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中編3
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和田さん③

もうこの和田さんシリーズではお馴染みのケビンですが、そんな彼の立派な黒マスクも徐々に白いものが混じってきました。

今回のお話は私が出産を終え、職場復帰した翌年のお話です。

年も明け、忙しくも充実した日々を送っておりました。

そして平成七年一月十七日。

あの忌まわしい阪神大震災が起こりました。

激しい揺れに、最初は地震と理解できず、明るくなってから室内の惨状を見て、只事ではない、と悟った次第です。

私達家族はお互いの実家が車で五分程の距離で安否確認もすぐ出来ました。

皆無事で、もちろんケビンも無事でした。

ホッとしたのも束の間、私達の住む地域に避難勧告が出されました。

沖合のガスタンクに亀裂が入り、ガス爆発の恐れがあるというのです。

幼い子供と年老いた大型犬を連れ、私達はお互いの実家と共に避難しました。

幸いご近所の方も含め、ケビンを怖がったり嫌がったりする方はいらっしゃらず、逆になけなしのお水やビスケットを分けてもらったり、交代でケビンと非常口にいる私達家族に

「そんな寒いとこおったら風邪ひくさかい、早よ中入り。」

と入れてくださったり、避難先で出会った幼い子供達のお母様方に

「ケビンちゃんがうちの子の面倒見てくれるから安心です。」

「ケビン君のおかげで防犯になるよ。」

「ケビンちゃん、温かいね。」

と、喜んでもらえ、こちらまで嬉しくなりました。

若いご夫婦が、お散歩に付き合って下さったりという嬉しい出来事もあり、ケビンも退屈はしなかったようです。

避難は1日で解除されました。

「みんな無事でね。」

「ありがとうね。お互い頑張ろうね。」

私達は一晩の出会いを噛み締めながら帰路につきました。

さて、家の中は酷いもので、片付けが大変でした。

幸い壊れたのは食器棚やテレビ台など、買い替え容易な物ばかりでしたので、助かりました。

自宅がひと段落着いたので、ありったけの食品や、日用品などを車に詰め込み、再び実家へ。

主人とは手分けしてお互いの実家の片付けを手伝うことにしました。

私はケビンのケージに娘を座らせ、お守を任せました。

ケージは広く、周りにはソファと低いカフェテーブルしかなかったので誰か一人側にいれば安心でした。

なので父と弟と私で手分けして片付け、主に母に娘の近くにいてもらいました。

散らかった家を片付ける最中に、何度も揺り戻しが来ました。

ご近所のお手伝いもしましたが、他所様の御宅の被害と比べると我が家や、私達夫婦の実家の被害は散らかったくらいで、その後の検査でも異常はなく、簡単な補強だけで済みました。

やがて夜になり、ライフラインが全て閉ざされた街は真っ暗になりました。

夕方合流した義父母や主人と皆で娘とケビンを守りました。

その日の夜。

リビングで女性陣が、客間で男性陣が雑魚寝しました。

度重なる揺り戻しに私は心底怯えていました。

皆一緒なのに、何故か怖いことばかり考えてしまいました。

その時、一緒にいたケビンがキュンキュン甘え声を出したかと思うと、ケージから出てきて私と義母の間に寝ている娘の枕元に来て、また眠り出しました。

すると• • •

一際きつい揺り戻しが来ました。

ケビンは娘に寄り添うように首だけ上げていました。

揺り戻しが治まり男性陣が慌ててやってきました。

義母が

「ケビンちゃん、孫を守ってくれてありがとうね。」

と言った時。

枕元、ケビンの後ろ側で

ギシ• • •ギシ• • •

懐かしい足音がしました。

その時は恐怖もなく

「和田さん、ありがとうございます。」

と自然に口から出ていました。

その場に居合わせた全員が和田さんの足音を聞きました。

「和田さんがケビンを娘の枕元に導いてくれたのかもね。」

と、話しました。

そしてケビンの後ろで和田さんが守ってくださった、そう思ってます。

父は和田さんの足音のした方に合掌し、それに釣られて皆が合掌しました。

爆睡する娘の傍らでケビンが何事めなかったように尻尾を振って居ました。

さて次は和田さんとケビンの感動秘話です。

宜しくお付き合いくださいませ。

ご拝読ありがとうございました。

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