この話は、僕、薄塩、ピザポが高校1年生の時の話だ。
季節は秋。
前回の、《高梨君の話》の続きである。
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・・・・・・・・・。
「で、・・・コンソメ、聞いてる?」
「うん?・・・ああ。聞いてる聞いてる。」
「それで、世界の崩壊がなんたら闇の使者と結界がかんたら。」
正直意味が分からない話を、右から左、左から右へと聞き流しながら、僕は適当に相槌を打っていた。
目の前に居るのは高梨君。
夏休み明けに邪気眼デビューをしてしまった僕の友人だ。
そして今は昼休み。
何時も昼を一緒に食べているピザポは居ない。
恐らく他クラスの薄塩の元へ行っているのだろう。
で、どうして僕が昼食を食べながら高梨君の邪気眼トークを聞いているかと言うと・・・・・・。
「だから、ほにゃららの首を落として××を元に戻した訳。・・・コンソメ聞いてた?」
「・・・聞いてたよ。」
・・・何時の間にか話が終わった様だ。
僕は小さく欠伸をした。
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・・・・・・・・・。
事の発端は、昨日ののり姉との電話だった。
「まぁ、中二病自体は私達には結構どうにも出来ないんだけどね。取り敢えずは、高梨君に引っ付いてる8人を剥がそうか。
先ずはその高梨君とやらに近付いて。
次に、どうにかして心霊スポットに一緒に行って。最後に、・・・これ結構重要だよ?
心霊スポットに行った後、○○○へ連れてきて。
上手く行けば、中二病も治せるかもだよ?」
○○○と言うのは、のり姉がバイトをしているファミリーレストランだ。
一体何をする気なのだろう。
まあ、そこはどうでもいい。
取り敢えず高梨君が治ればいいのだ。
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・・・・・・・・・。
うんうん、と頷く僕を見て、高梨君は不思議そうな顔をした。
「コンソメ?」
「・・・何でもないよ。」
と、僕は言った。
「コンソメってよくボーッとしてるよなwww」
高梨君はそう言って笑った。
僕も笑ってみたが、正直ぎこちなかったと思う。
理由はきっと、この罪悪感だ。
だが、冷静に考えてみると、この計画は元々高梨君の為に行っている物なのだから、罪悪感を感じるとはおかしな話では無かろうか。
その場凌ぎのハッタリは得意なのに、何で計画的に人を騙すのは苦手なのだろうか。
自分の事ながら、謎が深まるばかりだ。
僕は、高梨君に気付かれない様、そっと溜め息を吐いた。
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それにしても、高梨君と心霊スポットに行けと言われても・・・。
一体どうすればいいのだろうか。
こういう時ピザポならサラッと連れて行く事が出来るんだろうと思う。
こんな時、自分のコミュニケーション能力の低さが恨めしい。
「・・・どうした?気持ちが悪いのか?もしアレだったら、保健室行くか?」
「・・・・・・ごめん。大丈夫だから。」
自分でも気付かない内に、顔をしかめていたのだろう。
見ると、高梨君が心配そうな顔をこちらに向けていた。
こういう所で、中身は変わってないんだなと思う。
・・・うん。
やっぱり彼を元に戻さなくては。
・・・くよくよしてても仕方が無い。
「高梨君。」
「ん?・・・やっぱり具合悪いのか?」
「違うってば。」
僕はそんなに病弱そうなのだろうか。
いや、それは取り敢えず置いておこう。
僕は口を開いた。
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「高梨君、頼みがあるんだけど。」
「へ?!いや、何?」
「幽霊見に行かない?」
「・・・はぁ?!」
高梨君が驚きの声を上げた。
「見に行くって・・・!!」
僕は慌てて説明した。
「いや、前からそういうの興味有ったんだけど独りじゃ怖いし、他の人は嫌だって言うし・・・ほら、高梨君は慣れてそうだし・・・。もし、本当に出て来ても、大丈夫かなと・・・。」
説明しながら僕は激しく後悔した。
胡散臭いにも程がある。
しかもこれじゃ、僕がオカルトオタクみたいじゃないか。
・・・いや、間違っては居ないけれど。
大体、言い出すのが早すぎた気がする。
もう少し何かこう・・・。
・・・・・・ともかく!
失敗した感が半端じゃない。
こんな胡散臭さでOKを貰える筈が・・・。
「いいよ。どこに行く?」
貰 え ち ゃ っ た よ !
