小学校以来の幼馴染み、真太郎ことエリカ。
彼女がタイから連れて帰ってきたメーナークという霊はきれいに除霊された、誰もがそう思っていた。
「そうかぁ• • • 帰国早々そんなことがあったのね。」
「うん、でももう落ち着いたからゆ〜ちゃんに話しておこうと思ったの。まだ妊娠する前でよかった。でもゆ〜ちゃん、いずれにしても妊娠したら食べ物とかいろんなことに気をつけてね。」
「ありがとう。うん、お仕事は続けるつもりやし、何かと大変になると思うわ。ま、頑張るけどね。」
エリカと私はまたの再会を約束し、帰路についた。
しばらく経ったある日、私は夢を見た。
見知らぬ女性が私を見ている。
ただそれだけなんだけど、なんだか心地が良くない。
寝起きもなんだか怠かった。
朝、出勤の用意をしていると少し気分が悪くなった。
まぁ、慣れない家事との両立で疲れてるのだろうとそのまま出勤した。
午前中は何事もなく、通常通り過ごせた。
午後の勤務時間中、どうにも身体がだるく、胃が存在感を示す。
「風邪かなぁ。」
ま、明日は休みだ。
気合いで頑張ろう。
なんとか勤務時間中は大丈夫だった。
しかし帰宅してから食べ物の事を考えるのがどうも嫌だ。
主人が帰るまで横になっていようと寝室へ行った。
どのくらい眠っただろう。
誰かの気配。
主人が帰ってきた?
いや、それなら声をかけてくれるはず。
まだ目はあけてないが、寝室の中は暗い。
日は暮れてしまったようだ。
しかし誰?
なんとなくだけど昨日夢に出てきた見知らぬ女性のような気がする。
え?なんか近くなってない?
すぐそばに立ってる気がする。
なんだかひんやりするし。
その時、鍵をあける音がして主人が帰ってきた。
同時にその気配は消えた。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
あくる日産婦人科に検診に行くと妊娠している事が分かった。
主人も、身内も皆喜んでくれた。
もちろんエリカやママも。
「ゆ〜ちゃんおめでとう。この前お茶した時、やっぱり妊娠してたのね。アタシまで嬉しくなっちゃう〜!」
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
しばらくは大した体調不良もなく、通勤できた。
しかし、妊娠四ヶ月にさしかかろうかという時。
お腹の違和感で目が覚めた。
なんだろう、お腹を押されてる感じ。
痛みとかはないんだけど、強く押す感じがあり、不安になって、申し訳ないけど隣で眠る主人を起こした。
主人は嫌な顔ひとつせずお湯を沸かし、私の足や腰をタオルで温めてくれた。
すると楽になったのかいつの間にか私は眠りについていた。
そしてまた夢を見た。
女性がいる。
私を恨めしそうに見ている。
顔は見えないのに表情が分かる。
一体何なんだろう。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
朝起きると主人が朝ごはんをしてくれていた。
「おはよう、昨日の夜はありがとう。」
「お!おはよう!今起こしに行こ、思ててん。大丈夫か?」
「うん、なんとか。」
「無理するなよ。俺が出来ることはするから。ゆ〜はちょっと頑張りすぎるとこがあるからなぁ。しんどい時はお互い様やねんから、な?夫婦は助け合っ• • • お?どないした?」
私は主人に抱きついた。
なんだか不安だったのが主人のおかげでなくなったから、素直に嬉しかったんだろう。
「ゆ〜には安心して健康な赤ちゃん産んでほしいねん。」
実は主人は一人っ子なのだが、それには理由があった。
主人が幼稚園の時、義母が流産し、それきり妊娠しなくなったのだ。
義母は頑張り屋さんだ。
私も尊敬している。
そんな彼女だから恐らく無理が祟ったのだろう。
義母は会うといつも私をハグしてくれる。
いつも息子である主人より私を優先してくれる優しい義母だ。
「• • • 」
義母の事を考えると涙が出た。
義母や流産した主人の兄弟のためにも、もちろん周りの人の為にも元気な赤ちゃんを産もう、改めてそう思った。
その日の夕方、退社前にお手洗いに行った。
「あれ?」
出血している。
「こんな時は慌てたらあかんねん。ゆっくり落ち着いて行動せな。」
自分に言い聞かせ、会社帰りにかかりつけの産婦人科へ行った。
「しばらく安静にして下さいね。無理すると流産してしまいますよ。」
担当医の言葉に私は目の前が真っ暗になった。
義母の件が頭をよぎる。
不安な気持ちのまま帰宅した。
帰ってきた主人に事情を話す。
相談の結果、休暇を取り、しばらく実家で休む事にした。
エリカの話が頭をよぎる。
メーナーク。
あなたなの?
