あれから、サトウ先輩と会ってから2ヶ月が過ぎようとしていた。
梅雨の真っ只中、ジメジメとした毎日が続く.....
俺とユウは雨が嫌いじゃない、静かで落ち着く。
ユウの部屋で雨の音を聴きながら2人でウトウトしているとユウの携帯が鳴る。
サトウ先輩からだった。
話があるから会えないか?と言うサトウ先輩の誘いを断ることは出来なかった。
ユウは俺と一緒ならと言って会う約束をした。
「ユウ、俺はあっちで待ってるよ、2人で話してきな。」
「ありがとう。」
ユウは気が進まないと言っていたが、サトウ先輩の様子は気になっていた。
あれから先輩はどうしているのか、考えない様にしていたから....
「ミコシバは?」
「あっちで待ってます。」
「ごめんなユウ、2人のことはわかってるけど、どうしても言わなくちゃ気が済まなくて。」
「はい。」
「ユウが好きだ...もし、ミコシバが現れる前に俺がそう言ってたら、何か変わってた?」
「わかりません、でも私もケイキ部長に惹かれてました。アラタに持つ感情とは少し違いますけど。」
「そうか...ありがとう。」
「いいえ、私こそありがとうございます。ケイキ部長との時間は楽しかったです。」
「ユウ、幸せになって。俺、ずっと見守ってるよ。」
「はい。」
それだけ言うと先輩は帰って行った....
ユウは泣きじゃくっていた。
俺は何も言えず、ただユウを抱きしめていた。
「アラタ、ケイキ部長は生きている気がしなかった。どうしてあんな事になっちゃったの?ケイキ部長はどうなっちゃうの?」
俺には先輩の顔が認識できなかった。
ただ、真っ黒な顔がついていただけだった。
もう生気はまったく感じなかった。
きっと命を少しづつ削り取られていたのだろう。
だから気づけなかった。
寿命......きっともう永くない.......
数日後、サトウ先輩が事故で亡くなったと連絡が来た......
告別式の日、俺たちはサトウ先輩のご両親から話を聞く事ができた。
両親はユウの事を知っていた。
先輩の携帯には空っぽの部屋でユウとのツーショットの写メが残されていた。
部屋をさがしに行く前日、先輩はユウの話を楽しそうにしていたと言う。
部屋を選ぶのが上手だと言っていた、きっと1番の部屋を選んでくれると喜んでいた....
この写メを嬉しそうに見せてくれて、やっぱりユウに選んでもらって正解だったと嬉しそうに言っていたと....
ユウはどこか遠くを見ているようだった、きっとあの時の事を思い出しているのだろう。
帰ろうとした時、サトウ先輩の職場の同僚だと言うマサキさんに声をかけられた。
「アメミヤさん?すみません急に、アメミヤさんですよね?」
「は、はい。」
「ケイキに写メを見せてもらった事があるんです。」
「そうだったんですか。」
マサキさんは肝試しに行った時の事を話してくれた。
「俺がケイキを誘わなければ......」
「マサキさん、サトウ先輩は寿命だったんです、肝試しのせいじゃないですよ。あなたが気に病む事はないんです。」
「ホントに......」
マサキさんは涙ぐみながら帰って行った、ユウに会えてよかったと言って。
「あの人、私のことアメミヤって言ってた。」
「サトウ先輩は最初からアメミヤだとわかってたんだね。」
「フフッ、ズルイなあ~」
ユウはポロポロと大粒の涙をこぼしながら先輩らしいと言って微笑んでいた。
肝試しに行ったのは、ただのきっかけに過ぎないだろう。
きっと誰にも、どうにも出来なかった、運命は時に残酷でどうにも抗えない事もある。
縁.....俺がいつも感じている事。
危機の時、協力者が現れ助けられたり、そこで終わりだったりは縁が作用する。
人には生きていると幾つもの分岐がある、選びやすい道を選ぶか、通常では選ばない道を選んでしまうかで運命は変わってくる。
人やモノの縁が絡み、常に選び続ける事の連続、それが人生だと俺は考える。
いつも最善の道を選べているかなんてわからない、でも現世で幸せに生きる事が来世に繋がる。
サトウ先輩は死の直前までユウの幸せを願っていた。
きっと来世では幸せな人生が待っているはず、俺はそう信じている。
サトウ先輩はバイクの単独事故で即死だった。
苦しまずに逝けてよかった、先輩自身も死期が近いことを感じていたらしい。
部屋はきれいに整理されていて大事にしていた物を友人に譲っていたりしていた。
仕事も全て片付け、キチンと引継ぎまでしていたらしい。
そしてユウのところにも後日、小さな小包が届いた。
中には土星のネックレスが入っていた。
「あの時に観た土星だ....」
キラキラと輝く輪を纏った土星はサトウ先輩のユウへの思いがたくさん詰まっていた.......
作者伽羅
人生や運命というものを考えるきっかけになった出来事でした。
自分の役目や他人に与える影響力、誰かに助言する事の責任を見直す必要がありました。
無責任なセリフ、嘘、死んだ後の自分の魂が無事に来世へと旅立つ事が出来るのか?
これからの人生はそんな心配のない様に生きて行こう、そう思った出来事でした。
心から先輩のご冥福をお祈りします。