「俺的には、××にある廃墟とか良いと思うんだけど・・・。」
し か も ノ リ ノ リ だ よ!!
ツッコミみたい右手を押さえつつ、僕は笑顔を作った。
「ありがとう!・・・あの、出来れば、あまり遠くない所が良いんだけど・・・いい所、ある?」
高梨君が、力強く頷いた。
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・・・・・・・・・。
「ふわわわ・・・。」
「歩きながら寝るなよ?これでもまだまだ早い方何だからな。ほら、もうすぐ着くから。」
「・・・うん。」
その日、夜の9時。
僕と高梨君はとある廃屋に向かっていた。
(まさか、話をしたその日に行く事になるとはなぁ)
のり姉のお供をする時は基本休日なので、僕が平日に出歩くのは実はかなり少なかったりする。
僕は楽しそうに先を行く高梨君の後を連発しそうになる欠伸を噛み殺しながら着いて行った。
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・・・・・・・・・。
「着いたぞ。コンソメ、起きてるか?」
「・・・うん。何とか。」
目の前には、極々普通の民家。
「結構な穴場なんだよ。鍵が開いてるから普通に侵入出来るし。・・・まあ、ここは俺も入るの初めてだけどな。」
「・・・へぇー。」
高梨君がドアノブに手を伸ばした。
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ガチャリ
いとも簡単に、ドアが開いた。
「おお!マジで開いてる!」
高梨君はどんどん中へ入って行った。
「お邪魔します。」
僕も一礼してから、後に続いた。
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廊下を渡り、階段を上り、僕達は二回の隅の部屋の前に来た。
「うん。ここから気配がする。・・・いるな。」
高梨君が怪しげな笑みを浮かべ、頷いた。
ゆっくりとドアノブに手を掛ける。
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ギィィィ
ドアが開く。
窓が開いていたので、月と街灯の光でその部屋はとても明るかった。
部屋の中には家具は何一つ無かった。
剥き出しのフローリングと、白い有りがちな壁。
「やっぱり。《アタリ》だ。」
ニヤリ
高梨君がまた嬉しそうに笑った。
コツコツコツ
足音を響かせながら、高梨君が部屋の隅へと移動する。
そして、人一人分程のスペースを空けてしゃがみ込み、その空けられたスペース向かって笑い掛けた。
「こんばんは。」
当然ながら、答えは帰ってこない。
当たり前である。
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だって、そこには誰も居ないのだから。
自分からテリトリー的な所へ入った場合、僕だってデフォルメ、修復された状態ではあるが一応は見える様になる。
断言する。
高梨君がさっきから楽しげに会話をしている場所には、幽霊どころかネズミ一匹居ない!
だがしかし。
相変わらず高梨君は楽しげに話を続けている。
僕は聞いた。
「・・・誰と、話してるの?」
「でさー・・・ん?・・・おお!」
今気付いた、という様な感じで、高梨君がこちらを向いた。
そして、嬉しそうに言う。
「ごめん!すっかり忘れてた!すっかり意気投合しちゃってさー!」
「誰か、居るの?」
僕が聞くと、高梨君は少し驚いた様な顔をした。
が、直ぐに納得した様な顔になった。
「ああ。コンソメには《見えない》んだ。確かに、ここに居るのに。」
・・・いや居ないよ?!
何にも居ないよ?!
一体何が見えてるの?!
怖っっ!!
ある意味怖っっ!!
