これは、僕や薄塩が高校1年生の時の話だ。
前後編なので、詳しくは前編の
御守り《夢買い前編》
を読んで頂きたい。
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・・・・・・・・・。
長い昼が終わる頃、のり姉が到着した。
「相変わらず大きな家だねー。」
「い、いえ、そんなごみ"っっっ」
あ、木葉さん噛んだ。
そんなゴミって何だ。
全く。清々しい程に分かりやすいな。
・・・さっきまでずっと泣き通しだったのに。
のり姉が、僕の方を向いた。
ニヤリと笑う。
「カッコつけて面倒事引き受けちゃったんだって?男の子だねー。コンソメ君!!」
・・・くそぅ!
何てイラッとする表情なんだ!!
でも、此処はグッと我慢だ!!
「・・・はい。」
のり姉が更に憎たらしい顔をした。
「でも、自分じゃ手も足も出ないから、私を呼んだんだよねぇ~?」
・・・我慢だ!!!
「・・・はい。」
此処は我慢、我慢だ!!
僕は頭を下げ、のり姉に言った。
「僕じゃどうしようも無いんです。お願いですから助けて下さい。」
「コンソメ君の頼みだもんねー。私も、無下には出来ないなぁ~。」
のり姉のニヤニヤが、最高潮に達した。
くそぅ!
てか、助けろよ薄塩!
いい加減機嫌直せよ!
そっぽを向き続けている薄塩を、少しだけ睨んだ。
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・・・・・・・・・。
それから十分後
ここは木葉さん宅の台所。
これまた広い。
僕等は今、ここで夕食の準備をしている。
「今日は祖父が居ないので録な食材が無いんです・・・。冷蔵庫の中の物は、全て使ってしまって構いません。」
と木葉さんが言った通り、冷蔵庫の中には確かに録な物が無い。
鯛の切り身が有ったが、それだって一枚だけだ。
「薄塩、コンソメ君、頑張ってねー。」
のり姉が楽しそうに言った。
勿論手伝う気等無いのだろう。
木葉さんがおずおずとこちらに声を掛けて来た。
「あの、私も御手伝いしますけど・・・・。」
「いいっていいって!!下手に手出しするより二人に任せて!!腕は保証するから!!」
が、のり姉に引き留められた。
・・・ったく。
手伝いもしないのに、無駄にハードルを上げないで欲しい。
・・・まあ、期待には答えるけど。のり姉の執事擬きの名に懸けて。
こんな事を考えてしまう時点で、僕はもう色々末期何だと思う。
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以下、料理中の会話。
「鯛の嵩増しどうする?」
「んー?・・・取り敢えず酢飯に混ぜとけ。」
「あ、油揚げあった。今日の内に煮て、明日いなり寿司にしよう。」
「なあ、このレタスまだイケるか?」
「軽く湯通しすれば多分。」
「了解。」
「あ、シメジ入れる前にちょっと焼いて。」
「おお。」
そんなこんなで約三十分後。
僕等は
・鯛のちらし寿司
・シメジの吸い物
・レタスとちりめんじゃこのお浸し
・焼きナス
・他にも何かあった気がするが忘れた
と言った夕食を作り上げた。
薄塩の機嫌は料理をしている内に直った様だ。
料理の力は偉大だと思った。
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・・・・・・・・・。
それから四十分後
夕食が終わり、今度は順番に入浴する事になった。
浴室もかなり広かった。
僕は着替えを持って来ていないので、のり姉が持って来ていた薄塩の服を借りた。
・・・サイズが違うので動きづらい。
薄塩縮め。
薄塩縮め。
大事な願いなので二回書いてみた。
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・・・・・・・・・。
それから大体二時間後
全員、着替えと入浴も終わり、ここは客間。
ピンと張り詰めた空気の中、のり姉が口を開いた。
