さよなら Ⅰ 『アラタ怪奇譚』

中編6
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さよなら Ⅰ 『アラタ怪奇譚』

「アマミヤ、調節できたぞ。観てみろよ。」

「アメミヤです。いい加減覚えてくださいサトウ部長。」

「どっちでも一緒だろ、ほら土星。」

「一緒じゃないってば....」

天文部に入部して、もう半年以上経つ。

高校に入学して最初の学園祭も終わったばかりの11月。

今日は夜の学校で天体観測の日。

雲も少なくて観測日和だった。

サトウ部長が調節してくれた望遠鏡を覗くとクッキリと美しい輪を纏った土星が観えた。

「すご~い!キレイ!」

「そうだろ?みなおしたか。」

「なんでサトウ部長が得意げ?」

「なんだ、文句あるのか、受けて立つぞ。」

「はあ~...」

「ため息をつくな!」

部長のこの人は佐藤慧希(サトウケイキ)

なんて画数が多く甘い名前なんだ。

そして私の名前を半年以上経つのに今だアマミヤと呼ぶ。

おかげでみんなからは甘味処コンビと呼ばれている。

アマミヤ→甘味や&サトウケイキだからだ。

「なあ、アマミヤ、明日はヒマか?」

「別に予定はないですよ。」

「部屋さがしに付き合ってくれないか?」

サトウ部長は春から1人暮らしをすることが決まっている。

両親に早くから自立するように言われたらしい。

なんか羨ましく思っていたけど大変そう。

「いいですけど、私じゃ役に立たないと思いますよ?」

「いいんだよ、とりあえず女なら。」

「さり気なく失礼なこと言いましたね。」

「悪気はないんだよ?メシおごるからさ。」

「当たり前です。」

「じゃあ、明日10時に駅で待ち合わせ。」

「は~い。」

そして翌日、サトウ部長と待ち合わせて住む予定の駅まで電車で向かった。

最初の不動産屋で2件の部屋を見せてもらった。

最寄り駅から少し離れた物件は思ったより家賃が安かった。

とりあえず一時保留にしてランチ後に他の不動産屋を見てみることにした。

「どう思う?女の意見としては、間取りとか台所の使い勝手とか、遊びに来たいと思う?」

正直言ってそんな事より私はあそこにいるモノの方が気になる。

「私なら嫌です、日当たり悪そう。」

部長は私のそんな力を知らない。

無難な事を言っておこう。

「そっか、じゃあ却下だな。」

「ところで部長、この店少し高そうですけど...」

今まで入ったことのないような上品な店内に少し緊張しながらランチを食べていた。

「気にするなよ、ランチなら俺のバイト代でも十分払えるから。美味いだろ?」

「はい、こんなに美味しいビーフシチュー初めてです。」

「そうだろ、ディナーはムリだけどランチならまた連れてきてやるよ。アマミヤはビーフシチュー好きだろ?ここはビーフシチューが人気なんだ。」

そんな事を覚えてたんだ、少し意外。

食べ物に釣られる単純な私はこの後の部屋探しでグッタリだった。

どこを見ても先住民がいて、なかなか首をたてに振れなかった。

結局、11件目の物件で比較的安全そうな部屋に決めた。

家賃も予算内で間取りも悪くない。

手付け金を払って本契約はまた後日に来ることになった。

サトウ部長は家まで送ってくれて本契約も一緒に来て欲しいと言った。

「私も行くんですか?」

「またビーフシチュー食べに行こう。」

「わかりました。」

「アマミヤは食べ物で釣れるんだな。」

「サトウ部長、ホントいい加減覚えて下さいよ。私はアメミヤですから。」

「ユウ...」

「え?」

「めんどうだからユウでいいだろ?」

「人の名前をなんだと思ってるんですか...もうそれでいいですよ。」

「俺のこともケイキって呼べよ。」

「わかりましたケイキ部長。」

「よし、じゃあおやすみユウ。」

「気をつけて帰ってくださいねケイキ部長、おやすみなさい。」

部長は何度も振り返って手を振っていた。

そして早く中に入れよと言った。

私は家に入る時、さよならと聞こえた気がした....

なぜか涙が出てきた、おかしいな....私はなんで泣いてるんだろう。

気がつくとベッドの上にいた.....

(夢?どうして今頃になって部長の夢なんて......)

何かいやな予感がしていた、気のせいだろうと言い聞かせる、が....

