これは初の海外旅行に行った時のことです。
たったの3時間で空気が全然ちがう。ねっとりと湿気を含む空気はとても不快に感じた。
しかし香港の素晴らしい夜景にアルコールが進みいい気分でホテルにチェックインした。
部屋は普通のワンルームマンションのようで味気なかったが一緒に来ている友人は気を使わないですむね、と言ってベッドに寝そべりくつろいでいた。
「ねぇ、トイレの水、流れが悪いみたい。」
水の出も悪く流れも勢いがない。ゴボゴボと気味の悪い音を立てて何か詰まっている様な感じだった。
「あまり使わないほうがいいかもね。面倒だけどロビーのトイレを使おうか。」
排泄物が詰まる事を考えるとその方がマシということになり、順番にシャワーを使い早めに寝ることにした。
寝てからどれくらい経ったのか、なにか妙な音を聞いた気がして目が覚めた。
なんだろう?と思い耳をすませた。
ごぼ、ごぼ、と水の音がした。
トイレの方から。
なにか詰まってるんだ。耳障りな音が一定の間隔で響いてくる。
ごぼ、ごぼ、ごぼ、、、
気になって眠れない。
しかたなくトイレを見てみることにした。元栓を閉めれば止んでくれるかも。
トイレのドアを開けて後悔した。
女がトイレに左手を突っ込んで床に座り込んでいた。
辺りには真っ赤な血しぶきが飛んでいて床にも血溜りができている。
女は肩まで伸ばした髪を血でべたべたにし、右手にはカミソリが握られていた。
何度も切りつけられた左手からはドクドクと血が流れ、一定の間隔で便器に溜まった血を増えた分だけゴボゴボと排水していた。
視なかった事にしよう。
私はシカト決め込んだ。
黙ってベッドに入り目をつぶった。
ずっと音はしていたごぼ、ごぼ、ごぼ、と一定の間隔で。
翌朝、友人を急がせそそくさとチェックアウトした。
近くの定食屋風な店で朝食を食べながら昨夜の事を友人に話した。
「起きなくてラッキー。」
だそうだ。
いつも行動を共にしている友人はもう慣れっこになっているらしい。
特に怖がりもせず、マカオは出なきゃいいね。と、笑っていた。
そしてマカオでホテルにチェックイン。
カジノで思ったより勝った友人は上機嫌だった。
私は少しだけ勝って二人で負けなしでよかったね、なんて昨夜のことは忘却の彼方だった。
マカオのホテルは安いわりにキレイでベッドもふかふかだった。
ビールで乾杯して明日の夕方には香港に戻り飛行機に乗らなくてはならない。
少し早く起きて買い物に行こうと言う事に決まり、ほろ酔いで気分良くベッドに入った。
私は昨夜の寝不足で落ちるのは早かった。
友人はカジノで大勝した興奮でなかなか寝付けなかったという。
私が寝息をたてはじめて少しすると、変な音に気がついた。
なにか布のようなモノが擦れる音。
そしてしばらくするとガタンと何かが倒れた音。
ぎしぎし、軋むような音。
友人は検討がついていた。
視ないように布団をかぶった。
しかし、何度も繰り返し聞こえてくる。
何度目かの何かが倒れる音で友人は堪らず布団から顔を覗かせて視てしまった。
スーツ姿の若い男がぶら下がっているのを。
ぎしぎしとロープが軋んだと思うとスッと消える。
そしてロープを手に再び現れると同じ事を繰り返す。
友人は暫く動けずに何度目かの男が揺れる姿を見た後、気を失ってしまったらしい。
友人が起きる前に私はシャワーを浴びていた。
なんだか寝汗をずいぶんとかいていたから。
浴室から部屋に戻ると友人は帰り支度をしていた。
「おはよ。」
と声をかけると、早く行こうと言う友人に何か見たんだなと察しホテルを出た。
久しぶりに怖かったよと語った友人はカジノで勝った分で買い物を楽しんだ。
帰りの飛行機で早く家に帰りたいね、なんて言って笑いあったあと
もう二度と香港マカオには行くのを止めようと約束した。
作者伽羅
散々な初海外でした。
これがトラウマで海外はそれきりです。
何度も繰り返しているのが怖いです。
いまだに続けているのでしょうか?