「さあ、始めようか。」
僕等は、ゆっくりと頷いた。
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「それで、木葉君。風車と黒い靄の他に、夢の特徴は?」
木葉さんは、首を横に振った。
「そう・・・。それじゃ、そういう目に会う心当たりは?」
木葉さんはまた、首を横に振った。
のり姉が、少し顔をしかめた。
「・・・それは、少し厄介かもね。」
木葉さんの顔が一気に不安げになる。
それに構わず、のり姉は続けた。
「接点が無いのに干渉できる・・・か。もし、本当に無差別攻撃出来る位の奴だとしたら・・・。それに相手の意図と正体は不明。此れが一番の痛手かな。・・・さて、どう出たもんかな・・・。今となっちゃコンソメ君が夢主だし。」
薄塩がふと気付いた様に言う。
「あのさ、コンソメの買った夢を、また姉貴に売るとか出来ねえ?」
のり姉が呆れた様に溜め息を吐いた。
「あんたねぇ、実の姉をもっと大切に思いなよ。もし危険な目に会ったらどうすんの?」
薄塩は真顔で言った。
「姉貴だから、《少し危険な目に会う》位で済むんであって、コンソメなら完全アウトゾーンかも知れないだろ。大体、姉貴の生命力はアスファルトを貫くど根性大根並だし。」
「アスファルトに咲く花じゃないんだ?」
フンッ、と薄塩が鼻で笑った。
「華の無い姉貴を花に例えるとか有り得ない。」
そしてそこからはもう、
ここに書けないレベルの罵詈雑言の応酬。
木葉さんは二人を止めようとオロオロしている。
そして僕はその様子を黙って見ていた。
いや、黙っていたのとは違う。
声が出せなかったのだ。
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・・・笑いを堪えていて。
原因は、一重にのり姉が着ている服によるものだ。
スッキリとしたシルエットの深紅の上下。
どちらにも、爽やかな白いラインが入っている。
頭にはキリリとした鉢巻き。
そして、何より異彩を放つのは、
大好きな○○君の顔面が前にバーンとプリントされているTシャツ。
・・・要約するとのり姉は、痛Tに赤い芋ジャーの上下を合わせ、更に頭に鉢巻きをしているという凄まじい格好をしていたのだ。
しかも表情は真面目そのもの。
手には木刀を握っている。
誰もつっこまないし。
大体、若い女性としてどうなんだそれは。
嫁の貰い手も婿の来手もこれでは・・・
「・・・君!コンソメ君!!それでいい?!」
え?!
何?!
今何か言った?!
えっと・・・。
取り敢えず適当に答えておこう。
「はい。判断はのり姉に任せます。」
のり姉が、満足そうに微笑んだ。
「・・・じゃあ、早速しよう。《夢繋ぎ》を。」
・・・。
話を聞いていなかった僕が100%悪いのだが・・・《夢繋ぎ》って、何だ?
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僕が呆けた様な顔をしていると、のり姉が《夢繋ぎ》とは何なのかを教えてくれた。
「まあ、まんま夢を繋ぐ事だね。ミズチ様と会った時にコンソメ君もやった筈だよ。」
「あ、あれか!」
あれの詳細は、《蛟の夢》で確かめて欲しい。
・・・あれ?
《夢買い》の話はどこへ行ったのだろう。
「にしてもコンソメ君さぁ、何で《夢買い》なんてしちゃったの。又買いは厳禁なのにさー。最初から大人しく私呼んで買わせればよかったのにー。」
あ、そうなんだ。
「ごめんなさい。知りませんでした。」
僕は面倒臭そうに口を尖らせるのり姉に頭を下げた。
「別にいいけどね。只、危険が伴うのを覚悟しててね。」
「はい。」
僕の返事を聞くと、のり姉はいきなり部屋に布団を敷き始めた。
そして、紙に何かを書き付け、ビリッと二つに破る。
「はい。これ持っててー。」
紙片の一方を渡された。
そして、もう一方を木葉さんに渡す。
「はい寝てー。あ、一応手、繋いでー。」
・・・ちょ、え?!
