これは、僕や薄塩が高校1年生の時の話だ。
季節は秋。
11月の初め頃。
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・・・・・・・・・。
僕の知り合いの中で一番の苦労人と言えば、それは勿論薄塩だ。
・・・今、怖い話投稿サイトである《怖話》で、何下らない事を言っているんだ馴れ合いなら適当なブログか何かでやりやがれこのカス野郎!・・・と思った方もいらっしゃるだろう。
誠に正論。その通りである。
だがしかし、今回、一番迷惑を被った人物は薄塩なのだ。
まず、彼がどの様な人物なのかを知って貰いたい。
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・・・・・・・・・。
彼ーーーー薄塩は、幼い頃から頻繁に、《変なモノ》を見て来た。
それは世間一般の人が見る事は少なく、関わる事はまず無く、人に因ってはその存在自体を否定されるモノ。
定義が無い為に、明確な保証は出来ないが、それは恐らく《幽霊》や《妖怪》と言われるモノの類い。
そしてこの話は、そんな彼と、彼と見える景色を微妙に共有している僕の話である。
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・・・・・・・・・。
前述の通り、彼は苦労人だ。
理由は一つ。
彼の姉ーーーー通称《のり姉》こと《のり塩》に因る物と言えよう。
彼女は筋金入りの変態さんであり、その悪行の数々を余す所無くここに書き連ねようものならこの話は長編処か大長編になってしまう。
故に、ここでその悪行を書く事は控えさせて頂く。
ただ一つ言わせて頂きたい。
・・・・流石にナース服は勘弁して欲しかった。
もうお婿に行けない・・・・。
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・・・・・・・・・。
そんな彼女の弟である薄塩は、毎日毎日、僕以上の愛のある(?)嫌がらせを受けている。
例
・亀甲縛りのリカちゃん人形を鞄に入れられる。
・のり姉が弁当当番の時、無駄にリアルなG型弁当を作成。デザートはミミズ型のグミだった(どうやって作ったんだろう?)。
等々。
だからだろうか。この薄塩と言う男、大抵の事では揺らがない。
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しかし、流石の彼も部屋のドアを開けたら謎の狐男が部屋の隅、体育館座りでベソをかいていた・・・なんて状況には驚き、即座にバタンとドアを閉めたらしい。
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・・・・・・・・。
「・・・・うぇぇ?!それって一体?!」
僕がそう聞くと、薄塩はサラリと答えた。
「だから、俺の部屋に居るんだよ。謎の狐男が。しかも現在進行形で。」
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・・・・・・・・。
ここは通学路。
授業も終わり今は夕方。
帰り道だ。
淡々と薄塩は言葉を続けた。
「一向に帰る気配も無いし。もう三日目かな。いい加減自分のベッドで眠りたい。背中が痛い。」
そんな事を言っている、あくまで冷静な薄塩を見ながら、僕の頭にはある人物の顔が浮かび上がっていた。
・・・・狐男。
もしかして。
「・・・・木葉さん?」
僕は、狐面を付けている、のり姉の事が好きな青年の顔を思い浮かべながら言った。が、
「違う。」
即答だった。スマン木葉さん。
「髪、黒じゃ無かったし。」
「・・・そうか。」
・・・・じゃあ、一体誰何だろう?
