何度も夢に現れるメーナーク。
眠るのが恐怖に感じる私に大学生である弟が付き添って寝てくれるようになった。
『ワオン!』
「ん?なんやケビン。お前も姉貴と寝たいんか?」
『オン!』
「よしよし、ほなここにケビンのベッド持って来たろな。」
「ケビンちゃん、ゆ〜ちゃんをよろしくね。」
そうしていると父と主人が相次いで帰ってきた。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
食事も終わり、主人とエリカが帰った後、父が部屋へやってきた。
「ゆ〜、少しええか?」
「うん、何?パパ。」
「いや、大丈夫かなぁと思ってな。」
「うん、大分落ち着いてきたし、さっき話したけど流産の可能性も低なっとぅらしいから。」
「そうか。」
黙る父。
「パパ、どうしたん?」
「いや、何もないよ。まぁ、ゆ〜太郎とケビンがついてるから心配ないし、お前は安心して寝なさい。」
「ありがとう、パパ。」
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「いやさ、マジ真太• • • いや、エリカさん綺麗なっとーからビックリしたわ。」
弟が興奮気味に話す。
その横でケビンが寛いでいる。
「いや、俺が帰ったら庭でケビンがクンクン言うとーからさ、あれ、まだ家入れへんの?思うて覗いてみたらめっちゃ綺麗な人おるからさ。ビックリしたわ。」
「うふふ。エリカも喜んでたやん、ゆ〜太郎に誉められて。私も嬉しいわ、お友達が誉められて。エリカはバイト時代からお店でトップなんよ。」
「分かる分かる!」
「私の身体が落ち着いたら連れてったげるわ。」
「わぁ、楽しみやな!」
こうして我が家の夜は更けていった。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
嫌な夢を見た。
またあの女性が立っている。
「またや。」
今度は苦しいだけじゃなく、痛みもある。
なんで。
落ち着いてきたところなのに。
「• • • 」
声が出ない。
身体も動かない。
「‼︎‼︎‼︎」
え?何⁉︎
ちょっと、何すんの!
あなたメーナーク?
なんで私のお腹押してんの⁉︎
なんで私から赤ちゃん奪おうとするの?
頭に何か響いてきた。
なんだか安堵の感情?
ゆったりした、なんだか分からないけど。
安堵?
何で?
その時。
『ウワウッ‼︎』
ケビンが吠えた。
同時に目が覚めた。
『ゥ〜• • • 』
ケビンが唸っている。
「姉貴?」
「ゆ〜太郎、痛い、お腹、痛い• • • 」
「ケビン、父さんと母さん呼んできてくれ!」
『ウワウッ‼︎』
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
結局私は流産した。
暫く立ち直れなかった。
みんなに申し訳なかった。
せっかくエリカがお守りを持ってきてくれたのに本当に申し訳なかった。
毎日毎日泣いて暮らした。
でも職場にはこれ以上迷惑をかけられない。
幸い次の妊娠も問題ないと言われた。
私は退職を決意した。
退職してゆっくりしてから子供を産もう。そう考えた。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「どうかな。もし君さえ良ければ次の妊娠が分かった時点で休職扱いにして、落ち着いたら復帰、臨月になったらまた産休を取って職場復帰というのは。いや、無理強いはせんよ。ただ、会社にとって君を失うのは痛手なんよ。せっかくお客さんにも顔を覚えてもらえたんやし。」
「ありがとうございます!頑張ります!」
嬉しかった。
まだひよっこでしかない私をここまで買ってくれていたなんて。
この会社のためにこの上司のために体調管理をしっかりして働こうと改めて思った。
そして何日か経ち、私は買い物をするのにある商店街を歩いていた。
少し向こうに托鉢のお坊さんらしき人が見える。
小銭を取り出し、お椀にいれた。
合掌し、立ち去ろうとすると。
「ちょっとあなた。」
お坊さんに呼び止められ、振り向く。
もちろん知り合いではない。
何だろう。
「はい。」
「あなた、悲しんだらあかんよ。神さんや仏さんは私らこの世に存在するもの全てを良い方向へ導いてくんなはる。あなたは大切な存在を失った。しかしそれはあなたが受けなくてはならん試練なんや。それを受けずに進んどったらもっとえらい目に遭う。今が辛抱のし時や。」
「え?」
なんでこのお坊さんはわたしの事が分かるんだろう。
「あなたの顔の相を見ると長子(ちょうし=最初の子供)や主人を失いやすいと出とる。失礼ですがあなたの名前と生年月日、出来れば出生時刻をこの紙に書いては下さらんかな。あ、旧姓もな。」
結婚している事まで見抜かれている。
小さなノートとボールペンを渡され、少々怖さを感じながらも私は言われた事を書いた。
お坊さんは何やら数字と漢字を書き込み、説明を始めた。
「あなたの人相に加え、生年月日と出生時刻はさっき私が申したように、長子と主人を失いやすい数字や。で、あなたの名前。ええ名前やな。多分親御さんはあなたの生年月日やらの由来を知っとるやろ。だからこんなええ名前を付けなさったんや。」
そこまで話すとお坊さんは持っている鐘をカーンと鳴らし、短いお経を唱えだした。
「大丈夫。次はちゃんと元気な子供が生まれるさかい。お母ちゃんはどーんと構えときなはれ。」
私がお礼を言うと
「家族や仕事、周りを大事にな。あなたは友達運もむちゃくちゃええな。大事にしいよ。」
真っ先にエリカが頭に浮かんだ。
なんだか涙が出てきた。
お坊さんにお礼を言い、私は帰宅した。
エリカとママの除霊奮闘記 ⑤へ続く。
ご拝読ありがとうございました。
作者ゆ〜
家族やエリカの懸命の看病も虚しく、私は流産してしまいました。
あの時主人が、いなかったら。
家族、親族がいなかったら。
そして義父母や職場上司の暖かい心遣いがなかったら。
そしてエリカやママがいなかったら。
私はどうなっていただろうと考えます。
⑤でも益々意外な展開になります。
よろしくお付き合い願います。