「のり姉が付いてきてくれるんじゃ無いんですか?!」
さらっとのり姉は答えた。
「うん。基本こういうのは無関係な人は下手に手出ししない方がいいし。コンソメ君はもう夢を買っちゃったから仕方ないけど。」
「ミズチ様の時、薄塩思いっきり無関係でした!」
ペチッ
軽くデコピンをされた。
「ミズチ様の場合、コンソメ君に持ってたのはあくまでも純粋な《好意》。悪霊何かと一緒にしてあげないでよ。」
・・・。
・・・仕方ない、か。
「分かったなら早く寝て。こっちも出来る事はするから。」
紙片を持ち、敷かれた布団に横たわる。
覗き込む様にしてのり姉がこっちを見た。
「はい、手、繋いでー。」
「・・・服の袖じゃ、駄目ですか?」
「駄目!」
「何故に?」
「こっちのモチベーションの問題上!」
・・・・・・。
この変態!!
って、言いたい。
言える訳無いけど。
「ほらほら、手、繋いでー。はよ寝ろー。」
「ほらほらコンソメ、言うこと聞けwwww」
「薄塩お前だけは許さん絶対にだ。」
渋々と手を繋いだ。
目を閉じようとした瞬間、ふっ、とのり姉が真面目な顔になったのが見えた。
「あっちに着いたら、手、離していいから。それまでちゃんと繋いでて。迷子にならない様に。あとくれぐれも無理はしないで。どうしようも無い時は頑張って目を覚ましてねー。」
それでも、聞こえてくる声はあくまでも明るい。
きっと、今まで笑顔を作ってくれていたのだろう。
ふざけたジョークまで言って。
「大丈夫。二人共助けるよ。」
「絶対な。」
薄くなる意識の中で、小さな二人の声が聞こえた気がした。
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・・・・・・・・・。
次に目を開けると、そこは暗い道の真ん中だった。
結構な幅のある真っ直ぐな道。
そして、道の両端から先は、見渡す限りの風車の群れだった。
地面に刺さっているらしく、模様は全て同じ赤の和柄だ。
「・・・ここですか?」
僕が聞くと、木葉さんは頷いた。
「ええ。・・・あの黒いのは、まだ居ませんね。」
「・・・歩きましょう。」
「・・・ええ。」
真っ直ぐな道を進んで行く。
けれども景色は全く変化しない。
行けども行けども、風車。
異様な光景にも、次第に慣れて来た。
そんな時。
モヤ~ッ
とした黒い靄が見えた。どんどんこっちに近付いて来る。
「ヒッッ((((;゜Д゜)))」
分かりやすく木葉さんがビビった。
靄の中に誰かがいる。
僕はよく目を凝らした。
近付いて来るにつれ、だんだん姿がはっきりして来る。
ヒタヒタヒタ
上半身を揺らす様に、不安定な動きで歩いて来るそれはーーーーーー
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一人の少女だった。
「・・・え?」
かなり小さい。
恐らく小学校低学年・・・いや、幼稚園生位かも知れない。
あ、こっちに気付いた。
少女が、満面の笑みを浮かべる。
大きく手を振り、そして叫んだ。
「お兄ちゃーーん!!!」
お兄ちゃん?
僕が後ろにいる木葉さんを見ると、木葉さんはマンガの様にガタガタ震えていた。
どうやら声は聞こえていないらしい。
「木葉さん、木葉さんって妹さん居ました?」
「一人っ子です!!」
・・・そうか。
なら、人違いかな?