僕が悩んでいると、唐突に薄塩が口を開いた。
「と、言う訳でだ。」
「え」
どういう訳だ。
「今日、夜の八時過ぎに俺の家な。」
「は」
なんだそれ。
「どうせ明日土曜日だし。予定とか無いだろ?・・・多分これ、姉貴関係だ。」
「・・・ああ。またのり姉か。」
僕は返事をしながら大きな溜め息を吐いた。
・・・何やらと鋏は使い様とは良く言った物だが、その伏せられている部分の何やらより面倒な変態に、これまた鋏より面倒な《霊感》を持ってしまったのり姉は最早、世界の中でも最凶と言えよう。
もし運命の神様とやらが居るのなら、いつか一言文句を言ってやりたいものだ。
嗚呼・・・のり姉は厄介な人だ。
とてもとても厄介な人だ。
しかし、毎度毎度何かしらのり姉関連の問題が起きる度に僕を巻き込んでくる薄塩も、中々厄介な奴と言わざるを得ない。
僕はそんな事を考えながら、また大きな溜め息を吐いたのだった。
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・・・・・・・・・。
その日の夜八時半。
僕は恐る恐る薄塩家のドアを叩いた。
「・・・・スミマセーン。」
「はーい。」
出て来たのは、薄塩のお母様だった。
「今晩は。御世話になります。」
軽く頭を下げる。
「はいはい今晩は。中へどーぞ。」
「失礼します。」
僕が家に上がると、それとほぼ入れ替わりに薄塩のお母様は家から出ていった。
「じゃ、朝ごはんよろしくねー♪」
「いってらっしゃいませー。」
バタンと、ドアが閉まるのを見届けて、僕は薄塩達の部屋がある二階へと向かった。
・・・こういう時、少しだけ放任主義な薄塩家が羨ましくなったりする。
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・・・・・・・・・。
薄塩は二階の廊下の隅でダランと座っていた。
「・・・今晩は。」
と僕が言うと、黙って自分の部屋のドアを指差した。
「・・・・開けろって事か?」
薄塩がこくりと頷いた。
ドアの前で耳を澄ませても、何も聞こえて来ない。
僕はドアノブに手を掛け、ゆっくりと回した。
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・・・・・・・・・。
さて、ここで
《僕がドアを開けるとそこに居たのは、ボロボロのワンピースを着た黒髪の女性で、彼女は虚ろな目をグリグリと動かしながらユラユラと揺れていた。その脇腹にはどうやら大きな傷が有るらしく、彼女が揺れる度、ブヂッブジュッ・・・ッと傷が裂け、出血をしている音が聞こえるのだった。》
・・・等と書くとグッと怖さが募り、思わず
「うわああぁぁあぁああ!!!」
等の叫び声を上げる事となるのであろうが、実際は、
《僕がドアを開けるとそこに居たのは、妙に小綺麗で変な格好をした白い髪の男で、彼は泣き腫らした目で縋る様にこちらを見ながら体育館座りをしていた。その背中にはモフモフとした尻尾が生えて居るらしく、揺れ動いている尻尾がフローリングを叩く度、ポフッポフンと尻尾とフローリングがぶつかっている音が聞こえるのだった。》
と言う物だったので、僕は何も言わずにそっとドアを閉めたのだった。
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・・・・・・・・・。
「居たろー?謎の狐男。」
「・・・居たな。謎の狐男。」
「してたろー?体育館座り。」
「・・・してたな。体育館座り。」
何処か得意気な薄塩の言葉に応えながら、僕は廊下の隅に座り込んだ。
はて、居たのは兎も角、これから僕は一体何をすべきなのだろうか?
