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短編2
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目を瞑って9

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 小夜子は軍服と変わらない、浅黄色のロングコートを買った。約五万円。

「着て帰ります」

 浅黄色の裾から見えるゼブラ柄のタイツ。折り返して履いていたショートブーツを伸ばして紐を締め直す。ゼブラが見えなくなった。立ち上がってシャキッとした小夜子には貫禄すら見えた。店を出ると少し前を歩く小夜子がくるりと振り返った。

「先輩、似合いますか?」

「うん、怖いくらい。シュッて刀が出てきそう」

 小夜子は剣を取り出す真似をした。見えないはずの刃の先が見えた。

「行くんですか?」

「え」

「どこかに行く予定があるんじゃないですか?」

「なんで分かるの?」

「顔に書いてあります、行きたくないなあって」

 楠木メンタルクリニック。ダッフルコートのポケットの中を探る。出した名刺を小夜子は覗きこんだ。長い睫毛。

「ふーん」

「小夜子、知ってるの?」

「知ってるのはこの先生でしょう? この先生は先輩の忘れた一年間を知ってる。知りたいなら行けばいい」

 この間、初めて小夜子が一個下だと気づいた。どうやら俺は一年、浪人していたらしい。

「知りたのはこれからだよ。別に過去なんて」

 今更である。小夜子がいなければ、未だに死んだ父親と妹の希沙に惑わされていただろうけど。

「少しずつ眠れるようになったし」

「それはいいことだわ」

 にっこりする小夜子を見て気がついた。

「ああ」

「なあに、先輩」

「小夜子、一緒に行ってくれないか」

「よかったわ、待ってたの。誘ってくれるの。精神科医って一度対決してみたかったのよね」

 だから軍服なのか? と聞くと、これは前から欲しかっただけよと言った。

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