そんな事を考えている内に、女の子が直ぐそこまで来た。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!!」
僕を華麗にスルーして木葉さんの着物を掴む。
木葉さんがまた、
「ヒッッ」
という声を上げた。
女子小学生を本気で怖がっている青年。
端から見ると、かなりシュールな画だ。
木葉さんがチラチラとこちらを見て来る。
・・・仕方無いな。
少女の直ぐ近くでしゃがみ、ポンポンと肩を叩く。
不思議そうな顔をして、少女がこちらを見て来た。
「・・・誰?」
お兄ちゃんと一緒の所を邪魔されたのが嫌だったのか、少し不機嫌そうに言う。
僕は、努めて普通に聞いた。
「ねえ、君迷子?お父さんお母さんは?」
普通の迷子を見付けた時の様に、何気無く。
「独り?お家はどこだか分かる?」
「困ったな。ここら辺、交番も無いし。」
「ね、どうしようね。独りじゃ帰れないよね。」
言い続けていると、少女の顔に陰りが出てきた。
不安そうに瞳がゆらゆら揺れているのが分かった。
「お名前は?」
僕が聞くと、少女は答えた。
「・・・・・・佐藤ミカ(仮名)。7さい。」
そしてギュッと、木葉さんの着物を握り締める。
僕は、出来る中で、最上級の笑顔をした。
「そうなんだ。僕はコンソメだよ。」
分かりづらくて申し訳無いが、ここで僕が名乗ったのは渾名の方だ。
本名は自分を認識する為の一番大切なツール。
ここで気安く教える訳にはいかない。
「コンソメ?変なの。」
少女は、少し楽しそうな顔になった。
「変かなぁ?」
「変だよ。」
惚けた様に言うと、彼女はクスクスと笑った。
僕もにっこりと微笑んだ。
「えーと、ミカちゃん。少しお願いがあるんだけど。」
「何?」
「僕とお兄ちゃんは、大切なお話があるんだ。ちょっとだけ、その手を離してくれないかな?」
コクリ、
とミカちゃんが頷いた。
道の端にしゃがみ、風車を吹き始める。
何だ。思ったより素直ないい子じゃないか。
いや別に変な意味では無く。
ミカちゃんに聞こえない様に、小さな声で木葉さんに話し掛けた。
「木葉さん。木葉さん。」
ギギギギギ、とでもいいそうな動きで、木葉さんがこちらを向いた。
「ナンデスカ?」
声までぎこちない。
・・・まあ、僕の知った事じゃ無いけどな。
「・・・さっきの会話、聞こえてました?」
「会話って・・・あのノイズですか?」
あ、やっぱり聞こえて無かったか。
「女の子の姿は、分かりますか?」
「靄しか見えないです。」
・・・やっぱりか。
僕は、木葉さんにミカちゃんの名前と容姿を説明した。
すると、木葉さんがハッと驚いた様な顔をした。
「その名前・・・!」
「何か心当たりがあるんですか?!」
木葉さんが何度も頷く。
「御得意先です!でも、この間事故で一家全員・・・。その前に、何で私の所に・・・。」
「・・・そうですね。でも、取り敢えず相手の身元が分かっただけ、良しとしましょうか。」
振り返り、飽きずに風車を回しているミカちゃんの所へ歩いて行く。
ミカちゃんが、近付いて来た僕に気付いた。
「お話終わった?」
「うん。終わったよ。」
僕が答えると、ミカちゃんはまた木葉さんの元へ駆け寄り、着物を掴んだ。
今度は声を出さなかったが、また木葉さんが固まった。
もう一度しゃがみ、ミカちゃんと視線を合わせる様にして話し掛ける。
「ミカちゃん、何でミカちゃんはこのお兄ちゃんの所に行こうと思ったの?」
ミカちゃんは、満面の笑みで答えた。
「ミカ、お兄ちゃんとけっこんするの!!」
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思わず木葉さんの方を見る。
そしてもう一度ミカちゃんを見る。
「結婚・・・するの?お兄ちゃんと?」
うん、とミカちゃんが力一杯頷く。
・・・どういう事だ?
