以下の生徒は放課後に職員室に集合すること。
御子柴 新(みこしば あらた)
榊 貴大(さかき たかひろ)
雨宮 悠(あめみや ゆう)
東條 瑞穂(とうじょう みずほ)
雪城 瑛(ゆきしろ あきら)
5人そろって掲示板を見る。
「なんかやったっけ?」
タカヒロが覚えがない、と言った風に首を傾げた。
「天文部、今度は何やらかしたの?」
アッコがニヤニヤして後ろから声をかけてきた。
「私、天文部じゃないし。」
ミズホは口を尖らせてる。
「う〜ん、ここで首をヒネっていてもしょうがないし、後で行ってみよう。」
アラタは心当たりがあるらしい顔をしていた。なんかしたのかな?
放課後、揃って職員室に入っていくと、指導教員の日下部先生がこっちこっちと手招きしていた。
「東條、お前最近他校の男子生徒とあちこちの飲食店に出入りしてるみたいだな?少し目立ち過ぎる。他の生徒に示しがつかない。」
「別にお茶してるだけなんだけど…」
「だから、目立ち過ぎるって言ってんだ。もう少し自粛しろ。」
「は〜い。」
「あとの4人、お前らは揃って何か怪しげな会合をいつも開いてるらしいな。」
「怪しげって…」
タカヒロがボソッとつぶやく。心外な事を言われ眉をしかめてる。
「特に御子柴!」
「はい。」
急に自分に向き直りさっきよりも大きな声で名前を呼ばれ思わず背筋を伸ばすアラタ。
「お前は学校を休んだくせにフラフラと外出していたな!確か病欠だったよな?」
あの時の事だ、見られてたんだ…。
「すみません。」
アラタはうなだれて一言謝る。
「ふぅ〜、特に悪い事をしてないのはわかってる。だがお前らは目立ち過ぎる。風紀が乱れる様な行動を他の生徒の手前見過ごす訳にはいかないんだよ。」
「はぁ、気をつけます。」
釈然としないタカヒロがとりあえず頭を下げる。
「まぁ、あれだ、天文部はしばらく活動を自粛、全員なんでも構わないから本を一冊読んで感想文を書いてくること。今回はこれで良しとするがくれぐれも気をつける様に。」
「だから、私は天文部じゃないし…」
またミズホが愚痴る。
「ミズホはこれで済んでラッキーだろ。不純異性交友が暴露たんだから。」
手厳しいタカヒロの一言に少し反省してる顔をするミズホ。
「でもさ、感想文だけで済んだんだから良かったじゃない。楽勝でしょ。」
アキがまぁまぁとタカヒロを諌める。
「そうだね、サクッと終わらせよう。」
ミズホの肩をポンとたたいて慰めると、いつもの憎めない笑顔で首を縦に振った。
「ねぇアラタ、二分割幽霊綺譚って小説しってる?」前から疑問に思ってた事を聞いてみようと思い話しかける。
「新井素子だろ?」
「やっぱり読んだ?」
「うん。それがどうしたの?」
「あんな風に半分に分かれちゃうなんてあるのかな?と思って。」
アラタはブッと吹き出した。
「笑わないでよ…」
「いや、ごめん。急に何だと思って、まぁなくもないかなぁ、でもビジュアル的にはないと思うよ。念を飛ばして分かれる…ん〜…感覚的なモノなら…ん〜…ごめん、よくわかんないや。」
「そっかぁ。ありがと。」
アラタでも解らない事があるんだな、なんか安心してニヤける。
「バカにしてる?」
「そんなことないって!」慌てて否定すると切れ長の細い目をさらに細めて黙り込むアラタ。これは逆襲の前兆、何かコワイ事を言われる。
「なに?新井素子だって?」助かった。ミズホが話しに入ってきた。彼女は以外と読書家でジャンル問わず話題作は読み漁るミーハーだった。
「ミズホはどの本で書くの?」
単純に興味があった、ミズホは文才もあって表現力も私とは比べものにならないほど豊かだ。
「私は[ひとめあなたに…]にしようと思って。」
「やっぱりエグいの選んだね。」
えへへと笑うミズホ。[ひとめあなたに…]は地球滅亡が迫り一目別れた恋人に会うため、混沌とした道中を練馬から鎌倉まで旅する女性の物語。作中けっこうなグロい描写があってミズホ好みだった。
「ユウは決めたの?」
ミズホが新井素子にするなら別の作者にした方がいいかな。
「赤川次郎の[プロメテウスの乙女]にしよっかな。」
「シブいの選んだね。」
[プロメテウスの乙女]は赤川次郎にしては珍しい作品で右傾化する日本のために愛国心あふれる少女たちで組織される。命がけで戦う少女達の切なく悲しく美しい物語。
「今日中には終わるよね。楽勝。」
「ミズホ、日下部先生は読めって言ったんだよ。」
