この春、大学生になったR君の話。
R君は東京の大学に通っているため、この春から上京し一人暮らしを始めている。これは週末に実家に帰った時、彼の母親から聞いた話だ。
「あんたがまだ小学生の頃の話なんだけどね……」
当時、R君は両親と祖父母との五人暮らし。祖父が子どもの時から住んでいたという古い家に住んでいた。
そこそこ大きい家で、一階だけでも部屋は七つ。そのためか、二階はほとんど使う機会もなく、物置と化していた。
そんなある日のこと。仕事から帰ってきた母親がR君を探していると、二階に続く階段から笑い声が聞こえてきた。それはR君の声だった。どうやら誰かと談笑しているふうである。
「誰と話してるのかしら」
ふと気になった母親が階段を上がっていくと、一番上の段差に腰掛けたR君が笑っている姿があった。だが、その近くには誰もいない。
母親は不思議に思いながらも、R君に尋ねた。
「誰と話してたの?」
するとR君はにこにこしながらこう答えたという。
「二階のお姉さん」
「何言ってるの。この家にはRとお父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんしかいないじゃない」
「いるよ。二階に住んでるお姉さんがいるもん。お姉さん、すっごく髪の毛が長いの。爪も長いの。お姉さん、面白いんだよ。笑う時、おっきい口開けるんだけど、歯が一本も生えてなくってねーーー」
……母親は背筋にうすら寒いものを感じ、R君を引っ張って階段を駆け下りた。そしてR君には二度と二階には近付いてはいけないと、キツく注意した。
「それなのに、あんたときたら隠れて二階に上がっては段差に座って一人で笑ってたのよ。あの時は我が子ながら、あんたのことが薄気味悪くて仕方なかったわよ。……ねえ、二階のお姉さんって何なの?本当にいたの?」
だがR君は、当時のことは全く覚えていないそうだ。
作者まめのすけ。-2