・・・て、言いたい。
凄く言いたい。
でもここは我慢だ。
「・・・・どんな人?」
高梨君は、また笑みを浮かべながら言った。
「どんな人も何も・・・な。顔とかは、殆ど見れない状態かな。背格好は、俺等と同じ位に見えるけど。性別は・・・。男だな。グロ注意だから、見えなくてラッキーだったかもな。」
僕は、何も言えなかった。
高梨君が後ろを向き、やはり何も無い空間に呼び掛けた。
「・・・そろそろ、帰るわ。じゃーな。」
そして、またこちらを向く。
「・・・帰るか。」
僕は無言で、頷いた。
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家を出て時間を確認すると、まだ10時前だった。
僕は言った。
「まだ補導開始まで時間あるし、どっか寄って行こう?・・・何だかお腹空いた。」
クスクスと高梨君が笑った。
「いいけど?・・・さっきの見て、お腹空いたとか。」
「僕には見えてない。」
「ああ、そうか。」
そうだったな。と言って高梨君はまた笑った。
「○○○にしよう?割引券持ってるから。」
「○○○な?分かった。近いのは・・・△△店かな。」
そうして、僕等はのり姉の待つ、○○○へと向かった。
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・・・・・・・・・。
店に着くと、男性の店員さんが席を案内してくれた。
「いらっしゃいませ!3名様ですね?只今秋の味覚フェアを・・・」
「ちょっと待って下さい!・・・俺等、二人ですけど・・・?」
男性店員さんの言葉を、高梨君が遮った。
「・・・え?」
店員さんが振り向き、ゴシゴシと目を擦る。
「・・・・・・あ!すみません。2名様でしたか。数え間違えてしまった様です。お席、こちらになります。」
不思議そうな顔をして訂正をし、店員さんは戻って行った。
トントン
背中を叩かれて振り向くと、店員さんがこっそりと、高梨君には見えない様に親指を立てていた。
・・・成る程。
そう言う事か。
軽く礼をして、僕も席に着く。
目の前の高梨君が、眉をしかめていた。
僕は聞いた。
「・・・もしかして、着いてきてる?」
高梨君の顔に、分かり易く影が落ちた。
「そんな・・・大丈夫だよ・・・!」
と、言ったが笑顔がひきつっていた。
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・・・・・・・・・。
ウェイトレスさんが、水とメニューを運んで来た。
「失礼しま~す。こちらお水と、メニューになりま・・・あ!失礼しました!」
が、直ぐにどこかへ行ってしまった。
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ウェイトレスさんは、直ぐに戻って来た。
「失礼致しました~。こちら、お水です~。」
トン、と高梨君の隣に水を置く。
勿論だが、その席には誰も座っていない。
高梨君の顔がまた一段と青ざめた。
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・・・・・・・・・。
青ざめている高梨君を他所に、僕はあくまでマイペースに振る舞った。
「甘い物の気分じゃ無いなぁ・・・。でも、一食全部いくのも無理かも・・・。」
僕に気付いた高梨君が、無理矢理に笑顔を作り、こちらに話し掛けて来た。
「俺も一食は無理だな。二人で少し多めなのを頼んでさ、分けよう。何がいい?」
計 画 通 り 。
「本当?ありがとう。・・・じゃあ、どうせならこの、《秋の味覚フェア》の奴。あ、でも、嫌ならいいから。高梨君が決めてよ。」
だって、重要なのは《何を食べるか》では無く、《シェアする事》だから。
「・・・じゃ、この茸の和風パスタがいいかな。コンソメ、茸大丈夫?」
僕は頷いた。
「そっか。・・・他に何か、頼む?俺は、別にどっちでもいいけど。」
僕は首を横に振った。
「そっか。じゃあ、もう頼むか。」
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ピーンポーン
呼び出し音が鳴る。
暫くすると、さっきのウェイトレスさんが、注文を取りに来た。
「秋の茸和風パスタを一つ。」
「はい。秋の茸和風パスタですね?畏まりました。」
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・・・・・・・・・。
暫くすると、さっきとは違うウェイトレスさん(と言うかのり姉)が、パスタを運んできた。
「お待たせしました!秋の茸和風パスタです。ご注文は以上でよろしいですね?」
高梨君が
「はい。・・・あ、すみません。取り皿貰えますか?」
と言った。
ウェイトレスさん(実はのり姉)はにっこりと笑った。
「はい。只今お持ちします。」
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・・・・・・・・・。
カチャカチャッ
僕等の前に取り皿が置かれた。
僕の前に一枚。
高梨君の前に一枚。
そして、
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高梨君の隣の席の前に一枚。
「え・・・!」
高梨君がビクッと体を震わせた
僕は大袈裟に怯えて見せた。
「高梨君!本当に大丈夫?!ついて来てない?!」
「大丈夫・・・大丈夫だって・・・。」
半分自分に言い聞かせる様に、高梨君が繰り返した。
ウェイトレスさん(そしてのり姉)が、
「・・・すみません。どうかなさいました?」
と聞いて来た。
「あの・・・僕達、二人です。」
と、僕は答えた。
「え・・・?申し訳ありません。数え間違いをしてしまった様です。」
そう言って、ウェイトレスさん(だがのり姉)は皿を一枚下げ、不思議そうな顔をしながら帰って行った。
・・・帰って行く時、口元がニヤッとしたのが見えた。
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・・・・・・・・・。
食べてる間、僕等は始終無言だった。
会計を終え店を出て、歩き始める。
「・・・ごめん。」
消えそうな声が横から聞こえた。
高梨君だった。
「何かに、巻き込んだかも知れない。本当にごめん。」
僕は言った。
「悪いのは最初に誘った僕の方だ。ごめん。・・・でも、あの、高梨君はそういうの祓えるんじゃ・・・。」
少しの沈黙。
高梨君が、笑いと泣きの混ざった様な顔をした。
「本当に信じてたのか・・・。」
僕は頷いた。
また沈黙。
今度はさっきより少し長めだった。
「・・・ごめん。俺、本当は何も見えてない。何も祓えない。」
よっしゃ認めた!!
