔を埋めた。
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…
…
エドモンドはメアリーを優しく抱き抱えると、静かに、絵に向かう。
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…
…
エドモンドとメアリーは、周りの絵の具を溶かしながらゆっくりと絵の中に入って行った。
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忽然と姿を消した姫を探し、城のメイド達、兵士達、門番、庭師、コックまで…
城の者総出で城のありとあらゆる場所まで探し回った。
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そして、兵士の一人が姫にソックリな絵を見付けた。
城の庭をぐるりと見渡す事の出来る塔の長いらせん階段を昇りつめた最上階にある、隠し部屋で…
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姫は真っ白の絹のドレスを着、ダイヤモンドが輝くティアラを着け、とても美しい男性と二人、手を取り合い見詰め合っている。
…
とても幸せそうに、微笑む二人の肖像画だった。
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…
…
…
王はその絵を広間に持って来させると、王座のすぐ隣に飾った。
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姫と一緒に描かれた男性は、王が治める国よりも小さく、だがとても平和な国の王だった。
森に囲まれ、争い事のない平和な国だったのだが…
その国の森に眠る資源に目を付けた隣国の王が攻め入り、森を焼き尽くし、王も民も滅ぼしてしまったのだ。
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姫が生まれて間も無く、隣国の王は自分の王子の妃にしないとお前の国もいずれこうなると脅し、結納の品としてこの肖像画や鎧、兜、剣を持って来たのだった。
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王も一度だけ妃と共にこの肖像画の王の城の舞踏会に呼ばれて行った事が有った。
…
門から城に続く道の両側には、とても深い深紅の薔薇が咲き乱れていた。
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王は、姫の部屋に有った見覚えのある深紅の薔薇を庭師に渡し、これを庭に植える様に言うと…
半年ほどで薔薇の木は深紅の花を咲かせた。
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やがて…
…
沢山の深紅の薔薇は、淡いパステルカラーの薔薇の中で綺麗なコントラストを付けて咲き誇る様になった。
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年老いた王が息を引き取る直前、庭師が棘を切り取った深紅の薔薇を手渡すと、王は薔薇を胸に、今は亡き愛娘を想い一粒の涙を零し、静かにその生涯を閉じた。
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広間には、幸せそうに微笑むエドモンドとメアリーが、いつまでも…
色褪せる事無く永遠に、見詰め合っていた。
…
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〜薔薇(深紅)〜
…
花言葉:
◎深い愛情
◎すべてが欲しい
…
作者鏡水花
2015年10月~11月に投稿しました
*HANA*シリーズ、第5作目の ~深紅の薔薇~です。
個人的で申し訳ございません(≧人≦)
*HANA*シリーズの中で、私が一番好きな話をこの度は、再投稿させて頂きましたm(_ _)m
童話風のこのような話は、恐らく、もう二度と書くことは出来ないと思います(ノω≦`)
※只今、夏バテ中でして、頂いたコメント、怖ポチのお礼にも行けずに申し訳ありません(TДT)
もう少し回復しましたらお伺い致しますので、もう少々…お待ちくださいませ(T人T)
お読み下さるだけでなく、コメント、怖ポチはとても嬉しくて…
いつも有難うございます(;O;)✨
*HANA*シリーズ
・カランコエ
http://kowabana.jp/stories/27774
・ニゲラ
http://kowabana.jp/stories/29359
・赤いチューリップ
http://kowabana.jp/stories/30143
・サルビア
http://kowabana.jp/stories/30152
・ブーゲンビリア
http://kowabana.jp/stories/30153
・スノードロップ
http://kowabana.jp/stories/30159
・グラジオラス
http://kowabana.jp/stories/30166
・桜花繚乱
http://kowabana.jp/stories/30169
・青い薔薇
http://kowabana.jp/stories/30212