木葉さんに聞いてみる。
「木葉さん・・・まさか小学生に・・・!」
木葉さんがブンブンと首を振った。
・・・まあ。それはそうだろうな。
「あのね、お兄ちゃんはミカとけっこんするの!!だから迎えに来てあげたの!!」
まだ7歳なのに、とんだヤンデレだな。
将来が心配・・・あ、もう死んでるんだった。
・・・この妄想をどうにかしない事には・・・。
さて、どうすべきか。
・・・取り敢えず、この少女が木葉さんに抱いている幻想をぶち壊すか。
うん。そうしよう。
「ミカちゃん、こんなお兄ちゃんと結婚しちゃ駄目だよ。人生を棒に振るよ?」
「ぼうにふるって?」
ああ。先ずそこからか。
「幸せになれないって事だよ。」
「なんで!!そんなことない!!」
わぁ。凄い剣幕。
落ち着いて僕は続ける。
「あるんだよ。だってこの人ビビりでヘタレだし。おまけに重度の人見知りだし。慎重とかじゃないんだよ。ただのチキンなんだよ。」
「・・・・・・酷く無いですか?コンソメ君。」
「黙らっしゃい。」
「・・・はい。」
「ヘタレってなに?チキンってなに?お兄ちゃんはからあげじゃないよ!!」
ミカちゃんはまた凄い剣幕で怒鳴ってくる。 ・・・きっとミカちゃんの中では
チキン=フライドチキン何だな。
「うん。ヘタレってのは弱虫って事でね、チキンっていうのは・・・。」
「もういい!!!」
ミカちゃんが、頭を抱えて踞る。
・・・逆効果だったか。
・・・・・・どうしようかな。
仕方無いので、道端の風車を一本引き抜き、ミカちゃんに差し出す。
「ミカちゃん、風車。」
まあ、そこら辺に沢山あるのだけど。
ミカちゃんが、ゆっくりと顔を上げる。
「さっきはごめんね。」
「・・・いーよ。」
渡された風車を回しながら、ミカちゃんが言った。
「ねえミカちゃん。」
「・・・何?」
声はまだ不機嫌そうだ。
「どうしてもお兄ちゃんじゃなきゃ駄目かな?」
ミカちゃんが、大きく頷いた。
「・・・じゃあ、どうして、お兄ちゃんを好きになったの?」
ピシリ、とミカちゃんの表情が固まる。
「それは・・・。それは。」
「分からない?」
暫しの沈黙の後、ミカちゃんは消えそうな声で
「うん・・・。」
と言った。
「お兄ちゃんとミカちゃんは、結婚出来ないんだよ。」
ミカちゃんはまた、
「うん。」
と言った。
きっと、頭では初めから理解出来ていたのだろう。
「お父さんとお母さんが心配してるよ。帰ろう。」
僕は泣きそうなミカちゃんの頭を軽く撫でた。
いや別に変な意味では無く。
「お母さん、心配してない。」
「え?」
ミカちゃんが、ポツリと呟いた。
「お母さん、ミカの事キライだから。」
「・・・どうして?」
泣きそうな声は、ポツポツと語り始めた。
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・・・・・・・・・・。
だって、お母さんミカの事キライって言った。
ミカわるくないのに。
わるいのはシオリ(仮名)ちゃんなのに。
シオリちゃんが悪口とか言うからなのに。
なのに、少しぶったからってみんなみんなミカがわるいミカがわるいっていうの。
だからミカおこって、お母さんがくれた《がさぐるま》すてちゃったの。
そしたらミカなんてキライって。
だから、だから、
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・・・・・・・・・。
うわぁぁぁん!!