実家で休むこと三日。
幸い私の体調も落ち着き、流産の可能性も低くなった。
体調が良くなったのでエリカに連絡してみた。
「ゆ〜ちゃん、ごめんね。しんどかったでしょ。」
エリカは受話器の向こうで泣いていた。
そして、
「ゆ〜ちゃん、きっとその夢の女性、メーナークよ。でも、心配しないで。アタシを信じて。ママと一緒になんとかするわ。」
「エリカ、大丈夫よ、私もエリカのママにならって実家にあったパワーストーン枕元に置いてるの。おかげで全然夢にも見んようになったから心配せんで大丈夫よ。」
「よかった。とにかく明日お邪魔するわ。昼間になるけどいい?」
「いいよ。待ってる。」
あくる日のお昼過ぎ、エリカがやってきた。
ピ〜ンポ〜ン♪
エリカが到着したようだ。
母が応対する。
「あら、エリカちゃん、いらっしゃい。ゆ〜がお待ちかねよ。」
「ゆ〜ちゃんママ、こんにちは〜。」
大学時代からよく我が家に来ていたエリカにとって我が家は勝手知ったるなんとやら。
「ケビンちゃん、後でお散歩行こうね♪」
『ワン!』
エリカはいつも我が家の愛犬ケビンを気遣ってくれる。
コンコン♪
「どうぞ。」
「はぁ〜い、ゆ〜ちゃん、ごめんねぇ、遅くなって。」
「大丈夫よ。エリカこそお仕事あるのにごめんね。」
「ゆ〜ちゃん、今日は水曜日よ、うふふ。だからお店自体がお休みなの。でね、明日と連休取っちゃった。というより、明日の休暇はママからのお達しなの。実はね• • • 」
ここでノックがして、私の母がケーキを持って入って来た。
「エリカちゃん、たくさんケーキありがとうね。今日はゆっくりしていってね。なんなら今晩、ご飯食べて行きなさいよ。」
「ほんまや。エリカ、そぅしぃ。うちの主人もくるし、賑やかになるよ。」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて。」
「あと、ケビンにジャーキーありがとうね。」
「いいえ、ケビンちゃんかわゆいから。」
「エリカ、いつもありがとう。」
母が去り、エリカの話が始まった。
実はね、言ったことあったかしら、ウチのママ、実家がお寺なの。
あ、知らなかった?
うん、そうなのよ。
でね?
お兄さんが跡取りなんだけどママが彼にメーナークのお話をしたの。
また、このお兄さん、すっごく素敵でね?
うん、素敵なんだけど丸坊主なの。
あ、どうでもいい話よね。
で、ママがね、明日、お兄さんのところに行ってお守りをもらってきなさいって。
お清めと護摩焚きみたいなのをして、明日の朝出来上がるから取りに行ってそのままゆ〜ちゃんに渡してって。
だから明日、お守りとケビンちゃんのサイエンスダイエット持ってもう一度来るわね。
で、そのお守りなんだけどお産が済むまでは基本お風呂以外は肌身離さず付けておいてほしいんだって。
また明日、素敵お兄さんに詳しぃ〜く聞いてくるわね。
え?下心?ないわよぅ。
お兄さんには素敵な奥さんがいらっしゃるのに。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
夕方になり、エリカがケビンのお散歩に行く事になった。
いつもなら私も同行するのだけど、安静にしないといけないからお留守番。
その間、ベッドに横になり考える。
やはりあれはメーナークか。
メーナークだとして。
人の子供を流産させて何が楽しいのか。
考えてる間にまた寝てしまった。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
また夢を見た。
暗闇にいる私。
遠くにエリカとケビンがいる。
私の少し前にメーナークがいる。
ケビンが牙を剥く。
エリカはケビンのスコップを振り上げ、叫んでいる。
「ゆ〜ちゃんに手出ししたら許さない!」
メーナークは私の前に歩いてくる。
そして• • •
「く• • • 苦しい• • • 」
「ゆ〜!これ!起きなさい!」
「ゆ〜ちゃん!ゆ〜ちゃん!」
「姉貴!」
『ワン!』
「‼︎」
心配そうな皆の顔。
あ、弟のゆ〜太郎も帰ってきたのか。
「お散歩から帰ったらすっごくうなされてたからびっくりして、ゆ〜ちゃんママ達に来てもらったの。」
「• • • なんか、誰かがお腹に乗っとぅみたいに苦しくて• • • 」
「姉貴、俺今夜隣で寝るよ。明日は三限目からやし、朝ゆっくりやから。」
「ゆ〜ちゃん、なんかあったらゆ〜太郎君起こすのよ?アタシ、明日必ずお守りもらってくるから。」
「う、うん• • • 」
眠る度に近づいてくるメーナーク。
とても不安だが、ゆ〜太郎も居るし、明日にはエリカがお守りをもってきてくれる。
パワーストーンをにぎって寝よう、そう考えた。
不安を抱きながら夜を迎える。
私と赤ちゃんはどうなってしまうのか。
エリカとママの除霊奮闘記 ④へ続く
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
皆様、③までお読みくださりありがとうございました。
メーナークはまた夢に現れるのか。
私と赤ちゃんの運命は。
エリカとママの除霊奮闘記 ④もよろしくお願いします。