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短編2
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目を瞑って10

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 君は? と聞かれた小夜子は普通に恋人です。と言った。

「そうか、よかった。楽しい生活が出来てるようだね」

 メンタルクリニックの医師、楠木はにこにこしながら言うと小夜子がまた口を開いた。

「楽しければ正解?」

「だと思ったらダメなのかな」

「だって、一年間、お世話したんでしょう? それを忘れたのに、今が楽しければ正解?」

 楠木は俺が高校を卒業してから一年間、一緒に生活してまで、面倒をみたと言った。受験を勧めたのも僕だと言う。

「同じ村の出身だ。親身になるのは当たり前だろう」

 小さな村だった。鍵を締めることも稀なくらい、閉ざされていた。無口な父親と世話好きな妹の希沙。母親は、死んだ。

 死んだのはいつのことだったか。

 昔話を始めるときは、昔々、から始まる、最後は、だとさ。で終わる。母親はいつもそう言ってから話を始めた。楽しい話も怖い話も、必ず、断りを、理を言ってから。

「大丈夫かい?」

「え」

 記憶が巻き終わらない。楠木が出てくるのはまだまだ先のようだ。

 小夜子の質問に答える形で、昨年一年間分を語る楠木。事実かどうか、俺には分からない。小夜子には分かるのだろうか。

「先生、本当のことは誰にも分からないのよ」

「そうだ、君にも分からないだろう」

「アタシは分かるわ」

「そりゃすごい。ご享受願いたいね」

「先輩は本物よ。先生には分からない」

「じゃあ、教えてもらおうかな」

「後悔したり、アタシや先輩のせいにしないなら教えても構わない」

 強気の小夜子に触発された楠木はバカにしたように笑った。

 本物は、小夜子のほうだ。小夜子にちょっかい出して何もなかったヤツを俺は知らない。小夜子に振られ、悪口を言いふらしたヤツは入院したままだし、手首切断という大変な目に遭ったヤツも知っている。レイプしようと声をかけた二人は行方不明、小夜子は何度も警察に呼び出されていた。

「大人をからかわない方がいい」

 楠木が視線を時計に向けた。小夜子はソファから立ち上がり、楠木に抱きついた。

「や、止めなさい」

 小夜子はすぐに離れた。そして俺に帰ろうと言った。

 楠木を見ると、目を見開き、顔色を変えて、自分の机を見ている。気のせいか、回転椅子が揺れたように見えた。

 小夜子に促され、クリニックを出た。ご飯を食べようと言ったので、フライドチキン屋に入った。千円パックを頼むと二つにしろと後ろで小夜子が呟いた。

 次の日、楠木がクリニックが入っているビルの屋上から飛び降り自殺を図ったと小夜子が教えてくれた。ニュースサイトを見させてもらったら、飛び降りた時間は俺たちが帰った後、すぐだった。

 小夜子はアタシのせいじゃないわとサイトを閉じた。

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