僕は、泣き出したミカちゃんの背を叩きながら、話の内容を整理した。
・・・恐らく、
1.ミカちゃんにシオリちゃんが悪口を言った
2.悪口を言われたミカちゃんはシオリちゃんを ぶってしまった。
3.ミカちゃんは皆に叱られた。
4.そして怒ったミカちゃんはお母さんから貰った《がさぐるま》(多分風車)を捨ててしまった。
5.お母さんがミカちゃんにキライと言った。
と、いう事かと思われる。
そして、家族はそのまま事故で・・・。
何ともやるせない。
まぁだけど・・・。
「・・・本当に、お兄ちゃんと結婚したい?」
ミカちゃんは、ゆっくりと首を横に振った。
「じゃあ、僕達を返してくれるね?」
今度は、ゆっくりと縦に首を振る。
これで、一番重要な問題は解決された。
けど・・・。
「じゃあ、今度はミカちゃんがお家に帰る方法を探さなきゃ。」
このまま放っては置けない。
振り向くと、木葉さんもまた
ギギギギギと音を立てながら頷いた。
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・・・・・・・・・。
「ミカちゃん、お家に帰ろう。」
しかしミカちゃんはなかなかyesと言わない。
苦虫を噛んだ様な顔で
「だってお母さんミカの事キライだもん・・・。」
と言うばかりだ。
よほど嫌いと言われたのが響いたのだろう。
さあ、どうしたものか。
僕が思案していると、後ろから木葉さんが歩いて来た。
相変わらず効果音はギギギギギだけど。
ミカちゃんの前にしゃがみ、話し掛ける。
「お母さんはミカちゃんの事が嫌いな訳では無いと思いますよ。」
踞っていたミカちゃんが、木葉さんの方を向いた。
「ただ、ミカちゃんが自分が悪いと分かってくれなかったのが、悲しかったんでしょうね。何で分かってくれないの?って。」
ミカちゃんが、ハッとした様な表情を浮かべた。
「・・・お母さん、言ってた。」
「でしょう?お母さんはただ悲しかっただけなんですよ。本当はミカちゃんが大好き何ですよ。」
ポタリ。
ミカちゃんの目から涙が溢れた。
「さあ、お父さんお母さんの所へ行きましょう。」
ポタリ、ポタリ、ポタリ。
泣きながらミカちゃんが言う。
「帰れない。道分かんない。」
木葉さんが、困った様な表情を浮かべた。
僕は、一つ深呼吸をして、二人に言った。
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「僕なら、ミカちゃんを送れますよ。」
二人の視線が一気に僕に釘付けになったのが分かる。
「木葉さん、少し退いていて下さい。」
「ミカちゃん、ここに立って。」
ミカちゃんを道の真ん中に立たせる。
「その風車を、しっかり持ってるんだよ。」
こくり
とミカちゃんが頷いた。
目を閉じ、手を前で合わせる。
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「神咒。布瑠の言。」
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ふるえ、
ゆらゆらとふるえ、
ひふみよいむなや、ここのたり、ももちよろず、
ふるえ、ゆらゆらとふるえ、
ふるえ、ゆらゆらとふるえ、
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ひたすらに唱え続けた。
空気を揺らす様に。
ミカちゃんの心を揺らす様に。
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ふわり
頬を風が撫でた。
風はどんどん強くなり、
カラカラカラカラ
という音が聞こえて来た。
ああ、風車が回っているのだ。
僕はそう思った。
目を開く。
見渡す限りの風車が、一斉に回っていた。
唯一、ミカちゃんが持っている物を除いて。
ふるえ、ゆらゆらとふるえ
ふるえ、ゆらゆらとふるえ
何度も何度も繰り返し唱える。
風はどんどん強くなる。
それでも、ミカちゃんの風車はびくともしない。
ミカちゃんが叫んだ。
「帰りたい!!帰りたいよ!!お父さん!!お母さーーん!!」
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ブワッッッ
吹き飛ばされそうな位の風が吹いた。
見ると、ミカちゃんの風車が勢い良く回っている。
ああ。
風が痛い。
もう目を開けて居られない。
