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ずぶ濡れでたどり着いた駅。測ったわけではないが、二時間くらいは歩いたんじゃないだろうか。獣道と化した道なき道を小夜子は迷わず歩き進む。微睡みに連れて行かれないように何度も俺を振り返る。
「いいのよ、目を瞑っても」
小夜子と出会って六年が経つ。特に親しくしていたわけじゃなかったが、大学生だった俺は小夜子のヤマカンにどれだけ助けられたか分からない。そのお礼は講義の出席カードを、夜型小夜子の代わりに出してやることだった。
半年前、久しぶりに大学の飲み会に参加した。小夜子も参加するのは久しぶりなんだと笑った。
「あなたに会いたかったの。生きてるのか心配だったし」
「え」
「もう、みんな死んでるじゃない」
クマもひどいわね。
その晩、小夜子の部屋に泊まった。月が綺麗に光る夜だった。その光に照らされた小夜子の肢体。見るだけで逝きそうだった。
記憶が抜ける程、眠った俺を小夜子は嬉しそうに見つめていた。
「あなたを、アタシに頂戴。あなたを救ってあげる」
その、どろどろした何かから。
小夜子の赤い唇が俺をくわえた。
舌が身体の内側を撫でるような感覚。
そうだ、小夜子はなんと呼ばれていた?
魔女、イタコ、術師、狐憑き。悪魔だと言ったアイツは確か交通事故で即死したよな。小夜子をレイプしようとしたあのグループは集団自殺を図った。生き残りの一人は植物状態で、今も生かされている。
「小夜子」
「なあに」
「愛してるよ」
「簡単に言うのね。後悔しても知らないから」
「みんな、くれてやるから」
「まあ、素敵」
出し切った精液を小夜子は旨そうに飲み干して、俺に股がった。
真っ暗な駅に地響きが起こる。
「帰れそうね。電車が来るわ」
「小夜子」
「なあに」
「食いつくしてくれよ」
濡れた黒髪の間から深緑色の右目が見えた。
「やあね、ここは、愛してる、でしょ」
電車のヘッドライトが見えた。
俺達は一体、どこから来て、どこへ帰ろうというのか。
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作者退会会員