短編2
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目を瞑って2

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 駅から二十分くらい揺られたであろうか。妹の希沙がブレーキを踏んだ。かくんと止まった車。

「小夜子さん、お待たせ。どうぞ」

「ありがとう、希沙さん」

 二十分で程よく打ち解けた小夜子と希沙の後ろを着いていく。闇夜に溶けた小夜子の黒髪が靡いた。温い風。台風が近い。

「夜ご飯、簡単なものでごめんなさい」

 希沙が笑うと小夜子も笑った。

 小夜子と結婚したからといってここに住む訳ではない。今晩泊まるだけだ。希沙と父親に紹介するだけなんだ。

 すぐに出ていくから。

 むせ上がる吐き気。温い風に当たると鳥肌が立った。

 変わらない小さな家に上がる。いつの間にか後ろにいた小夜子が背中を擦った。

「大丈夫よ」

 深緑色の右目が明かりに輝いた。このまま押し倒したい衝動をなんとかしまいこむ。丸裸になって小夜子に抱き締めて欲しい。

 無言の父親と希沙、俺と小夜子でささやかな食卓を囲む。小さな川魚を焼き、青菜を茹で、精米しきれない茶色のご飯。汁物はなかった。

「大学からの知り合いだったんだ。お互いの単位をよく心配したよな」

「そうね。どうしても遊びたくなるのよ」

「小夜子さん、モテたでしょ」

「まさか。全然よ」

「ウソ、兄貴、どうだったの?」

 小夜子は確かに美人だ。ビスクドールみたいな肢体に陶器仕立ての完璧な顔がのっかっている。

「見た目だけならな。でも小夜子は変わってたからさ」

「変わってた? うーん。あ、アニメが好きすぎるとか。脱いだらムキムキ筋肉質とか」

 くすりと笑う小夜子。伸びた指先が何かを描いていた。

「違うよ。魔女なんだ、小夜子は」

 魔女、イタコ、術師、狐憑き。いろんな肩書きが小夜子に与えられた。

「無くしたものを何でも見つける。テスト範囲は毎回バッチリだった。人探しもお手の物だ。呪うことも願い事も完璧。死んだ人間や動物と話すのもわけないよ。だから結婚しようと思ってね」

 大きな雷が轟いた。激しい雨が会話を不成立とさせた。

 無言の父親はもういない。小夜子と仲よくなった希沙ももう消えた。駅まで歩くとどのくらいかかるのだろう。小さな家にも雨は降り注ぐ。小夜子と身を寄せる。

「大丈夫。怖かったら目を瞑って」

 小夜子の甘い香りが眠りを連れてくる。口づけると小夜子の冷たい舌がするりと絡まる。足を血だらけの母親に掴まれた。小夜子は母親を見下ろして言った。

「だめ、もうこれはアタシのもの」

 空洞の母親の目が蠢いた。

「あなたたちはもう、昔話になったの。アタシが語る昔話に」

 小夜子は俺の身体に腕を巻き付ける。

 耳元で笑う小夜子に、それだけで逝かされそうだった。

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