僕等が二人して廊下に座っていると、誰かがトントンと軽やかに階段を上げって来る音が聞こえた。
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・・・・・・・・・。
「あ、コンソメ君来てたんだー。いらっしゃーい。」
「どうも今晩は。お邪魔しています。」
きちんと正座をして頭を下げる。
足音の主は、のり姉だった。
風呂上がりなのだろう。
肩や髪からうっすら湯気が上がっている。
僕は、あの狐男について聞いてみる事にした。
「あのー、少し質問しても宜しいですか?」
「何ー?」
「ちょっと薄塩の部屋にい」
「ねぇ。」
「へ?」
突然、話を中断させられ、僕が何とも間抜けな声を上げていると、のり姉は少し不機嫌そうに言った。
「なんかずっと目、逸らしてるね。」
「え?!いや、そのぉ・・・・。」
僕はビクッとして固まった。
のり姉は更に不機嫌そうに続ける。
「・・・そう。私の素っぴんがそんなに嫌かー。」
「いや別にそう言う訳では」
「じゃあどう言う訳?」
そう問い掛けながら、ズンズンと此方に近付いて来る。
僕は思わず後退りながら更に目を逸らした。
ゴンッ
壁に頭がぶつかった。
のり姉はまだ此方に近付いてくる。
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「もう止めてやれよ姉貴。冗談にしても酷すぎ。」
薄塩がのり姉の腕を掴み、もう片方の手を僕の前に出しながら言った。
「理由なら自分でもよく分かってる筈だ。」
のり姉は一瞬顔を歪ませたが、直ぐに元に戻り、
「わっかんないなー!」
と薄塩を睨み付けた。
ふぅ、と薄塩が小さな溜め息を吐いた。
「だったら教えてやるよ・・・!」
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「いい加減服を着やがれクソ姉貴!!」
・・・・そう。
のり姉は、下着一枚で僕等の前に立っていたのだ。
「姉に向かってクソとは何だこの×××野郎!!」
「んだとこの×カップ!」
「殺す!!」
「こっちの台詞だ!!」
そして始まる乱闘。
「ちょ、落ち着け!!落ち着いて下さい!!」
・・・・聞いちゃいない。
・・・それにしてもあれだな。
現役男子高校生の本気と負けず劣らずののり姉。
やはり常人で無い。
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ボスッッ
まるで少年マンガの様な音がして、のり姉の拳が薄塩の鳩尾にめり込んだ。
「グエッッ・・・!」
「私に逆らうとかwwwマジ笑止千万wwwww」
どうやら勝負は決まった様だ。
薄塩の元へ向かい、意識の有無を確かめる。
「おい。生きてるか?」
「・・・・・・・・何とか。」
薄塩の応答が有ったので、今度はのり姉の方を向く。
「もう秋も暮れです。そんな格好してたら、お腹を壊しちゃいますよ。」
「そうだね。パジャマ着て来る。」
のり姉はあっさりと納得し、自分の部屋へ戻って行った。
「・・・・何がしたかったんだあいつは・・・。」
ぐったりとしながら薄塩が言った。
「さあ?そう言う御年頃何だろ。」
僕は適当に応えながら目線を上げた。
すると、ドアが少しだけ開いていて、中からあの狐男が此方を覗いているのが見えた。
「・・・・・・何見てるんですか。」
「・・・・どうしたのかなって。」
僕の問に男はそう答えると、パタンとドアを閉めた。
本当に何なんだ彼奴は。
「俺も知らん。」
「何人の心を読んでるんだお前は。」
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「私は知ってる!」
「何時の間に戻って来たんですかのり姉。」
ピカチ○ウのパジャマを着ている事はスルーしつつ、僕はのり姉に聞いた。
「知ってるて・・・・じゃあ、あれ、一体何なんですか?」
のり姉はサラッと答えた。
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「神様。」
・・・・・・・・ほわっ?
今何て?!
「・・・・あの狐男ですよ?」
「うん。神様。狐の神様。」
「・・・・嘘?」
「本当。」
「FA?」
「FA。」
のり姉の狐男=神様発言に僕が唖然としていると、薄塩がいきなり口を開いた。
「で、何で神様が俺の部屋に居る訳?」
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・・・・その後の、のり姉の話を要約すると、こう言う事らしい。
1,のり姉は暇だった。
2,余りに暇だったので、《妖狐×僕○S》と言うマンガを一気読みした。
3,御○神君に会いたい!!
4,よし、召喚だ!!
「ちょっと待て。何故其所で《召喚だ!!》になるんだ。」
「暇過ぎて!」
「バカか己は!!」
「誰がバカだぁ?!」
「オメーだよこのバカ姉貴!!」
「んだとゴルァ(# ゜Д゜)!!!」
そしてまた始まる乱闘。
もう止める気も起きないな。
チラリ
またあの目が乱闘を覗いていた。
見えている眉毛が、見事な八の字になっている。
そしてチラチラと此方を見る。
・・・どうにかしろってか。
子供である僕に頼るだなんて、随分と情けない神様だ。でも・・・・仕方無い。言うだけ言ってみるか。
「・・・取り敢えず、その神様とやらに話を聞いてみませんか?」
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「大体この××××××が!!」
「おい今なんつったクソ姉貴!!」
「××××××ったんだよバーカ!!!」
・・・・聞こえて無いな?