僕は心の中でガッツポーズをした。
「容姿とかは全部ネットで調べただけだし、さっき話してたのも完全な一人芝居。・・・祓える何て、本当に嘘っぱちだよ。・・・ごめん。」
僕は首を振った。
何も言わなかったのは、必死に表情筋を殺していたからだ。
それを何か、勘違いしたらしい高梨君が、また
「ごめん・・・。」
と言った。
僕は、表情筋を殺しながら、
「大丈夫だよ。きっと。店員さんが間違えただけだって。」
と言った。
高梨君が、無言で頷いた。
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・・・・・・・・・。
分かれ道。
「・・・じゃあな。」
高梨君は、手を振って左側の道を歩いて行った。
「さよなら。また明日、学校で。」
僕の家への帰り道は左の道。
さっきの廃屋の前を通る道だ。
僕等は高梨君の姿が見えなくなったのを確認して、歩き始めた。
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・・・・・・・・・。
以下、帰り道での僕等の会話。
「・・・ごめん。勝手に家に入って。」
「・・・・・・。」
「さっきからの態度も、嫌だったと思う。ごめん。」
「・・・・・・。」
「・・・あと、あいつの態度も。悪気は無いんだけどさ。ごめん。」
「・・・・・・。」
「本当に色々傷付けちゃって、ごめん。」
「・・・・・・。」
「でも、さ。・・・もし良かったら、また、遊びに行って構わないかな。」
「・・・・・・・・・つに。」
「え?」
「・・・・・・別に、いいけど。」
「・・・そう。良かった。今度は、ちゃんと分かる奴連れてくから。」
「・・・・・・うん。」
そこから暫し無言。
「あ、・・・着いた。」
「本当だ。・・・じゃ、また今度。」
「・・・・・・。うん。」
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そう言って彼は、自分の家へと入って行った。
僕はまた歩きだした。
歩きながら考える。
恐らく、高梨君はもう大丈夫だろう。
だが。念の為に明日辺り、誰かに押された振りをして階段から落ちかけてみよう。
あとは・・・。
のり姉の無駄に発達したメイク技術で、手形でも描いて貰うかな。
付いていた8人は、さっきのカミングアウトで離れていっただろう。
いや、見えてないから分からないけど。
それは明日、ピザポか薄塩にでも聞けばいい。
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・・・・・・・・・。
ふと振り返ると、開け放された窓から彼がこちらを見ていた。
手を振ってみたが、直ぐに引っ込んでしまった。
僕はまた歩きだした。
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コンクリートの道路を踏みながら歩く。
コツコツ
足音が夜道に吸い込まれて行く。
時刻を見ると、そろそろ補導が始まる時間だ。
僕は少しだけ、歩くスピードを上げた。
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・・・・・・・・・。
確かにあの時、高梨君の隣には誰も居なかったし、ファミレスでも高梨君の隣は空席だった。
それは本当の事だ。
何故なら。
彼は、部屋の中央に居たんだし、僕の隣に座っていたからだ。
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僕は、
《高梨君の隣には、幽霊なんて居ない》
と書いただけだ。
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《幽霊なんて居ない》
なんて、一言も書いていない。
作者紺野
どうも。紺野です。
・・・・・・。
怖くないですね。
と言うか、これでは只の《男子高校生の日常》ですね。
・・・ごめんなさい。
次回はもう少しマシなエピソードにします。
あの後、皆で《彼》の所へ遊びに行ったんですが・・・。
それは全く怖くないので封印します。
次は、秋祭りでの話です。
のり姉、薄塩、ピザポが出て来ません。
あ、のり姉のあの行動は、バイト仲間達全員で協力してやってくれたそうです。
・・・ネタバレですか?
・・・これ位、セーフですよね。
それでは。
話はまだまだ続きます。
良かったら、お付き合い下さい。