最後に見ると、ミカちゃんが数回、口を動かしていたが、何と言っているかは、風の音に紛れて分からなかった。
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・・・・・・・・・。
風が止み、目を開けるとそこにミカちゃんはもう居なかった。
風車は全て無くなっていた。
「コンソメくーん・・・・・・。」
木葉さんが、土下座を崩した様なポーズで地面にへばり付いていた。
「何があったんですかーー・・・・?」
やっぱり見えて無かったか。
「さっきのは何だったんですか・・・?呪文みたいなの唱えてましたよね・・・?」
呪文?・・・ああ
「布瑠の言ですか?」
「そう!それです!何だったんですかそれ!!」
ズビシィッッッ
と木葉さんがこちらに指を指して来る。
・・・嗚呼。
話さなければならないのか。
面倒臭いな。
僕は、渋々と口を開いた。
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「はったりですよ。」
「は?」
木葉さんの指から、へにゃりと力が抜ける。
「はったりです。如何様ですよ。」
「じゃあ、さっきの風は・・・!」
「分かりません。少なくとも僕ではありません。そんな人間離れした事が出来る訳無いでしょう。」
「えーー・・・・・・。」
木葉さんが残念そうに溜め息を吐いた。
「ほら、帰りますよ。」
へたり込んでいる木葉さんを立たせる。
「帰るって・・・どうやって?」
自分の頬に手を当てて見せる。
そして、そのままむにっと掴む。
「これは、某ゲーム等でも定番の目の覚まし方何ですが。」
木葉さんも、手を頬に当てた。
そのまま、頬をむにっと掴む。
此処までくれば、木葉さんも分かるだろう。
僕は、掛け声を掛けた。
「せーのっっ」
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僕は、自分の頬をつねると同時に、木葉さんに脛蹴りを入れた。
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・・・・・・・・・。
目を覚ますと、布団の上だった。
壁の時計は午前3時を指している。
隣を見ると、木葉さんが脛を押さえて悶絶していた。
「お帰りー。」
のり姉が声を掛けてきた。
どうやら、無事に帰って来れたらしい。
僕はのり姉に一礼し、立ち上がって伸びをした。
ふと横を向くと、薄塩が団扇を持って倒れている。
団扇には意味不明な文字が書いてある紙が貼り付けられていた。
夢繋ぎの紙と何だか似ている。
僕は、気付いた。
そうか。
あの風はこいつが起こしてくれていたのか。
のり姉が、楽しそうに言った。
「団扇何かじゃなくて扇風機の羽に付けるとかすれば良かったのにwwwwwずっと風を送ってたんだよwww?バカだよねぇwwwww」
僕は、ぐったりと横たわっている薄塩の所へ歩いて行った。
脇に手を差し込み、縁側まで引き摺る。
縁側には、涼しい風が吹いていた。
「・・・・・・コンソメ?」
と、薄塩が言った。
「ああ。ただいま。」
と、僕は応えた。
すると薄塩は
「・・・・・・・・・お帰り。」
と言った。
咳払いをして、薄塩の方を向いて言う。
「ありがとうな。」
薄塩は、
「おお。気にすんなって。・・・ちゃんと洗濯して返せよー・・・。」
と応えた。
・・・全く。そっちじゃねーよ。ばーか。
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僕は夕食の時に作った麦茶を取りに、縁側を渡って台所へ向かった。
縁側には、涼しい風が吹いていた。
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嗚呼、そうだ。
一つ、大切な事を忘れていた。
事故に巻き込まれてミカちゃんが死亡した時、
彼女は三十代直ぐ手前だったらしい。
僕が見ていたのは、フィルター補正されていた像だったと言うことだ。
だがしかし、僕のフィルターは言動のレベルまでは補正されない。
と、いう事は・・・?
作者紺野
ロリコンですか?いいえ紺野です。
と、いう訳で(どういう訳だ)、
どうも。紺野です。
木葉さん回は、取り敢えずこれで一段落しました。
《布瑠の言》
知ってる人は知っているネタです。
まあ、マイナーかも知れませんが。
次回はピザポも出てきますよ!
話はまだまだ続きます。
良かったら、お付きあい下さい。