・・・仕方無い。こうなったら奥の手だ!!
「そりゃっ」
薄塩に思いっきり膝カックンを食らわせた。
「うわっ。」
ストン、と薄塩が崩れ落ちる。
そして僕は座り込んだ薄塩とのり姉の間に入った。
のり姉の目を見る。
無言でじっと見る。
「・・・・はいはい。仕方無いなぁ。神様の話を聞きたいのねー。」
のり姉がふぅぅ、と溜め息を吐いた。
・・・溜め息を吐きたいのは此方何だけどな。
全く。
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・・・・・・・・・。
薄塩の部屋に入り、神様を取り囲む様にして座る。
近くで見ると、神様(?)はかなり端正な顔立ちをしていた。
服を着せ替え、耳と尻尾を隠し、充血して真っ赤になっている目をよく冷やせば、かなりのイケメンだろう。
神様が、口を開いた。
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・・・・・・・・・。
あの・・・・。
先ず聞きたいんだけどさ、あんた等、何故に俺を呼んだ訳?
いやいやいや。別に怒ってんじゃないんだよ?
只さ、ちょっと其処のお姉ちゃん、あんたはちょっといけないな。
いやいやいやいやいや。落ち着こう?一旦落ち着こうよ?うん。
まあ、ちょっと聞けって。
俺もさ、まさか自分が万能だなんて思っちゃいないよ。俺に出来る事なんてせいぜい稲に付く虫を払う位だし。
呼ばれて出て来たからってそう大した役には立てないよ。てか先ず相手に見えないよ多分。
でもさ。
もしかしたら、って思うじゃん。何かしら出来るかも、って思うじゃん。
曲がりなりにもちゃんとした呼び方で呼んでくれたんだしさ。
無視すんのもあれじゃん?
で、行ったらこの扱い。
ちょっと待てって事。可笑しくないかって事。
・・・ほら、だって腐っても神だよ?俺。
自分で言っちゃうのもアレかもだけど!
本物が来ちゃうって滅茶苦茶レア何だよ?
普通は変な奴等が寄って来ちゃうし、運が悪ければそのせいで一巻の終わり何だよ?
もっと敬うっつーか。ねぇ。
雑過ぎじゃない?色々と。
そう思わない?其処の君。
・・・・・・・・。
・・・え?・・・何で僕にって・・・決まってるだろ?他の二人は俺の話聞いてくれないから。
うん。
先ずはこのお姉ちゃんの方!
呼び出されたは良いもののいきなり
「違うな・・・・。」
って言われて、やれ髪を切れだのカラコン入れろだの・・・。
で、挙げ句の果てには着替えろとか言い出すし。
本当に意味分かんないよ。
いや、髪は切ったけどね?うざったいって言うのも一理あったし。
カラコンも入れたよ。お願い通り片目だけ。
・・・何で片目だけなのかは知らんけど。
服も着替えたよ。てか、楽だねこの服。
普通の狩衣と違うんだね。
くれるって言うし、いっそ夏場とかはこれにしちゃおうかな。はだけてるから息が楽。
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・・・いやいやいや。
そうじゃなくて・・・・話が逸れた。
まぁ良いよ。服装関係では俺、怒って無いよ。
問題はその次!
俺を誰とも知れない奴の部屋に閉じ込めて、放置してくれたって事だよね。
勝手に帰るのも何だし、てか何故か帰れないし。
大分困ったよ?俺。
だから、この部屋の主が帰って来たら出して貰おうと思ってたんだよ。
思ってたんだけど・・・!