「そうだった。パラパラ読み返す程度でもするか。」
面倒くさそうにノートを投げて背伸びするミズホ。
暗くなる前に帰ろうとこの日は解散した。
帰り道、日が沈みかけ薄く暗くなってきていた。最近は日の入りが早くなってきた。セミの声はたまにしか聞かなくなった代わりに鈴虫やコオロギの声が聞こえ出した。
アラタと色んな本の話しをしながら歩いていると、いつも通る5叉路にさしかかる。
「んっ?」
エンジ色の着物を着たおかっぱの可愛い女の子が立っている。
特に嫌な感じはしない。アラタとボーゼンと見つめていると、女の子の後ろから全く同じ顔、同じ背格好の女の子がピョコンと飛び出してきた。
「双子?」
女の子たちはまるで鏡にでも映っているかのように瓜二つで、お互い手を取るとクルクルと回ったり飛び跳ねたりと踊りはじめた。
次第に彼女たちの踊りは舞の様になっていく。
少女かと思っていたが舞う毎に成長していく。美しくしなやかに伸びる手足。髪はいつの間にか腰のあたりまで伸びている。
笙の音色が聴こえてくる様だ。
これはなんて言う舞踊なんだろう?エンジ色の着物は消え去りまるで天女の羽衣を纏っている様に、重力なんてない様にふわりふわりと舞う。
一糸乱れぬ呼吸で彼女たちは左右対称の動きをする。
こんなに美しいシンメトリーの舞を観たことがない。目も心も奪われて行く。
衣はキラキラと夕陽を浴びオレンジ色に輝く。白く滑らかな彼女たちの肌はとても艶めかしく、もう成熟した大人の女性に変貌していた。
夢のような時は闇と共に終焉を迎える。
陽が完全に落ち闇が静かに降りてくると彼女たちはうふふっ、あははっ、と笑い声を残しゆっくりと消えていった。元の少女の姿に戻って...
私とアラタは暫く動けずに今の出来事を名残惜しく思っていた。
あんなに美しい舞はもう観ることは出来ないだろう。正にこの世の物ではない幻想の世界。気がつくとポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
「ユウ、大丈夫か?」
泣いている私に我に返ったアラタが慌てて声をかける。
「あ、大丈夫だよ、なんかね感動して涙が...」
「うん、そうだね。」
アラタも目が赤くなっていた。
「ごめん、俺のせいだ。」
「はっ?なんで?」
もう真っ暗になった道を夢見心地で歩いていると急にアラタが謝った。
「さっきユウに二分割幽霊綺譚の話されたろ?あの時ちゃんと答えられなかったからずっと考えてた。俺が無意識に呼んだんだ、きっと...」
「ふふっ、アラタってばそんな事気にしてたんだ。」
「笑うなよ...」
アラタは下を向いてしまった。暗くてよくわからないけど、たぶん耳まで紅くなっているんだろうな。
「素敵なものが観れたじゃない。」
「うん。」
下からアラタの顔を覗き込むと、恥ずかしそうに頷いた。
数日後、全員無事に感想文を提出して今回の件は許された。
みんなの感想文の概要はこうだ。
御子柴 新(みこしば あらた)
「なにかがみちをやってくる」レイ・ブラッドベリ著
少年の好奇心と探究心を哲学的に綴る。
榊 貴大(さかき たかひろ)
「竜馬がゆく」 司馬 遼太郎 著
坂本竜馬の破天荒な生き様に共感すると共に将来の夢を綴る。
雨宮 悠(あめみや ゆう)
「プロメテウスの乙女」 赤川 次郎 著
少女たちの切なく美しい魂に共感するも右傾化する日本に不安を感じ、実際に起こりうるかを綴る。
東條 瑞穂(とうじょう みずほ)
「ひとめあなたに...」 新井 素子 著
主人公の一途な思いに共感する反面、狂気に走る人々にも理解を示す。愛と憎悪は紙一重と切々と綴る。
雪城 瑛(ゆきしろ あきら)
「真夜中は別の顔」 シドニィ・シェルダン 著
物語の内容よりも小説の実写化について綴る。
あの時の出来事はアラタと二人だけの秘密にした。どうせ話してもあの美しさは言葉では表せないから。
作者伽羅
大変申し訳ありません。一身上の都合によりタイトルのシリーズを怪奇譚に変更いたしました。紛らわしくなってしまい深くお詫び申し上げます。
如何でしたでしょうか?
今回はアラタとおかしな仲間たちのお気に入りの一冊と感想文という形でキャラクターの個性を紹介いたしました。
あまり怖くない話ですが、とても素敵な出来事だったのでこのような形で物語りにしました。
もし興味をそそる一冊がありましたら嬉しく思います。
またのお越し心からお待ちしています。ありがとございました。