ある病院で実際に起きた話。
深夜のこと。市内の病院に救急車が来た。隊員の話によると、男性が全身に大火傷を負い、既に虫の息だという。
「車を運転中、何らかのトラブルがあったみたいなんです。車がいきなり炎上して、車内に閉じ込められられたみたいで……」
隊員はそう言いながら、ストレッチャーに乗せられた被害者を見た。隊員の言った通り、男性は全身に大火傷を負い、見るも無残な姿だった。皮膚ところどころ黒く焼け爛れ、焦げ臭い臭いが鼻をつく。
皮膚や肉の焦げた臭いは凄まじく、医師は思わず口元に手をやった。看護士は居たたまれない気持ちからか、男性から視線を背けた。
「……残念ですが、もう助からないでしょうね」
ぼそりと隊員が呟く。医師や看護士は返事をしなかったが、心の中では同じことを考えていた。
ーーーこの患者は助からない
それは誰が見ても同じことを言っただろう。遅かれ早かれ、どんな治療を齎しても彼は助からない。だが、手をこまねいていても仕方がない。医師は緊急手術を行うことにした。
手術室では看護士数名が控えていた。彼女達は、横たわる男性を見てひそひそと囁き始めた。
「……凄いわね」
「こんな状態でも生きていたのね。信じられない」
「見て。腕も真っ黒だわ。これじゃ血管がどこにあるのか分からないわ。点滴が刺せないわよ」
「お気の毒だけれど、もう手遅れよね」
それを聞いていた医師も、思わず言ってしまった。
「そうだな。残念だが、ここまで酷い火傷となるとーーー」
と。そう漏らした医師の腕を誰かが掴んだ。はっとして見ると、手術台に横たわる男性が目を開けていた。
彼はヒュウヒュウと空気が掠れたような声で、
「……そんなに酷いですか、私」
手術室内は一気に凍りついた。実はこの男性、全身に大火傷を負い、瀕死の重体であったにも関わらず、意識ははっきりとあったらしい。
つまり、今までの医師や看護士の会話を全部聞いていたのだ。
作者まめのすけ。-2