此方のお兄さん・・・。
ガン無視だよ!!
まさかのガン無視!!
もう俺が神とか関係無いからね?!
人としてのモラルの問題!!
最初はね、見えてないのかな~?とか、ポジティブに考えてみたんだけど、バッチリ目、合ってるんだよね?!
傷付くんだよ!
俺だって!!
一応あんのプライドとか色々と!!
もうー・・・。
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・・・・・・・・・。
「まぁ、君が来てくれたお陰で大分助かったよ。ありがとね。」
「はぁ・・・・。」
喋り続ける神様(?)に相槌を打ちながら、僕はふと思った。
神様なのに・・・何でカラコンとか分かるんだろう。口調も吃驚するほど若々しいし。
「カラコンとか分かるんですか?神様なのに?」
少し不機嫌そうな顔で薄塩が聞いた。
・・・失礼かも知れないが、ナイスタイミングだ。
「・・・・へ?」
そんな気の抜けた声を出して、神様(?)は暫くキョトンとしていたが、軈て派手に噴き出した。
「ぶっふwwwそりゃねwwwwww大昔じゃあるまいしww」
その後、神様(?)は笑うのを止め、少しだけ真面目な顔をして続けた。
「てか、俺の住んでる所、結構都会だし。・・・やっぱ知識無いと頼みとか聞けないし。」
「そうなんですか。」
「そうなんだよ。」
そして、暫くの沈黙。
・・・こういう時、何を話すべきなのか。
相手が相手だし・・・どうすればいいんだろう?
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・・・・・・・・・。
神様(?)が沈黙を破り、唐突に口を開いた。
「じゃ、俺、もう帰るわ。」
「・・・さようなら。」
僕は軽く右手を振った。
神様(?)は、困った様な笑いを浮かべた。
「おいwww最後まで無愛想だなwww・・・・まぁいいや。なぁ、最後に何か質問とか願いとかある?・・・虫除け関係なら、力になってやんよ。」
虫除け関係・・・・。
高校生が虫除け関係の願いって・・・・。
「いえ、特にはありま」
「それでは、一つだけ質問を。」
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・・・・・・・・・。
ずっと黙っていたのり姉が、神様(?)をじっと見詰めながら言った。
「一つだけ質問を。」
神様(?)は、無言で頷く。
「・・・どうぞ?」
のり姉もまた、頷いた。
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・・・・・・・・・。
「《神に愛される者は短命》と、聞きまして。真偽の程を、御聞かせ願いたいのです。」
真面目な顔で、のり姉はそう言った。
というか、それって・・・!!
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「ああ。短命である事が多いな。」
さらり、と神様(?)が答えた。
スウッッと、僕の背筋に冷たい汗が滑る。
「どうにかなりませんか?」
のり姉が、あくまでも冷静な声で言った。
神様(?)は目線を落とし、首を振る。
「でも・・・」
「申し訳無い。・・・俺にはどうにもできない。」
のり姉が口を噤んだ。
そんなのり姉を見ながら、神様が続ける。
「変えられるとしたら・・・それは、君次第だよ。
・・・他人の色恋に口を出せる程、俺は偉くないからね。・・・助けてあげたいのは山々何だけど。」
どうやら彼は、神に愛されているのはのり姉なのだと、勘違いをしている様だった。
のり姉は、小さく頷いた。
「本当に・・・君次第何だよ。俺が見えるって事は、相手とも連絡を取れる筈だ。きっと大丈夫。俺を無理矢理イメチェンさせた位だし。・・・頑張れとしか、俺には言えないけど。」
のり姉がまた、頷いた。
「それじゃ・・・さようなら。窓を、開けて。」
ガラリ
薄塩がそっと窓を開け放つ。
ふわり
冷たい風が頬を撫でた。
すると次の瞬間にはもう、彼は居なくなっていた。
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・・・・・・・・・。
彼が去り、のり姉も自分の部屋に戻った後、僕等は床に座って暫くぼんやりとしていた。
不意に、自分が泣いているのに気付いた。
涙を拭っても、また直ぐに次の涙が流れる。
「・・・怖いか?」
薄塩はそう聞くと、涙が止まらない僕の背中を擦ってくれた。
・・・・嗚呼。そうか。
《怖い》のか。
僕は、死ぬのが《怖い》んだ。
人は死んだら御仕舞い、ではないと知っていても。
短命と言っても、今日明日に死ぬ訳では無いと知っていても。
それでも《怖い》。
「僕は・・・短命なのか?」
半分は薄塩に、そしてもう半分は自分自身に問い掛ける。
薄塩は、黙って背中を擦り続けた。
頭の中をぐるぐると色々な物が回り続けた。
短命とは、どれ位生きられるのだろう。
僕は、あとどれ位生きられるのだろう。
ミズチ様は、本当に僕を早死にさせるのだろうか。
どんどん涙と疑問が溢れて来る。
僕は膝に顔を埋め、泣き続けた。
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どれだけ泣いただろう。
突然
バシッッッ!!