拭えない不安が頭にこびり付いていた.....

午後になってみんなとファミレスでランチを食べた。

今日で大型連休も終わり。明日から学校が始まる。

「連休も終わりか...夏休みまで長いなあ。」

「もう夏休みの心配かタカヒロ。」

「気が早いね。」

「やっぱり早めに計画を立てないとな。」

「それにしても早すぎるでしょ。」

「ねえユウ、一昨年の夏休みにサトウ先輩と盆踊りに行ったでしょ?」

ミズホのセリフにドキッとした。

アラタも私の様子を敏感に感じ取っているらしく微かに眉を動かした。

「うん、急にどうしたの?」

「サトウ先輩ってユウのこと絶対に好きだったよね、告られたりしなかったの?」

「なんで今さらそんなこと...あるわけないじゃない。」

「あら、つまんないの。アラタ、ヤキモチは無用よ。何もなかったんだって。」

「妬くわけないだろ。」

アラタは機嫌悪そうにプイッとそっぽを向いてしまった。

きっとアラタは知っている、今まで私をずっと見守ってきたアラタは小学生の頃の5年にもわたる片思いも、中学生の頃の色気のまったくない私も、そして一昨年の盆踊り、ケイキ部長とは何もなかったことも。

「あれ?噂をすればサトウ先輩じゃない?」

アキの指さす方を見ると、窓際に座る私たちのすぐ横の歩道を歩いてくるケイキ部長がいた。

部長は私たちに気がつくと人懐っこい笑顔をみせて店内に入ってきた。

「よお!みんな久しぶり。」

「お久しぶりですサトウ先輩。」

「ユウ、久しぶり。」

「お久しぶりです。」

「ミコシバ、コーヒー1杯だけジャマしていいかな?」

「どうぞ、座ってください。」

「連休中に実家に帰って来てたんだ、今から戻るところだったんだけど、会えてよかった。」

「先輩、今年も学園祭に来れますか?」

「うん、たぶんね。ミコシバ、部長職はどうだ?」

「意外と大変ですね。今年は新入生の部員も増えたので学園祭は派手に出来ると思います。」

「そうか、去年はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたよ。直前でミコシバが入部してくれてホントに助かった。」

「俺たちだけじゃ頼りないって思ってたんですか?」

「もちろんだろサカキ、ミコシバがいなかったら誰が部長をやるんだ。」

「ひで~な~先輩。」

「ところでお前たちはやっぱり付き合ってるのか?サカキとユキシロも?」

「はい。」

「そうか、で、トウジョウの彼氏はミツイ?」

「マコトのこと知ってるんですか?」

「当たり前だろ、ミコシバとミツイは学年NO.2,3だろ?すごいよな。」

ケイキ部長はどこか様子がおかしい。

なんだろう、この違和感は、気の流れが変なのかな?

「サトウ先輩、最近体調が悪いとか何か異変はないですか?」

アラタも同じ印象だったらしい、私が言う前に聞いてくれた。

「ん?別になにも。」

「そうですか....」

「じゃあ、そろそろ行くよ、明日からまた仕事だからな。ここは俺のおごり。」

「いいんですか?」

「社会人にかっこつけさせろよ、じゃあまた学園祭でな。」

そう言ってケイキ部長は帰って行った。

「アラタ、サトウ先輩に何かあるのか?」

タカヒロは変なところで感がいい。

「ユウが昨夜、サトウ先輩の夢を見たんだ。このタイミングでミズホから話題が出て、しかも本人の登場は何かあるかもしれない。それに俺にもよくわからないんだけど、サトウ先輩の気が弱くなってるように感じた。」

「弱い?」

「ああ、でも異質な気配は感じない、何もなければ、それにこした事はない。」

「そうだな...」

何もない訳ない、アラタも何か感じてる。

部長、気をつけて......

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ガラ様、ちゃあちゃん様、コメありがとうございます。
久しぶりにも関わらずまたのお越し嬉しいです。
彼に何が起こるのか?心配して頂けるなんて幸せです。
少しスローペースになってますが続きを必ず投稿しますので、今しばらくお待ちください。

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Noin様、aoi様、コメありがとうございます(≧∇≦)

この後の展開はご想像をイイ意味でも悪い意味でも裏切る事になります。
ほぼノンフィクションの物語ですので矛盾点や疑問点も私自身あります。
説明の出来ない点もありますがコメには出来る限りお答えしますので侃々諤々と行きましょう。

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