と強く背中を叩かれた。
「・・・へ?」
僕が驚いて振り向くと、薄塩がニヤニヤと笑っていた。
「これ以上は可哀想だからな。種明かし、してやるよ。」
・・・・種明かし?
どういう事だろう。
さっきのは全部嘘だった・・・と、いう事か?
呆けた様な顔をして薄塩を見ていると、デコピンをされた。
「痛っ。」
「だからもう泣くな。」
薄塩がもう一度、ニヤリと笑った。
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・・・・・・・・・。
「先ずあの神様とやら、あれは本当に神なのか?」
「え?!」
驚いている僕に構わず、薄塩が続ける。
「あの神様・・・。俺の部屋から出られないって言ってただろ?」
「ああ。言ってたな。」
「可笑しいとは思わないか?」
「え・・・何処が?」
僕がそう言うと、薄塩は部屋の隅まで歩いて行き、ペリッと何かを剥がした。
剥がした何かを此方に差し出す。見ると、それは何だか分からない模様が描かれた札だった。
「こーんなちゃっちい札での結界で、神を閉じ込められると思うか?しかもこれ、姉貴が描いた奴を更にコピーした大量生産品だし。」
「でも、のり姉だし・・・。」
「だから、俺の姉貴は化け物かって。てか、化け物でも神には敵わないよな。うん。・・・・ましてや姉貴は人間。普通なら、閉じ込めるなんて到底無理なんだよ。」
僕は頷いた。確かにその通りだ。
じゃあ・・・・・・・・。
「あの人は一体・・・?」
「幽霊じゃね?」
薄塩がそう真顔で言い放った。
・・・・でも
「耳と尻尾・・・・後、服装とかも!フィルターの感じじゃ無かったし・・・?」
薄塩は、呆れた様に言った。
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「所謂《中二病》って奴だ。・・・怖いよな。中二病って。」
「・・・・はぁ?!」
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・・・・・・・・・。
昔々の話だ。・・・つっても、これは御伽噺じゃ無い。
衝撃のノンフィクションって奴な。
えーと・・・昔、人柱とか、生け贄とか・・・まあ、その他にも色々、この国では生臭い事が行われていた訳だが・・・・・その中に《カミツクリ》ってのが有ってな。
文字通り、神を作る儀式だ。あー・・・呼び方は、地域によって沢山あるな。うん。それこそ、昔は何処でもやってた位の感じだ。
まぁ、理由も方法もそれぞれ違うけどな。
で、ここら辺でやってた方法ってのが
《狐神に憑依させて、御告げやら占いやらをさせる生き神様にする》
っつー奴でな。
具体的には、俺も詳しくは知らんけどな。
何でも、神主か何かの子供を監禁して育てて、こう・・・あれだ。依り代にする・・・とか何とかだって話だな。
・・・・まぁ、本当に毎回、神やら狐やらが憑依する訳でも無いし・・・・。
要は、異常な環境に子供を置いて発狂させてたんだろう。
で、その子供が死んだら、その死体を山に埋めて今度は本物の神様として祀る訳だ。
・・・・もう、分かるだろ?
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・・・・・・・・・。
薄塩の言葉に、僕は小さく頷いた。
「あの人は・・・・。」
「昔、儀式に使われた子供だろうな。・・・未だに、《自分は神だ》と信じているんだろう。」
薄塩が、渋い顔をしながらそう言った。
酷い話だ。僕も思わず顔をしかめた。
だが・・・・
「じゃあ、どうしてのり姉の質問に答えられたんだろう・・・?」
薄塩の表情がまた一層と渋そうになる。
「・・・経験上だろ。自分達の。」
「ああ・・・。そうか。」
僕は頷いた。
そして、小さく呟いてみた。
「・・・のり姉は、気付いて無かったのかな。」
「気付いただろうな。」
薄塩が、言った。
「それでも・・・怖かったんだろ。」
「何が?」
「コンソメが死ぬのが。」
「・・・・え?」
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薄塩が、薄く笑った。
「姉貴、ああ見えてビビりだからさ。・・・きっと、《神に愛された人は短命》何て聞いて、怖くなったんだろうな。で、偽物だとしても一応神様を呼び出せば、何か知ってるかも知れない・・・ってな。まあ、姉貴も人間って事だ。」
・・・・そうだったのか。
・・・・・・。
あれ?でも、それって根本的な事が分かっていない・・・。
「・・・なあ。」
「ん?」
薄塩が此方を見た。
僕は聞いてみた。
「結局、僕は早死にするのかな。」
薄塩が笑った。何時ものニヤニヤ笑いとは違う、優しげな笑い方だった。
「しねーよ。ミズチ様がそんな事、させる訳無いだろ?」
「・・・・・・・・ああ。そうだな。」
「それに、俺とピザポだけじゃ、姉貴の世話は到底不可能だ。死なせねーよ。絶対。一人だけ楽にして堪るか。」
「・・・・そうだな。」
「・・・いざと言う時は、あの巨大爬虫類の一匹や二匹、俺達がどうにかしてやるって!」
「・・・ああ。無理だと思うが、頼むな。」
薄塩が、何時もの様にニヤリと笑った。
「おお。任せろ。」
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・・・・・・・・・。
その後、僕は布団を借りて、薄塩は自分のベッドで眠りについた訳だが・・・・・・・・。
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その次の日、漏らした訳でも無いのに、何故か薄塩のベッドが水浸しになっているという怪現象が起きましたとさ。
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ミズチ様に対して失礼な事言うからだバーカ。
「なあ、薄塩?」
「何だよコンソメ?!タオルタオル・・・!!」
「何でも無い。ほら、取り敢えずこれ使え。」
家から持って来ていたスポーツタオルを投げる。
「おお!助かった!!」
「それにしても、この歳でお漏らしとかwwww」
「だから漏らしてないって!違うって!!・・・ああ!もう駄目だこれ!ちょっとシーツ下に運んで来る!!」
ドタドタと薄塩がシーツを引き摺り、階段を下りて行く。
僕はそれを見送り、朝食は何を作ろうかと考えながら、旅行鞄から着替えを取り出した。
・・・頼りにしてるだなんて、口が腐っても言うか。バーカ。
作者紺野
どうも。紺野です。
最近妙に会話文が多いなと思い、ちゃんとした文を書くように心掛けてはみたのですが・・・。
駄目でしたね。
やっぱり会話をそのまま書き写す方がいいかも知れませんね。
なにこの駄文。なにこのグダグダ感。
やっぱり背伸びは駄目ですね。
あ、そうそう。
ミズチ様は何も四六時中僕に引っ付いている訳ではないそうです。
・・・・僕には何も見えてないんですけどね。
話はまだまだ続きます。
良かったら、お付き合い下さい。